別山 (2399m 白川村) 2004.7.19 雨、曇り 2人
市ノ瀬駐車場(5:20)→林道分岐(5:42)→別山7km表示板(6:13)→別山6.2km表示板・水場(6:46)→展望のある尾根(7:32-7:40)→別山4.7km表示板(7:46)→ササ原(8:36)→チブリ尾根避難小屋(9:02-9:18)→別山1.5km表示板(?)→御舎利山(10:58)→別山(11:16-11:24)→御舎利山(11:53)→別山1.5km表示板(12:35)→チブリ尾根避難小屋・昼食(13:00-13:54)→別山4.7km表示板(14:47)→展望のある尾根(14:52)→別山6.2km表示板・水場(15:30)→別山7km表示板(15:53)→林道合流(16:22)→市ノ瀬駐車場(16:45)
<1日目>
7月の3連休は、夏山第1回目として、白山テント泊を予定していたが、梅雨前線の南下で、天気は北ほど悪い。連休最後の19日が最も天気が良さそうなので、日帰りで別山を計画した。天気はあまり良くはないが、花は楽しめそうだ。別山へのコースはいずれも時間がかかる。1泊するのが一般的ではあるが、今回は今までにない山歩きに挑戦するという意味で、ロングコースの日帰りを試みた。
別山への直登ルートとなるチブリ尾根ルートは登りのコースタイムが5時間半。往復9時間はかかる。往復の距離は18.8km。登山計画を綿密に立てた。前夜泊して、朝5時に登山口の市ノ瀬を出発すれば山頂で2時間ほどゆっくりしても夕方5時には市ノ瀬に戻れる。コースタイムどおりに歩ければの話しであるが・・・。
18日の午後に岐阜市を出て郡上市から油阪峠を越えて九頭竜ダムのある和泉村に入る。東海北陸自動車道から中部縦貫自動車道に乗り継ぎ、短時間で福井県に入ることができるようになった。福井県に入ると、雨が降り始めた。この時、福井県北部では集中豪雨で災害が起きていることなど全く知らず、ダム湖岸を走る。
和泉村の道の駅でトイレ休憩。国号158号線が雨で通行止めの張り紙があったが、登山口となる市ノ瀬へ行くには影響がなく、九頭竜川沿いに158号線を大野市に向かう。真っ暗な空、強い風、すさまじい雨、濁流の河川。山側から道に滝のように吹き出す水の脇をライトを点灯して大野市へ。大野市の市街地方向に入り国道157号線を北上。越前大仏清大寺を右に見た後、勝山市長山町から石川県の表示に従って右折し、157号線を登っていく。谷トンネルを抜けて石川県白峰村に入る頃には雨も止んだ。
市ノ瀬の案内に従って右折し、白峰村の中心街に入る。土産物店や酒屋など景観が同じように整備されており、思わず歩いてみたくなる町並みである。林西寺の駐車場に車を停め、お寺で明日の登山の安全を祈願。町並みを歩くと、村営の温泉があった。21時まで入浴できるので、帰りにはここで疲れを癒すことに決めた。
ここから約10km東に白山登山基地の市ノ瀬がある。一部工事で狭い部分もあるが、バスが走る道でもあることから、2車線で走りやすい。カーブミラーが少ないので、カーブには要注意。5時過ぎであり、市ノ瀬−別当出合を結ぶバス3台とすれ違った。本日の営業が終ったようだ。道沿いの大きな手取川は茶色の濁流が轟音をたてて流れている。白山ですごい雨が降ったことを物語っている。
市ノ瀬に着くと、ガードマンにバス停に最も近い駐車場に案内された。「テントを張りますか」との問いに「車で泊まります回答」。暗くなるまで2時間ほどあるので、周辺を散策した。奥の広い駐車場とキャンプ地のある一段下の駐車場には30台ほどの登山者の車が停車中。登山届けはバス停の建物の前に置かれたノートに記帳する。ここで出会った方の中には、明日、チブリ尾根経由で別山に登る人もみえた。我々と同じコースだ。
チブリ尾根への登山口も下見した。東の広い駐車場からバス道を渡った林道が入り口。ガードマンに頼んで登山口に近い場所へ車を移動。「今日は一晩警備していますから、安心して寝てください」と言われた。ご苦労様です。車の後ろでテーブルクロスを広げて、久しぶりのカニ鍋を作った。しだいに暗くなっていく静かな山の中でナベを肴にいつもよりビールが進む。食事の後、小雨が降り始めた。明日は晴れるだろうか? 8時過ぎにシュラフに潜り込んだ。
<2日目>
雨の音で目が覚めた。2時半。雨が降ったり止んだりしている。うとうとしているうちに、携帯のアラーム。4時。別当出合に登っていくバスが見えた。暗い中でおにぎりとパンの朝食。小雨が降ったり止んだりの天気。「この天気では展望もないから、温泉にでも入って帰るか・・・」とはどちらも言わなかった。小雨の中、久しぶりのレインウェアーを着て出発。
