貝月山 (1234m 揖斐川町) 2005.2.20 雪 2人

揖斐高原坂内ゲレンデホテル駐車場(8:58)→ふれあいの森ゲート(9:24)→貝月山登山口(9:46)→尾根出合(10:06)→貝月山山頂(10:48-12:35)→尾根出合(13:03-13:13)→ふれあいの森ゲート(13:40)→揖斐高原坂内ゲレンデホテル駐車場(13:57)

 この休みは山には行かず、娘とその友達を連れてスノーボードに行くことにした。せっかくスキー場に行くのなら、親はスキーを楽しむよりもスノーシューを楽しもう。山歩きができるスキー場はいくつもある。当初はモンデウススキー場から位山を考えていたが、冬型の気圧配置となり、北ほど天気が悪そうだ。であれば、近場のスキー場にしようと揖斐高原スキー場を選んだ。山は貝月山である。

 貝月山は昨年1月に初めてのスノーシュー体験をした思い出の山である。今回はもう少し先の小貝月山辺りまで歩いてみたいと思った。岐阜の天気予報は晴れときどき曇りの予想。昨年の貝月山はあられの降る寒い日であった。今回はそのリベンジができると思ったが、・・・ 貝月山はすさまじい様相で我々の前に立ちはだかった。

 7時頃自宅を出て西に向かう。怪しい雲が西の山々を包み込んでいる。揖斐川町に入ると小雨になった。昨年とそっくりの気象状態だ。いやな予感がしたが、そのうち晴れるだろうと、国道303号線を走った。雨は一向に止む気配がない。横山ダムから左折し旧坂内村中心地手前から坂内ゲレンデを目指して左折。諸家の集落を通過する頃には、雨は雪に変わった。雨よりはいい。

 子供が小さい頃、何度もこのスキー場に通ったが、8時過ぎのこの時間に車はかなり下の駐車場に停めることになる。ホテルまでスキーをかついで急な舗装道路をかなり歩かなければならなかったが、今回はホテルの玄関手前まで上がることができた。スキー・スノボーをやる人が減っているのか、揖斐高原の人気が落ちたのか、・・・。

 駐車料金は1000円。細かい雪が降り続き、ホテルの建物の南の貝月山が雪に霞む。ホテルのロビーで靴を履き替え、スノシューを装着。まずはホテルの南側から林道を歩く。林道といっても100mほどはスキーヤーの通り道。右手の休止中のゲレンデとその向こうのたくさんのステムフロー(木の回りが溶けてできた穴)を見ながらスキー場管理区域を出る。

 ここから林道の除雪はなくスキー板のトレースが続いている。ストックの跡から推定して、この朝、数人のパーティーが登っているようだ。不明瞭なスノーシューの跡も見られた。雪のためジャケットを着て歩いているので熱く、またサングラスが曇るので林道途中の小屋でウエアー調整。ここから少し歩いて、バンガロー村の「ふれあいの森」のゲートが現れる。

 ゲート手前右の木に登山届け箱が設置されている。雪が箱の高さまで積もっている。しゃがみ込んでノートに記帳。昨日の記録があり、スノーシューの跡はこの登山者の方だと思われた。昨日、岐阜市は雨であったが、この山はどうだったのか気になった。なお、後日、前日に登られたMさんよりメールをいただいた。視界のきかない雨の中を往復され、山頂はかなり寒かったそうだ。

 スキーのトレースはバンガローの隙間を縫って登っていたが、我々は林道を歩く。再びスキーのトレースと合流。雪に半分ほど埋まった案内板のところで林道は北に折り返すが、スキーのトレースを追ってヒノキ林の中に入った。左上に林道が見える。林道沿いの登山口を行き過ぎてしまうのではないかと心配したが、ちょうど登山口の数m先に出た。スキーのトレースはそのまま林道を直進しており、日越峠経由で山頂に向かうらしい。

 登山口の表示は雪の中で、柱の頭だけがかろうじて雪の上に出ている。スノーシューのトレースが明瞭であり、これをたどる。堅く凍った急斜面は歩きにくい。尾根に出るまでの辛抱。ヒールリフターをアップし、山側から倒れた木々を除けながら、つづら折れを2・3度折り返して、登山口から20分ほどで尾根に出た。

