トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) 一部誤動作あり  点線は推定トレース
屏風山の展望と植物の写真を見る
屏風山 (1354m 本巣市) 2008.5.6 晴れ 2人

林道ゲート(7:30)→林道分岐・表示板(8:36-8:43)→滝・渡り木設置(8:55-9:20)→谷を離脱・ロープ場(9:35)→稜線出会い(10:30-10:39)→ヒノキの大木(11:24)→屏風山山頂(11:57-13:08)→ヒノキの大木(13:31)→稜線出会い(14:06)→谷合流・登山口(14:55)→林道分岐・表示板(15:26-15:35)→ゲート(16:39)

 今年のゴールデンウィークは、いろいろな行事が入って、山に行けるのは連休最後の2日間のみ。1泊2日で春山を企画したが、5月5日はあいにくの雨。春山はあきらめて、最終日に日帰りの山歩きに計画変更。登りたいと思いながら取りこぼしていた旧根尾村の県境にある屏風山に決めた。駐車地点までの長いアプローチと1時間の林道歩き。屏風谷の遡行と超急登、さらにヤブの山と聞く。西の蕎麦粒山、東の屏風山と言われるほど、手ごわい山のようだ。美濃の多くの山から見る屏風山の鋭角三角形の山容は、強烈に脳裏に焼きついており、いつかは登らなければならないと思っていた山である。前夜、いつもより、パッキングする手に力が入る。

 ロングコースのため、5時に自宅を出た。旧根尾村の黒津が通行止めのため樽見から旧美山町方面に入り、1kmほど走って上大須ダム方面に左折。NEOキャンピングパークを左に見ながら上大須に入り、大白木山方面に向かって再び左折する。この角にトイレがあるので寄る。カーブの続く舗装道路を上り、大白木山の登山口がある峠を通過して下り、越波集落を抜けて橋を渡ったところから右折。すぐに舗装道路は福井県の標示のある左方向へカーブしていくが、屏風山の登山口は舗装道路ではなく、右の未舗装の道に入る。後は道なり。いくつかの分岐があるが、河内谷に沿って走る。昨日の雨で道には水溜りは多いが、急傾斜も少なく普通車で走行できる。

 かなり走ったところで、ゲートが現れた。ところが、数字合わせの鍵がかかっているはずのゲートが開いている。今日、走った車の跡があるので、行けるところまで進入してみることにした。1kmほど走ると雪崩で道路が塞がれている。川原に一台の軽四輪駆動車が止まっていた。人影は見えない。ここに車を停めようと思ったが、林業関係者の方が作業のためにカギを外して入り込んでいるかもしれないと思った。帰路、ゲートに鍵がかけられて閉じ込められる可能性も予想されるので、ゲートまで戻って歩くことにした。ゲートから雪崩位置まで1kmほどなので歩いても15分程度である。
 
 再びゲートに戻ると、1台の車がやって来た。単独男性で、聞けば屏風山に登るとのこと。事情を話すと、男性もゲート手前に車を停められた。ゲート付近は車の旋回場となるため、ゲートより50mほど手前の路肩のふくらみに車を停めて身支度。路肩の斜面にチゴユリの花が朝露に濡れて頭を下げている。急斜面の登りが多く、ストックは不要と予想して、枯れ木をストック代わりに歩き始める。ゲートの鍵が壊されることがあるようで、面白いコメントが書かれたプレートがゲートに付けてあった。ゲート右には越波国有林と書かれた看板がある。男性は我々より一足先に出発して行かれた。
 
 左に河内谷を見ながら、朝日に輝く新緑の林道を歩く。ネコノメソウが美しい。雪崩の地点を通過。40分ほど歩いたところで、前方から来た男性に出会った。川原に停めてあった軽自動車の方で、山菜取りと釣りが目的。ゲートは開いていたとのこと。男性と別れて、倒木や落石の多い林道を進む。白や紫のスミレを見ながら1時間ほど歩いたところで右に大きな堰堤が現れた。GPSを見ると屏風谷への分岐はまだ先のようだ。堰堤から10分ほど歩くと、再び右に堰堤が現れ、橋を渡ると屏風山登山口と書かれた大きな表示板があった。
 
 パンを食べて、これからの登りに備える。谷へ下りて西の谷に入ることになるが、ここからその谷がよく見えないため、どちらへ行ってよいのか分からない。とりあえず、谷に下りることにして、折り返すように看板左の道の薄い斜面を川原に下りる。大きな倒木を越える手前で苔むした石に足をとられて転倒。ネット情報でも屏風谷で転倒するアクシデントが多いようなので、慎重に歩く。川原に下りて、左に浅い川を見ながら西に歩く。ここが河内谷と屏風谷の合流点であり、西方向に屏風谷を塞ぐ苔の張り付いた堰堤が見える。この堰堤に向かう。
 
