北ノ俣岳 (2661m 飛騨市) 2005.9.24 2人 晴れ、曇り

<9月23日>
折立登山口(7:13)→1871m三角点(8:37-8:45)→太郎平小屋【昼食】(10:42-11:41)→薬師峠キャンプ場(11:58)→薬師岳山荘(13:31-14:00)→避難小屋跡(14:31)→薬師岳山頂(14:47-15:18)→避難小屋跡(15:30)→薬師岳山荘(15:54)
<9月24日>
薬師岳山荘(5:21)→薬師峠キャンプ場(6:27)→太郎平小屋【朝食】(6:48-7:28)→太郎山(7:35)→展望ピーク(8:26-8:32)→神岡新道分岐点(8:53)→北ノ俣岳山頂(9:00-9:13)→南の展望地(9:17-9:33)→北ノ俣岳山頂(9:37-9:47)→神岡新道分岐点(9:53-10:00)→展望ピーク(10:17)→太郎山(10:59)→太郎平小屋【昼食】(11:07-12:07)→1871m三角点(13:25-13:35)→折立登山口(14:26)

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 薬師岳山荘の朝は早い。周囲の身支度の音で目が覚めた。4時。下の階からは朝食の準備の音がしている。懐中電灯を天井にぶら下げて、パッキングをしなおした。朝食は5時からであるが、我々は朝食の代わりに弁当を頼んでおいたので、受付で弁当を受け取った。弁当は太郎平小屋で食べることにした。

 ジャケットを着込んで5時頃に外出ると、まだ暗い。雲一つない空。山荘の裏手に回ってみると少し明るくなり始めた東の空には、鷲羽岳と三俣蓮華の間から槍ヶ岳の美しいシルエットが見られた。既にヘッドランプをつけて薬師岳に登る登山者が見える。今日も天気は良さそうだ。北ノ俣へ行こう。

 ヘッドランプ無しで歩ける明るさになるのを待って山荘を後にした。なだらかに稜線を数分下って取り付きまで来ると、東の山並みがすばらしくきれいだったので、三脚を出してシャッターを切った。稜線から薬師平までの下りは東の美しい山並みを見ながら一気に下った。無風で下りでも暑いので途中でジャケットを脱ぐ。下りきった辺りで登ってくる人に初めて出会った。太郎平小屋またはテン泊の登山者であろう。振り向けば、稜線を下ってくる多治見の団体さんが小さく見えた。今日は黒部五郎岳に登る予定だと聞いていた。

 薬師平から岩の谷を急降下。登ってくる大勢の登山者とあいさつを交わし、前方に北ノ俣岳と黒部五郎岳を見ながらテント場まで下った。昨日よりもテントの数が増えていた。テント場から一登りして、太郎兵衛平に上がる。朝日が紅葉した草に当たり、太郎兵衛平は金色に輝く。金色の草原に一本の木道が続く。その向こうの北ノ俣や黒部五郎が実に美しい。木道がカーブするたびに、正面に見える山が目まぐるしく変わる。そして、赤い屋根の太郎平小屋が見えた。

 薬師岳山荘から約一時間半で太郎平小屋へ到着。ちょうど腹も減り、ここまでは朝食前の運動に最適な距離。静かな小屋前の広場のテーブルで弁当を広げ、熱い緑茶を沸かした。昨日出会った、山口県の単独男性が下りてみえた。北ノ俣を往復することを話すと、「この辺りのコースタイムはかなり長めに書かれているから、黒部五郎の往復もできますよ」と言われた。確かにコースタイムは言われるとおりだ。しかし、ピークハンターであわただしく黒部五郎を踏む気にはなれなかったので、今回は北ノ俣までとする。

 朝食を終えて、7時半に小屋前を出発。北ノ俣への道は小屋の東側を南へ行く。すぐに雲ノ平方面への道が左へ分岐している。いつかは行ってみたい雲ノ平である。直進して一登りで太郎山の東側を通過。太郎山山頂へは帰路寄ることにして、草紅葉の草原の中の木道を緩やかに下っていく。

 緑色のササやアオノツガザクラなどにチングルマやネバリノギランの紅葉が映える。イワイチョウはまさに名前のとおり。紅葉したイチョウの葉が落ちているかのように、黄色い扇形の葉が彩りを添える。正面には北ノ俣が次第に近づき大きくなってくる。

 太郎山からなだらかに下って、北ノ俣への取り付きの鞍部まで行く。鞍部の先には北ノ俣へ登る道が見える。この辺りには湿原のような草原が続き、小さな池塘が点在する。夏には美しい緑に覆われていることであろう。草原の上を飛ぶアサギマダラやアゲハチョウを見ながら、鞍部から木道の登りにかかる。右手前方には雲海が広がり低い山が頭を出している。シラビソの枯れ木も目立つ。なだらかな登りである。浸食された砂地の上に木道がかけられ、この辺りにも池塘がいくつか見られた。石のころがる道には浸食を防ぐために丸木の土留めが整備されている。ハイマツやササの潅木地帯を縫うように歩く。振り返ると太郎山付近に多治見市のパーティーが見えた。

 太郎平小屋から歩き始めて30分。左に大きくえぐり取られた溝を見ながら歩く。溝を見ていて気が付いた。溝の向こう側に木道があるではないか。こちら側にも明らかに道がある。どこで間違えたのであろうか。(帰路、確認すると溝を歩く所で左側に上がる場所があり、ここを見落としたことが分かった) 溝が深くて対岸に渡れなかったので、そのまま歩いているとやはり道が無くなった。ここで誰もが溝を渡っているようで、足跡が残っていた。

