五色ヶ原2
五色ヶ原 (牛首:1620m 丹生川村) 2004.10.16 晴れ 2人

ペンタピアスノーワールド五色ヶ原案内センター入山口(8:21)→水飲み場(9:04)→久手御越滝(9:45)→牛首(10:23-10:35)→池之俣御輿滝(10:55)→炭木岩(11:41)→烏帽子小屋(12:08-12:51)→沢胡桃沢(13:04)→ネズ壁(13:12)→青垂滝(13:30)→カンバ尾(14:09)→横手前(林道合流)(15:17)→下横手口(15:21)→布引滝展望台(15:40)→出合い小屋(16:00)

 今年の7月、乗鞍山麓の五色ヶ原への入山が可能になった。五色ヶ原は丹生川村に位置し、簡単に言えば乗鞍スカイラインの西側のエリアに当たる。五色ヶ原の半分以上が中部山岳国立公園に属し、多様な森林や湿地植物、野生動物の宝庫であり、手つかずの自然が残る場所である。

 この森への入山は規制されており、入山するには事前の申し込みが必要。専属のインストラクター(ガイドさん)が同行し、現地を詳しく案内してくれる。滝巡りコース(カモシカコース)と池巡りコース(シラビソコース)の2コースがあり、池巡りコースは参加者全員が既に滝巡りコース経験者である必要がある。この理由をガイドさんにお聞きしたところ、2つのコースのエリアは異なる火山により形成されており、滝巡りコースの地形が形成された後に池巡りコースが出来上がったそうで、五色ヶ原全体を知るにはこの順序で歩く必要があるそうだ。よく分からない理由であるが、この順番を固定した訳は、滝巡りコースを歩き終える直前に解明されることになる。憎いほどの最高の演出が待ち受けている・・・。

 ガイドさんが同行することから、入山は有料となる。5〜6人に1人のガイドさんが付くことから、最低料金は1人が8,800円。申し込み人数がそれ以下になるとさらに料金は高くなる。この価格が安いか高いかは人それぞれの価値観によるであろう。まだ始まったばかり企画であり、今後の参加者数でこのツアーの内容、価格設定が判断されることになると思われるが、ちなみに、紅葉最盛期のこの日の滝巡りコースのグループ数は15。約80人ほどが参加していることになる。翌日の予約は満員であった。(1日の入山者は100名が上限) このツアーの詳細は公式HP(http://kankou.nyukawa.net/goshiki/)をご覧いただきたい。なお、ツアーは10月いっぱいで終了し、来年は残雪の量にもよるが5月後半になるようだ。

 朝、5時に岐阜市を出発。東海北陸自動車道を清見ICで下り、平湯方面を目指す。自動車道の標高の高い所の温度計が−2度C。霜が降りていた。丹生川村を縦断する国道158号線を上り、朴の木平スキー場入り口を過ぎ平湯トンネル手前にあるペンタピアスノーワルドの大きな駐車場にある「五色ヶ原入り口」の表示にしたがって右折し案内センターへの坂を上る。

 8時集合であったが、7時15分くらいに到着。駐車場にはすでに多くの車が停まっており、ザックを背負った登山者が行き交っていた。早速、靴を履いて案内センターで受付を済ませる。14番のテーブルで待つように言われ、2階に上がった。いつもの山歩きとはちょっと違う雰囲気。女性のガイドさんに名前を呼ばれて集まったメンバーは6人。全員が岐阜市から。Mさんご夫妻、Fさん・Nさんの2人連れの3パーティー6人。ガイドさんは丹生川村で「森の水族館」を経営してみえる田上さん。我々よりも先輩で、小柄でかわいいベテランのガイドさん。飛騨弁の解説は実に印象的であった。

 室内でこれから歩く滝巡りコースの説明を聞く。滝巡りコースは6.8kmの距離を1日かけて歩く。入山口の標高は1360m。牛首が最高点となりその標高は1620m。標高差260mの間を何回もアップダウンを繰り返す。外に出てセンター前で準備体操。西の山間に初冠雪の白山が輝いている。こんなにいい天気は滅多にないそうだ。

 センターから入山ゲートをくぐってガイドさんを先頭にいよいよトレッキング開始。各グループ、一定の間隔をおいて山に入る。昨日、今年始めて降った雪で五色ヶ原も雪化粧したそうだ。その雪はすっかり融けているが、北斜面であり登山道はしっとりと濡れている。ミズナラやブナ、コシアブラなど周囲の木の解説をガイドさんから聞きながらウワバミソウのたくさんある道を5分ほど歩くとササの中にミズメ(ヨグソミネバリ)の大木が現れる。ナナカマドやコミネカエデが大木に着生して古木の風格を感じさせる。

 Mさんの奥さんは山野草が趣味で、園芸店で購入した山野草を自宅で育ててみえ、エンレイソウやユキザサなど植物の名前をよくご存じでした。小さな谷にかかった丸木橋を渡るところもあり、濡れていて滑りやすいので慎重に渡った。水場に到着。左の山側から流れ出る冷たい水がおいしかった。

