舟伏山 <夏坂林道入口より> (1040m 山県市) 2003.9.15 晴れ 6人
夏坂林道入り口の登山口(8:23)→モミの大木(8:43)→桜峠(9:37)→みのわ平(10:05)→水溜り分岐(10:26)→柳の大木(10:50)→舟伏山山頂(10:55-13:18)→展望地(13:46)→根尾村分岐(13:59)→あいの森(14:40)
先週は三方崩山のロングコースを歩いたことから、この連休は山に行かない予定であったが、「クーの山小屋」のいかわさんグループが舟伏山へアケボノソウを見に出かけるので、「誰か行かない?」と掲示板でラブコール。アケボノソウは見たことがなかったし、天気も良さそうだったことから、前日に舟伏山に行くことに決定し、「追いかけます」と掲示板に書き込んだ。
朝、Sさんから参加の電話があり、3人で舟伏山に向かった。舟伏山は今年の1月2日に雪の中を登っており、今回で3回目。前はいずれも「あいの森」から登っているが、今回は夏坂林道入り口から桜峠で通常ルートと合流し、山頂に至るコースを選んだ。山ビルの時期であり、ちょっといやな予感がしたが、この予感が見事に的中。思い出に残る山歩きとなった。
夏坂林道入り口には舟伏山登山口を示す大きな看板がある。通常は、ここを左折して夏坂林道に入り、3km進んで「あいの森」の大きな駐車場から登るが、今回は、この看板から登る。夏坂林道に入ってすぐの左側路肩に車を止めた。道のふくらみに3台ほど駐車可能。
林道入口北側には墓らしきものがあり、現在、重機が入り工事中であった。道沿いに「あいの森」に設置してあるものと同型の登山届けボックスがあり、届け出用紙に記入。箱の中には何枚か届けが出されており、一番上の用紙の入山日は1週間前。この連休に人は入っていないようだ。
工事現場の横の石段を登って登山道を西に向かう。いきなり背丈もある草で道が覆われている。Sさんは数年前にこのルートで入山しているが、その時はこんなに荒れてはいなかったそうだ。他の道を探したが見つからず、この草道が明らかに登山道である。その証拠に、道沿いのヒノキに白ペンキが塗られ、先まで続いている。
ヤブは最初だけだろうと、やむを得ず草をこぐ。悪いことに生い茂る草はほとんどがイノコズチ。この辺りでは「トビツカ」と言う。種が熟し始めたところであり、あっという間にシャツやズボンにびっしりと種が着いた。ジョロウグモの巣を払い、倒木をまたぎ、つづら折れに草の海をゆっくり進む。多少草丈は低くなるが、あいかわらずイノコズチ一色。せめてもの救いは、まだ種が若く、衣服に付いた種を手で払い落とすことができた。
20分ほど歩いたであろうか、北西に伸びる尾根に出て、ようやく草は少なくなった。大きなモミの木の下で一服。腰につけていたタオルは草の種で布が見えないほどになった。この先、道は薄暗い人工林の中を緩やかに登っていく。
「ヒルがいる」と、Sさん。歩きながら注意して地面を見るが気が付かない。ヒルは先頭を歩く人の気配で動き出し、列の後方の人ほど加害されやすいという。先頭では、地面のヒルに気が付かないのかもしれない。「ここにもいる」「靴についている」。よく見れば、尺取り虫のように靴をはい上がってくる3cmほどのヒルがいる。手で払いのけようとしても吸い付いてうまく取れない。手でつまんでつぶそうとしても生ゴムのように弾力性があり、全くつぶれない。逆に吸い付いて手から離れない。「爪で切るようにするといい」とSさん。
歩きながらこまめに靴を見ると、いるいる。2匹、3匹がはい上がってくる。すでに膝辺りに取り付いているものもある。Sさんと私はスパッツなし。今となっては立ち止まってザックの中のスパッツを付けている余裕はない。とにかく桜峠まで歩こう。このルートは人が入っていないので通常ルートよりもヒルが多いにちがいない。久しぶりの獲物に群がってきているようだ。
振り向いて靴を見ながら、ヒルを払い落とす。前を歩く人の足を見て払い落とす。まさにパニック映画そのもの。「網戸に塗布する残効性の高い防虫剤をスパッツに塗っておけば効果があるのではないか」とSさん。ヤブ蚊用に殺虫スプレーを持っているのに気が付いた。「成分は合成ピレスロイドだから効果があるのではないか?」「やってみよう!」
ザックのサイドからスプレーを出し、注意書きを見る。「対象はハエ、蚊、ナンキンムシ・・・・」なにしろ家庭用の殺虫剤。山ビルなど書いてあるはずがない。まずは、スパッツや靴に吹き付けて忌避効果を期待した。Sさんの靴は無処理区。研究意欲旺盛である。
道は相変わらず暗い樹林帯を緩やかに登っていく。南側が切れ落ち尾根になったような所もある。ヒルの攻撃は止まず、殺虫剤処理の靴やスパッツにも次々に登ってくる。今度は直接ヒルめがけてスプレーを吹き付ける。ヒルの動きは鈍るが落ちない。そのままにしておいたが、10分程度たってようやく下に落ちた。後に思ったが、食塩をかけたほうが効果があったかもしれない。
やがて、人工林の境につけられた林道のような道になる。日当たりも良くヒルも少なくなったようだ。しかし今度は生い茂るススキをこがなければならない。登山道であることを確認しながら、背丈以上のススキをこいで行くがなかなか前に進まない。やむを得ずススキを避けて、道のない人工林の中を歩く。
