トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
見当山 (1352m 郡上市) 2008.3.16 晴れ 2人

林道路肩・駐車地点(8:48)→尾根(9:15)→山頂南ピーク(10:02)→見当山山頂(10:15-10:38)→山頂南ピーク南側急斜面(10:50)→1304mピーク西(11:06)→西に方向転換して最初のピーク・ランチ(11:32-12:54)→B標識・ロープ(13:07)→1213mピーク付近・尾根離脱(13:35)→林道合流(13:41)→駐車地点(14:10)
*見当山山頂は高山市にありますが、郡上市に区分しました。

 郡上市のひるがの高原にある見当山は、2年前の5月にBOGGYさんと3人で歩いた。標高差は300mほどしかなく、さほど有名な山ではないが、芽吹きの時期の新緑の尾根は美しく、意外な拾い物をしたという印象の山だった。なだらかな尾根を持つこの山は積雪期のスノーシュートレッキングにも最適と思われた。雪のある時期にいつか登ろうと決めた山でもある。

 暖かい日が続き、2月に降った雪はかなり溶けてしまったと思ったが、ネット情報によると郡上高原スキー場の積雪は1m。ひるがの高原の雪はまだ深い。前回の蛇峠山に続き、スノーシュートレッキング第2弾として、見当山を選んだ。地図を見てコースを検討。前回は、郡上高原スキー場を起点に、デイリー郡上カントリー倶楽部まで尾根を左回りに周回したが、雪の時期で歩行スピードはかなり遅くなることから、前回とは逆回りに歩き、まず見当山を踏み、時間を見ながら尾根を周回するかどうか決めることにした。尾根周回の場合、最大の問題は見当山山頂南側の展望ピークから南尾根に取り付く部分。ここの等高線は狭く標高差30mほどの急斜面を下ることになる。雪のない時期には急な斜面の丸木階段を登った記憶がある。ネット情報でも積雪期に尾根周回をしたレポートを見つけることができなかった。現場で判断することとし、アイゼンとピッケルを持ち万全の体制で出発。

 早朝の東海北陸自動車道は美並IC付近で渋滞が予想されたため、郡上八幡まで国道156号線を走り、八幡ICから自動車道に入る。昨年12月にひるがの高原にスマートICが実験的に設置され、ETC車はここから出入りできるため、これを利用することにした。スマートICを探しながら走ると、何とスマートICはひるがの高原SAの中にあった。SAのトイレに寄って、スマートICを出る。一旦停止型のETC専用出口だ。ここを利用する車がかなり多い。スキーヤーであろうか。

 ICを出て案内に従って車を進めるとすぐに牧歌の里の手前に出た。左には大日ヶ岳や別山、白山が純白の峰を見せる。見当山からの展望も期待できそうだ。牧歌の里への入口を右折して、左手に温泉や雪に埋もれた貸し農園を見ながら、除雪された道を左回りに進むと、右手に別荘群と郡上高原スキー場が現れる。前回はスキー場のホテル前に駐車したが、今回は直進して駐車場所を探す。デイリー郡上カントリー倶楽部を過ぎ、さらに林道を進んでみる。道の両脇は1mほどの雪壁ができているが、路面は除雪されて雪はない。雪に埋もれた見当山登山口への林道を右に見ながら折り返すようにカーブして100mほど走ったところの左に除雪された広い路肩があった。ここで方向転換して、Uターンの邪魔にならないように雪壁に車を寄せて停めた。

 靴を履き替えて、山に取り付く位置を地図とGPSで確認。車道を戻って登山口へ続く林道から入山しようかと考えたが、駐車地点のすぐ東から取り付けば、見当山に続く尾根に出られると判断。駐車地点脇の雪の上でスノーシューを付けて、斜面に取り付く。先日の雨で叩かれた雪は締まっており、スノーシューの歯が快適に食い込む。正面から朝日が差し込み眩しい。斜面を登り切ると真っ白な広場に出た。地図をよく見ると、車道の上段にあるゴルフコースのようだ。

 広場を横切って、スギ林に突入。雪の上のスギの枯葉を踏みながら登っていくと、斜面は急になった。ヒールリフターを立てる。スギ林はすぐに終わり、天然林の斜面となる。木々の根元にはステムフローができており、春近し。ルートを定めながらゆっくり登る。かなり急な斜面であり、歩きやすそうな場所を左右に探しながら高度を稼ぐ。ステムフロー周辺は雪溶け水が固まって、厚い氷の層ができていた。左にはミズナラの樹間から白い山々が望めた。

 15分ほどで斜面を登り切ると、さらにすぐ先に小ピークが望めた。気温が高く、暑いのでピークで山シャツを脱いで、長袖Tシャツ1枚になる。手袋も薄手のものに変える。天然林の斜面を、軽快に登って稜線に突き当たると、近くの山々の展望が広がった。目の前の山は、これから歩く尾根から派生した稜線のようだ。左手の展望を楽しみながら尾根を歩く。ブナも増えてきた。一旦下って登り返す。これから歩く稜線が前方にうねっている。青空の下、適度な傾斜を、トレースの無い雪を踏んで歩くのは実に気持ちがいい。

