大日ヶ岳の展望と地図を見る
大日ヶ岳 (1709m 郡上市) 2007.2.12 雪・晴れ 2人

高鷲スノーパークゲレンデ最上部・SPゴンドラ駅(8:22)→前大日(8:57)→大日ヶ岳山頂(9:15-10:10)→天狗山への尾根途中(10:36)→大日ヶ岳山頂(11:07-13:18)→前大日(13:34)→ゲレンデ最上部・SPゴンドラ駅(13:50)

 この連休は山に行く予定をしていなかったが、次の週末は天気が悪いという予報を見て、急遽、山行を決定。連休最終日の天気予報は、朝方は雪が降るところがあるものの、昼には快方に向かい降水確率はゼロ。今シーズン、まだスノーシューを履いていなかったので、スノーシューハイクができる手頃な山を探した。

 今年は雪が少ないことから、奥美濃方面の山を探し、前から冬に登りたいと思っていた大日ヶ岳を選んだ。ゴンドラを利用すれば、高鷲スノーパークスキー場のゲレンデ最上部から1時間以内に山頂に到達できる。ちょっとインチキ登山ではあるが、雪は豊富にあり、山頂から北にある天狗山へのスノーシュートレッキングもしてみたい。しかし、手頃とは言え標高1700mの冬山。ピッケルやアイゼンなど装備は完璧にした。
 
 連休最終日は混まないというスキー場情報を信じて、6時過ぎに東海北陸自動車道各務原ICに入り、美並IC付近の渋滞も無く、順調に高鷲ICを下りた。粉雪が舞う中、約9km一般道を走り高鷲スノーパークに到着。ゲートで駐車料金1000円を払って、巨大な駐車場のほぼ真ん中辺りに案内された。
 
 スノーシュー付きの大きなザックを背負って、カラフルなセンターハウスへ。どう見ても場違いな格好で、同じ格好の仲間は見当たらない。風花さんのHPで紹介されている登山者専用のチケットを得るために、大勢の若者で賑わうホールにあるインフォメーションに向かう。
 
 登山口のゲレンデ最上部まで行くためには、このスキー場で最も距離の長いSPゴンドラに乗る。標高差550m、距離2700mを10分ほどで運んでくれる。このスキー場には1回券が無く、登山者のみゴンドラ1回券が用意されているようで、登山届けと引き替えに1人1500円で購入。なお、3人の場合は11枚回数券3500円(SPゴンドラは1人3枚必要)を購入したほうがよい。なお、下りは係員に声をかけてゴンドラに乗り、インフォメーションへ下山を報告することになっている。
 
 この日のゴンドラ運転開始時間は7時半から。8時前でゴンドラに並ぶ人は少なく、15人乗りのポット型のゴンドラにボーダーと一緒にザックを背負ったまま乗り込んだ。ゴンドラ下の南斜面には雪の無いところもあり、今年の雪の少なさがよく分かる。
 
 あっという間に最上部の駅に到着。駅の近くにはレストランがあり、ここにもトイレがある。レストラン前でスノーシューを履く。相変わらず粉雪が降っているが、眼下の景色を見ることができ、視界があることからすぐに止むだろうと思った。スキーを履いた2人がレストラン西側の斜面を登っていく。ここが登山口となる。
 
 スノーシューのヒールリフターを上げて、急斜面を登り始める。ブナ林をトラバース。昨夜も降雪があり、パウダースノー状態。スノーシューは深く潜り込むこともなく、軽快に歩くことができる。バックカントリーをする人への警告看板があり、後方には鷲ヶ岳が朝焼けの赤い空を背景に美しいシルエットで浮かぶ。東方面は晴れているようだ。
 
 左側に尾根が近づいてきたので、尾根に上がってみるといくつかのスキーのトレースがあった。前方には白い前大日が大きく迫る。前大日の斜面を登る先行の男性2名が小さく見える。頭上には雲の切れ間から青空が望め、天気は回復するかに思われた。前大日の急斜面を半分ほど登ったところで休憩している2名に追いついた。我々も暑いので衣服の調整。
 
