トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平21業使、第478号) *一部誤動作あり 点線は指定トレース 

網掛山 (1133m 長野県) 2010.8.7 晴れ 2人

大平神社駐車場(8:45)→林道終点(9:22)→網掛峠(9:36-9:42)→網掛山山頂・ヌタ場・西峰展望地(10:07-10:28)→東峰展望台(10:39-11:44)→林道(12:08)→大平神社駐車場(12:16)

 近江の国琵琶湖畔の村の若い男女が、村人のねたみから村を追い出され、旅をかさねてこの峠まで来たとき、疲れと飢えのために産んだばかりの赤児とともに絶命しました。村人は哀れんで三人をここに葬り、墓じるしに杉の木を植えたところ、杉の木はたちまちに成長して幹が三つにわかれ数個の瘤をもつ大樹となりました。その頃琵琶湖に杉の木の影がうつり、湖が荒れて魚がとれなくなりました。占ってもらうと信濃路の山深い峠で恨み死んだ三人のたたりであるといわれ、そこでこの地を尋ねて来て三人の霊を祀ったところ、湖はもとの静けさをとりもどしました。若者夫婦の持って来た網が木に掛けられていたことからこの峠は網掛峠といわれるようになりました。

 今年の夏は大気が不安定で、この休みは午後から雷雨の予報。標高の高い山を計画していたが、急遽行き先を変更して、岐阜県境に近い長野県の網掛山に登ることにした。恵那山トンネルを抜けてすぐに入るトンネルが網掛トンネルであり、このトンネルのある山が網掛山である。

 園原ICを下りて昼神温泉街を通過し国道153号線に入る。すぐに前方に中央自動車道が見え、右側に阿智小学校の校舎が現れ、小学校の手前で右折して細い道に入る。集落の中の坂道を上って行く。道が分岐しているが、広いと思われる道を適当に拾って上ると左にある中平地区集会所の前を通過して三叉路に出る。
 
 右へ「頭権現→」の標示があったのでそれに従うと、大平神社の前を通過したところで、左側に空き地が現れた。「頭権現様駐車場」の標示があるが、空き地には車庫や物置がある。ここに駐車していいのか分からなかったので、空き地の前の家で尋ねると、停めてもいいとのこと。空地でご主人に出会うこともできたので、昼過ぎまで車を停めさせてもらうことにした。

 ナツズイセンのピンク色の花を見ながら、まず駐車場に隣接する大平神社に向う。石階段を登り鳥居を潜ると案内板があり、この神社の謂れが書いてある。大平神社の御神体は頭の病気に効き目があることから「頭権現」とも呼ばれる。本殿で扉の向こうのお賽銭箱に小銭を投げて、今日の山歩きの安全を祈願。

 車道まで戻って車で上がってきた道を下り、分岐点から南西の車道を歩く。この辺りはウェストンが南アルプスの展望を絶賛したと言われている場所らしい。戦国時代に設置された小野川関所跡の標示を見ながら歩くと消防ポンプ倉庫があり、この前の道を右折。東山道の石碑に突き当たりここを左へ向かう。古代東山道は701年に滋賀県を起点に東北地方まで通じる約千kmの古道で、網掛峠から御坂峠(神坂峠)は最大の難所。古い石仏を見ながら山に向かう。
 
 人工林中に入ると未舗装の道となり、カワラナデシコやアキノタムラソウなどの花が見られた。北澤稲荷大明神と書かれた大木があったので、大明神のお社に寄る。網掛峠まで1.1kmの標示を見て、さらに林道を歩く。久しぶりにシデシャジンの紫色の花を見つけた。道は周囲の木により日影となっており日差しは避けられるが、風が無く額から汗が落ちる。昔、東山道を通る旅人も夏には汗を拭きながら歩いたであろう。そんな想像をしながら、ひたすら林道を歩く。ウワバミソウが道の脇にびっしりと生えている。落下したサワグルミの実も見られる。
 
 林道に入って20分ほど歩くと草付きの道となり、すぐに古代東山道の標示柱が現れ、ここから山道となって斜面に取り付く。斜面をジグザグと登っていく。ここも風が無く、暑さにバテそうになりながらゆっくりと登る。人工林を抜けると尾根に出た。ここが網掛峠である。さらに東山道を西へ下れば神坂峠に向かう。網掛峠の名前の由来を読んで、網掛神社跡、瘤杉の跡を見て、高台に作られた展望台に上がってみる。展望台は屋根にプラスチックの波板が貼られた休息所で、西の切り開きからは富士見台方向の稜線が見えるが恵那山は見えない。

