★貝月山からの展望と地図を見る
貝月山〜小貝月 (1234m 揖斐川町) 2006.3.5 晴れ 8人
揖斐高原スキー場坂内ゲレンデ・ホテル前駐車場(8:12)→ふれあいの森ゲート(8:36)→貝月山登山口(8:57-9:15)→北尾根合流点(9:41-9:50)→大岩・尾根突き当たり(10:16)→貝月山山頂(10:33-10:45)→小貝月(11:12-11:30)→貝月山山頂(11:53-13:23)→日越峠(15:10)→ふれあいの森ゲート(16:27)→駐車場(16:50)
<参加者>sizukaさん、ブルさん、katakuriさん、キーノさん、檀さん、BOGGYさん、RAKU、らくえぬ
深い雪の急斜面をラッセルし、人工林から天然林にさしかかった。斜面に張り付いた8人を猛烈な突風が襲う。ジロモジの枯葉がちぎれんばかりにたなびく。巻き上げられた粉雪が斜面を覆う。見上げれば尾根は雪煙で見えない。身動きできない。今年、1月3日の貝月山オフ登山はふれあいの森から100m先で撤退した。
貝月山リベンジを雪の締まった3月上旬とし、掲示板で声をかけると8人が集まった。天気は最高の予報。昨年、一昨年と雪の時期に貝月山山頂に立ったが、いずれも悪天候で展望は得られなかった。今回は展望が期待できそうだ。急斜面を登ることからアイゼン必携、ピッケルがあれば持参とした。ロープがあると役に立つかもしれないと思い、今まで山歩きに持っていったことはなかったが、10m以上あるゼブラロープを持った。この思いつきが役立つことになる。
8人、久しぶりの対面。檀さん、ブルさんは12月以来、ほかの皆さんは1月3日以来。車2台に乗り合わせて揖斐高原スキー場坂内ゲレンデを目指す。スキー場に近づくにつれて次第に雪が増えてきたが、1月よりはかなり少なくなっている。それでも諸家集落辺りで1m以上はあった。8時前に坂内ゲレンデのホテルに到着。まだスキーヤーの車は少なく、ホテルの玄関近くに駐車できた。駐車料金は1000円。
身支度して、ツボ足でホテルの駐車場から南の林道に入る。ゲレンデ兼用の道からふれあいの森へ続く林道へ。いくつかの足跡やスノーモビルのトレースがあり、3日前に積もった新雪は数センチ。ツボ足でも沈むことなく歩ける。適度な準備運動程度を歩くと赤い鉄ゲート。1月にはすっかり埋もれていたが、今日はゲートの半分が現れている。それでもコッテージの屋根には1mほどの積雪がある。
コッテージ群の間を抜けて人工林の中へ。人工林を抜けてひと登りで再び林道に出れば登山口である。雪が少なくなったとはいえ、登山口を示す表示は雪の下。夏道は急斜面をジグザグに歩いて尾根に出るが、今年は雪が多く道の痕跡はない。ここから人工林をトラバースして、天然林に出たところで尾根までの急斜面を登らなければならない。
登山口でアイゼンをつける。斜面でブルさんを講師に滑落防止訓練をした。ピッケルの持ち方、斜面の歩き方、バランスを崩したときの対処法、滑落停止方法などを改めて学んだ。この訓練が下山時に大きな効果をもたらすことになる。効果の無かった人もいたが・・・。
まずはヒノキ林の急斜面を左へトラバースしていく。1月には深い雪に苦戦した場所であるが、今回は浅い新雪の下は凍ったザラメ雪であり、アイゼンがよく効く。人工林を抜けると枯葉をまとったシロモジがあった。1月に撤退した場所である。ここから、天然林の中、急斜面を真っ直ぐに登る。下を見ると怖いほどの斜面である。ウサギやカモシカの足跡に混じって昨日の登山者のトレースが交差している。
登るにつれて、次第に左手から尾根が近づいてくる。こちらの尾根と合流した辺りから傾斜はなだらかになり、正規の登山道に合流する。今年の雪は例年以上に豊富で、遊歩道のくぼみもない。なだらかになったところで休憩。後方の巨大なブンゲンの山塊が美しい。
ここからの尾根歩きは貝月山の最も魅力あるコース。標高を稼ぐにつれてどんどん立ち上がってくる美濃の山々がすばらしい。木立の無い広い斜面を登っていくと視界が一気に開けた。皆、振り返って山々を指さす。後方のブンゲンの隣にすそ野を大きく広げた美しい金糞岳が青空を背景に白く輝き、北には蕎麦粒山が真っ先に目に付く。中判カメラでこのパノラマを撮る。上から「ここからのほうがきれいに見えるよ」と声がかかる。