 ミズナラと思われる根元から枝分かれした見覚えのある木があった。確か、昨年、この辺りでジオンさんがヒールリフターを上げるのに苦労していた地点だ。あの時は、遊歩道が窪んで道だと判別できたが、今日は遊歩道の痕跡はない。丸く盛り上がった尾根が続く。左手の天然林の中から丸木杭が何本も出ている。遊歩道の手すりではなく、植林のために打たれたもののようだ。

 木がざわめく音がしたかと思うと、いきなり雪混じりの強風が北から襲ってきた。広い尾根の風上は地面の雪が吹き飛ばされて、風下には雪屁のできる前の雪の盛り上がりが見られる。先ほどまであったスノーシューのトレースが完全に消えている。遊歩道は分からないが、とにかく尾根を外さないように、木々の少ない遊歩道と思われるところを、先を見通しながら登る。

 雪の吹き飛ばされた氷の上を歩くとパリパリと音をたててスノーシューの回りが割れていくのが面白い。逆に、雪が集まった所はふかふかの新雪でスノーシューでも20cmほど沈み込む。尾根はしだいに狭まり、尾根を左に外してやや右回りに登っていく。強い風で左側に積もった雪が巻き上げられ白煙となって吹きつける。ステムフローの周りからも雪煙が舞う。

 右前方にガスの切れ間から山頂のアンテナが見え隠れする。山頂へ向かって長く続く白い尾根を黙々と登っていく。シャクナゲ群生地を通過。シャクナゲの大半は雪に埋もれていたが、雪の上にあるものは葉を下げてまるで凍り付いたように強風に耐えていた。この厳しい季節を耐え抜くことであの美しい花を咲かせることができるのであろう。自然は偉大である。

 大岩の右を迂回する。岩の縁には雪が積もらず深い溝になっており、この溝を歩いて尾根に出た。前方が開け、谷を隔てて雪に霞む近くの山々が望めた。山頂のアンテナもだいぶ近づいた。気持ちのいい雪の稜線を歩く。雪の上に飛び出た潅木を除けて雪の崖縁を歩くのはスリルがある。踏み外さないようにゆっくり歩く。周りの木々には氷が付き始めていた。この自然の芸術はいつ見ても美しい。山頂まで後一息。

 あいかわらず後方から強風が襲う。一瞬、山頂の上の雲間から白い太陽が顔を出した。太陽のまわりで灰色の雲が渦巻いている。どこかで見た光景だ・・・ そう、昨年、深い雪に苦戦した国見岳で見た光景と全く同じではないか。この山も人の来るところではないと我々を威嚇しているように思えた。かすかなトレースが尾根を駆け上っていたが、確か山頂へは右から回り込んだことを思い出し、右の急な斜面からアンテナを目指す。深い雪にスノーシューでも足を取られそうになる。

 息を切らして真っ白な山頂に着いた。ちょうど山スキーの5人パーティーが到着したところで、「よく登ってこられましたね」と互いにあいさつ。皆さん、日越峠方面から登ってこられた。途中の斜面のトラバースをよくクリアーできたものだと関心。山頂の展望台の雪は吹き飛ばされていたが、ベンチなどは雪の下。アンテナもなかり埋もれていた。展望は無く、小貝月山すら見えない。

 時間もあるので、小貝月方面へ歩いてみた。山頂東側の昨年昼食をとった潅木の場所は雪に埋まり、真っ白な斜面と化している。少し下り落葉樹の林に入る。木々には雪が付着して真っ白になり、まるでガラスの造り物のようだ。すぐに登り返すと、目の前が開け、湾曲した斜面に飛び出した。天気がよければすばらしい展望に違いない。小貝月山へは雪屁のできた左の尾根を伝って行くようだ。この天気ではトレースもすぐに消える。この先は次回のお楽しみとして山頂へ戻った。

 スキー組は登ってきたコースを下って昼食にするとのことだった。山スキーがどういうものであるかを教えていただき、軽快に滑っていく皆さんを見送った。2人だけが吹雪の山頂に取り残された。普通ならすぐに下って風のないところでランチにするところだが、氷点下3度の猛吹雪の中でランチを体験してみることにした。

