トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部誤動作あり
*黄色点線は車のルート A:4差路。直進する。左は木曽古道の表示。 B:直進する。林道吉野東野線の看板の下に小さな字で登山口の表示あり。
風越山の展望と植物を見る
風越山 (1699m 長野県) 2008.9.23 晴れ 2人
林道脇登山口・駐車地点(8:50)→カヤトの境(9:46)→カヤトの丘(10:05-10:09)→風越の頭(10:13)→風越山山頂(10:27)→展望台(10:34-12:02)→風越山山頂(12:08-12:12)→風越の頭(12:26)→カヤトの丘(12:35)→カヤトの境(12:51)→林道脇登山口・駐車地点(13:25)
木曽は山の中。この山の中を通る古道がある。木曽古道と呼ばれ、中山道が整備される前から、木曽の南北をつないでいた道で、その起源ははっきりしないと言われている。長野県のJR上松駅からJR倉本駅まで、木曽古道を辿るコースが整備されており、この古道は、中央アルプスへと続く急峻な山の裾を通っている。この木曽古道が通る山の1つが風越山であり、その山頂から続く尾根は三沢岳に繋がる。
この休日は北の山に登る計画を立てたが、北ほど天気が悪い。急遽行き先を変更して、東濃から長野県西部の山を探し、飯田の風越山を候補に上げた。ネットで登山レポートを調べると、風越山という名の山が長野県にいくつかあることを知った。飯田の風越山は地元では「ふうえつさん」と呼び、木曽地域にある風越山は「かざこしやま」と呼ぶらしい。2山を比較すると木曽の風越山はマイナーな山で、レポートも少ないが、御嶽山や駒ケ岳の展望地としてその評価は高い。岐阜からのアプローチは遠いが、2時間もあれば登れそうな山である。あまり走らない国道19号線のドライブを兼ねて、出かけることにした。
中津川ICで中央道を降りて、国号19号線を北上する。長野県に入り、順調に車を走らせる。「大桑道の駅」でトイレ休憩。中央アルプスが間近に見える。糸瀬山登山口の看板を見ながら上松町に入り、寝覚の床を目指す。寝覚の床手前の信号機のある「小野ノ滝」交差点を、カーナビに従って右折し、登山口のある林道吉野東野線を目指したが、カーナビには林道が表示されず、また道路地図もかなりいいかげんで、吉野集落で少し迷った。それでも無事林道に合流。
帰路、国道から登山口までのルートを確認したので記しておこう。国道19号線を北上し、「小野ノ滝」信号交差点を過ぎて1kmほど走ると、右の高台に「ねざめホテル」が現れる。このすぐ北側の道へ右折する。見落として通り過ぎると、すぐ左に寝覚の床駐車場やコンビニがあるので、この辺りで方向転換をするといい。右折して坂を上ると突き当たるので左折して、次の三叉路を右折。道なりに走って滑川の橋を渡る。正面に風越山が見える。橋から300mほど走ると4差路がある。左は木曽古道の標示。ここは直進。すぐに道が分岐しているが、ここには「林道吉野東野線」の黄色い看板があり、この看板の下に小さな字で登山口の標示があるので、これに従って山に向う。後は道なり。大きく左へ走って折り返し、山沿いを走ると登山口に着く。
左側に登山口の標示板があり、手前の右に駐車場がある。3台ほど駐車できる空き地に車を停めた。靴を履き替えていると、1台の車がやって来た。風越山に登る夫妻で、松本から来たとのこと。車の横で朝食をとってみえる2人よりも一足先に出発。登山口の案内板を確認して山道に取り付く。
よく踏まれた道が急な斜面にジグザグと続く。コバノガマズミの赤い実を見ながら、ミズナラやアカマツの林を登る。道の周囲にはコアジサイの艶のある葉がたくさん見られた。これがどこまでも続く。コアジサイの花の季節には美しい山道になるに違いない。右手前方から朝日が木立に差し込み始めた。赤い傘に白い斑点のベニテングタケが美しい。ピッチをつかんで標高を稼ぐ。地面にワイヤーが1本走っている。道は黒土で、最近の雨で濡れて滑りやすい。
