上高地
上高地 (長野県安曇村) 2003.3.6〜7 雪 15名

釜トンネル南口(6:26)→釜トンネル北口(6:58)→大正池ホテル(7:39)→田代池(8:28)→田代橋(穂高橋)(9:00)→河童橋(昼食)(10:50-11:38)→穂高橋・田代橋(12:14)→大正池ホテル(13:04)→釜トンネル北口(13:47)→釜トンネル南口(14:20)

参加者:カッペさん、葵のMさん、Sさん、Nさん、Iさん、Kさん、ジオンさん、blueskyさん、ヤブさん、ayameさん、和たんさん、らぶさん、kuさん、らくえぬ、RAKU

【プロローグ】
 白銀の大地と青い空、穂高や焼の白い峰と赤いケショウヤナギ。ガラス細工の霧氷と凍り付いた大正池。霞沢岳から登る朝日を受けてダイヤモンドダストが降り注ぐ。昨年に白い上高地を体験して以来、この時期の上高地をもう一度訪れてみたいと思った。

 「クーの山小屋」のカッペさんから「今年も行きませんか」と、声がかかった。昨年は早朝に出発したが、今年は仕事の都合で土曜日の午後にしか岐阜市を出発できない。土曜日よりも日曜日の天気がいいようなら、それで行きましょうということになった。メンバーは「クーの山小屋」の常連さんとその仲間。このところ暖かった天気は、冬型に逆戻り。山間部は雪だるまのマークが並んだ。土曜日よりも日曜日の天気のほうが良さそうだ。上高地入りは日曜日と決まった。前日の宿泊は昨年と同じ中の湯温泉旅館。

 和たんさんたち女性4人組は、土曜早朝発で西穂山荘あたりを散策し、中の湯温泉で合流することとなった。(悪天候でロープウェイが止まっており、平湯大滝と福地山の散策に変更) 急遽、kuさんも参加。和たんさんたち同様、早朝発で西穂を目指す。(平湯スキー場でスキーに変更) 午後出発組の残り8名は、私とIさんの2台の車に分乗して昨年と同じ中の湯温泉旅館に向かった。

 早朝組のジオンさんの電話情報のとおり白鳥以北は雪。しかし路面に雪は無い。丹生川村を東進するにつれて、路面に雪が現れ、平湯トンネルを抜けると路面は真っ白。安房トンネルを抜け、すぐに左折して安房峠への旧道に入る。入り口で宿泊者であることと4WDのチェック。(後続のIさんの車は2WDであるが、4輪スタッドレスであれば通行可能のようだ。)昨日からの雪で真っ白なカーブの坂を7号カーブまで登ると旅館がある。

 雪の降る中、必要な荷物を旅館に運んだ。kuさんは既に到着。ロビーで部屋割りをしているところへ、頭に雪を乗せたジオンさんがやって来た。和たんさんの車が7号カーブで立ち往生しているとのこと。チェーンをつけてみんなで押して脱出。帰路、これが我が身にふりかかる災難とも知らず・・・。

 夕食までの一時間ほどおいしいワインを飲みながら自己紹介。我々はIさんが初対面。雪の鳩吹山でご一緒したKさんのワンゲル部の先輩。100名山を2つ残すのみというベテランの山ヤ。夕食の後、粉雪の降る中で露天風呂に浸かった。薄い雪雲を通して、白い満月が輝いていた。寝る前に、部屋の窓からは月明かりに照らされた霞沢岳や六百山が浮かび上がっていた。明日はいい天気になりそうだ。

【上高地ハイク】
 5時起床。曇った窓ガラスをこすると、雪が降っている。昨日の満月が恨めしい。にぎりめしの朝食を食べ、あわただしく用意して、6時発(少し遅れて)のマイクロバスで釜トンネル入り口まで送ってもらう。トンネル入り口にできたエメラルドグリーンの氷柱がすごい。谷川には立派なつららがいくつもある。

