国見岳 (1183m 春日村) 2004.1.25 曇り一時晴れ後雪 2人
国見岳スキー場駐車場(9:12)→(スノーシュー装着)→鉈ヶ岩屋入り口(9:40)→尾根出合い(10:06)→鉈ヶ岩屋(10:41)→国見峠分岐点(11:12)→アンテナ施設(13:07-13:54)→国見峠分岐点(14:18)→鉈ヶ岩屋入り口(14:50)→国見岳スキー場駐車場(15:15)
貝月山に続いて、スノーシューイング第2段。この日曜日は、夕方に用事があり、遠出は無理。どこにしようかと迷った後、再び揖斐方面の山で選ぶことにした。揖斐方面には雪を楽しめる手頃な山が多い。昨年の虎子山、今月の貝月山。次はブンゲン、鍋倉山、鎗ヶ先山、国見岳・・・。
ところが、日曜日の天気は冬型が強まり山間部は雪の予報。雪であれば平野部の低山にしようと、いくつかの山の地図を用意して家を出た。国道21号線を西へ向かう。思ったより天気は良く、揖斐の山々がきれいに見える。目的の山を昨年の夏に歩いた国見岳に決め、揖斐川の堤防を遡った。正面に小津権現〜花房が真っ白に輝いてすばらしい。2日前には岐阜市でも雪が積もったことから、揖斐方面の山はどこも雪が深いに違いない。
小島山を右に、スキーを積んだ車を追って春日村の奥地を目指す。鎗ヶ先山がきれいに見えるが、その奥の国見岳が雲に覆われて見えない。さすがゲレンデの奥の山。スキー場に近づくにつれて雪が増えてきたがさほど多くもない。昨夜降った雪が薄っらと路面に積もっている。小雪がちらちら降り始めた。スキー場手前でチェーンを付ける車を何台か追い抜いて、駐車場入り口へ。誘導員から「この車は4WDで雪の坂道に強いね」と言われ、国見峠への林道入り口の駐車場に入ることができた。このスキー場は駐車料金がいらないのがうれしい。昨年7月に国見岳に登ったときに駐車したトイレ前の場所である。
スキーやボードを用意する人の中で、スノーシューを付けたザックを背負って出発。林道に足跡があったので先発者がいると思い駐車場係の方に聞くと「それは私の足跡。誰も登っていませんよ」との回答。林道をカーブした燃料タンクの場所からは除雪されておらず、トレースも無い。昨日も誰かが国見峠方面に入った形跡はない。
スノーシューを履いて、新雪の上を歩く。ザックに付けた温度計は氷点下3度C。ふかふかの新雪に、スノーシューも貝月山のときよりも沈み込む。それにしても、新雪の上を歩くのは気分がいい。この先、この新雪の想像を絶する逆襲があることも知らず、そんなことを思いながら歩いた。すぐに鉈ヶ岩屋の入り口へ到着。入り口に引かれた水はこの寒さでも凍らずにちょろちょろと流れているのが不思議だ。
昨年7月に登った道。右手の小屋に行かないように谷を登りつめて尾根に出る。小屋への道を分ける辺りから極端に雪が深くなった。谷に雪が集まっているようだ。谷の先への尾根は潅木で遮られている。ルートは完璧に頭に入れていたが、記憶は不確か。谷を登りつめる手前から左の尾根に取りつくことをすっかり忘れていた。10mも先へ進めば左への道を見つけられたが、雪の深さに直進をあきらめ右手の尾根に上がって尾根に向かうことにした。
ここも東斜面で風に集められた雪が多く、スノーシューでもかなり沈む。一歩一歩の前進。木にたどり着いては一息。やっとの事で西斜面に回り込み、雪の少なくなった斜面を登り詰めて尾根に出た。雪に覆われていても尾根の広い登山道は一目瞭然。この先、真っ直ぐに尾根をたどればよい。
雪はすっかりやみ、青空が広がってきたが、山の天候は分からない。雪と風でトレースが消えることも予想されるので、要所ごとに赤テープを結んだ。(テープは帰路に回収) この山の登山道に赤布はない。なだらかな尾根は北風によって雪が飛ばされ、道脇の低い杭が頭を出しているところもあったが、急傾斜になるにしたがい、雪が深くなっていく。風の通り道があるようで、雪が盛り上がったところもある。急坂の手前では極端に雪が深い。道脇の杭の上を歩いたり、潅木につかまったり、ジグザグに歩いたり。2人で交代にラッセル。
前方上方には風になびく白い旗が見えた。岩屋の場所である。岩屋まで行けば、もう少しでピークに出る。岩屋手前の急坂の雪に苦戦して、息たえだえに岩屋へ。標識がかろうじて雪から頭を出していた。岩屋の前にはウサギなどの動物の足跡がたくさんあった。岩の下は動物の隠れ家になっているのだろうか。
この先再び急坂と深い雪。右に大岩を見ながら息を切らしてラッセル。回りの木々が霧氷で美しく、疲れを忘れさせてくれる。ようやくなだらかな道になりピークへ。霧氷の天然林の向こうに丸い国見岳が美しい姿を見せる。山頂は雪雲に霞み、巨大アンテナが見え隠れしている。頭上には雲のベールで覆われた真っ白な太陽が神秘的な表情を見せる。「これるものなら来てみろ」と灰色の国見岳が我々を見下ろしている。
ここまで2時間近くかかった。この具合だとこの先、間違いなく難関が続く。「あのアンテナに到達できないかもしれない」いやな予感が脳裏をかすめた。ピークから一旦下って登り返すと国見峠からの道と出会う。とりあえず、ここまで来れた。この先もトレースはない。
