トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) 点線は推定トレース
蛇峠山の展望を見る
蛇峠山 (1664m 長野県阿智村) 2008.3.2 晴れ 2人

治部坂峠駐車場(7:58)→除雪終点・倉庫・橋(8:38)→馬ノ背(9:09-9:15)→林道合流(9:47)→アンテナ群(9:58)→レーダー雨量計・狼煙台跡(10:10-10:23)→蛇峠山山頂・展望台(10:35-10:43)→狼煙台跡(10:50-12:24)→馬ノ背(12:45)→林道・遊歩道分岐(12:58)→別荘群・遊歩道入口(13:07)→治部坂峠駐車場(13:30)

 今シーズン、本格的なスノーシューハイクをしていないことから、雪の降った今がチャンスと、スノーシューハイクのできる山を探した。天気を見ながら、いろいろなHPのレポートを参考に、直前まで検討を重ねて、長野県阿智村の蛇峠山に決めた。

 蛇峠山の登山口は治部坂峠にある。一昨年、makotoさんと大川入山に登ったときに起点としたのが治部坂峠であり、蛇峠山は治部坂峠を挟んで大川入山の反対側(東側)に位置する。山頂近くにはたくさんの巨大なアンテナが並び、大川入山からは目の前に蛇峠山を望むことができた。

 大雪の時に登った和たんのHPレポートを参考にさせてもらい、タイムスケジュールを作った。夏道であれば、山頂手前まで林道があり、1時間半程度で登れそうな山であるが、雪の状況によっては倍の時間がかかる。8時スタートを目標に、5時半過ぎに自宅を出て、中央道を東進。恵那山トンネルを出たところにある園原ICを下りる。昼神温泉郷を抜けてすぐに豊田方面に右折し、国道153号線、通称「三州街道」を南下。標高が上がるにつれて、雪が増えてきた。

 寒原峠を越え、左に治部坂高原スキー場を見るとすぐに治部坂峠に着く。左側にチェーン脱着場の表示がある広い駐車場に入る。除雪された雪が駐車場の周囲に積み上げられて、駐車枠の白線は雪の下にあった。8時前であり、広い駐車場にはスキーヤーと思われる車が数台停まっている程度。国道の温度計はマイナス5度C。この峠は標高が1200mほどあり、かなり冷え込んでいる。

 スキー場のトイレを借りてゲレンデに立つ大木に寄生するヤドリギを見上げながらスタート。観光センター・農産物直売所を左に、舗装道路を南に登っていく。左には「宿り木の湯」があり、その入口にもトイレがあった。道は分岐しており、右が別荘群、直進が馬ノ背の表示。馬ノ背方向に歩く。当初の計画では、別荘群の中を抜けて遊歩道から馬ノ背を目指すこととしていたが、道が分からず、知らず知らずのうちに別荘群の左側を巻いて山頂手前のレーダー雨量計まで続く林道を登っていた。遊歩道は帰路に下ることにして、登りは林道を馬ノ背直下まで歩くことにした。

 林道は除雪されており、昨夜降ったと思われる薄く積もった新雪を踏んで歩く。新雪の下はアイスバーンでとにかくよく滑る。滑らないように、雪の残っている林道の縁を歩いた。ここの別荘はきれいで、まるで団地の中を歩くような錯覚に陥る。休日で、多くの人が訪れており、活気にあふれていた。名古屋からは比較的短時間で来ることのできる場所に位置し、大手車メーカーの名前も見られた。カーブを繰り返して登っていく林道歩きが長く感じられた。地図を見ながら歩いたが、あまりのカーブの多さにどこを歩いているのか分からなくなるほど。振り返ると青空に大川入山のピラミッドが望めた。美しい山だ。

 路面の轍が無くなり、前方には馬ノ背と思われる小山が見え始めた。別荘が途切れ、陽の当たらない山肌を真っ直ぐに歩くと、右に治部坂観光の小さな倉庫が現れ、林道の除雪はここで途切れていた。倉庫前には3台ほど駐車可能なスペースがあり、ここまで車を上げることもできるようだが、この時期、林道はアイスバーン状態で無理をしないほうがよいと思われた。

 雪に覆われたコンクリート壁に沿って歩く。登山者のトレースが残っており、また雪が凍ってツボ足でも問題はない。トレースの状況から、今日の先行者はいないようだ。ここまで40分かかった。林道歩きとはいえ、汗が出てきたのでジャケットを脱いで水分補給。この辺りがちょうど馬ノ背の北斜面に当たる。道は再び南を向き、馬ノ背の西側に出る。日が差し込み始めた辺りで、右の斜面に看板があり遊歩道が下っている。と、言っても雪に覆われてトレースのわずかな窪みがある程度。帰路はこの斜面を下ることにした。林道がヘアピンで曲がったところの右側に青いのぼりが立っており、山道が林道に沿って上っていた。

