トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) 一部誤動作あり
日坂820.8m (820.8m 揖斐川町) 2008.1.14 晴れ 2人
東海自然歩道和佐谷入口(9:21)→第一ベンチ(9:35)→第二ベンチ(9:45)→鍋倉山まで2km地点(10:07)→長者平コース分岐点(10:12)→自然歩道から分岐(10:18)→日坂山頂・820.8mピーク(10:50-12:54)→自然歩道合流(13:16)→長者平コース分岐点(13:22)→第二ベンチ(13:43)→第一ベンチ(13:49)→和佐谷入口(13:59)
ネイチャー・ドキュメンタリー映画「アース」を封切日に観に出かけた。同じスタッフが製作した前作の「ディープ・ブルー」の映像美には感動したが、この「アース」も一切CGを使わないすばらしい映像に引き込まれた。「未来への贈り物」とまで言われるこの映画は、将来、見られなくなると予想される美しい地球の生き物たちを見事なカメラワークで撮り上げている。ホッキョクグマ、アフリカゾウ、ザトウクジラの親子を軸に、北極から南極までカメラは地球を縦断する。「今なら間に合う!」 淡々と描く大自然の映像の後ろには環境問題に対するスタッフの叫びが聞こえる。氷の溶けた真っ青のな北極海を泳ぐホッキョクグマの空撮が強烈に脳裏に焼き付いている。
「地球の地軸が傾いて四季が生まれた」というナレーションで始まるこの映画は、季節の移り変わる姿を這うように微速度撮影で表現する。どのように撮ったのだろうかと思うようなロシアの落葉樹林帯や吉野山の千本桜、野山の草花の芽吹き・開花などの微速度撮影を見て、山を歩き美しい自然にふれ合う機会の多い我々にとって、この映画は実に身近に感じた。映画と同じように山に出かけるたびに美しい自然に出会っているのだが、それがあたりまえになってしまっている。改めて自然環境を考える機会を与えてくれた作品であった。こうした美しい自然を後世に残すためにも、地球温暖化対策などできることから取り組まなければならないと思った。
そんな映画の後、美しい自然が見たくなって、雪の低山を歩くこととした。八代竜也氏の「ヤブ山探訪」を参考に、揖斐川町の日坂(820.8mピーク)を選んだ。東から西へ鍋倉山を縦断する東海自然歩道は「日坂越」を横切って、和佐谷を下り、久瀬温泉の東に抜ける。この和佐谷の東側に前谷が並行して北に延び、この2つの谷に挟まれた南北に連なる峰の最高点(標高820.8m)に三角点がある。このピークを日坂と呼ぶらしい。また、和佐谷は一昨年の秋に歩き、体が錦に染まるほどの紅葉の谷に感動した思い出がある。葉を落とした厳冬期に歩いてみたかった道でもある。
コースタイムは短いので、いつもより遅い時間に自宅を出て揖斐高原スキー場日坂ゲレンデを目指す。日坂ゲレンデ手前に春日へ抜ける大規模林道分岐点があり、その東に久瀬温泉露天風呂がある。温泉手前の右カーブ左側に広い路肩があり、山側へ細い舗装道路が分岐している。これを左折し、時計回りで上っていく。右に水道施設らしき構造物を見ながら右山で車を走らせるとすぐに左に水田、右に一軒の廃屋が現れる。この家の手前の広い路肩に車を停めて身支度。雪でここまで上れないと思ったが、路面の雪は消えている。お正月には大雪だったのだが。この様子ではスノーハイキングは無理。かといって場所を変更するような時間もないので予定どおり歩くことにした。
一軒家の前に東海自然歩道の標識があり、六合まで14km・375分の表示。微妙に案内板が斜めに設置してあり、2手に分かれる道の右を指している。広い道を真っ直ぐに橋を渡って進みそうであるが、橋を渡らず右の細い舗装道路を上る。ここにも自然歩道の小さな表示がある。左に雪解け水の流れる谷を見ながら杉林を抜ける。今朝の冷え込みで所々にある雪は凍り付き、この休みに鍋倉山に登ったと思われる登山者の足跡が続いていた。路面におもしろい形をしたケンポナシの果実がいくつか散らばっており、谷を挟んで左の斜面には雪が見られた。この先、雪があることを期待して歩く。
谷川が分岐した場所で、雪に埋もれたベンチが2つあった。鍋倉山まで3.5kmの表示。ここでジャケットを脱いで、橋を渡り、谷川の間を登っていく。青空から羽毛が舞うように、小さな雪の結晶が降ってきた。それが朝日を浴びて、まるでダイヤモンドダストのようにきらきらときらめいて美しい。杉林を抜けると2つ目のベンチを通過。谷を渡って折り返すように左の斜面に取り付く。丸木の階段を踏んで、谷を離れ、峠に向かってトラバースが始まる。
山側の法面の崩壊して裸地になったところにたくさんの大きな霜柱ができていた。この朝、かなり冷え込んだことが分かる。林道のように広い自然歩道は山肌に沿って何度もカーブしながら緩やかに上っていく。周囲の広葉樹は葉を落とし、地面の残雪とマッチして美しい光景を作る。落ち葉に埋まった茶色い道を、カサカサと音を立てて歩いた。日陰には雪が残っており、凍った雪がバリバリと音を立てる。登るにつれて右の谷はどんどん深くなり、水音も小さくなっていく。燃えるような秋の谷の雰囲気は想像すらできないが、もの悲しい冬の道もいい。
