トレースマップ (カシミール3Dで作成)
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
小秀山 (1982m 中津川市)2006.10.8 曇り・小雨 2人
乙女渓谷キャンプ場(7:00)→ねじれ滝(7:15)→天狗岩(7:37)→小屋(7:45)→烏帽子岩(7:54)→夫婦滝(8:10)→孫滝(8:43)→大岩迂回(8:55)→カモシカ渡り(9:32)→稜線(9:53)→三の谷分岐点(9:59)→兜岩直登分岐点(10:27)→兜岩(10:41)→第一高原(10:46)→第二高原(11:02)→第三高原(11:24)→小秀山山頂(11:40-12:00)→第三高原(12:13)→第二高原(12:42)→ササの稜線・昼食(12:55-13:38)→第一高原(13:46)→兜岩(13:50-13:56)→兜岩直登分岐点(14:05)→三の谷分岐点(14:24)→鶏岩(14:40)→No.2標識(15:07)→林道(15:55)→乙女渓谷キャンプ場(16:25)
200名山にも選ばれている小秀山は、以前から登りたい山であったが、登り4時間を超えるコースタイムであることから、登頂はなかなか実現しなかった。秋の連休は、涸沢のテント泊など1泊2日の山旅を考えていたが、都合により日帰りに変更。
連休の中日は、「お出かけ日和」との天気予報。紅葉の期待できる2000mクラスの山として小秀山を選んだ。ロングコースのため、歩き始める時間を6時半に設定した。4時過ぎに自宅を出て、関・金山線から国道41号線へ。下呂温泉手前から右折して257号線に入り、舞台峠を目指す。昨日から北海道付近に大型の低気圧が発生し、北アルプスは大荒れの天気。この辺りも朝から強風が吹き荒れていた。しかし、西の空には満月が輝き、天気は良さそうだ。
舞台峠の登りにかかる頃、厚い雲が山々を覆っている。霧雨も降り始めた。舞台峠で中津川市の標識。右にある「大杉地蔵尊」の大きな看板に従って、左折。この交差点には海洋センターの大きな建物がある。右回りに下って集落に入る頃、左100mほど奥に大きな杉の木がある。これが樹齢1000年を超えるという国の天然記念物の「かしも大杉」。その下に大杉地蔵尊が建つ。
大杉を右に見ながら、小郷集落を北上する。旧加子母村は夏秋トマトと飛騨牛の産地。雨除けハウスや牛舎を見ながら山道に入る。強風で杉の枯葉が路面に散らばっている。舗装道路を大杉から3kmほど走ると、乙女渓谷キャンプ場に着く。シーズンオフであり、キャンプ場は閉鎖されている。登山者と思われる車が3台ほど停まっていた。テントで前夜泊のパーティーもある。
キャンプ場入口の広い未舗装の駐車場に車を停めた。トイレはキャンプ場の中央辺りの道沿いにある。入口の大きな建物の前には登山届けノートのボックスがあり、ここが二の谷の登山口である。もう1つの三の谷の登山口は、キャンプ場を抜けて林道を40分ほど歩いた所にある。
小雨は降っているが、すぐ南は青空が見える。ちょうどこの辺りが雨の境目。空模様を眺めながら、登るか止めるかを思案した。次々とやってくる車。二の谷、三の谷のコースへと向かう登山者。次第に天気は回復するという予報を信じて、登ることに決めた。レインウエアーを着て、ザックカバーをかけた。気になるのは、絶え間なく吹き続ける北風。この場所でこれだけの強い風であれば、稜線はかなりの強風が予想できた。
時間もすでに7時近い。行けるところまで行こう。ノートに記帳して二の谷コースに入る。谷にかかる橋を渡って、乙女渓谷へ。すばらしい木道や階段が渓谷沿いに続く。木道は雨でツルツルであるが、黄色い滑り止めのプレートが張ってあり、この上を歩くと全く滑らない。