 一息ついて、方向を左に向けて前大日へ。粉雪は一段と激しく降り始め、視界は50mほど。大日ヶ岳の山頂も見えない。手袋に美しい六角形の雪の結晶が落ちてくる。今日の先行者があるようで、そのトレースを追う。先が見えないのでGPSと地図でも確認。ヒールリフターを下げ、前大日から雪庇を右に見ながら下って鞍部へ。前方に右へ延びる雪庇が見える。
 
 ササや潅木の散在する斜面を登って右に向きを変え水平に歩き、急斜面へ。かなりの急斜面を登り切ると雪で霞む山頂が見えた。先行者の3人の人影も見える。ゆっくり登ったが、あっけなく山頂に着いた。山頂には石仏や方位版、石柱などが雪の中から頭を出していた。
 
 新雪の山頂を歩き回って、天狗山方面への尾根も確認したがトレースは無い。視界も全くない。天気は良くなる予報であるが、外れたのだろうか。まあ、時間はたっぷりある。インナーにダウンを着込んで、コーヒーを飲みながら天候の回復を待つことにした。先ほどの2人の男性が登ってきた。その後、1人・2人とスキー組が登ってくるが、この天候ではどうしようもない。
 
 粉雪が降る中、ガソリンストーブの上でパーコレーターから白い湯気が流れる。風が弱いので、さほど寒くもない。雪は止む気配がない。コーヒーを飲みながら作戦会議。天狗山方面の尾根を歩いてみることにした。天狗山は大日ヶ岳山頂から北へ続く尾根にあるが、視界がなく、GPSで方向を確認して北の斜面を下る。トレースは無い。
 
 斜面を下ると、雪庇のある尾根となり、波打つ尾根を、適度に沈み込む新雪の感触を楽しみながら歩く。粉雪は降り続き、滑らかな曲線を描く雪の尾根は、その先で白い空に溶け込むように消えて、境目を隠す。黒いブナの立木も白い空間にフェイドアウトして、幻想的な墨絵の世界が広がる。立ち止まれば、雪の結晶が落ちてくる音がサラサラと聞こえる。恐ろしいほどの静けさをスノーシューの音がかき消す。滑らかな凹凸を見ながら歩いていると、不思議な感覚に陥る。淡い散乱光の中で、膨みと窪みが分からず、窪みが膨らみに思えて、踏み込んでバランスを崩すことも。
 
 右側は比較的緩やかな傾斜であり、小さなピークは右側に回り込んで歩く。風下であり、雪は深い。相変わらず視界は50mほど。前方の天狗山も後方の大日ヶ岳も見えない。誰も来ない。道は間違ってはおらず、滑落や雪崩の危険もなさそうではあるが、心細い。山頂から400mほど歩いて鞍部へ下りにかかる辺りで、引き返すことにした。ここまででも、今日の目的である新雪のスノーシューハイクは十分に楽しめた。
 
 トレースを歩いて戻り、山頂手前から振り返ると、雪が小降りとなり、天狗山への尾根が途中まで望めた。山頂に戻ると、幾組かのバックカントリーのグループで賑わっている。風の来ない東側の斜面に陣取って、昼食の準備。雪が止み、周囲が明るくなってきた。と、同時に日が差し、後方で歓声が上がった。見上げれば、頭上は青空。昼食は後回しにして、360度の大パノラマを楽しむ。
 
 何と言っても鎌ヶ峰がすばらしい。大日ヶ岳山頂から西へ続く雪庇の稜線の先には、南側に雲をたなびかせ鋭く尖った鎌ヶ峰が男性的な姿を見せる。中判カメラで何枚も写真を撮った。峰にかかる雲が刻々と薄くなり、その全容を現す。その様に強烈な感動を覚えた。鎌ヶ峰の奥にはかすかに荒島岳の姿が見える。毘沙門岳から眺めた時と同様に個性ある形をしている。
 
