トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
屏風山 (794m 瑞浪市) 2007.7.29 晴れ 2人
百曲登山口(9:43)→笹平コース合流(10:25)→黒の田山・湿地分岐点(10:37)→黒の田東湿地(10:49-11:11)→馬の背山(11:24)→大草コース分岐点(11:27)→八百山(11:35)→屏風山山頂(11:43-13:03)→八百山(13:10)→大草コース分岐点(13:21)→馬の背山(13:24)→黒の田山・湿地分岐点(13:27)→黒の田山(13:32)→湿地分岐点(13:39)→百曲コース分岐点・笹神山(13:45-13:57)→百曲登山口(14:21)
梅雨が明けた。この時期、夏山の適期ではあるが、休日も思うように山へ行く日程が組めない。この日曜日も日帰りでアルプスを計画したが、天気予報は午後から雷雨の不安定な予報。上空に冷たい空気が入るような予報の時は、経験からして3000m峰は荒れ気味となる。急遽、低山に変更。前日に中央道の「屏風山SA」に立ち寄り、「屏風山」も取りこぼしている山だと気づいたことから、この山に登ることにした。
この山を調べてみて大発見。この時まで屏風山は「屏風山SA」の北側にある山で、山肌に見える大きな岩を屏風に見立ててこの名前が付いたと思っていた。実は、中央道で瑞浪市を通過するときに、南側にかなり標高の高い山が連なっているのが見える。これが屏風山系と呼ばれる峰で、そのピークの1つが標高794mの屏風山である。この山系で最も高い山は屏風山の西にある八百山で名前の通り標高は800mジャスト。
ネットで調べてみると、登山コースはいくつかあり、短距離コースからロングコースまでいろいろ。最近「可児からの山歩き」さんのHPに「百曲コース」が掲載されていたので、このコースを選んだ。百曲コースの登山口は大牧集落にあるが、この登山口がわかりにくいらしい。
いくつかの地図とネットのレポートを用意して、中央自動車道の瑞浪ICを下り、瑞浪市街地の南を走る国道19号線バイパスを東進。市街地を迂回した辺りで、明智方面の案内に従って右折し、2kmほど走ると、県道66号線との交差点が現れるので、ここを左折し東進。2kmほど走って稲津の集落を抜ける辺りから南へ入る道の案内板に注意しながら車を進めた。ところが、標識を見落として行き過ぎ、大草の集落に迷い込んでしまった。道は狭いし、山際でのUターン時にぬかるみにはまりこんでスタックしかけるし・・・。
66号線に出て稲津まで戻って仕切り直し。かなり手前で百曲コース登山口の表示を見つけて、大牧集落に入り込んだが、その先案内がない。網の目のような狭い道をカンだけで何とか登山口までたどり着いた。下山後、66号線から登山口までのルートを検証した。最も分かりやすいと思った道順は下記のとおり。なお、2万5千の地図やネットの地図検索で入手した大牧集落の地図はあまり参考にならなかった。
県道66号線を東進し、稲津地区を通過する辺りで、右手(南側)へ鋭角で入る細い道に「屏風山・百曲登山口」の小さな案内板がある。ちょうど大牧集落への西側の入り口になる。ここは曲がらず、県道66号線を東進すると、左に広い道が下っており、右へも広い道が上がっている場所がある。左へは「麗澤瑞浪高校・中学校」、右へは「瑞浪芸術館」の大きな案内看板が道路脇にある。右の路肩にはコミュニティーバスの大牧バス停がある。
この広い道を右折し、坂を登って下るとすぐに工場と思われる建物に突き当たるので左折。坂を登ると交差点があり、南東角に赤い屋根の倉庫(工場?)とYKKの青い看板、カーブミラーがある。この交差点を直進して東に向かう。(南の山側には向かわない) 後は道なり。道は整田碑のある辺りから南に向きを変え、山を目指す。交差点があっても直進。竹藪を右前方に見ながら、車幅ほどの狭い舗装道路の坂を登っていくと山に突き当たり、ここに百曲登山口右へ600mの表示。右折して狭い山沿いの道を西進すると山側に登山口の案内が現れる。左折して200mほど登ったところに駐車場があるので、未舗装の荒れた道を上った。中程に左へ林道が派生しているがここは直進。かなりの悪路で、車高の低い一般車は無理をしないほうがいい。