谷を右に渡り、ねじれ滝を見下ろす。滑らないように足下ばかり見て歩くので、美しい渓谷をゆっくり見物している余裕はない。強風で散った木の葉が木道を覆う。小雨は止んだが、風は強い。山道にはカメバヒキオコシやゴマナが風に揺れる。谷は暗く、デジタルカメラは手ぶれ警告ばかり。天狗岩を通過。この岩の上に登れば展望地となっており、夫婦滝が見られるようだ。ここから夫婦滝まで800m、小秀山山頂までは4.7kmの表示。小屋が現れ、ここで2人の男性に追い抜かれ、先発の夫妻に追いつく。
小屋から10分ほどで烏帽子岩の表示。後方には、岩に大石が乗った奇岩が見えた。登ってきた深い谷の向こうは晴れている。頭上を雲が高速で流れる。少し先で、前を歩く夫婦が写真を撮ってみえた。見上げれば、緑の中に白い夫婦滝が見えた。霧雨が、谷から舞い上がるように吹き付ける。
木道を歩いて、夫婦滝へ。歩き始めて1時間10分。かなり大きな滝に圧倒される。1時間歩いても見る価値のある滝だ。ここから左の山道へ。「これより先は軽装では登れません」との表示。見上げれば、とんでもないガレ場の急登。10分ほどで急斜面を登り、左へトラバースしていくと、何と夫婦滝の上部が目の前に見えた。一段と風が強くなり、クマザサがざわめく。
滑りやすそうな木の皮のついたハシゴを渡る。谷から抜けたと思ったが、滝上部から再び川沿いに歩いて、渡河。ここで休憩。岩壁にはダイモンジゾウが最後の花を付けていた。枯れ木に並んだスギヒラタケが美しい。パンを食べて出発。すぐに尾根道に出て、ササ付きのモミやヒノキの林を登る。
川を渡って孫滝へ。ここが最終水場となる。ここまで2.5km、山頂まで3.5km。ここからいよいよ谷を離れる。再び急斜面を急上昇。登り切って左へトラバースしてヒノキの尾根に出る。落葉したマロン色のヒノキの枯葉が地面に敷き詰められて、美しい。左手に山々が望めた。正面に大きな岩が現れ、左へ迂回して岩壁を伝って、ササが刈り取られた急斜面を登る。ヒノキの根と岩混じりのササ尾根に、時折、雲間から陽が差す。この辺りも、ヒノキの落ち葉が美しい。赤テープが目立つが、道は明瞭である。紅葉し始めた木々も多い。
なだらかな尾根を歩いて、崖に突き当たった。「カモシカ渡り」の表示があり、「約7mの岩登りと岩尾根歩き」とある。ここまで3.2km、山頂まで2.8km。半分を超えた。ストックを手に通して、岩をよじ登る。途中、膝をついて登るようなところもある。らくえぬが濡れた岩で足を滑らせてヒヤリとするハプニングもあった。
崖を登り切り、痩せ尾根を歩く。ここで後方からの2人に追い抜かれる。道はなだらかになり、稜線に出て、右に向きを変える。予想どおり、いきなり強風に見舞われた。すぐに三の谷の表示が左に現れるが、ササで道は見えない。廃道となっているのだろうか。ゆるやかに下ると、正面に紅葉し始めたピラミダルなピークとその山頂に岩が見えた。これが、兜岩だ。小秀山の前衛峰にふさわしい姿をしている。
再び三の谷の表示。ここには、左に下るはっきりした道があり、二の谷との分岐点。帰路は左へ下ろう。小秀山まで1時間20分の表示。ここで一息。らくえぬがバテ気味。兜岩に向かって真っ直ぐに伸びる稜線の道。コメツガなどの木々が強烈な北風にあおられて、悲鳴を上げている。大木が今にも倒れそうに幹を揺らす。超高速で雲が流れる。轟音の中で、この光景を見ながら、互いに「どうする?」と顔を見合わせた。時間はちょうど10時。時間に余裕はある。「行けるところまで行こう。」