広い斜面を登りきって右カーブの雪庇の尾根を歩く。ブルさんが雪に張り付いて北の山の写真を撮っている。いい写真が撮れたに違いない。前方右手に山頂のアンテナが見えた。大岩を回り込んで尾根に出る。この大岩の前には大雪の年でも雪がない。風が岩に当たって雪が吹き飛ばされるようだ。
尾根に出ると東が開けた。ここも大展望。尾根を北まで踏み込んで写真を撮る。ここから90度右に向きを変えて山頂を目指す。東へ大きな雪庇が張り出している。雪庇を避け、尾根の右手を歩き、最後の一登りで山頂到着。
南側の光景が目に飛び込んできた。この光景が見たくて、3年この山に通った。虎子山と国見岳を左右に従え、その奥に堂々たる山容を見せる伊吹山。国見峠や国見岳スキー場がよく分かる。虎子山からブンゲンに至る山模様がすばらしい。大きな2コブのブンゲンの右には優雅な金糞岳が佇む。金糞岳の右に顔を覗かせているのが横山岳のようだ。
北へ目を移すと三周ヶ岳方面の無数の山々がさんざめく。手前にある湧谷山はその中に埋もれていた。北には蕎麦粒山が一際輝く。右の三角形が五蛇池かと思ったが帰って調べてみるとその右の目立たない山が五蛇池山のようだ。天狗山の勇壮。その奥に能郷白山。小津権現、花房、雷倉の三山は一塊になって浮かんでいる。東には鍋倉山の黒い尾根が壁を作る。そして、小貝月が丸い頭をもたげている。
山頂には誰もいない。展望台もアンテナもいつもの年より深く雪に埋もれていた。昨年、大荒れの山頂で食事をしたことが思い出された。ここにザックをデポして小貝月まで足を伸ばすこととした。雪庇を割って、斜面を東に駆け下りる。この先トレースは無い。まだ霧氷が残る木立の中を抜け、緩やかに登って雪庇のできた尾根へ。大展望の尾根を下る。
「すばらしい」の一言。左前方には目的地の小貝月が深い谷を隔てて美しい姿を見せる。雪に埋もれた谷には春を待つ木々が黒いシルエットを創り出している。正面には、国見岳、伊吹山、虎子山がバランスよく並ぶ。絵画のような風景に飛び込んでいきそうな錯覚に陥る。「上高地も良かったがここはそれ以上。一眼レフを持ってくればよかった」とBOGGYさん。
鞍部まで下って右に雪庇を見ながら登り返す。後方にブンゲンや貝月山のアンテナが見える。ピークに着くとかなり広い雪原ができていた。前方に小貝月が姿を現す。もう目の前だ。再び下ってうねった尾根を歩く。比較的大きな3本指の初めて見る足跡が無数にあった。鳥の足跡ようだ。鞍部辺りで南に鎗ヶ先山が見えるのに気がついた。こちらから見てもいい形をしている。
鞍部からひと登りで小貝月山頂に到着。360度大展望の山頂である。一人の登山者がみえた。貝月スキー場から登ってこられたとのこと。東にはスキー場までの尾根が複雑に繋がって見下ろせた。鍋倉山も目の前だ。昨年、12月の雪の忘年登山を思い出す。鍋倉山から右へ続く稜線の向こうに小島山が顔を出している。山頂で記念写真。いつまで眺めていても飽きないが、腹も減ったので貝月山まで戻ることに。登ってきた道を引き返す。
急斜面ではシリセード。sizukaさんはスペード型のソリ持参で、快適なシリセード。帰路は前方にブンゲンや貝月山山頂を見ながら歩いた。貝月山山頂まで戻ってランチに。時折、南から風が吹くので展望台から北へ下りた辺りで、スコップで雪のテーブルを作って宴会場に。今日はBOGGYさんの誕生日であり、今回のオフ会は誕生日会を兼ねた。BOGGYさん、自ら持参のおいしいワインで乾杯。ハッピーバースデーの歌を歌って豪華なランチが始まった。
BOGGYさんの今回のイタリアンはカボチャのニョッキ。弟子のkatakuriさんは同じくイタリアンのカポナータ、キーノさんと我々は煮込みラーメン。チーズや燻製をつまみに、最後はkatakuriさん手作りのフルーツケーキとコーヒー。どこのレストランでも体験できない豪華料理と大展望。話しは尽きない。仲間で登る山は楽しい。我々の他に貝月山へは一名の登山者があったのみ。小貝月には何人かの登山者の姿が見えた。
帰路は日越峠経由で下ることとした。この先、トレースは無い。日越峠へのルートは途中から右の尾根に入り斜面を左にトラバースして峠に出る。左の尾根を直進して峠に出ようかとも思ったが、前に二度歩いた正式なルートを歩くこととした。ブンゲンや虎子山の美しい山容を前に山頂からシリセード。そして美しい尾根や雪原を軽快に歩く。後方にアンテナの山頂が望めた。雪原は迷いやすいが遊歩道の木の杭が目印となる。GPSも威力を発揮した。