 シラカバが美しい。この辺りにはシラカバ、ダケカンバ、ウダイカンバがあり、その見分け方を教えてもらった。今年の紅葉は今一つだそうで、色づく前に散ってしまうそうだ。出発して1時間ほどで前方に美しい滝が見える谷川に到着。久手御越滝である。大勢の入山者が休息中。一部紅葉した秋色の山の中の一筋の白い滝は絵になる。ガイドさんは記念写真のシャッターを押すのに忙しい。

 ここから谷を左に見ながら滝壺まで登る。滝壺の前でしぶきを浴びながら再び記念撮影。滝は落差58mの豪快な滝だ。いくつもの地蔵様が滝に打たれているように見えるのがおもしろい。6月にはここにオオヤマレンゲが美しい花を咲かせるそうだ。ここから滝の右手の尾根を目指して急な登りになる。道は石ころ状態。浮き石も多く、「浮いてますよ」と言いながら登った。左山でトラバース。樹間から前方に朴の木平スキー場が見える。右に見える尖った小さな三角形の山は十二ヶ岳。12の山が見えることからこの名前が付いたとのこと。短時間で登れる山であり、いつか登ってみたい山である。

 さらにひと登りして、このコース最高点の牛首に到着。牛首は尾根越えの部分に当たり、木の株が牛の顔に見えることからこの名前がついたそうだ。足下も悪く、山に登り慣れていない人には結構きついコース。ガイドさんに聞くと、五色ヶ原の名前から原っぱを歩くイメージで参加し、途中でリタイヤーする人もいるそうだ。牛首はエスケープルートへの分岐点でもあり、リタイヤーする人があれば近くの林道まで車が迎えに来る。我々のメンバーは全員元気。

 ダケカンバを縦割りにしたベンチに座って休憩。Mさんのご主人がエネルギー源と言いながら濁酒ワンカップを一気飲みされたのには驚いた。この効果はバツグンで、その後Mさんは快調に歩かれた。

 牛首からは谷に向かって下る。樹間から次の目的地である池之俣御輿滝の一部が遠くに見える。深山幽谷、秘境という言葉にふさわしい光景に感動。かつて、五色ヶ原に滝や池があることは知られており、キノコや山菜採りに入山する人はあったが、深い森の中で堆積した岩の隙間や滝壺に落ちたりして、行方不明になる人は後を絶たず、入山してはいけない森であったそうだ。こうしたエリアだからこそ、この入山システムの意義は大きい。

 急斜面をジグザグに下り、池之俣御輿谷に出る。広い谷川には丸木橋がかけてあり、手すり用のワイヤーも設置されている。雨の時の休息用のテントも張られている。滝をバックに記念写真を撮ってもらい、丸木橋を渡る。滝は最下部しか見られないが、黒い岩壁に扇形に広がった真っ白な滝は見事である。サワグルミ、トチノキ、ヒロハカツラに混じってウラジロモミノキの大木も見られる。

 滝を後ろに再び谷を離れる。ヒノキそっくりな木はサワラ、魚の形の葉をした木はオヒョウ。枯れ木の中から伸びた木などを見ながら、左山でトラバース。前方の樹間からは白い白山が見えた。「このところカッパばかり来て歩いていましたが、こんないい天気は久しぶりです」とガイドさん。岩と泥の悪い足場で、Mさんの奥さんがつまづいて手の前爪をはがすというアクシデントも。大事に至らなくてよかった。

 炭木岩を通過。この辺りは火山により六角柱状の岩が重なり合った柱状節理とよばれる崖がたくさん見られる。この柱状節理が剥離し、登山道周辺にたくさん転がっている。これを炭木岩と呼ぶ。イタヤカエデが多い楓沢を渡り、岩の転がる悪路を進む。上部に仙人滝が見える。この滝は、この先の烏帽子小屋の裏からもきれいに見える。急斜面の道を烏帽子小屋目指す。登り切れば昼食が待っていると頑張る。

 白い雲が流れる空が近づき、烏帽子小屋に到着。入山口から3.6km。ほぼ半分を歩いた。烏帽子小屋は痩せた尾根の樹林帯の中に立てられた新築の小屋である。小屋は平地に建っているとばかり思っていたが、全く予想はずれ。男女別のトイレが設置されており、暖房・ウオシュレット付きというのには驚いた。小屋の中にはストーブが焚かれていた。

 大勢の人が昼食中。昼食は各自持参。事前にガスコンロによる炊事の可否を確認したところ、可能との回答を得ていたので、今日のメニューはカレーうどん。出発時間は30分後と聞いてあせった。昼食は最低一時間はほしいところ。痩せ尾根のベンチで野菜をたくさん入れたカレーうどんを作っていると、後から登ってきたいくつかのグループから、「おいしそう。いいにおいがしてましたよ。」と声をかけられた。風は西から尾根を下って楓沢方向に吹き下ろしているようだった。よく見れば、自炊している人は我々のみ。食事を終えて出発する方々が興味深く見ていかれた。ちょっと恥ずかしかった。中には「おしゃれですね〜」との声も。「・・・・」