 3分ほどミヤマキケマンの咲く谷を歩いて大きな堰堤の下へ。堰堤に描かれた赤ペンキの矢印に従って、堰堤左にある鉄梯子を登る。狭い空間で、ザックにつけた三脚が堰堤に当たる。堰堤の上に出て、中央の梯子を下って、再び川原を遡る。浮石が多く足をくじきそうになったこともあり要注意。涸れた広い谷は次第に狭くなり、幾度か流れを渡る。昨日の雨で増水を心配したが、アメダスデータではこの付近の雨量は30mm程度で問題ないようだ。前回の霊仙漆ヶ滝コースの濁流に比べれば、難はない。
 
 小さな滝の手前で、褐色の小さな蝶が谷川の上をチラチラと飛んでいる。岩に止まったときの羽の裏面の模様からサカハチチョウであることが分かる。久しぶりの出会いだ。止まったところの写真を撮ろうと蝶を追いかけていると、前方で「渡れない!」との声。滝を巻くルートの渡り木が崩れ落ちていた。多くのネット情報でこの滝の左を高巻きするところの枯れ木の橋のことが書いてあり、本コースの最大の難所とも言われている場所である。崩れ落ちた丸木は淵の脇で落ち葉で埋もれている。渡り木が掛けられた場所は岩場で、幅が3mほど。岩壁は足を置く平らな場所がない。手でホールドする場所も少ない。渡れそうな気もするが、踏み外せば淵に落ちて無傷ではすまない。山で無理は禁物。安全策を考える。
 
 ロープを持ってきたが、ロープを結ぶ木が前後に全く無い。崩れた枯れ木の場所へ2mほど下りて渡る方法を試みるが、その先の岩が濡れて滑りやすくかえって危険だ。再びよじ登って振り出しに戻る。最後の手段は、渡り木を掛けて橋を作る方法しかない。何度も川原まで戻って長い流木を運び、橋の工事にかかる。渡り木がずり落ちるのを防ぐため、端を枯れ木で固定。数本の流木を渡して橋ができた。不安定ではあるが、岩壁にへばりついて恐る恐る渡りきった。この作業で30分近くを費やしたので先を急ぐ。
 
 顔の周りを飛び回る小さな虫が増えてきた。この先、この虫に悩まされることになる。何度か渡河して、谷が狭くなった辺りで、木の枝に赤テープと「屏風山」と書かれた黄色いプレートが下がっていた。ここから急登が始まる。ストック代わりの枯れ木を置いて軍手をはめて戦闘体勢。いきなりのロープ場が待ち受ける。崩れやすい斜面で、落石に注意しながら木やロープにつかまって登っていくと、途中、左に赤テープがある。ここからロープを離れて左へ。
 
 シャクナゲの斜面を木の根につかまりながら登る。地面にシャクナゲの花が落ちており、咲いている花もくたびれている。イワウチワの葉は見られるが、花はすでに散った後。斜面の道は明瞭。大きなヒメコマツの木が多く、赤ペンキの矢印や丸印が続く。ひたすら急斜面を登る。蕎麦粒山を思い出す。ミツバツツジの花が美しい。ぐんぐんと高度を稼ぐと、シャクナゲの花も旬の状態になり、そこらじゅうに咲き乱れ、また、ウラジロヨウラクと思われる花が膨らみ始めていた。小バエも多くなり、小枝で追い払いながら登る。衣服に虫除けスプレーをたっぷり吹き付けてきたので止まる虫はいない。
 
 枝をつかみ、倒木を潜り、これでもかと急斜面が続く。40分ほど登ったところで、さすがに疲れてきた。やや緩やかになったが、GPSを見ると稜線まではまだ標高差100mはある。左に山が見える。そよ風が吹き、鳥の鳴き声が聞こえる。再び急登となり、シャクナゲの道が続く。ササが現れ、青空が近づくと、いきなり稜線に飛び出した。樹林の中で展望は無く、小さな空間があるのみ。一輪のイワウチワと満開のタムシバが我々を迎えてくれた。パンを食べ、水を補給して一息つく。
 
 さて、屏風山のハイライトはここからである。シャクナゲの尾根を西にほぼ水平に歩く。蕾のシャクナゲも多く、蕾は濃い赤紫色で美しい。シャクナゲの赤とは対照的に、タムシバの純白の花が尾根を飾る。今、この稜線には春が訪れたばかり。緩やかに上下を繰り返していくと、展望のよい場所に出た。思わず声が出る。屏風山が巨大なピラミッドとなって目の前に立ちはだかる。左右から天に向かって尾根が競り上る。谷には雪渓が残り、タムシバが彩りを添える。まるで天を抜くバベルの塔だ。これから登る左側の稜線は緩やかにうねって空に駆け上がっている。挑戦的な山容に気合が入る。
 