 早速、工事中の釜トンネルに入る。昨年はアイゼンにヘッドランプ姿で歩いたが、今回は何もなし。手前の旧トンネルで一部暗いところやアイスバーンの路面があるが、慎重に歩けば問題はない。釜トンネルはかなりの上り坂であり、途中で暑くてダウンジャッケトを脱ぐ。

 トンネルを抜けると細かい雪が降っている。昨日からの雪で路面には10cm程度の新雪が積もっている。スノーシュー、アイゼン無しで歩く。焼岳は全く見えない。右の崖で雪崩が発生しており、防護用の網が押しつぶされている。2つほどカーブを曲がると、晴れていれば正面に穂高連峰が姿を現すところであるが、今日は真っ白。スノーシューをつける。kuさん、Iさん、Kさんはスキー。

 大正池手前にも雪崩があり道がふさがっていた。左に迂回。山側には危険を知らせる赤テープがたくさん付けられていた。人が歩いているときに雪崩になれば、生命に危険が及ぶ。平坦な上高地とはいえ、危険はつきもの。慎重な行動が必要だと思った。

 大正池ホテル手前でテントが1つ。昨晩、ここで一泊したパーティーのようだ。この時期、テント泊は寒いだろうが、一度は体験してみたい。大正池ホテルから大正池湖畔まで降りて小休止。湖面に映る焼岳や穂高は見えないが、凍り付いた曲線模様と雪に霞むカラマツ林が神秘的な世界を創り出している。

 ここから、1mほどの雪が積もった木道を歩き田代池へ。降りしきる雪の中でかすかに見える霞沢岳を背景に、この広い雪原では人が実に小さく見える。新雪を踏んでのスノーシューイングは実に気持ちがいい。この天気で、田代池のカメラマンも少な目。立ち止まっていると寒くなる。

 田代池から樹林帯の中を歩く。昨年は梓川沿いに出たが、今回は樹林帯を穂高橋まで歩いた。穂高橋近くには冬季でも使えるトイレがあるため、トイレ休憩。写真を撮るたびに手袋を脱いでいたので、指先が冷たい。ポケットに手を突っ込んで暖める。寒さを感じるようになったため、ここでインナーを着る。和たんさんの持ってきた菓子箱に入った水都まんじゅうが回ってきた。アイスクリームのように冷たく美味しい。温度計の目盛りはマイナス7度Cを指している。腰につけていたペットボトルのお茶が氷り始めている。夏には想像が出来ない上高地の厳しい自然がここにある。

 ここからは、左手にホテルを見ながら梓川沿いに歩く。川沿いのケショウヤナギは雪に煙り、くすんだ赤茶色をして、まるで油絵を見ているかのようだ。黒い梓川が蛇行して、灰色の世界に吸い込まれている。晴れていればこの先に穂高が輝いているはず。河童橋が近づくにつれて、川沿いの道の雪はほとんどない。風が強く、雪が吹き飛ばされている。雪のあるところを選んで歩く。バスターミナル近くで風が強くなった。地面の雪が巻き上げられて渦を巻く。

 河童橋到着。ここも風が強い。川下から吹く風で橋の上の新雪はない。嵐のような風で周囲の売店の屋根の雪が風で吹き上げられて雪煙となって吹き付ける。さてさて、食事の場所はどこにしようか。昨年の昼食場所である河童橋右岸は風が強い。左岸に戻り、ホテルの軒下の雪をならし始めていたら、更に先に行ったメンバーからもっといいところがあるというので移動。少し先のビジターセンターの軒下をお借りすることとした。時々、強風が吹き付けるが、河童橋付近ほどでもない。

 時間的にはかなり早いが、食事の準備。とにかく寒い。風が強いのでMSRのガソリンストーブには防風のアルミ板をセットした。この寒さでもガソリンストーブの火力は変わらない。ヤブさんのMSRも快調に音を立てる。もう1台持ってきたガスストーブに点火してみるが、かろうじてついた火は風で消えてしまう。葵のMさんのガスストーブも使えない。ガスストーブは断念。