 ゆるやかな右回りでブナの尾根を歩くと比較的平らなピーク状の場所に出た。前方にはヒノキの幼木が植えられている。後方には立ち上がってきた白山が美しい。この辺りから、大パノラマの山旅が始まる。右にヒノキの植林、左に天然林の境を歩く。潅木の枝がわずらわしいところもあるが、尾根は広く歩きやすい場所を選んで木々の間を自由自在に縫っていく。ヒノキ林が消え、大きなブナやミズナラの木が混じる尾根となる。大木にはヤドリギが見られ、青空を背景に自然のアートを創り出す。

 尾根は稜線に突き当たって右に向きを変え、さらに左へ右へと蛇行していく。前方のピークから左へ尾根が派生している。右手に鷲ヶ岳の頭が望め、前回スタート地点とした郡上高原スキー場のゲレンデも見える。ピークに立つと、正面におだやかな形をした山があった。見当山である。落葉樹に埋め尽くされた山はまるで針山のようであり、木々が落とす影やステムフロー、点在する針葉樹がアクセントをつける。しばし山を眺めた。

 ここから右に向きを変え、前方のピークを目指す。再び右側にスギ林が現れる。適度な斜面を登って、スギ林のあるピークへ出ると古いスノーシューの跡が見られた。右に向きを変えて下って鞍部へ。この鞍部は北から上がってきた谷の最上部であり、なだらかな地形が広がる。尾根は左回りに続いているが、直進しても尾根に合流できるので、ショートカットを選んだ。斜度は緩く、疎林であり、ここでも自由自在に歩く。大木は少なく、シラカバやブナの細い幹が美しいスリットの空間を作り、雪の斜面にきれいな縞模様を描く。こんな美しい空間をスノーシュートレッキングできる場所は滅多に無い。特徴ある幹の模様から、ウリハダカエデが多いのに驚いた。紅葉の時期もすばらしいに違いない。また、地面には枯れたツルアジサイの花がいくつか見られた。尾根の樹林帯から風に飛ばされてきたようだ。ウサギの糞もたくさん落ちている。陽に暖められて雪の中に沈んでいるのが面白い。

 10分ほど歩いて、林を抜けると木々が少なくなり雪の斜面になった。振り向いて後方の大パノラマに足が止まる。最高の展望地である。何といっても大日ヶ岳から三ノ峰、別山、白山へと続く白い峰には圧倒される。遠くには荒島岳も浮かんでいる。何枚も写真を撮った。再び潅木地帯を抜けてひと登りで山頂南のピークに到着。ここもすばらしい展望ピーク。北の展望はさらに広がり、三方崩山も望める。木々の間から南〜東の山も望めた。鷲ヶ岳は目の前。乗鞍岳や穂高も見える。槍ヶ岳が黒く小さく望めた。

 ここから山頂へは、北に向けて僅かに下って登り返す。夏道は背丈以上あるササの中だったが、今は真っ白な雪尾根。ブナの大木の脇を抜けて鞍部からやや左に進路を取り、所々にササが飛び出した広い斜面を、青空目指して登る。ちぎれ雲が東へ流れていく。10分ほど登るとなだらかになり、すぐに山頂に着いた。ブナの幹に山名表示板がくくり付けてある。この山の主のようなミズナラの大木が空に枝を広げて佇む。南西の展望はさらに広がり、位置を変えれば荒島岳や毘沙門岳、能郷白山も望める。山頂から北へはなだらかな尾根が続いており、どこまでも歩いて行けそうな気がした。

 白山をバックに記念写真を撮った。10時半であり、ランチまでにはまだ時間があるので、周回コースを歩くこととし、登ってきた道を下って展望ピークの西をトラバースして南へ回り込む。新しいワカンの足跡があり、おそらく昨日のものと思われた。いよいよ問題のピーク南斜面に取り付く。どう回り込んでも標高差30mほどの急斜面を避けて通過することはできそうにない。ピークを巻いたところで、斜面を覗き込んでみると垂直に近い急斜面に思えた。日の当たる斜面で雪が溶けてササが現れ始めているところもある。中途半端な雪の量だ。木を伝って、ルートを探しながら下りる。途中で、スノーシューをアイゼンに替えるべきだったと思ったが手遅れ。木にぶら下がってズルズルと滑り落ちるように下りた。最後はシリセード。何とか難関を突破。

 ブナの木を避けながら左側が急斜面のヤセ尾根を歩く。正面に1304mピークの小山が迫ってくる。少しでも水平に歩くため、ピークの右を巻く。雪の斜面のトラバースは危険だが、ここは緩傾斜で問題はない。ピークを巻くと前方にいくつものピークが見える。ここでも雪面にツルアジサイの枯れた花が落ちている、と思ってよく見るとガク片が1枚しかない。これはイワガラミ。この時期でも思わぬ植物観察ができる。30mほど登り返して広いピークを通過。オリエンテーリング用の「P15」の表示があった。夏道であれば、この番号を追うところだが、この時期標識は雪の中に埋まっている。左手にスキー場が見えた。ホワイトピアであろうか。正面にはこれから歩く稜線が連なる。

