福地山からの展望と地図を見る
福地山 (1672m 高山市) 2007.3.4 曇り 2人

登山口(8:17)→東屋@(8:44)→谷コース分岐点(9:29)→<谷コース経由>→東屋A(9:36)→無然平(9:49-9:55)→尾根コース分岐点(10:07)→<遊歩道経由>→第3展望台分岐点・尾根コース分岐点(10:39)→乗鞍岳展望台(11:13)→福地山山頂(11:18-13:11)→第3展望台(13:34-13:43)→尾根コース分岐点(13:47)→<尾根コース経由>→遊歩道合流(14:10)→無然平(14:15)→谷コース分岐点(14:28)→東屋@(14:49)→登山口(15:04)

 この時期は、花の山に行くか、雪の山に行くか、毎年、迷う。今回も、前日まで迷って、スノートレッキングを選んだ。この暖冬で、雪のある山は、奥美濃か飛騨地域。数ヶ所の山を選定して、ちょっと遠いが福地山に決めた。雪のアルプスが見られることを期待した。

 福地山は福地温泉郷の西側にある山で、地元の有志の方々の努力により、旧上宝村福地温泉を登山口とした福地山山頂までの片道約7kmの登山道が2004年に整備され、所要時間片道約2時間、標高差約700mのコースは、子どもからお年寄りまで安心して登ることができると紹介されている。通常なら、この時期には不向きな山と思われるが、今年は暖冬で、雪は4月くらいの状態と予想し、出かけることにした。

 5時過ぎに自宅を出て、スキー場に向かう車で混雑する東海北陸自動車道を北上。高山市街を迂回して、国道158号線を東進。曇り空で、正面の乗鞍岳が見えないが、天気は回復傾向の予報。平湯トンネルを抜けて、安房トンネル入口にあるトイレに寄る。ここから福地温泉までは10分ほど。土砂崩れで通行止めのバイパスを迂回して、クマ牧場入口を通過した先で、案内表示に従って左折し、福地温泉郷に入る。

 登山口は、「福地温泉上」というバス停の西側にある。「昔ばなしの里・朝市」の未舗装の駐車場が登山者に開放されている。(登山口に駐車場を示す張り紙があり) ちょうど散水により氷の芸術が作られている手前に駐車場がある。はじめての山であり、雪の状況も分からなかったため、ピッケル、アイゼン、スノーシュー、ストックを持ち、駐車場の隣にある民家の北側の登山口へ。大きな登山口を示す案内板があり、階段を登って、左への道を歩く。

 左には散水によってできた氷塊が美しい。水路を右に、間伐直後のスギの人工林に入り、アイスバーン状態になった広い遊歩道を歩く。アイゼンを付けようかと思ったが、ところどころに雪のない部分があり、また傾斜も緩やかであることから、登れるところまでツボ足で歩くことにした。スノーシューやツボ足のトレースがいくつも見られたが、今日のトレースはカモシカ以外に無く、我々が最初のようだ。

 すぐに暑くなったのでウェアー調整。手袋も薄いものに替える。つづら折れの道は人工林を抜けて天然林の中をぐんぐん登っていく。北側の折り返しからは、集落が見下ろせた。気温が高く、すでに雪解けの水が道ばたの木の根を伝って落ちている。遊歩道の造成で削られた山側の土が崩れているのが随所に見られた。雪が緩み、時折足を取られるが、アイゼンを付けるとダンゴになりそうな状況のためツボ足でトレースを踏みながら登る。

 雪の上で、ツチグリという面白いキノコを見つけた。星状の皿に梅干しくらいの球体が乗っている。斜面に生えたものが地面の崩落により雪の上に落ちてきたようだ。まさに「地上の星」である。その他、雪の上にいろいろなものが見られた。最も目に付いたのが、いろいろな形をした細かい鱗片。無数に散らばっている。この暖かさで、落葉樹の萌芽がはじまり、芽を包んでいた皮が落ちてきたようだ。また、以前に枝から落ちてきた雪の部分が盛り上がって、林床一面に丸い凹凸が広がっていた。暖められた小枝や落ち葉が雪に深く潜り込んでいるのも面白い。このような自然の造形美を観察していると、遊歩道の単調な登りも退屈しない。

 登山口から30分弱歩いて、展望のいい場所に出た。南側にひときわ白く輝く男性的な山容の巨大な焼岳が灰色の曇り空を背景に、じっと身を潜める。上高地側からの焼岳は見慣れているが、西側からの山容もすばらしい。夏には褐色の岩肌を見せるこの山は、まるで雷鳥のごとく、冬には純白に姿を変える。身が清められる想いで、白い焼岳と対峙した。今日の主役のこの山は、この先、常に我々を見守ってくれた。そして、さらに大きな感動をプレゼントしてくれることになる。