 いつものように皆さん思い思いの食事。ウチは鯖の缶詰味噌ナベにお餅をたくさん入れたメニュー。ayameさんのカレーうどん、和たんさん・らぶさんの鍋焼きうどん、煮込みラーメン、ジオンさんのぜんざい、向こうのほうのメニューは分からない。この寒さでビールよりも日本酒熱燗とホットバーボンが売れた。blueskyさんからミニトマトとイチゴが回ってきた。少し凍り始めている。ペットボトルの水も見る見るうちに凍っていく。鍋焼きうどんに入れようとした卵が凍ってゼリー状態になってるのにはびっくり。

 この寒さなら、パンプディングもすぐできるだろうと、釜ヶ谷山で作ったようにインスタントプリンとスキムミルクを湯で溶いてフランスパンにかけて冷やす。冷えすぎてプリンはアイスクリーム状態に。これが結構な人気。座っていると冷えてくるので立ったり、歩いたり、建物の壁にへばりついたり、と、落ち着かない宴会。コーヒーもそこそこに後かたづけ。食器は凍り付いて、スプーンで掻き落とすだけできれいに。今までで一番寒い宴会。いい経験になった。

 いつもより早めに店じまい。雪の降る河童橋で記念写真を撮って、帰路は昨年同様、梓川の右岸を歩く。シラカバの道が美しい。少し天気が回復し、六百山が見え始めた。対岸のハイカーの列が小さく見える。穂高橋でトイレ休憩して、バス道へ。それぞれマイペースで歩く。時々、突風で地吹雪が舞ったが、大正池ホテル手前からは焼岳の全体が望めた。白い雪雲をバックに、黒い岩肌だけが浮き上がっている。

 ペットボトルのお茶は口元が凍って出てこないので、ナイフで削って穴を開けて飲んだ。釜トンネルへ入るところで全員が到着するまで休憩。ジオンさんの手作りケーキがおいしい。シリセードをしてきたという和たんさん・ジオンさんたちが最後。全員の到着を確認して、トンネルを抜けた。旅館からのバスを待つ間に、小さな喫茶店を占有して飲んだホットコーヒーが最高。

 他のハイカーの方と一緒にバス乗って旅館に戻り、温泉で汗を流す。和たんさんが早めに帰るため、女性4名と駐車場で分かれた。お風呂に入った後、旅館のロビーの望遠鏡で餌場にやって来るアカゲラなど幾種類かの小鳥を観察。駐車場で3台に分乗して岐阜へ向かう・・・上高地ハイク無事終了・・・となるはずであったが、・・・・

【エピローグ
 車のエンジンがかからない。かかっても数秒でエンスト。車はディーゼル。この寒さで軽油が凍ったようだ。10年ほど前、冬の高山で1泊したとき、マイナス14度Cという、新聞報道されるほどの低温になった朝、やはり軽油が凍ったことがある。この時は、エンジンはかかったが走行しはじめてすぐにパワーが落ち、なんとか止まることなく走行した。今回は、エンジンがかからない。

 寒冷地に行く場合、ディーゼル車は地元で給油するのが常識なのだが、昨年もここに泊まっているし、こんなに気温が下がるとは思いもしなかった。セルを何度も回しているうちに、バッテリーのパワーも落ちてきたため、隣に停めてあったIさんの車のバッテリーをお借りして直結し、セルを回すがかからない。旅館のご主人に、JAFを呼んでもらうことにした。「もう1泊しないといけないかも。」とご主人。その直後、エンジンがなんとかかかった。JAFへの連絡は中止。