やがてススキで道は消され、ペンキのマーキングを探すが見つからない。ヒルを避けるために、倒木の上に乗って道を探す。人工林の草むらの中に道があるようだ。道は再び人工林の中を進む。石仏の横を通りジグザグで急になった斜面を登る。
再びヒルの襲撃がはじまる。中には1cmに満たない小さなヒルも登ってくる。ヒルは草むらよりも道に多いような気がした。獣も道を歩くことから、道で待ち伏せしているのだろうか。落ち葉の上で頭を振るヒルを容易に確認できるようになってきた。1uに一体どれくらいのヒルが生息しているのであろうか。足が地面に着地している時間は1秒くらいだろうか。その間に取り付くのだからすごい。血を吸うことだけが目的の彼らの執念は半端ではない。
桜峠へと気はあせるが、急登もあり、ヒルを払いながらの歩きでピッチは上がらない。立ち止まることもできない。Sさんは靴下の中をこまめにチェックして、入り込んだヒルを取り出していた。
1時間ちょっとでようやく桜峠到着。すぐに「愛の森」からの男性2名の登山者に出会った。偶然にもSさんの知り合いの方であり、ヒルの状況を聞くと、1匹も見ていないそうだ。やはり、人の多いコースはヒルが少ないのかと思っていると、3匹の小さなヒルが靴に登ってきた。桜峠も人工林の中。ヒルがいるようだ。
ここからはいつもの道。右山で山腹を進み、やがて急斜面をジグザグに登っていく。冬は木の葉が落ちて明るかったが、この時期は美しい緑に覆われ展望はない。桜峠で出会ったパーティーが休息中。やはりヒルがいたようで、靴を脱いで点検中。この先、山頂近くまでにいくつかのヒルを見かけたが、先ほどの樹林帯に比べればかわいいものである。
みのわ平で一息ついた後、ゆるやかな登りから再びジグザグに斜面を登る。この斜面の道には、春ほど花はないが、カラマツソウ、アキチョウジ、ゴマナ、フシグロセンノウ、ツルニンジンなどが見られた。トリカブトに似た薄紫の花はトリカブトの蕾だと思っていたが、後にレイジンソウだと教えていただいた。
斜面の道が終わると山頂は近い。平坦なササの道を歩き、柳の大木へ。ここは湿地になっており、アケボノソウはこの辺りで見られるそうだが、見つからなかった。すぐに山頂へ。1月には一面に銀世界であったが、今は草に覆われている。
「愛の森」から登ってきたいかわさん、葵のMさん、Nさんが既に木陰で宴会中。宴会に加わるまえに靴を脱いでヒルを取った。スパッツなしの私は3箇所(家に帰ってよく見たら4箇所食われていた)食われており、既に血を吸ったヒルは皮膚から離れて靴下の間で丸くなっていた。1箇所だけ大きく食われ、血で靴下が真っ赤になっており、靴下を脱ぐと血が流れ続けた。山ビルは血を固めず痛みを感じさせない物質「ヒルジン」を出して吸血することから、いつまでも出血する。塩をかけるといいそうで、傷口に塩をふりかけ、持っていた宴会用のバーボンで消毒をした。全く痛くないのが不思議である。スパッツを付けても1匹、こまめにチェックしたスパッツなしのSさんは無傷。こまめにチェックすることが大切なようだ。通常ルートにもヒルがいた話しをすると、3人が足を点検。ヒルに好かれるMさんが食われていた。
ヒルを取り終わって宴会。キノコステーキ、しゃぶしゃぶ、焼き鳥、干しタコなど久しぶりの豪華メニュー。Sさんの持ってきたズッキーニのバター焼きが美味しかった。宴会はヒルの話題で盛り上がった。霊仙岳でツアーパーティーがガムテープを巻いてヒル対策をしていた話しや、人の血を吸ったヒルは子孫を残せず人の入る山ではヒルが絶えていく話しなど、話題は尽きない。
晴天ではあるが、遠方は霞んで高賀山や誕生山がやっと見える程度。反対側には大白木山が大きい。山頂の西にはノコンギクが満開で、何匹かのツマグロヒョウモンやイチモンジセセリが飛び回っていた。
記念写真を撮って小舟伏経由で下る。小舟伏までの稜線には花の終わったキツネノカミソリやレイジンソウがたくさん見られた。アサギマダラが優雅に飛ぶ雑木林の中を下った。午後になり、地面もかなり乾き、ヒルは全く見あたらなかった。こちらのルートはヒルが少ないかもしれない。途中、一輪のホトトギスが美しい花を咲かせていた。
根尾への分岐点で休憩して、人工林に入ったがここでもヒルに出会わなかった。谷に出ると僅かではあるがヒルが現れた。トチの実を広いながら、「あいの森」の駐車場に出た。登山口に引かれた冷たい水が美味しかった。我々の車は夏坂林道入り口に止めてあるので、Mさんの車に乗せてもらい、駐車地点で3人と別れ、2人を迎えに車で再び愛の森に戻った。
靴を履き替えると、まだスパッツにヒルが付いていた。Sさんも1つ食われていることが分かった。帰ってから、靴下を洗濯して干していたら、そこにもまだヒルが付いていたのには驚いた。まさにエイリアンである。
夏坂林道入り口から舟伏山へのルートはヒルの時期はもちろん、秋が深まってヒルがいないシーズンもイノコズチに行く手を阻まれ、登りには適さない。登るとすれば、残雪期から草の茂る前までが適期と思われる。
多くの花や美しい天然林を楽しむことができ、舟伏山のファンは多いが、その裏には人が踏め込めないきびしい自然が残されていることを実感した山歩きであった。それを思うと、この山がますます好きになった。
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