 荒島岳の手前を北に連なる福井県境の白い山々。小白山と野伏ヶ岳の一際大きく白い山塊が目を引く。和田牧場やダイレクト尾根、ジャンクションピークがきれいに見える。稜線は薙刀山、よも太郎山、願教寺山へと続く。銚子ヶ峰から北へ続く稜線も見えるが、どれが一ノ峰や二ノ峰かなど分からなかった。別山から白山辺りは白い雲に包まれ、白山は最後まで姿を現さなかった。先ほど歩いた天狗山への尾根と天狗の鼻を思わせる天狗山が美しい。
 
 東はひるがの高原コースの尾根が「く」の字に折れ、その右に深いカマス谷が落ち込んでいる。ひるがの高原の向こうには、見当山、鷲ヶ岳、白尾山などが、南には朝歩いてきた前大日が望める。八代竜也氏が「岐阜の山歩きベスト55コース」の大日ヶ岳のページで、この山頂からの展望を「目がつぶれるほど」と表現されていたのを思い出した。まさにその通り。一時間前の雪降りの山頂とは思えない。
 
 展望ウオッチングと撮影を終え、ランチ場所に戻る。ガソリンストーブ2台でカレーうどんを作った。うどんができるまで、缶詰を肴にノンアルコールビールでこの展望に乾杯。時折、つむじ風が粉雪を巻き上げながら眼下のカマス谷へ落ちていく。熱々の大判焼きにホットコーヒーで天空レストランフルコースを終えた。
 
 帰り支度にかかるころ、食事を終えたバックカントリー組が東斜面に集まってきた。このカマス谷をスキーで下ろうというのである。リーダーを先頭に次々に滑降。雪庇の下を南にトラバースして、真っ逆様に谷に突っ込んでいく。雪煙を上げて、あっという間に谷に吸い込まれていく姿に息を呑む。若い女性はスノーボードで颯爽と滑っていく。ボードはスキーよりも難しそうだ。
 
 スノーシューで登ってきてボードで滑ろうとしている女性に聞けば、「こんなところばかり滑っているのではなく、ゲレンデでも滑りますよ。スノーシューで下る方がすごいですね。」 そう言って、カマス谷に消えていった。気が付けば、山頂に残っているのは我々2人。スノーシューを履いて山頂を後にする。
 
 先ほどまでの青空は消え、鎌ヶ峰の後方には黒い雲が迫っていた。山頂南の急斜面でシリセードをしてみたが、スノーシューが邪魔になってうまく滑らない。滑り降りた辺りから鎌ヶ峰がきれいに見える。トレースを外して新品の雪面を踏んで下ったほうが歩きやすい。鞍部から登りにかかる頃、再びチラチラと小雪が降り始めた。振り向けば、白い大日ヶ岳の丸い輪郭が雪雲に溶け込み始めている。
 
 前大日からもシリセードと新雪トレッキングを楽しみながらゲレンデトップまで下った。大勢のスキーヤーやボーダーで賑わうレストランの前でスノーシューを外してザックにつけ、SPゴンドラの係員に声をかけて、下りのゴンドラに乗る。もちろん、下りのゴンドラに乗る人など1人もいない。センターハウスのインフォメーションに下山報告をして駐車場に戻った。渋滞する前にと、3時前にスキー場を後にして東海北陸自動車道に入ったが、大和IC手前で渋滞となり、大和ICを下りて、渋滞の無い156号線で帰途についた。
 
 冬の高鷲スノーパークからの大日ヶ岳はゲレンデトップから1時間もかからずに山頂に立つことができる。そして、そこにあるのは360度の大パノラマ。手軽に登れる雪山であり、毎年訪れたい山である。ただし、ゲレンデから上部は本格的な雪山。冬山の装備は常識。雪崩が起きることもあるようだ。手軽だからといって安易に登るのは危険。慎重な行動が必要である。
 山のリストへ