 水を飲んで展望台を下り、ササに囲まれた道を網掛山に向かう。白い大型のキノコがたくさん見られた。この先、下山するまでこのキノコが至る所に発生していた。シロハツやツチカブリなどよく似たキノコが数種あり、乳液の有無やヒダの細かさなどで見分けることができるが、よく観察しなかったので種類は特定できなかった。溝状の道から尾根に出ると、ようやく涼しい風が吹き抜けた。足元にはママコナのピンク色の花がひっそりと咲いている。
 
 尾根を通過すると人工林に出たり入ったりしてジグザグ道を登る。アカマツの大木を見てすぐに標識のある稜線に突き当たる。左へ38m行ったところに網掛山山頂、西展望台まで200mとある。左に進み、網掛山山頂を踏む。アカマツやナラの林の中で展望はない。更に先に道があるので進むと、途中で道が分岐しており、まず右に行って見ると泥水のたまったヌタ場があった。引き返して分岐点を南に行ってみると少し下ったところに切り開きあり、ここが西展望台と思われた。正面に恵那山が見えるはずだが、残念ながら雲に隠れて見えない。山頂まで戻って三角点の前で写真を撮った。
 
 山頂を後に、東展望台に向かう。山頂手前の標示板には「東展望台までは550m。大平神社に下る」とある。広い尾根を水平に歩く。落葉広葉樹が中心の天然林で、気持ちのいい場所である。皮が剥けた木がいくつか見られ、シカによる皮剥ぎと思われた。紅葉の時期や新緑の時期もすばらしいが、真夏の緑の空間も美しい。白いキノコが無数に見られる。

 美しい天然林を10分ほど歩くと前方に伐採地が現れ、展望地に出た。ここにも波板の貼られた休憩所があり、目の前には大パノラマが広がる。眼下には昼神温泉街、飯田方面に向かう中央自動車道が山間をうねる。正面には南アルプスが見えるはずだが、雲に隠れている。

 ここでランチにする。展望台は透明の屋根が貼られており暑いので、木陰で丸太をベンチにしてランチの準備。メニューは冷やしそばとおでん、缶詰。自動車道を走る車の音が聞こえてくる。風に乗って舞い上がるアサギマダラを見ながらのんびりとランチを楽しんだ。真夏ではあるが、標高1000mの見晴台は涼しく気持ちがいい。時折、雲の切れ間から見え隠れする荒川岳などの南アルプスが望めた。ランチの最後はいつものようにコーヒー。真夏に熱いコーヒーを飲むのもいい。

 ランチの後、伐採地に付けられた道を下る。樹林帯に入ったところで北側の展望が得られる場所があったので写真を撮った。エビガライチゴが真っ赤な実を付けていたので1つ試食。美味しいイチゴだ。樹林帯に入り、ジグザグと下る。白いキノコに混じって、オレンジ色のチチタケも見られた。単調な下りが続くが、美しい緑の天然林の下りであり、気持ちがいい。登りのルートと異なり急斜面に付けられた道であり、こちらを登りのコースにすると、かなりきつそうな気がした。道幅が狭く谷に落ちないようにゼブラロープが張られたところもある。昨年の落葉が路面にたくさん落ちており、朽ちかけて腐葉土の臭いがする。麓に近づくにつれて、典型的な二次林も見られる。古くから人の手が加えられた里山であろう。

 開けた場所に出て、竹やぶが現れると未舗装の林道に出た。竹やぶの中の林道を歩く。竹やぶの中でウバユリの大きな花を見つけた。久しぶりに出会ったが、ほんとうに大きなユリである。ここで出会うとは思ってもいなかったのでちょっと感動。舗装された集落道に出て、ミョウガ畑の中を抜けると人家が現れ、さらに下ると駐車場の横の道に出て、半日の山旅を終えた。

 網掛山は東山道の歴史散策や美しい天然林、南アルプスの展望などいろいろ楽しめる山であり、また周回できるのもうれしい。さらに昼神温泉が麓にあり、下山してすぐに温泉に入ることができるのもこの山の強み。次回は南アルプスがよく見える時期に登りたい。
★網掛山からの展望

★網掛山の植物


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