最初の林道は1.4km。オカトラノオやクガイソウを見ながら砂利道を歩く。小さな河川にかかった鉄板の橋を渡り、堰堤からすさまじい音を立てて流れる落ちる柳谷川の濁流を左に、登山口に着く。入り口には太陽電池の装置と、別山まで8km、チブリ尾根避難小屋5.2km、市ノ瀬1.4kmと書かれた立派な表示板がある。以後、同じ形の表示板がこのルートのいくつかの場所に設置されている。
山道は谷に沿ってゆっくりと登っていく。山側から流れ出た水が登山道を横切ったり、道の上を川となって流れる場所が随所に現れる。雨具を着ているため暑い。今回は長丁場。いつもなら休息もそこそこに無計画に歩いているが、今日は1時間歩いて10分の休憩を厳守することと決めた。
雨に濡れた緑の森は生き生きとして美しい。大きなブナやトチが空間を包み込み、緑の空間には水滴の落ちる音が響く。目立ち屋のヤマアジサイの横にタマガワホトトギスが寄り添う。ヤブレガサとヤグルマソウが葉の大きさを競い、強そうなハリブキが花茎を伸ばす。カニコウモリの質素な花が道ばたを飾り、その下には小さなウメガサソウがうつむき加減。時折現れる大きなカエルが迷惑そうに道を譲る。キュウリほどの大きなナメクジがブナの木を登っていく。雨に濡れた美しい森の中に、一瞬、とけ込んでしまう気持ちにさせてくれる不思議な雰囲気の森。雨のせいだろうか。
別山7km地点を通過し、1時間歩いて、大きな枯れ木の横で休息。道は谷川のように水が流れている。小雨が降ったり止んだり。風も無くとにかく暑い。この調子では、とても山頂にたどり着けないような気がしてきた。慣れないレインウェアーでピッチが掴めないのも原因。
同じような道が続く。大きな木が伐採された所を通り、ジグザグと高度を稼ぐ。地面に鳥の卵ほどの丸い石がたくさん落ちている。雨に濡れたまん丸の石は透明感があり美しい。夜、月明かりに照らされて路面の石が光り輝く光景を想像した。この森がイルミネーションで飾られる。1つ石を拾い上げて、水で洗ってみて驚いた。ざらざらの砂が所々にこびりついて落ちない。周囲の岩をよく見ると、砂が海で堆積してできた砂岩の中に丸い石が埋まっている。この岩が風化して、砂岩の中にあった礫が残ったようだ。この森の大地は、かつて海か湖の底にあった大地だ。この大地がうっそうとした緑の森を創り上げている。イメージは無限に広がる。なんとロマンあふれる森であろう。この石を踏むたびに疲れがとれてきた。
ピッチを掴んで、別山6.2km表示を通過。ここから左へ数十mで谷川の水場がある。比較的なだらかな道をジグザグに歩いて、開けた尾根で休憩。ガスで展望はないが、開けた場所にはオオバギボウシやソバナのお花畑。風が気持ちいい。この辺りのブナもすばらしい。開けた場所から数分で別山4.7km地点を通過。周囲の木々の丈は低くなり、明るくなってきた。2時間半近く歩いて、ちょっとシャリバテ気味になってきたので、クッキーやゼリーで養分補給。
雨も止んだのでレインウェアーの上を脱ぐ。涼しくて気持ちがいいが、少し歩いて小雨が降り始めたので、またレインウェアーを羽織る。ササが現れ、ゴゼンタチバナ、ツルアリドウシ、アキノキリンソウ、ミヤマコウゾリナなどが花を咲かせている。下りてくる単独男性に出会った。昨夜はチブリ尾根避難小屋で快適に眠れたそうだ。
赤土の滑りやすい所もあり、単調な登りが長い。この登りがいやになった頃、突然、笹原の斜面に出る。1輪のササユリの出迎え。ササ斜面を登り、平らなササ尾根を歩く。ガスが無ければすばらしい展望に違いない。ササ原にはササユリ、ニッコウキスゲ、オオバギボウシ、アザミなどのお花畑になっており、ササユリは終盤。雨に打たれて透明になっていく姿が物悲しい。ミヤマチドリらしき花もたくさんある。ハクサンシャジンはまだ蕾。
ササ原から背の低いオオシラビソやダケカンバの続く稜線を歩く。足下にはゴゼンタチバナが美しい。左右に小さな池を見ながら、水たまりの湿地を歩くと、チブリ尾根避難小屋まで100mの表示。ガスに霞む小屋が現れた。ほぼコースタイムでこの小屋に到着できたのが信じられない。西側のドアが開かないので小屋を1周りしたが、入り口は1つ。思いっきり押してみるとドアが開いた。入り口にはトイレ。土間を挟んで板張りとなっており、土間にはたき火の跡が見られた。ゴザやシュラフもある。
ザックを下ろして、冷えた杏仁豆腐を食べた。これが美味しかった。15分ほど休憩して出発。小屋の表示板には別山まで2.8km表示。後、1時間半だと思うとちょっと元気が出た。この先、とんでもない急登があるとも知らないで・・・・。