歩き始めて15分ほどで山頂まで1kmの標示を通過。ミズナラやアカマツの林が続く。太陽を正面に、右へトラバースして再び急登。時折、アキノキリンソウが現れる程度で花は少ない。山頂まで820mの標示を見ながらひたすら急斜面を登る。地面にはシラカバの葉が散り始めている。オオヤマボクチはまだ蕾。シダやススキに覆われた明るい斜面に出た。振り向いて思わず声が出る。木立の空間から目の前の台ヶ峰の向こうに御嶽山が巨大な胴体を横たえる。御嶽山展望地の山は数多いが、ここも一級の展望地である。眼下には、山間に上松町の町並みが見える。しばし展望を楽しむ。しかし、この感動はプロローグに過ぎなかった。30分後には、予想しなかった大パノラマを見ることとなる。
草つきの斜面は相変わらず急で、一段と滑りやすい。木につかまりながら足元に注意して登ったが、何度か足を取られた。ほとんど直登状態。アキレス腱が伸びっぱなし。山頂まで600mの標示を通過。アキチョウジやフシグロセンノウの花に応援されて、さらに標高を稼いでいくと、ようやくなだらかな傾斜になってきた。ゴマナやヤマトリカブトが現れ、ススキやワラビのヤブ状態となる。木が少なくなり、フジバカマやアザミが見られる。カヤトが近いようだと思ったところで、標識が現れた。「カヤト境」と書いてある。カヤトとはススキやカヤが茂る草原という意味で、放牧場の跡らしい。ここまでどのように牛を持ち込んだのであろうか。ここから山頂まで1時間の標示もある。
青空に向ってヤブを分けると、周囲の草丈が低くなり、明るい草原の斜面に出た。ススキの穂が草原を埋める。花が多いのに驚いた。マツムシソウ、ウメバチソウ、アザミ、タムラソウなどが草原に散らばり、アカタテハが花から花へと飛び回っている。振り向けば西方向180度の大展望。なんと言っても主役は御嶽山。赤茶けた剣ヶ峰を中心に、左右に美しい稜線が延びる。その稜線の先には乗鞍岳が二等辺三角形を作る。山腹には白い雲が横一直線になびく。御嶽山手前の台ヶ峰も美しい形をした山だ。乗鞍岳から右に目をやると笠ヶ岳や穂高が見えた。穂高の右端にある尖がりの山は槍ヶ岳だと思っていたが、帰って調べてみると前穂高岳だった。南に目を転じると糸瀬山が大きい。これもいい形の山だ。次に登るターゲットである。その右には恵那山と南木曽岳が同じような形をして雲海から頭を出す。眼下には山の間を縫うように流れる木曽川が望めた。
展望を楽しんだら、カヤトを登る。傾斜は急。背丈以上のススキを分ける。道はしっかりしていて、見失うことはないが、ススキが穂を出すこの時期、ヤブは最も濃い。10分ほどヤブを分けると、ヤブが切れ、標識のある展望地に出た。カヤトの丘と言われる場所で、ノコンギクが一面に咲き乱れ、オミナエシやリンドウも見られた。再び展望を楽しむ。これから歩く稜線も望める。山頂まで30分の表示。
再びカヤトに入る。樹林帯との境をゆるやかに登っていく。ここもすごいススキのヤブである。恵那山の雲が消え始めている。赤い実をたくさん付けたユキザサの群落がある木立の中を通過し、またヤブに入る。ススキの種がウエストバックに積もっている。シャツにへばりついたアオムシやハムシなどを払いながら歩くと、ヤブを抜けて標識の立つ樹林帯に出た。標高1640mの「風越の頭」と呼ばれる小ピークであり、風越山山頂まで15分の標示。
ここから下りとなる。トチノキの大木がある鞍部まで下る。カヤトの歩きとは一変し、林床にイノデが葉を広げる美しい天然林となる。コハウチワカエデが多く、紅葉の時期にはさらに美しいに違いない。トチノキから登り返す。ヒノキの大木を過ぎたところで、敬神へ1時間の標示がある。北側からの登山コースもあるようだ。なだらかな尾根を歩くとササが現れ、左の谷から工事と思われる音が聞こえてきた。カニコウモリやオクモミジハグマが質素な花を咲かせている。林床は一面にシダに覆われ緑の絨毯を敷き詰めたように美しい。