 とりあえず風を防ぐため展望台の下の西側にタープを張り、風による膨らみを背中で押さえた。ダウンを着込んでカレーうどんを作り始めたが、指先が冷たく思うように作業ができない。強風で地面から舞い上がった細かい雪が逆流して降りかかる。ザックもウェアーもうどん粉をまぶしたように真っ白。ガソリンコンロも強い風にあおられ、おまけにジェネレーターの調子が悪くなかなか火力が上がらない。鼻水をすすりながらカレーうどんを食べた。雪山で遭難した気分。

 とてもコーヒーを沸かす気にはなれず、早く撤収しようということだけを考えていた。「誰か登ってきた」とらくえぬ。確かに後方から風の音に混じって話し声が聞こえた。しばらくして、展望台の下から這い出てみるが誰もいない。そのときは特に気にもしなかったが、今から思うと何か不思議な現象。寒さの中での幻聴なのか、吹雪をおこす雪女のささやきか・・・。

 無造作に荷物をザックに積み込み風になびくタープを丸めた。濡れた手袋は真っ白になって凍り付いている。スペアーの手袋に交換。手袋を2つ以上持参することは過去の雪山体験で学んだ鉄則である。指先が温かくなった。すさまじい状況の中でデジカメのセルフタイマーを切った。

 突然、雲の切れ間から太陽が顔を出し、山頂が黄色く輝き、雪がまぶしい。そして温かい。僅かな時間ではあったが、この山がくれた小さなプレゼントだ。昨年下った日越峠方面を見下ろしてみる。尾根には美しい雪屁が続いていた。ここを下りたいとも思ったが、スキーのトレースは既に消えているし、視界も効かないため登ってきた道を引き返すことにした。

 下りかけて、ふと後ろに動く気配を感じて振り返ると、山頂中央で背丈ほどのつむじ風が地面の雪を巻き上げながらグルグルと踊っている。まるで生き物のように・・・。数秒間のダンスの後、雪の渦は空中に砕け散った。風の音だけが残った。「また、来るよ」と山頂を後にした。

 雪の上に我々のトレースはない。山頂からの急斜面を慎重に下り、美し尾根を歩いた。先ほど歩いてきたところが既に分からないほど。岩の横の溝を見つけて、それを目指した。寒さでデジタルカメラの電池が切れ、予備に交換。前方の山が美しい。モノクロの世界の中で人だけがカラーになっている。こんなようなコマーシャルフィルムがあったことを思い出しながら、尾根を下る。

 登りよりも雪が積もっており、スノーシューで雪煙を上げながら下りた。斜面を小さな雪玉が抜きつ抜かれつ、風で方向を変えながらころころと転がる様子はまるで生き物。トトロに登場する真っ黒クロスケの白色版のようでおもしろい。時々吹く突風が雪を巻き上げる中、積もったばかりの新雪を踏んでの下りは実に軽快。急斜面はシリセード。あまり急斜面がなくて残念。

 尾根が広くなった辺りで、急斜面になった。こんなところを登ってきた気がしない。少し後方に「ホソツツジ」のネームプレートと植樹の杭が見えた。そこまで戻って気が付いた。ミズナラのある尾根出合の地点。道は左へ下っていた。うっかり尾根を行き過ぎたのだ。トレースがあるからと安心できないのが雪山。トレースは消えるもの。消える場合を想定して赤布は必要である。

 林道までのつづら折れにはトレースが残っていた。林道に出ると、先ほど山頂で出会ったパーティーのスキーの跡があった。軽快に滑って行ったようだ。途中からバンガローの間を歩いてみた。バンガローの屋根には1mほどの雪が積もっている。一段と激しく雪が降り始めた。スキー場までの林道の我々のトレースは消えていた。駐車場に着いて振り返れば、雪に煙る貝月山が美しい。

 岐阜市内から見る貝月山はブンゲンや伊吹山と並んでひときわ白い。雪の多い山だ。このコースは短時間で登れることから、雪山入門コースとして最適である。しかし、今の時期には遊歩道は完全に雪の下に消え、雪尾根を歩くことになる。入門コースといっても雪山への備えを万全にして登られたい。

 今回の体験で、いろいろな雪山対策を学ぶことができ、貴重な山歩きとなった。それにしても、これで3度目の貝月山であるが、いつも天気に恵まれない。また登らなければならない山である。
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