 この展望地から右に回り込むと、遊歩道から一段上に、青いトタン屋根の東屋が現れた。眼下に温泉街。ここが第1展望台であろうか。「獣出没注意」の表示を通過し、天然林のつづら折れが続く。南側にある人工林との境を登っていく。登山口から1時間ほど歩いて、カラマツ林に入る頃、折り返しの間隔が短くなり、上部に稜線が近づいてきた。傾斜も緩くなり、雪も深くなってきた。

 分岐点が現れ、直進は谷側コース、右は無然平経由とある。どちらにもトレースがあり、この時期、雪崩を避けて右の尾根を歩くべきであるが、谷側コースの南斜面にはほとんど雪が無く、遊歩道上に僅かな雪が残る程度だったので、谷側コースを選んだ。ほとんど水平な道を数分歩くと青いトタン屋根の東屋が左手に現れた。

 東屋を通過して50mほどで、折り返すように右に分岐する道があった。ここから直進50m程先にも青い屋根の小屋が見える。深い雪の中、トレースは折り返して右の道を登っていた。GPSで確認すると、右へ上がれば無然平に出られそうだったので、右折する。ジグザグに登って、10分ほどで真っ白な広場の無然平が見えた。尾根方向から登ってきた男性が広場を横切っていった。谷側コースを歩いている間に追い抜かれたようだ。

 無然平には、膝まで雪に埋もれてた篠原無然の石像があった。後日、篠原無然について調べてみた。篠原無然は、大正3年に飛騨に入山し、平湯村で社会教育の指導を行なうとともに、温泉地の観光化などに貢献し、「平湯の恩人」・「飛騨の社会教育の父」と言われ、また、山に魅せられ、中部山岳地帯のすばらしさを訴え、桔梗ヶ原や富士見岳などの地名を付け、登山道標の設置や登山道の整備等を行うなど、平湯地域の発展に努めたと言われる。大正13年に無然は東京から平湯に帰るとき、安房峠で猛吹雪に遭い、平湯の灯りを見ながら息を引き取り、36歳で生涯を終えたと言う。この話しを事前に知っていれば、無然平で雪に埋もれる彼の石像に手を合わせていたのだが・・・。

 無然平で菓子パンを食べて一息。ここから西方向になだらかに歩く。木々の根本に穴が開いて、雪の斜面が美しい。第3展望台に続く尾根に取り付き、途中から尾根の南側をトラバースするようなルートで遊歩道が続く。無然平から10分ほど歩くと、右側に表示板があり、「尾根側コース・第3展望台で合流」の矢印。急斜面の尾根を見上げれば、雪で道は分からず、トレースも無い。

 遊歩道を行くことにして、右山で路肩に続くササを見ながらなだらかな道を歩く。10歩に1回ほど足を取られるようになり、これがペースを乱す。我慢しきれなくなって、スノーシューを履くと、実に快適。前方に第3展望台のピークが現れ、そのピークの東側で尾根に飛び出した。ここからの展望も見事である。空は雲に覆われ、天気は回復しそうになく、穂高方面は雲の中である。「ゴミは持ち帰りましょう」と書かれた木柱が半分ほど雪に埋もれている。

 ここから東への下りが尾根コースとなる。また、第3展望台への分岐点でもあり、展望台へは南の遊歩道を行く。展望台は帰路に寄ることにして、左山で展望台ピークを迂回するルートをとる。正面の斜面に遊歩道が繋がっているのが分かる。展望台からの尾根に合流してなだらかなに歩いて、斜面に取り付く。赤布も目に付く。

 ダケカンバやブナ、ミズナラの木立が遊歩道を囲み、その向こうに広がる雪の山々が屏風のごとく取り巻く。足を踏み出す毎に、木々の隙間から見える光景が動き、まるでスリットごしの動画を見ているような気になる。曇り空の下で見る雪山は、渓谷の淵のように空気の層を通して青く見える。大気圏外から見る地球のように。

 北側の折り返しからは、目の前に、雲に隠れることもなく大きな焼岳が、そして眼下には集落が望めた。焼岳の南の尖った山は白谷山、その南はアカンダナ山である。歩き始めて、3時間弱。GPSで山頂まで400mほどであることを確認。かなりくたばってきたが、周囲の展望がすばらしすぎて、疲れを感じさせない。斜面を登りきり、小さなピークから少し下って、赤ペンキの塗られた木や境界見出票を見る頃、前方に30mほどのピークが近づいてきた。山頂のようだ。乗鞍岳展望台の表示があり、ここからも焼岳〜乗鞍方面のすばらしい眺望が得られた。この辺りのブナも美しい。山頂までは後僅か。