車が数台停められる広場に到着。他に車はない。夏草が刈り払われており、右の鉄塔巡視路方向に林道がのびていた。この脇に登山口の表示。駐車場の東は沢で、少し先に大きな砂防堰堤がある。アプローチに苦労しただけに、山頂に達したような気分である。すでに10時前。炎天下の中、靴を履き替えて登山口から山に取り付く。
樹間の中、広い登山道をジグザグと登る。足下に松ぼっくりを小さくしたような木の実がたくさん落ちている。周囲の高木はモミの木だと思ったが、ツガであり、この実はツガの球果。百曲コースはとにかくツガの大木が多い。一登りするとフェンスが現れ、下方に深い谷が望めた。堀割れた道は風化した花崗岩の白い砂でザレ道となっている。
尾根に沿って、ジグザグ道が続く。左は谷で、曲がり角から谷が見下ろせた。人工林となり、道の脇には、時折、大岩が現れる。北斜面の高木の下の登りであり、思ったより暑くないが、汗が落ちる。登山口から30分ほど登ったところで、左の人工林にトラバースするように道が分かれていたが、20mほど先で道は崩壊していた。ジイジイとセミの鳴き声がする。聞き慣れない鳴き声であり、後に調べてみるとエゾゼミのようだ。
ツガが続く尾根を登っていく。道は柔らかく、折り返しながら登るため、さほどきつくはない。ホトトギスの葉がいくつか見られ、秋にはきれいな花が見られるだろう。人工林の中を左山でトラバースしていく。2カ所ほど、左へ道が派生しているが、枯れ木が横たえて止めてあった。林業用の作業道であろう。西から吹く風が気持ちいい。
緩やかに登っていくと、尾根に出て、東西の道に突き当たった。笹平コースとの合流点である。標識には、左が山頂、右が笹平の表示。ここまで1時間ほどかかると思っていたが、40分ちょっとで到着。丸木のベンチで水を飲む。西側が切り開きになっており、下界を望めるが霞んで遠くは見えない。オカトラノオやオトギリソウの花の写真を撮っていると、単独男性が下ってみえた。稲津の方で、大草コースから屏風山に登り、百曲コースを下るという。空気が澄んでいれば、伊吹山や名古屋が見えるそうだ。
近くに笹神山と大栂があり、帰路に寄ることとした。合流点から東に向きを変えて、人工林の中に入る。整然と並ぶヒノキ林には下草が無く、褐色の幾何学模様の中を歩く。異次元の世界に迷い込んだ錯覚に陥る。間伐をすれば日が差し込み、下草が増えるであろう。足下に花の終わったシライトソウやチゴユリ、ショウジョウバカマなどが見られた。コアジサイの花も終わった直後。
人工林を抜けると、分岐点があり、左へは黒の田山を経由して山頂に至る。谷川にかかる橋が見下ろせた。直進は湿地であり、「ぬかるみ多し」とある。湿地に寄ることにして、せせらぎに沿って、木橋を渡り、丸木が敷かれた潅木のトンネルを歩くと、ササに覆われた林に出て黒の田東湿地の看板を見る。この湿地は1000カ所以上もあると言われる東濃地域の湿地の中でも、現存する最大規模の湿地らしい。
手前の分岐より左へ歩いて湿地の木道に立ってみると、目の前に広大な草の原が広がる。ノカンゾウの花が終わりかけで咲いている。湿地の周囲を時計回りに歩く。所々に湿地に出る道がある。屏風山への分岐手前に湿地に近寄れる道があり、ここにはベンチがある。湿地との境には何もなく、うっかりしていると湿地のミズゴケを踏んでしまうので注意して散策する。
オレンジ色の花はノカンゾウ。それに混じって白い花が見える。サギソウである。最も近いところで2mほど先に花があった。自生のサギソウを見るのは久しぶりで、ちょっと感動。まだ咲き始めで、蕾もたくさん見られた。絶滅危惧種であり、大切にしたい花。赤い小さなハッチョウトンボや黄色いイトトンボなどが飛び回っている。湿地との境界を設けるなどの整備が必要な気がした。湿地を渡る風はさわやかで涼しい。木陰でのんびりしたいところであるが、山頂を目指す。