 新雪に埋もれたトレースを追って山道に入る。雪面からササが飛び出した斜面をジグザグに登って潅木の中を進む。雪は締まっており、この調子だと山頂までスノーシュー無しで登れるかもしれないと思った。林道から10分ほど登ると、正面から太陽の光が差し込み、眩しさの中、広い雪原に飛び出した。馬ノ背である。後方には長者峰の稜線の向こうに聳える大川入山が美しい姿を見せる。山頂付近のササ原が真っ白になっている。南西には平谷村の集落が見下ろせた。ベンチの背もたれが雪の上に出ていた。ここでパンを食べて一息。馬ノ背の雪原を北に歩けば中央アルプス方面の展望が得られるが、一歩踏み出すと膝上まで雪に埋まった。ツボ足でこの広場を歩くのは不可能。東にはこれから歩く蛇峠山が立ちはだかる。スノーシューを付けるか迷ったが行けるところまで行くことにした。

 馬ノ背から「基本電子基準点」と書かれた銀色のポールの横を通って林道まで下る。林道にはゲートがあり、無雪期であればここまで車で登れるらしい。トレースはゲートを越えて林道を上がっているが、林間コースの遊歩道を歩くため林道を横断して雪の斜面に取り付いた。古いトレースが雪に埋もれてわずかな溝ができた斜面を登っていく。正面から朝日が差し込み、樹木の影が雪の斜面に美しい縞模様を描き出す。

 雪に足を取られるようになり、トレースが消えた。尾根までは後わずかではあるが、ここでスノーシューを付ける。今日の目的のスノーシュートレッキング開始。ザクザクと雪を踏んで尾根に近づき、右山でトラバースして尾根まで上った。ウサギやカモシカの足跡が交差する尾根には、登山者のトレースは無く、GPSで方向を確認して尾根沿いに緩やかに登っていく。右側には雪庇ができはじめており、深い雪を避けて、尾根の左側を歩く。風で雪面になめらかな凹凸ができており、木々の影がゆらぎの曲線を作っているのがおもしろい。カール状のシラカバの樹皮が散らばっている。気持ちのいい尾根歩きに、今日の目的を達成した気分になった。

 尾根は右に向きを変えて、急斜面に取り付く。スノーシューのヒールリフターを上げて急斜面を快適に登り切って左に歩き、モミの林を抜け、なだらかな広い尾根を歩く。右から太陽の光が差し込み、稜線が近づいてきた。稜線の一段と高いピークを目指す。ピーク手前は深い雪でスノーシューでもかなり沈み込む。雪を跳ね上げながらピークに上がって少し下ると林道のカーブに降り立った。ここにも青いのぼりが立っている。林道にはトレースがあり、左の法面上部は大きな雪庇が盛り上がっていた。前方に4つの巨大なアンテナが並ぶ。

 林道を1〜2分歩いて、トレースの無い左の斜面に取り付き、法面上部の雪庇の上を歩いて電柱を避けながら樹林帯に突入。モミ林を急登した後、再び林道に出ると、そこは巨大なアンテナが立つ場所だった。右に2本、左に2本、正面に1本のアンテナを見ながら林道を歩く。いきなりの人工物に山歩きの雰囲気が半減するが、展望はすばらしい。後方には大川入山が望める。アンテナ群を通り抜けると、北に御嶽山や乗鞍岳などが並んでいる。正面には巨大な球体を乗せた大きな建物が近づく。これが蛇峠山山頂手前にあるレーダー雨量計である。

 左回りに林道を歩いて、レーダー雨量計に到着。案内板には、レーダーにより雨雲の状況から雨量を測定しているなどの解説があった。案内板を見ていると、前方で歓声が上がった。急いで案内板の後ろの高台に上ってみると、地平線に南アルプスの白い山が連なっている。雪原を北へ歩くと、案内板があり「狼煙台跡」とある。「1573年に徳川家康と戦った武田信玄軍が使用した」との解説があったが、どのような遺跡であるかは、雪に埋もれてわからなかった。さらに北に歩くと、ぐんぐんと展望が広がる。展望できる山の名前が書かれた案内板が2つあり、山の同定が簡単にできた。