前を歩く登山者を追って、兜岩の登りにかかる。山の神が息をするように、波動的に強風が襲う。ササの葉が真横に波打ち、すさまじい音を立てる。山を五感で感じながら登るという、いつもの感覚はなく、轟音に追い立てられるように、舞い散る木の葉の中をゆっくりゆっくり登っていく。傾斜は急になり丸木階段やゼブラロープ、木の根、岩を登る。ドウダンの紅葉が美しい。標高を稼ぐにつれて木々の背丈は低くなり、ますます風が強くなった。
兜岩途中に、兜岩に似た大岩の脇を通る。この手前で北側に遮る物が無く、猛烈な北風が吹き付ける。シャクナゲの葉が反り返ってうなり声を立てる。低姿勢で風が落ち着くのを待った。後方の白草山には、高速で走る雲の影が流れる。兜岩分岐に着くと、標識には「直進:岩場コース 右:断崖横断コース どちらのコースも最大の危険箇所」と書かれている。直登したいところであるが、この風では危険。右に回り込むことに。
グラグラした木の根を渡ってロープ場から大岩に張り付いてクサリ場へ。南側が大展望ではあるが、足がすくむ。唯一の救いは、稜線の南側であり風が弱いこと。岩場を越して暗く足場の悪い兜岩の裏側へ。濡れた軍手に風が当たって、気化熱が奪われ、指先が冷たくなった。雪用のゴアの手袋に替える。ここでも若い男性に追い越される。
一休みして、すぐに兜岩東に出た。兜岩へは帰路に寄るとして、先を急ぐ。ここからは、比較的なだらかな稜線歩き。いくつかの小ピークを越えていく。今日のらくえぬはかなりバテて、気力だけで歩いているとのこと。難関は越えたが、後、一時間はかかる。多くの登山者に抜かれっぱなしではあるが、あせらずに歩く。時折、日の差す尾根には、すっかり枯れたオヤマリンドウやネバリノギランが続く。ドウダンやカエデの赤い葉が映える。
兜岩から5分ほどで展望のいいピークに出た。第1高原である。山頂まで45分の表示。視界がよければ伊勢湾の大型船まで見えると書かれてある。南側は雲が少なく、奥三界山、夕森山、その向こうには恵那山が望めた。紅葉の始まった目の前の山が赤や黄色のモザイク状で実にきれいだ。
ピークより紅葉の美しいササ原に出て、鞍部から登り返す。この辺りはササの緑にカエデなどの赤い木々がモザイク上に入り混じって、紅葉の最も美しい場所である。登り返して尾根を右に外れて歩く。風は尾根でさえぎられるが、雨の直後でもあり、道はぬかるんで泥沼状態。靴もスパッツも泥だらけになった。
再び明るい草原状の台地に出る。ここが第二高原。標高1910mの表示。山頂まで後30分。最初に追い越された男性2名がササを背にお弁当を食べてみえた。山頂は風が強くてすぐに下山されたようだ。高原を抜けて、樹林帯に入る。相変わらず、水溜りの道が続く。前方になだらかな小秀山の山頂が見え始めた。
樹林帯を抜けて、第三高原。山頂まで15分の表示であるが、山頂はかなり遠くに思えた。高原を横切った先からは、南側の展望がすばらしい。低く流れる雲の下に、恵那山や奥三界山が望めた。この辺りの紅葉も美しい。山頂への最後の登りが始まる。急な登りではないが、さすがにバテてきた。腹も減った。山頂から引き返してくる人に出会う。強風で山頂にいられる状態ではないらしい。セリバシオガマ、ゴゼンタチバナ、マイヅルソウなどの草紅葉を見ながら樹林帯を登りきって山頂に到着。
大岩がいくつかある、ドウダンの紅葉最盛期の山頂は、強烈な風が吹き、誰もいなかった。少しでも風の弱い南側でザックを降ろして、雨具の上着を、厚手の防水ジャケットに着替えた。強風を背に、山名表示板につかまって記念写真。カメラが飛ばされないように三脚を伸ばさずに撮影。途中、撤退も考えただけに、念願の山頂に立つことができて嬉しかった。らくえぬの体調が今一で、超スローペースで登ったというものの、山頂を踏むことができた。