 溝を渡って木道を歩く。木道が終わると、大きな木柱が立っている。地面に北ノ俣と書かれた表示板が落ちていた。草原の中、草付きのなだらかな道を歩き、再び短い木道を通過して左に向きを変える。左手に薬師岳が美しい。ハイマツ帯に入る。路面は石がごろごろして歩きにくい。この辺りからピークまでが、本コースの最も急登な場所であるが、距離はわずか。実に登りやすい山である。立ち止まって振り返ると、薬師岳の左に大日岳の山並みが望め、奥大日岳がちょうど薬師岳の西側に頭を出している。雲海の中から頭を出した鍬崎山が美しい。

 急登を登りっきってピークへ。360度の展望が待ち受けていた。今まで姿を隠していた黒部五郎や北ノ俣が目の前にある。黒部五郎と北ノ俣の間には笠ヶ岳がすばらしい三角形を作っている。ここで写真撮影をしながら休息。

 北ノ俣へは一旦緩やかに下って手前の尾根に沿って右に向きを変え稜線にに取り付く。ここから山頂までの草紅葉の道が今日のベストコース。左俣を見下ろしながら主稜を目指す。左俣から北ノ俣へ駆け上がる大草原の斜面はセピア色に染まり、左俣の先には雲ノ平が雄大に広がる。その向こうには北アルプスの名山が並ぶ。まさに雲上トレッキング。何と優しい、そして何と穏やかな山であろうか。秋の青空の下に広がる秋色の北ノ俣は、まるで額縁から切り抜いた日本画のように美しい。その光景に秋のもの悲しさはなく、優しいながらも堂々と横たわる力強さを感じた。他の山の山頂から北ノ俣を眺めれば、何の特徴もないなだらかな山であるが、この山のすばらしさはここまで来ないと分からない。岐阜県が誇る名山であると思った。

 チングルマの綿毛が風で同じ向きに並んでいるのが面白い。シラタマノキやウラジロナナカマド、チングルマの葉が赤く色づいて間もなく紅葉の盛りを迎える。チングルマの大きな群落や黄色く色づいたハクサンイチゲの紅葉から推定して、夏にここのお花畑はすばらしいに違いない。季節を変えて訪れたい場所である。

 林道のように広く裸地になった登山道を登る。右手の草原が次第に浸食されていくように思われた。この辺りも木道や土止めによる浸食防止対策が必要であろう。主稜に出て山頂方向に向きを変えるとすぐに神岡新道への分岐点がある。右へ20mも登れば、新道を見下ろすことができるが、それは帰路の楽しみとして、まずは山頂へ。

 太郎平小屋から1時間半で北ノ俣山頂到着。なだらかな山頂には2人の登山者が下山するところであった。誰もいなくなった山頂で記念写真を撮った。薬師岳から笠ヶ岳まで180度のパノラマがすばらしい。笠ヶ岳や黒部五郎岳を少しでも近くで見ようと、300mほど南にあるピークまで歩く。

 ピ−クからは黒部五郎岳へと続く登山道が見えた。黒部五郎山頂へジグザグの道が付けられており、単眼鏡で覗くと山頂に立つ人が確認できた。雲ノ平の小屋や登山道もよく見える。この先、黒部五郎へは次回として、今日はここまで。誰もいないピークに座り込んで15分ほど大パノラマを眺めた。岐阜県側は真っ白な雲の海。さわやかな秋風がゆっくりと流れた。

 北ノ俣へ引き返すと、ちょうど多治見の団体の皆さんが到着したところで、賑やかになった。休息する皆さんと別れ、来た道を下る。神岡新道から登ってきた単独登山者が太郎兵衛平の方向へ下って行くのが見えた。神岡新道を見下ろせるピークまで行ってみると、岐阜県側が大展望。遙か下に避難小屋の赤い屋根が見える。避難小屋からここまではかなり急登である。このコースも歩いてみたい。帰路は薬師岳を見ながら快適な下り。薬師岳に雲がかかり始めていた。いくつかのケルンが積まれた太郎山に寄ったがすっかりガスの中で全く展望は無かった。

 太郎平小屋に着いて、再びテーブルでランチ。北ノ俣岳登頂を記念して缶詰をつまみにビールで乾杯。24時間前と同じ場面ではあるが、満足感に満ち足りていた。神戸からバスでみえた3人パーティーと山談義をしながら、雑炊とラーメンのランチメニュー。今日のランチはコーヒー付き。一瞬、ガスが晴れ、薬師岳が全容を見せる。我々に最後の別れをしてくれたような気がした。

 一時間ほどゆっくりして、太郎平小屋を後にした。視界50mほどのガスの中を下る。土曜日であり、入山する何人かの登山者とすれ違った。途中、まだ咲いているチングルマの花や白いタテヤマリンドウを見つけた。休息無しで三角点まで一気に下り、ベンチで一息。ようやくガスが消えてきたが、山頂方面は厚い雲で覆われていた。非常食を処分。フルーツゼリーが美味しかった。

 ここから滑りやすい赤土に足を取られながら、折立まで軽快なピッチで駆けるように下った。足がわななき始め、下りにうんざりした頃、登山口に着いた。午後の定期バスが停車していた。運転手さんから「ご苦労様」と声をかけられた。

 帰路、温泉に寄りたかったので、素早く着替えをして有峰湖を南下する。湖は深い霧に包まれ、料金所辺りから霧雨が降り出した。飛騨市に入るとすっかり雨。登山中に雨が降らなくてよかった。思わぬよい天気に恵まれ、すばらしい秋山を楽しむことができた今回の山旅。また1つアルプスの稜線に軌跡を残すことができた。そして次の目標ができた。遠回りして新平湯温泉に寄り、小雨の中で露天風呂につかった。霧が流れる谷川に秋の気配を感じながら・・・。
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