鍋倉山2.8km地点を通過。GPSで確認すると、左の急な斜面の先に今日の目的である280.8mピークがあるようだ。倒木をくぐりながら、落ち葉と雪を交互に踏んで歩く。山側の法面が大きく崩壊して今にも崩れてきそうな場所もあり、早足で通過。大きなつららが輝く。和佐谷はまだ氷点下の世界だ。
谷をトラバースして鍋倉山2km地点を通過。西に貝月山が美しい姿を見せる。砂礫の法面が崩壊して、歩道が埋まりかけている部分があり、そこに雪が残って谷底に滑り落ちそうな場所を歩く。雪が多く、アイスバーンになっているときには危険な場所だと思った。蛇行して尾根へ。標識のある交差点に出た。南へ下りれば、一昨年の忘年登山で登った長者平コース、西に行けば大規模林道に出る。左は鍋倉山。冷たい風が吹き抜ける。
左折して、左眼下に今歩いてきた道を見ながら雪の歩道を歩くと、左手前方に北へ続く尾根が見えてきた。これから取り付く日坂の尾根である。交差点から5分ほど歩いて、歩道が尾根筋を横切る辺りをGPSで確認。事前に入力してきたウェイポイントに到着したことから、尾根に取り付こうとするが、ヒノキの幼木が植えられており、幼木の間隔は狭く、ブッシュが塞いでいる。地面に雪は見られるが、ブッシュを押さえ込むほどの量はない。歩道を前後して取り付きやすい場所を探すがそれらしき入口はない。しかし、日坂はあきらめて、鍋倉山にしようかという代案は却下された。
ヒノキに結ばれた赤テープを見つけ、テープに誘われるように強引にヤブに突っ込んだ。歩きやすい空間を見つけながら、迷路のようなヒノキの間を進む。ヒノキ林を西に抜けて天然林のヤブを分けると、前方に尾根が現れ、ブッシュも少なくなった。GPSのウェイポイントと点々と付けられた赤テープを追う。まさか赤テープがあるなど思いもしなかった。雪は斑状態で、尾根にはかすかに道があるようにも思えた。右手前方の丸い山がこれから目指す三角点のピークらしい。
樹間からは右に鍋倉山、前方には白い山が見え隠れする。ちらちらとワタムシのように雪が舞う尾根を北西方向になだらかに登っていく。ミズナラやブナの木々が空間を埋め尽くし、その隙間を空の青が埋める。気持ちのいい尾根歩きもわずかでピークに出る。右に向きを変え、今度は北東に歩いて、ルートファインディング。雪はあるが、まるで春の残雪のような状態で、スノーハイクにはほど遠い。
ササの斜面を登り切って山頂に到達したと思ったら、さらに前方に丸いピークが。少し下って、木々の密度が少なくササも薄い西斜面に回り込んで雪の斜面を登っていく。山頂方向から人の声が聞こえたような気がした。先行者のトレースも無いし、自然歩道から外れた山でもある。ここに登る登山者は絶対無いと確信していたことから、空耳だろうと思った。それでも山頂に近づくにつれて話し声が明瞭に聞こえるようになった。
息を切らして登り切ると、山頂に数人の人影。これには驚いた。挨拶をして聞けば、K山岳会のメンバー7人パーティーだった。「八代さんの本を見て来たのですか?」と聞かれてうなずく。皆さんは和佐谷の東にある前谷から入り、林道の途中から山に取り付き登ってきたとのこと。いつも通常コースを一ひねりしてこうした山に登ってみえるようだ。
山頂の三角点は、ちょうど上面が雪の表面に出ていた。その脇に国土地理院の白い標柱があった。山頂は木立の中にあるが、東側の樹木は少なく、鍋倉山から鎗ヶ先山へと続く稜線がよく見える。少し東へ下りてササの中に立つと、遮るものが何もなく、東から南にかけての展望がすばらしい。南には伊吹山も見えた。
山頂の一角の雪の上でランチにする。メニューはサバ缶詰鍋。最後にパックご飯を入れて雑炊にした。山岳会の皆さんは鍋倉山へ向かうとのことで、早々とランチを済ませて西へ下りて行かれた。風もなくおだやかな山頂で鍋倉山方面の峰を眺めながらコーヒーを沸かした。目の前の尾根には自然歩道が見下ろせ、鍋倉山の山腹にはジグザグの道が雪で白く見える。下方には前谷から上ってきた林道らしき道も見える。
ランチの後、北へ続く稜線の散策をすることにし、空荷でゆるやかな雪の斜面を下った。北斜面のため疎林で雪もあり、歩きやすい。樹間から北に大きな小津権現山や蕎麦粒山などが望め、その先の真っ白な山は能郷白山。西にも白い山が連なっていたが同定できなかった。枯れたミズナラにナメコやツキヨタケが乾燥状態で残っている。雪の上に北へ下っていく何人かのトレースがあった。できたばかりの靴跡であり、山頂で出会った皆さんが鍋倉山方面ではなく、和佐谷入口方面に下っていったものと思われた。
山頂に戻って、ザックを背負い登ってきた道を下る。正面に貝月山や鎗ヶ先山を見ながら一気に自然歩道まで下った。下りはブッシュが倒れた方向に歩くので、ヤブで苦戦するようなことはなかった。冬の午後の日差しで一層赤く染まった落ち葉の絨毯を踏んで、自然歩道を車まで戻った。
雪の多い時にもう一度登りたいコースである。ただし、大雪だと和佐谷の歩道は雪の斜面となって危険な状態が予想される。八代氏の記述のように、雪崩の危険がなければ大規模林道を歩くルートもある。いずれにしても道のないヤブ山であり、一般向きの山ではない。
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