 木々の枝がうるさい稜線を上下し、背の高いササが繁茂する鞍部へ。完全にササの海に沈みこんで、前を歩く姿が見えない。この鞍部からいよいよ登りにかかる。急登である。雪で押し倒された潅木が水平状態で道を塞ぐ。手で枝をつかみ、除け、一歩一歩登っていく。右側から覆いかぶさるササを掻き分ける。ヤブを分ける手を休めて、振り返ると、東には緑の山並みが広がる。遠くに、鉄塔の連なる峰の北には美濃平家岳が、その北には平家岳が確認できた。
 
 ヤセ尾根を進むと、大きな倒木を跨ぐ。この倒木の枝にビールの空き缶が突き刺してある。北には白い山が半分ほど見えた。白山のようだ。ヤブの急登が続き、赤ペンキで丸印の描かれたヒノキの大木の間を抜ける。さらにヤセ尾根をこなし、ヒノキの下を抜けると視野が開けた。タムシバの花が散在する稜線を見上げると、すでに屏風山の山容をイメージさせる様相は無く、急すぎて山頂すら確認できない。これから歩くであろうササの尾根がコブになって左から右へ連なっている。右の谷には残雪が輝く。
 
 稜線に出て、ほぼ1時間がたとうとしている。巨大なバベルの塔は登る者を拒むように、頭上から我々を睨みつける。周囲の木々は背丈の低い潅木となり、ササや枝がうるさいが、道は明瞭。迷うようなことはない。前方で「カタクリ!」の声。右の斜面に潅木の無い小さな空き地があり、カタクリの花が一面に咲いていた。ここでカタクリが見られるとは思わなかった。花期は最盛期で、美しいピンクの花が下を向いて並んでいる。このすぐ上にも同じような場所があった。
 
 カタクリの花に癒され、キジムシロの黄色い花を見ながら3mほどの岩場を通過して急斜面を登っていく。後方には歩いてきた稜線や屏風谷が見下ろせ、かなり登ってきたことを知る。南には日永岳や船伏山、大白木山、高屋山も見え始めた。山仲間のジオンさん達が高屋山に登っているが、すでに山頂に着いているに違いない。
 
 とにかく急登が続く。急すぎて手前のコブしか見えない。ザワッ、ザワッ。ササや小枝を手当たりしだいにつかんで身体を持ち上げる。地面に小さなスミレやマムシグサを見つけると嬉しい。疲れた、バテたという思いはなく、ただ無心にヤブを分けて登っていく。顔の周りの虫がうるさい。左手に山水画にあるような急斜面を持つピークが見える。屏風山の南峰のようだ。前方の尖ったピークに向かってゆっくり登る。さすがにバテてきた。ピークを登り切ると、さらに先がある。
 
 下りて来る単独男性と出会った。ゲートで話をした方だった。30分ほど山頂で食事をして下山するところであり、虫が多いとのこと。屏風山は初めての登頂であり、すばらしい山だと話された。男性と少し山談義をして別れた。見送って下を見て驚いた。ものすごい高度感である。天まで昇ってきた気がした。
 
 最後のヤブをこいで山頂に出た。長かった。それだけにいつもより達成感があった。誰もいない小さな裸地の山頂からは360度、遮るものが何も無い。真っ先に北の白い山、白山・別山が目に飛び込んできた。その西には荒島岳が大きい。南には、堂々たる能郷白山が白い縦縞を見せる。写真を撮りながら、山の同定をした。山頂を数羽の蝶が乱舞している。春型のアゲハチョウと思ったが、ギフチョウだった。なかなか止まらないので写真が撮れない。

 小バエが多いので蚊取り線香に火をつけてランチにした。メニューはドライカレーと冷やしソバ。蚊取り線香の効果で虫はほとんどいなくなった。ランチの準備をしていると、ズボンを這い上がってくる小さな虫を見つけた。明らかに吸血性のマダニである。急いで周囲をチェックすると、衣服に3匹、地面に2匹。何とコッヘルの中に1匹。4mmほどの赤っぽいマダニであり、帰って調べてみると、足が黒いことからシュルツェマダニと思われた。このマダニはライム病を媒介する種である。地面にもいたことから、ヤブの中で身体についたのではなく、山頂に生息しているらしい。ダニに注意しながら、ランチを済ませた。
 
 1時間程でランチを切り上げ、登ってきた道を下る。ササの中、急降下。地面が乾いて滑りやすいのでササをつかんで慎重に下った。急斜面では、横向き、後ろ向きで下りた。稜線から谷へ向かう急斜面で、倒木に惑わされて道を誤りかけたが、無事谷へ。谷を下り、午後の陽に照らされた美しい新緑の林道をゲートまで戻った。念願の屏風山に登れた充実感にひたって、河内谷を後にした。
 
 屏風山は玄人向きの山だと思った。長い林道歩き、不安定な谷歩き、稜線までの連続急登、山頂までのヤブの急な尾根歩きと、とにかく半端ではない。時間に余裕を持ち、早くから歩き始めたほうがいい。思わぬところで時間がかかる。特に、今回苦戦した滝の高巻きの場所は、仮設の渡り木が設置してあるだけであり、しっかりした整備が必要である。通過には細心の注意が必要。
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