湿地の周遊路に戻って南へ歩くとすぐに北へ鋭角に道があり屏風山の表示。山火事注意の看板と赤テープもある。右にヒノキの幼木を見ながら人工林の中、ササの道を歩く。5分ほど歩くと、左に道を分けるが、直進して馬の背山への最短コースを進む。咲き始めたママコナの花を見ながら一登りして稜線に出ると、そこが馬の背山の山頂であった。名前のとおりの山で、通過点としか思えない。ほぼ水平に歩くと、大草コースの道が左にある。すぐ隣には岩のベンチ。展望も得られる。
ここから下って緩やかに登り返す。アセビが多い北斜面をトラバースして、明るいササ付きのヒノキ林を登る。尾根伝いに八百山まで歩くのかと思ったが、すぐに再び北斜面の暗い常緑樹のトンネルをトラバース。道は南へ向きを変えて傾斜が増し八百山を目指す。この辺りで左へ道が派生しており、展望地に出られるが帰路のお楽しみ。八尾山手前の尾根に出るところに尾根沿いに下へ道があったが、帰路、間違えそうなので枯れ木で道を塞いだ。
八百山はこの山系で最も標高が高いが、樹林帯の中で展望はない。八百山から下って天然林と人工林の境を歩き、杭のあるところで右へ直角に曲がって下る。鞍部からササの斜面を登っていくと屏風山山頂に到着。
山頂には大きな一等三角点と丸木のベンチ、山名表示板、コース案内などがあり、比較的広い。備え付けのボックスには記帳ノートと屏風山のパンフレットが入っていた。南北か切り開かれており、晴れていればすばらしい展望が得られるに違いない。
ベンチで昼食にする。メニューは冷や奴にドライカレーとサラダ、コーヒーとお菓子付きのフルコース。誰も登ってこない山頂は、さわやかな風が吹き、真夏の低山とは思えないほど。風が木立を揺らし、波の音のように聞こえる。ササの中でジイジイと無く虫を探してみるとアシグロツユムシだった。羽をこすり、地味な音色を響かせる。地面には大きな赤や黒のアリが餌を運んでいる。アリとキリギリスそのものの構図。地面に小さな穴がいくつか見られ、アリの巣だと思ったら、小さなジバチが出入りしている。ガクアジサイの白い花がササの緑に映え、モンキアゲハが幾度となく飛び抜けていった。躍動する生き物たちを見ながら、真夏の山がこんなにもすばらしいことを改めて知った。
時間の流れが止まりそうな山頂で1時間半近く長居をした。帰り支度をしていると、ヒグラシが一斉に鳴き始めた。空に雲が広がっている。ヒグラシの声に追われて、ササの斜面を下った。八百山をやり過ごしたところから、登りで枯れ木を横たえた道を進んでみると急斜面になったが道は続いている。引き返して、来た道を下り、東へ派生した道に入ると、すぐに明るい展望地に出た。急斜面の道はこの展望地へつながっていることが分かった。モヤで展望はないが、下界に集落、西に三角形の山が望めた。
馬の背山まで戻って、尾根を直進し、黒の田山を目指す。なだらかに下っていくと左への分岐があり、湿地に続いているようだ。右に谷を見ながら人工林の中を歩く。左側は天然林になり、ゆるやかに上下していくと黒の田山に着くが展望もなく、そのまま通過。すぐに小ピークを通過して、ここから急な下りになる。一旦なだらかになるが、再び急降下。プラスチック階段を下り、小ピークから左に向きを変えて下っていくと谷音が聞こえ、丸木橋を渡って登り返して、湿地との分岐点に戻った。登りにこのルートを使うとかなり息が切れそうだ。
人工林を抜けて百曲コースへの分岐手前から笹神山の案内に従って北へ歩いてみると、人工林の中に笹神山の表示。その北には樹齢約300年の大栂の古木が稲津の町を見下ろしている。百曲にたくさん見られたツガたちの主のごとく、稜線に立つ様は風格を感じさせる。分岐点で冷たいミカンを食べて、フカフカした道をノンストップで駐車地点まで下った。
思ったよりもはるかにすばらしい山だった。短距離から長距離まで、コースは多彩。時期を変え、コースを変えてまた歩いてみたい山である。パンフレットに「屏風山環境保護憲章」が記載されている。「とてもすばらしい自然の姿、とってはいけない自然の命、楽しい思い出とすべてのゴミは持ち帰り」 この山に限らず全ての山に対する憲章だと思った。湿地をはじめこの山のすばらしい自然がいつまでも残ってほしいものである。
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