 時間が無くコーヒーはあきらめ早速出発の準備。近くの木の上の熊のねぐらの跡や木に残された熊の爪跡を見ながら尾根を回り込む。サワグルミ林の沢胡桃沢を通過。春にはニリンソウやサンカヨウが花を咲かせる場所でもある。すぐに今度はクロベの林に入る。クロベはネズと呼ばれ、この辺りはネズ壁と言われている。

 急斜面をぐんぐん下って行くと、目の前に巨大な滝が立ちはだかる。青垂滝である。登山道は更に急降下して滝壺まで下っていく。滝壺手前で誰もが立ち止まって見上げる。この滝は左が雄滝、右が雌滝とよばれ、並んで壮大な姿を見せる。雄滝は高さ90m、雌滝は74m。雄滝は紅葉の木々を従えた柱状節理の崖から真っ逆様に落ちてくる。この光景はまさに圧巻。この滝にも柱状節理によって創り出されたお地蔵様が滝に打たれる姿が浮かび上がっていた。初夏にはこの辺りに美しいランが咲くらしい。その時期にもう一度訪れてみたいと思った。

 雌滝を左に見ながら急登で左の尾根へ向かう。トチノキやカツラの林の中を、ガイドさんから終戦直後までここに鉱山があり3000人が住んでいた話しなどを聞きながら歩いた。右に滝を見ながら左山でトラバースし倒木のある尾根で休憩。ここが標高1520mのカンバ尾と呼ばれる場所。缶チューハイでエネルギーを補給した人あり。後方からやって来た若者グループに先を譲る。

 ここから先は登りは少なく、大きな難所はないと聞き、皆さん安堵の表情。15分ほど休憩して出発。ゴゼンタチバナが現れる。炭を捨てた跡などもあり、かつて鉱山の人が住んでいたことを伺わせる。濡れた道にはカエデやカツラの落ち葉が散ってきれいだ。休憩から30分ほど歩くとカラマツ林となり大きな石が散在し大きな穴も見られる。サワグルミも多く、苔むした原生林がすばらしい。

 ふたたびオオヤマレンゲがある場所を通過。左に木の根が窓のように輪になった窓木と呼ばれる珍しいものを見ながらシラビソやコメツガ、カラマツの林の中を歩く。今まで広葉樹の中を歩いてきただけに、針葉樹の林は雰囲気が全く違う。この辺りも苔が岩や木に付着して癒しの世界を作っている。「家に持って帰りたい」「ここでは採ってはいけない」と言いながら歩く。大岩が現れ、イワカガミもある。ゴゼンタチバナは赤い実を付けている。花の時期にはきれいに違いない。

 いきなり林道に合流。横手前である。美しいカラマツ林を見ながら数分林道を歩くと下横手口。ここから林道をはずれてカラマツ林の中を下る。途中、左手奥の紅葉の山の中に横手鳴滝が望めた。そして池巡りコース分岐点を通過。目の前に新しい木道が現れる。今日のゴールである出合い小屋から布引滝展望台まで車椅子でも入れるように整備されている。こうした気配りの整備はすばらしいことだ。

 木道に沿って歩くと苔むした古い水路の脇に出た。鉱山があった頃の水力発電所の跡らしい。かつて栄えた鉱山も今では自然と一体になって五色ヶ原の大地に埋もれている。ふと、「天空の城ラピュタ」を思い出した。

 水路の先に木造の展望台。手すりに寄って見下ろす。美しい秋色の山の中に布引滝がレースのように何本もの白い糸を落としている。なんと美しい光景であろうか。落差40m、伏流水が滝となっていることから、濁ることもなく水量も変わらないという。手すりにつかまって滝を眺めた。池巡りコースはこの滝がスタート。滝の真下に続く遊歩道が眼下に見える。滝に重なって「次回に続く」という文字が脳裏に浮かんだ。すばらしい予告編を最後に滝巡りコースは幕を閉じる。「バック・トゥ・ザ・フュチャー」や「ロード・オブ・ザ・リング」の一作目を観たときの気分だ。続きはどうしても観なければならない。来年、花の時期に、今度はここから歩くことを布引滝に約束して、木道を出合い小屋まで戻った。

 出合い小屋には出発地点の案内センターまで向かうバスと丹生川村の日本一の冷えたトマトが待っていた。小屋の前で全員で記念撮影。初対面でも一日一緒に歩くとすっかりうち解けてしまう。特に、非日常的な山歩きにおいてはなおさらだ。互いに住所を交換。Mさんは今日撮り続けてていたビデオを編集して送ってくださるそうだ。楽しみである。ウチのHPも皆さんにPRした。懇切丁寧にいろいろと教えていただいたガイドさんには心より感謝。次回も田上さんをご指名したい。すばらしい一日を過ごすことができ、忘れることのできない山歩きとなった。

 他のグループが揃ったところで出発。バスは40分かけて紅葉の林道から国道経由でスタート地点に戻った。案内センターの前から真っ赤な夕焼けをバックに白山が浮かび上がっていた。
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