雪原を横切って、天然林の急斜面にかかる。ここからが最大の難所。雪の無い時期には並んで歩けるほどの遊歩道ができているが、今年の豊富な雪で急な斜面となっている。潅木が多く、木につかまりながら峠を目指す。新雪が腐ってきて、アイゼンにダンゴができるのでピッケルで払いながら下る。急で木につかまることができないところでは、ロープを木に結んで、補助的に使った。キーノさんが上手にもやい結びをしてくれる。昔覚えたが今ではすっかり忘れてしまった。
急斜面で緊張の連続。一歩一歩、ステップを切りながら慎重に下る。木の杭が遊歩道であることを示す。道は間違っていない。浅い谷を渡り、歩きやすい場所を探しながらゆっくりゆっくり下っていく。峠が見えてきた。「ステップの切り方が浅い」とブルさん。その直後、先頭を歩いていたらくえぬが足を滑らせて15mほど滑落。潅木で止まった。潅木に当たった時に、腰を打撲。打撲程度で済んだのは運が良かった。(このレポートの最後にこのアクシデントの検証をした。)
日越峠まで下りて、メンバーの一番軽いザック2つをsizukaさんに持っていただき、らくえぬはkatakuriさんのストックを借りて空荷で下ることにした。ここからは林道歩きで一安心と思った・・・。ところが、東屋のある林道上部辺りは雪の斜面となっており、ここではつかまる木々もない。滑落すれば止めてくれる木々もない。
8人が一体となって難所を乗り切る。全員がてきぱきと動いた。ロープを結ぶ木が無いのでピッケルに結んで雪の中に突き刺して固定。一人がロープを持って斜面を慎重にトラバースして先でロープをピッケルで固定。ロープを補助にして、全員が斜面を渡りきった。ロープが無ければ足がすくむところだ。こうした斜面を2つほど渡りきってカーブを曲がると、今度は3m程の雪の壁が道を塞ぐ。アイゼンの前爪を蹴りこんで、ピッケルを刺しながら雪壁を登り切って、ロープ場を作った。
西に大きくカーブを回り込んだ辺りから、斜面や雪壁は無くなり、林道をジグザグと下った。帰路、アクシデントや難所の連続で、駐車場に着いた時には5時近かった。下りのルート選定を誤ったことを反省。事前に十分に調べておくべきであった。今回は改めて雪山の厳しさを知る山行となった。そしていろいろなことを勉強した山行でもあった。1つ1つの山歩きの体験を通して、山を知っていく。この体験を今後に大いに活かしたいと思った。そして、協力し、助け合って、難所を乗り切ったすばらしき仲間たちに心から感謝したい。
<滑落の検証>
ここで、らくえぬの滑落を検証しておこう。今後に役立てるためにも。
@ なぜ滑ったのか?
滑った地点は、日越峠50mほど手前。斜面のやや下降するトラバース。数センチの新雪。その下は凍りついたザラメ状の雪。12本爪アイゼンにピッケル。2・3度踏み込んでステップを切りながら、また山側のピッケルで支えれば、滑るような斜面ではなかった。本人によると、緊張して斜面を下り、すぐ先に斜面トラバースの終点となる日越峠が見えたので気を抜いたとたんに滑ったとのこと。また、12本アイゼンでは滑らないとの過信があった。新雪の量も少なく、ダンゴになりにくい地点まで下っていたので、アイゼンの状態を確認しなかったこと、またピッケルで確実に体を確保していなかったことも原因しているようだ。最大の原因は、明らかに気を抜いたことのようだ。慣れたころに事故はおきる。
A なぜ止められなかったのか?
本人によると、滑落したときに、気が付くとピッケルが頭よりも上にあり、ピッケルを体に引き付けて止める体勢をとろうとしたときに、木に当たって止ったという。5mほど滑った程度と感じたらしいが、実際には15m程滑っていた。バランスを崩したらピッケッルを体に引き寄せて、その上に倒れ込むという基本ができていなかった。「これは訓練しかない」と、ブルさん。
今まで、山を歩いていて幾度か事故の現場に遭遇したことがあるが、それがいつ我が身に起きるかもしれない。1回の山歩きで1・2度はつまずいたり、ころんだりすることがあるが、場所によっては重大な事故につながる。今回のアクシデントをよい教訓に、常に初心に戻って山を歩きたい。また、雪上訓練を十分にすべきだと思った。
雪のない時期にはハイキング気分で登れる貝月山も、この時期には様相が一変する。経験者とともに、万全な冬山装備で登られたい。夏山では体験する事のできないすばらしい別世界が待っている。
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