 西には、歩きはじめてから常に我々を見守ってくれた大川入山がここでも美しい姿を見せる。恵那山は大川入山に隠されている。大川入山から北へ御嶽山、乗鞍岳、焼岳、穂高・槍と白い山々が繋がる。御嶽山の手前の純白の山肌は富士見台。乗鞍岳の手前は南木曽岳。北には中央アルプスが大きい。何と言っても南駒ヶ岳がすばらしい山容を見せる。宝剣岳、木曽駒ヶ岳、三沢岳なども確認できた。手前には摺古木山や安平路山が連なる。

 南駒ヶ岳の右には飯田市の平地が霞んでいる。その向こうに小さく見えるのは八ヶ岳連峰。さらに右へ南アルプスが続く。思ったよりも小さい甲斐駒ヶ岳を端に、仙丈ヶ岳、北岳、間ノ岳、農鳥岳、塩見岳、荒川岳、赤石岳、聖岳、光岳と長大な峰は、蛇峠山に隠れるまで連なっている。東にはアンテナと展望台のある蛇峠山がハリネズミのように木立を逆立てる。和たんのレポートには「バーコード」と書かれていたが、まさに的を射た表現である。展望地を歩き回って、何度もシャッターを切った。

 展望を楽しんだら、とりあえず蛇峠山山頂を踏むために、東の斜面を下り、鞍部から天然林の中のトレースを追って登り返す。ひと登りで尾根に出た。ここにも左に大きなアンテナ施設があり、また右の木立の中には鉄製の展望台があった。雪の積もった階段を、スノーシューを履いたままカニ歩きで展望台に上がった。展望台からも南アルプスが大パノラマ。南方面も遮るものが無く、茶臼山などが望めた。西には先ほどの狼煙台跡やレーダー雨量計、その向こうには大川入山や高嶺山が見える。展望台の柵に「蛇峠山」と書かれた板がくくり付けてあった。

 展望台を跡に、アンテナ施設付近を歩いて、トレースの無い樹林帯の中を鞍部まで下っり、狼煙台跡まで登り返した。ちょうど単独男性が到着したところで、聞けば可児市からみえた方だった。2週間前にもこの山に登られたそうで、そのときよりも雪が多く、この時期にこれだけ雪があるのは珍しいとのこと。しばらく山談義をしてから、風の少ない東斜面にスコップで雪のベンチを作ってランチの準備。メニューはカレーうどんと味噌煮込みうどん、缶詰など。ランチの間にさらに単独男性と7人パーティが到着。青空はしだいに薄雲が広がり、遠方が霞み始めた。カステラとコーヒーで締めくくってランチ終了。パッキングして、登ってきた道を引き返した。

 尾根から馬ノ背へは、林間のトレースのない斜面を下った。フカフカの雪をスノーシューで踏み込む感触がすばらしく、実に気持ちがいい。一気に馬ノ背東側の林道まで下り、7人パーティを追って登り返す。馬ノ背の平坦な雪原を北へ歩いていくと、ここからも大川入山などのすばらしい展望が得られた。馬ノ背から林道までもどり、ガードレールの切れ目から遊歩道に入った。

 朝には無かったトレースがあり、トレースをたどって天然林の林の中を下る。1匹のリスが目の前を横切った。ジョウビタキやシジュカラなどたくさんの小鳥も見られた。浅い谷を下るコースであり、ここでも木立の影がなめらかな曲線に美しいストライプを作っている。時折トレースを外して、バージンスノーを快適に下った。急斜面ではシリセードを試みる。テープはほとんど無く、トレースが無ければ、ここを初めて登るのはわかりにくいような場所である。特に別荘群に近づくと広い雪原になることから、道を誤りやすいかもしれない。

 別荘群の車道に出て、左方向へ下った。右方向へ下っても駐車場へ出られる。車道は除雪されており、スノーシューを外す。薄い雪の下はまだアイスバーン状態で、いきなり転倒。滑らないように脇を歩いたが、何度も氷に足をとられた。別荘群を20分ほど歩いて、駐車場に着いた。駐車場はスキーヤーの車で一杯になっていたのには驚いた。

 観光センターの上にある「宿り木の湯」の温泉に入る。スキー客が多い割には、風呂は空いていた。ガラス窓から大川入山と南駒ヶ岳を眺めながら湯に浸かった。帰路、国道153号線を南下し、道の駅「信州平谷」に寄って、国道418号線で上矢作町を抜けて、恵那ICから中央道に入った。

 蛇峠山は噂通り、スノーシューハイク初級コースにピッタリの山である。雪が多いと樹林帯ではコースを誤りやすいので、遊歩道コースは避けて林道を歩くのがいい。急斜面も少なく、馬ノ背やアンテナ群、狼煙台跡、山頂などからすばらしい展望を楽しむことができる。特に大川入山や南駒ヶ岳の展望は一級である。
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