倒れた大木の根を左に、赤テープの続く尾根を歩く。涼しい風が抜ける。ササの道となり、再び敬神の分岐点が現れる。そしてすぐに三角点と木柱が立つ風越山山頂に着いた。通過点のような山頂で北が一部開けているが、樹林の中で展望は無い。さらに先に展望台があるので、山頂を後に尾根を進む。ササの中、小さなピークを1つ2つ越え、大きな倒木を跨ぐ。一面に黄色くなり始めたマイヅルソウが自生する尾根をひと登りすると、標示柱のある中央アルプス展望台に出た。
東側が開け、木立を切り抜いた空間に巨大な中央アルプスの主峰たちが並ぶ。左から麦草山、木曽前岳、木曽駒ケ岳、宝剣岳、そして右端の大きな山塊は三沢岳。いつも東から望むこれらの山であるが、今日は西から見上げている。こちら側から見る稜線も美しい。ザックを背負ったまま、シャッターを何度も切った。これが見たくてここまでやって来た。手前のサクラの葉はすでに赤く色づき始め紅葉の兆し。秋が深まれば、額縁の中の絵画のように美しい光景が見られるに違いない。冠雪の山も見たいものだ。
展望台は風越山山頂の標高よりも高い。尾根はさらに続き、道もある。もう少し先まで歩いてみる。いつしかコメツガの高木が続く尾根となり、倒木は苔むし、マイズルソウやバイカオウレンの葉が足もとに広がる。なんと美しい尾根だろう。長野県の標高1700mは岐阜県の山では味わえないアルプスの雰囲気を持っている。展望台から5分ほど登ったところで引き返す。この尾根は三沢岳まで続いている。どこまでも歩いていけそうな気がした。
展望台まで戻って、ランチにする。メニューはビビンバ丼とおでん+うどん。名峰を前にランチを楽しむ。登山口で会った夫妻が登ってみえ、ここで昼食。しばし山談義。いくつかの山の情報を教えてもらった。コーヒーにクッキーでランチを終え、夫妻よりも一足先に下山。風越山山頂で記念写真を撮って、ゆっくりと尾根を下り、カヤトを抜ける。御嶽山の山頂は雲に隠れていた。急斜面の道を滑らないようにと下ったが、2人とも何度も滑りそうになった。後方から下りてくる夫妻のクマ鈴の音に追われながら一気に林道まで下った。
駐車地点で、靴を履き替えながら、ここでも4人で山談義。奥さんは毎週山歩きをしてみえるそうで、「長野県 中信・南信 日帰りの山」というお勧めの本を教えてもらった。飯田の風越山はベニバナマンサクの紅葉する10月に登るように言われた。駐車場のすぐ北から登山口の右へ林道を横断して木曽古道が続き、駐車場の脇にはヤクシソウの黄色い花が満開。木曽古道入口にはクリの木があり、林道にたくさんのイガが落ちていた。季節が駆け足で過ぎていくのを感じながら、小さな山栗を拾った。
風越山は実に変化に富んだ山。急登、カヤトからの大パノラマ、ヤブこぎ、花、天然林の尾根歩き、そして展望台から見る中央アルプスの眺望と、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようにいろいろな体験ができる楽しい山だった。様々な魅力の中でも、特に展望台付近の尾根の雰囲気はすばらしい。静けさとやさしさに包まれて、いつまでもこの空間に埋もれていたいと思わせる尾根だった。時には岐阜の地を離れて長野県の山を歩くのもいいものだ。それにしても、この日、風越山に登ったのは我々を含めて2パーティ4人。まだまだマイナーな山のようだ。
帰路、糸瀬山の登山口を確認。次の長野県の山は、飯田の風越山か木曽の糸瀬山に登ろう。
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