ゴゼンタチバナやマイズルソウを見ながら堀割の道を登る。ホツツジやコメツツジ、黄緑色の新葉を伸ばし始めたオオシラビソなどが美しい。南竜ヶ馬場を朝発ってきた2.3のパーティーに出会った。別山1.5km地点通過。小屋から40分ほど歩いて石の多い急斜面のジグザグ道になる。クルマユリやシモツケソウが鮮烈な色で目を引く。雨も大降りになってきた。砂岩がごろごろする急登に息が切れる。水が流れ出ているところが何カ所かある。ペットボトルに汲んでみると濁って飲めるような水ではない。大きなバイケイソウの花を見ながら、体力も尽き、精神力だけで歩いているような気になった。
小屋から1時間10分ほど歩いたガレ場で小休止。ガスで周囲の状況が全く把握できないが、まだ山頂には先のようだ。もう少しだと言い聞かせて、再び急斜面に挑む。ミヤマダイモンジソウやミヤマダイコンソウが山頂が近づいたことを教えてくれる。やがて、ハイマツやハクサンシャクナゲが地面を覆う森林限界に出た。下ってくるパーティーと挨拶を交わしながら、最後の力を振り絞ってガスの中の表示柱を目指す。西から猛烈な強風が吹き付け、縞模様のガスがハイマツの上を駆け上がってくる。
山頂到着、表示板を見て気が付いた。そうだ、ここは御舎利山。2380m。別山は600m南にある。ガスでどこに別山があるのか全く分からないが、南への道を歩く。強風の中、南竜ヶ馬場や三之峰への分岐を通過。道は稜線の東側に回り込む。ピタリと風が止んだ。この辺りのお花畑がすばらしい。チングルマやコバイケイソウ、ヨツバシオガマ、ウサギギクなどに混じってクロユリもある。ハクサンシャクナゲもきれいだ。
再び石徹白道などへの分岐を通過し、立派な別山神社を見ながら、登り詰めて別山到着。雨も止んでいたので、早速、タイマーで記念写真。三脚が吹き飛ばされないよう石で固定して撮った。神社で手を合わせて、無事ここまで来れたことを感謝し、帰路の安全を願って、とりあえず風のないところで昼食をとることにした。
お花畑で写真を撮っていると、雨が大降りとなった。カメラがずぶ濡れ。こういう天気には防水カメラが必需品。別山と御舎利山の間にある石を積み上げて作られた石室で昼食をと思ったが、入り口の石垣が崩壊して、危険なため、行動食で腹ごしらえして、チブリ尾根避難小屋で昼食と決めた。強烈な風と雨の中、御舎利山を下った。ウエストポーチの中が濡れてきた。レインウェアーの下にあるのに何故濡れたのか、考えてみれば雨が下から降っている。
ハイマツ帯から樹林帯に入ると風は止んだ。下りは楽だ。登ってくる2・3のパーティーに出会った。この天気にコースを登ってくるパーティーは我々だけではなかった。小屋まで、一気に下った。小屋に入ると、2パーティーが休憩中。小さな子供連れのお父さんには感心。「今日はここまでです。」とのこと。5時間ほどかけて登って見えたそうだ。天気が良ければよかったのにね。1人の女性は、他のメンバーが別山を往復しているのを待っているとのこと。
その後、登る人、下る人で小屋はいっぱいになった。我々は、ラーメンと石焼きビビンバにコーヒーのちょっと遅い昼食。 「おいしそうなにおいですね」と言われて、ちょっと恥ずかしい。登って見えた3人のパーティーは今日は南竜ヶ馬場の予定を変更してここで泊まるとのこと。予定外の宿泊で「余分な水がありませんか」と聞かれ、我々はこの先は水場もあることから700mlほどを貰ってもらった。こんな天気の時に避難小屋はありがたい。
出発の用意をしていると、小屋の屋根をたたく雨音が激しくなった。午後からは天気がよくなるはずだったのだが・・・。雨の中、小屋を出た。激しい雨で、湿地帯の道は池のようになっていた。ササ原を下る頃には雨も止み、潅木の樹林帯に入ると空も少し明るくなってきた。多くの人が通過しており、泥の道は水が溜まり田んぼ状態。何度か滑りそうになったが、転倒することも無く順調に下った。
帰りは速い。展望のいい切り開きからは、雲が上がり、別当出合の建物やバスが望めた。水が白い糸になって落ちる別当谷も見えた。林道まですぐに出ると思ったが、道は柳谷に並行してゆっくり下っており、なかなか林道に出ない。柳谷を隔てた六万山のバス道が見え始めブナ林を下りきると林道に出た。川の水は朝に比べてかなり澄んできている。クガイソウやヤマアジサイに群れるイカリモンガやスジグロチョウを見ながら市ノ瀬の駐車場に着いた。ほぼ計画どおりのタイムで往復できた。
今回は展望に恵まれなかったが、いつもにない達成感を感じた。このロングコースを歩けたことで、1つの壁を越えたような気がした。雨の美しいブナ林やたくさんの花に出会え、満足。別山へはまた来ることを約束し、白峰村の温泉で汗を流した。帰路、日が差し始め、天気は回復しはじめたが、白山方面はまだ雲に覆われていた。次は、白山だ。
今回出会った花たち
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