 右から回り込んで真っ白な山頂に着いた。山頂は広く、深い雪で覆われ、木柱の先だけが雪の上にあった。西側や南側は木々に遮られて展望はないが、北から東にかけては切り開きとなっており、ブランドの山々が連なる。手前の山の向こうに笠ヶ岳が僅かに頭を出し、新穂高温泉から槍に続く右俣谷と、その谷から駆け上がる穂高の稜線がよく見える。残念ながら槍穂の山頂は雲に隠れて見えない。その右にはここでも焼岳。乗鞍方面は樹木に隠れている。

 先着のご夫妻が、雪のベンチで穂高方面を眺めてみえた。「展望が今1つですね」と挨拶。聞けば、石川県からみえたそうで、ここからは以前歩いた槍穂の稜線が全て見えるので登ってきたとのこと。雲が切れるのをじっと待ってみえたが、なかかな晴れないので、あきらめて下山された。

 ひととおり、展望を楽しんだところでランチにする。焼岳が見える場所で、我々も雪のベンチを作ってガソリンストーブを並べた。カレーうどんに缶詰、ピザまんにコーヒーのフルコースを大展望を前に楽しんだ。西からしだいに青空が広がり、山頂に日が差し始めた。風もなく、暖かい。まさに、4月の山。別のご夫妻がワカンで登ってみえた。

 雲がゆっくり流れて、青空になっていく空を眺めながら、のんびりしていると、突然、焼岳に雲の隙間から一条の光が差し込んだ。山頂付近にスポットライトが当たったように金色の輝きを放つ。グレーの雲に身を潜めていた白い獅子が目覚めたように、焼岳が息を吹き返す。穂高方面の雲は取れなかったが、この焼岳の感動的なシーンに巡り会え、今日、この山に登ってよかったと思った。

 帰路もスノーシューで、登ってきた道を戻る。乗鞍岳展望台からは、ほとんど雲の消えた乗鞍岳が望めた。青空を頭上に、軽快に遊歩道を下り、鞍部から僅かな登りで第3展望台へ。さすが展望台と言うだけあって、この山の最高の展望地である。目の前の焼岳がここでもすばらしい姿を見せる。中判カメラのフィルムを使い切った。

 展望台から東側の斜面を下って迂回路の分岐点に出た。さて、尾根コースを下るか、登ってきた遊歩道を戻るか。雪の状況が分からずやや不安ではあったが、尾根コースを下ることとした。かなり古い微かなスノーシューのトレースがある。赤布もある。木々の間を縫ってなだらかな雪尾根を歩くと、かなり急な斜面が現れた。右にもう1つの尾根がある。トレースもここで方向を右へ変えている。GPSで確認して右に下る。常緑樹が多い急なヤセ尾根が続く。おまけに、左側は垂直に近い斜面。大きな段差もある。スノーシューでは不向きな場所だ。谷に落ちないようになるべく南側を歩くが、雪が少なく、むき出しになったササの上を乗り越えるなど、ヤブに苦戦。

 やがてシラカバなどの落葉樹の尾根となり、見通しがよくなった。樹間を通して、すばらしい山々が取り巻き、ヤセ尾根の先は正面の山のすそ野に吸い込まれ、眼下には旅館街が望める。恐ろしいほどの高度感。緊張しながら確実に一歩一歩を踏み出す。遊歩道歩きとは全く異なるワイルドなルートである。雪の消えた地面には、細い夏道が確認できた。雪の時期にこのルートは避けたほうがよいと思った。

 赤布のあるところで、1mほどの段差を下りて遊歩道に出た。正面に午後の日に輝く焼岳を見ながら、ジグザグと下って無然平を通過。帰路は谷側コースではなく、直進して尾根を下る。小ピークを時計回りで迂回すると、この辺りからの展望もすばらしい。穂高方面の雲がかなり消え、槍ヶ岳から奥穂高岳へと続く稜線の山頂付近が雲に隠れる程度であった。

 なだらかな天然林を下り、谷側コースの分岐点に出て、ジグザグの遊歩道を下る。シリセードのトレースがいくつもあったので、我々もシリセードで何度かショートカットをしたが、雪が重く、うまく滑らない。人口林の中で雪が切れ始めたので、スノーシューを外して登山口に出た。浴衣で温泉街を散策する宿泊客を見ながら、福地温泉を後にした。

 福地山は山頂まで遊歩道が整備されており、雪のない時期には、天然林の緑の中、すばらしい山歩きができるに違いない。展望台や山頂からのパノラマも一級である。雪が多い地域であり、冬期に登る山ではない。雪の多い時には、斜面を横切る遊歩道は雪の急斜面となり、滑落や雪崩の危険がある。雪の上を歩くのであれば、晩秋や早春の雪の少ない時期の晴天の日に歩くのがいい。この頃なら、北アルプスの山々は白く、すばらしいパノラマを見ることができるに違いない。ここからの白い焼岳は感動ものである。
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