この風では、とても昼食などできる状態ではないので、登ってきた単独男性と入れ替わりに山頂を後にした。ランチの場所を探しながら下る。第二高原で数人が昼食中。我々もこの辺りでと思ったが、平らな場所が無く、さらに歩いて、第一高原手前の最も紅葉が美しいササ原の道脇で、ササを背に風をよけて、目の前に恵那山を見ながら、ランチにした。
熱いカレーうどんがうまい。日が差すと、暑いくらい。相変わらず高速で雲が流れ、厚い雲が来ると、霧雨が舞った。目の前で、尾根を越えてきたガスがロール状に渦を巻く。下山してきた先ほどのパーティーの皆さんに挨拶しながら、熱い緑茶でランチを終えた。
第一高原からすぐに兜岩へ。行きに寄れなかったので、兜岩に登ろうと思ったが、とんでもない強風でとても近づけるものではない。北側の山の紅葉がきれいだったので、潅木から身を乗り出して中判カメラを構えたが、強烈な風圧でカメラが固定できないほど。高速でシャッターを切った。
帰路も断崖横断コースを慎重に通過し、ロープの急斜面を下った。山頂で入れ替わった男性に追い抜かれて、これで我々が最後。そう思うとちょっと淋しいが、計画の4時半には下山できそうだ。三の谷分岐点から右へ。稜線から外れ、風も弱くなったので、ジャケットをザックにしまう。
ここからは、ササつきの天然林をジグザグに下っていく。すぐに二の谷への表示。道は見当たらなかったが、稜線にあった三の谷の表示に繋がる道のなごりであろう。西日を受けながら、よく踏まれたジグザグ道を下る。一部、急斜面や倒木を潜るところもあるが二の谷とは雲泥の差で歩きやすい道である。後方に鶏岩を見ながら単調な道を下る。ササの背丈が高くなり、色づき始めたシラカバが美しい。
黒い雲が迫り、近くの山は雲に覆われ始めた。小雨が降り始めたので、雨具を着る。樹木の切れ間から、下界の集落や周囲の山々が望めた。やがてヒノキの人工林へ。No.2の標識を通過。キャンプ場までまだ1時間15分かかる。幅の広い木の根に覆われた真っ直ぐの道を通過。木の葉や折れた枝などが路面に散乱して風が強かったことを物語っている。
単調な人工林のジグザグがはるか下まで続いている。No.1の表示にはキャンプ場まで55分の表示。単調な道だけに、時間がかかるように思えた。伐採の跡が現れ、小さなお社の前を通過。大山神社の石碑。No.0のプレートにはキャンプ場まで30分。小屋の前を通って林道に出た。
正面に西日を見ながら、ノコンギクが一面に咲く林道を歩く。山頂の天気はウソのように、青空が広がっている。振り向けば、後方の山々の稜線は雲の中。美しい虹が西日を受けてアーチを描いていた。がんばった我々に小秀山からのご褒美のように思えた。
キャンプ場に着く頃、もう1つのプレゼント。アケボノソウが1株、たくさんの花を付けていた。主軸を切り取られており、根元から出たたくさんの茎に小さな花をいっぱい付けていた。アケボノソウは種子で増える。絶えることなく咲き続けてほしい花である。この近くでフシグロという花も見つけた。トイレの青い屋根が見えて、キャンプ場に到着。下山届けを記入した。駐車場には我々の車だけが1台残されていた。
小秀山は噂以上にいい山だった。美しい渓谷や急登、岩登りなど変化に富んだ二の谷コース、展望と紅葉の美しい稜線歩きなど、奥の深い名峰である。ロングコースの山であり、二の谷は滑りやすい木道や渡河、足場の悪い急登、岩登りなど初心者向きではない。十分な装備と慎重な行動が必要。今回の山歩きは強風という異常な気象条件の中で、風対策を学ぶよい体験でもあった。今度は時期を変えて、御嶽山を見るために、もう一度登りたい山である。
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