 1つ、2つと小さなピークを越え、尾根は次第に右へカーブしていく。1342mピーク脇を通過。ここから左へ尾根が派生しているので迷い込まないように右へと歩く。次のピークも右を巻く。そして平らな尾根を快適に歩く。ブナ、ミズナラ、シラカバなどの美林が続く。北の谷にはシラカバが群生しているところもある。その向こうには白山が見え隠れする。左手には鷲ヶ岳の全貌が現れる。すばらしい演出で全く退屈しない山歩きが続く。

 小ピークを越えたところでほぼ直角に北西に向きを変える。11時半。次のピークでランチにした。時折吹く風を避けて、小ピークの東側にいつものようにスコップで雪のベンチを作った。木々を通して白山が望める場所であり、目の前にダケカンバの大木があった。ツルアジサイが巻きついている枯れ木にストックを掛けた。正面には今歩いてきた展望ピークが樹間に望めた。メニューは味噌煮込みうどんと鯖のカレー缶詰。誰も登ってこない陽だまりの尾根で熱いうどんをすすった。日差しがあり暖かい。気温が高く、雪がかなり溶けてきている。

 コーヒーを飲みながら空を見上げると、頭上でブナの銀色の枝とシラカバの金色の枝が青空に絡み合っている。流れる白い雲が時を刻む。全てを包み込むやさしさにあふれた美しい雪山に溶け込んでしまいそうな気持ちになった。静まり返る林の中で、そこまでやって来た春を前に、木々の鼓動が聞こえる。一羽の小鳥が目の前を横切っていった。

 時間は十分にあるので、のんびりとランチを楽しんだ。地図を見ながら帰路のコースを検討。ここから目の前の緩やかな斜面を下れば林道に出て駐車地点に戻れそうだが、もう少し展望を楽しむために尾根を歩き、この先の1213mピーク付近から、林道へ下りる計画とした。崩れかけた雪庇の尾根を歩いて、すぐに次のピークを越える。この手前に大きなダケカンバの木があった。ピークを下っていくとカラマツ林となる。カラマツ林の中で先頭の1名が腰まで雪の中にはまり込んで脱出できないというハプニングも。切り株の横にできた空洞にはまり込んだようだった。

 再びブナとミズナラの尾根を10分ほど歩いて「D」という標識のあるピークに出た。ロープもあり、2年前にここで山菜取りの方に道を教えていただいた場所である。ここから林道へも下りられそうだ。ピークからは見当山の山頂が手前ピークの左に見えるようになった。雪が緩んでスノーシューが沈み込む。ピーク下りで再び腰まではまり込む。助けに行って二人ともはまり込んだのには大笑い。この辺りもツルアジサイの花がたくさん落ちていた。枯れ木に巻きついたツルアジサイには、まだたくさんの枯れた花が付いており、あれが雪の上に落ちてくるようだ。

 ブナ・ミズナラの尾根を下っていくと、左手にヒノキの幼木地帯が現れ、さらに下ると左手が開けて大日ヶ岳などよく見えるようになった。左に少し向きを変える辺りでは平家岳方面が望めた。左後方には鷲ヶ岳。緩んだ雪をスノーシューの踵でぐいぐい踏んで軽快に下っていく。急斜面でシリセードを試みるが雪が重くて滑らない。GPSと地図を見比べながら、林道へ下る場所を探す。1213mピークを過ぎた辺りで、谷の人工林が切れ、斜面が比較的なだらかだったので、尾根を外れて天然林を下った。予想通り、5分ほどで林道に出た。

 林道を等高線に沿って下る。尾根を横切る手前は展望がよく、白山が最後の姿を見せてくれた。大きくカーブして、林道は人工林に入る。ワカンの足跡があった。山頂南のピークにあった足跡のようだ。溶けた重い雪に沈み込んだスノーシューを持ち上げるのが苦痛になってきた。スギの落ち葉を踏みながら、ゴルフコースの交差点を直進して車道に出てスノーシューを外し、車まで戻った。

 今シーズンはこの山が最後のスノーシューハイクの予定。スノーシューで歩くのには最適の山だと思った。今回は天気や雪の状況に恵まれ、すばらしい山歩きができた。しかし、雪の山は気象条件等で状況が一変する。常に自分の位置を把握してこくことが基本。GPSが役に立つ。また、山頂南の展望ピーク南側は急斜面であり避けた方がいい。この山は入山者も少ない。一度夏道を歩いておくと状況が把握しやすい。天気のいい日に登れば、展望は一級、天然林のトレッキングも一級。また登りたい山である。

 帰路は、自動車道の渋滞を避けて、「美人の湯」経由で、やまびこロードを下り、八幡の裏道を走って美並ICから自動車道に入った。色あせた山々がタムシバの白い花で彩られるのはもう間近だ。


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