 エンジンはかかったが、回転数が上がらない。ご主人によると、以前にも同じ状態になった車があり、エンジンがかかって走り出したが国道で止まってしまったことがあったそうだ。十分に暖めてから動かすようアドバイスを得た。アクセル一杯に踏んでも1000回転までしか上がらない状態がしばらく続いた。ラジエターの温度も上がり始め、1500回転、2000回転、そしてようやく通常に吹き上がるようになった。皆さん、寒い中でお待たせしてすみませんでした。

 雪のカーブを順調に下り、もう大丈夫と国道に出た。国道出口から安房トンネルまでは登り坂。Nさんが、「もう大丈夫だ。」と、言ったとたんにパワーダウン。スピードがぐんぐん落ちていく。先ほどのご主人の話のとおりだ。停車する路肩もなく、とにかく走るしかない。登り坂は、安房トンネルをかなり入ったところまで続いている。アクセルをいっぱいに踏んでも、メーターの針はどんどん下がっていく。2000回転、1500回転。

 ハザードランプをつけて後方確認。幸いなことに、後方はkuさんとIさんの車のみ。時速20km。回転数は1000を切ろうとしている。風前の灯火。こんなところで止まったら大変。「走れ」「登れ」「止まるな」「がんばれ」と車内全員で叫ぶ。「鉄腕ダッシュのソーラーカーと一緒やね」とNさん。

 30年ほど前のS・スピルバーグの映画館上映第1作目の「激突!」という映画をご存じであろうか。主人公が運転する赤いセダンが、何の気もなく大型タンクローリーを追い越したことから、タンクローリーに追われることになる。クライマックス、登り坂でスピードの落ちたタンクローリーを振り切ろうとするが、セダンのラジエターホースが破損し、スピードがぐんぐん落ちてくる。後方からはタンクローリーが迫る。峠までの登りは後わずか。スピードメーターの針とバックミラーだけを見ながらハンドルをゆさぶり「走れ!」と叫ぶ主人公。トンネルの中で、この映画主人公と自分が重なっていた。後方はタンクローリーではなくkuさんたちの車がいることが心強い。

 次第に道の傾斜は緩やかになり、回転数も少し上がってきた。なんとか乗り切れそうな予感。そして下り坂になり通常のスピードに回復。車内で歓声が上がった。しかし、喜んではいられない。トンネルを抜ければ、平湯トンネルへのとんでもない急坂が待ち受けている。「スタンドに寄ろうか」「乗る人数を減らそうか」などと考えたが、料金所から信号機までの緩やかな登りで、先ほどのようにパワーが落ちなかったことから、行けると信じて平湯の雪の坂を登った。調子はもどり、順調に坂を登り切った。やれやれ。皆さんにはハラハラさせてすみませんでした。

 トンネルを抜けて、真っ白な雪の坂道をかなり下ったところで、「く」の字の下りカーブにさしかかった。カーブで一台の車が左に寄せてチェーンを付けていた。前を走る車がブレーキ。車間距離が短かったことから、軽くブレーキを踏んだところスリップ。「滑ってる」と一堂。あまりスピードを出していなかったので、くるりと横を向いて停車。対向車がなくてよかった。

 後続のkuさんはうまくすり抜けたが、その後ろのIさんの車がスリップして路肩の雪に乗り上げた。ガードレールがなくてよかった。またまたラッキーなことにJAFの車が通りかかり、引いてもらって脱出。ご迷惑をおかけしました。この場所はツルツルで人も歩けないほどのアイスバーン状態。その後も2台ほどの車が滑って横を向き、JAFの方が融雪剤を散布。以降、小坂町までの雪道は車間距離を十分にとって慎重な運転。久々野町で夕食をとり、岐阜市へ着いたのは11時。皆さん、遅くなってすみませんでした。また、いろいろと助けていただきありがとうございました。

 軽油の凍結について調べました。軽油は低温になるとシリンダー内でゼリー状になって凍り、その時にワックスが分離し、フィルターをつまらせることからエンジンがかからなくなるらしい。凍った時の対処方法としては、フィルターを温風で暖めるといいようだ。現地で給油することが鉄則。いい経験しました。
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