尾根沿いになだらかなヒノキ林の中を歩く。西斜面でもあり思ったより雪が少ない。風が強くなってきた。しばらく歩いて登りにかかるころ雪が深くなってきた。尾根沿いに設置してあるアンテナへ続く階段の入り口に来た。登山道を進むか、階段を利用するか。見上げれば階段は雪に覆われ、所々に手すりの鉄柱やクサリが出ている。正規の登山道はアンテナ手前のロープ場の崖があり、この深い雪の中で崖を登るのは不可能と思われた。アンテナまで真っ直ぐに伸びる階段の雪も1mは積もっているが、手をかけるところがあり、展望もいい。階段を選択。この選択が正しかったかどうかは未だに分からない。
階段をゆっくり登る。潅木がはみ出したところもあり、手で持ち上げてくぐりながら進む。木の霧氷が落ちてくる。階段は途中で傾斜が変わりかなり急になる。スノーシューでも膝まで沈み込む。ペースがぐんぐん落ちる。春日村の集落から正午を告げる音楽が聞こえてきた。腹も減ったが、30分あれば確実にアンテナに着いて食事だと思った。低温のためデジタルカメラの作動が悪い。ICレコーダーも電池切れ状態。
前に進むためには足をできるだけ上げて踏み込むため、スノーシューに乗った雪が後ろに跳ね上げられ、後続者は雪まみれ。とにかく進まない。雪も腰あたり。階段の幅が狭く、スノシューが手すりのポールにあたり、思うように足が動かせない。ツボ足でキックしながら進んだ方がよいと判断して、スノシューをはずす。
雪はどんどん深くなり、手すりのポールも雪の中。掴むものが無くなった。雪の中から両脇のポールを掘り起こして、両手をついて体を持ち上げて前に出る。柔らか雪にキックして踏み出した足は、ほぼ階段まで沈んでいく。足が上がらないと前に進めない。階段は地表より高い位置にあり、幸いにして両サイドの雪は一段下にある。ストックと手で雪をサイドに掻き落として、体の前の雪を浅くし膝で踏んで足を上げる。積雪は1mくらいだが、急斜面では胸あたりまで雪がある。全身雪まみれで砕氷船のごとく進む。
狭い階段ではラッセルの交代にも一苦労。階段のポールがなくなっている終点まで進めば比較的なだらかだ。後15m、後10m。目の前に巨大アンテナと北に突き出たヘリポートが近づいてきた。目の前にあってたどり着けないとは何と情けないことか。せめてもの救いは、東から北の大展望。堂々たる鎗ヶ先も今では眼下に見える。巨大アンテナの上の白い太陽は荒れ狂う回りの雲を虹色に染めて、まるでメドウサのごとく「そこであきらめろ」と叫んでいる。
ポールにもたれかかって一息。ペットボトルのお茶を飲むが、お茶が出てこない。ペットボトルの口に凍り付いたお茶が固まっていた。「ここで断念か」弱音が出た。振り向けば、後方には青い貝月山。女神のような美しさ。声援が聞こえる。「這ってでも登ってやる」雪を掻き落としては足を踏み出す。後5m、後3m、後1m。手を伸ばせば届きそうな最後のポールが遠い。そして、ゴール。
この先、階段はアンテナ施設まで続いていると思われたが雪の中。ウサギの足跡を追って10mも登れば平な場所に出る。歩き始めたとたんに、腰まで雪の中。スノーシューを履いてなかった。後10mのために再びスノシューを付けた。
やっとのことでアンテナ下に到着。山頂ではないが着けると思わなかった場所だけに、喜びはいつもの数倍。1時を回っている。この階段登りで1時間以上を費やした。アンテナ南の広い雪原を回り込んで、施設の東に移動して西風を避けた。時折、頭上を吹き抜ける風でアンテナに付着した氷がパラパラと降ってくる。貝月山やブンゲンなどがすばらしい展望。シシウドであろうか、枯れた花に霧氷が付着して、真っ白な花火のガラス細工がきれいだ。
時間もないので、薫製、缶詰をビールのつまみにして、エビワンタンスープにご飯を入れた雑炊を作った。ザックのサイドポケットに入れていたペットボトルの水は1/3ほどが凍りついていた。スープにタカノツメを1本入れたら激辛雑炊になり、身体が暖まった。
食事中に雲行きが怪しくなった。青空が消え、粉雪が舞い始めた。山頂までは急坂もなく僅かな距離であったが、時間もなかったため、今回はここまでとして、早速後かたづけをして今来た道を戻ることとした。
階段上部から見下ろすと、足がすくむほど急勾配。この坂をよく登ってきたと思った。立って下りるよりもシリセード。ジェットコースターのように一気に傾斜が緩やかになって滑らなくなるまで滑った。下りは快適。ハート型のソリを持ってきたので、岩屋のある直線尾根で滑走を試みた。新雪でなかなか滑らないが、急坂ではよく滑る。勢い余って潅木に突っ込むというハプニングも。
本格的に降り出した雪の中を、新雪を崩すようにスノーシューで滑りながら降りた。行きに尾根に出た地点を直進し、北の尾根を回り込んで登りで苦労した谷に出た。林道に出ると国見峠方面にいくつかのワカンのトレースがついていた。国見岳では誰にも会わなかったので、虎子山への登山者があったようだ。誰にも会わなかっただけに、このトレースを見てうれしくなった。虎子山も新雪に苦戦しているのではないだろうか。
降り続く雪の向こうにブンゲンが午後の日に照らされてオレンジ色に輝き幻想的な光景を作っている。駐車場までスノーシューをはずして歩いた。凍った路面で2・3回転倒して今日の山歩きを終えた。
雪に苦戦しただけに、今回は思い出に残る山歩きとなった。新緑の初夏には想像もできない世界がここにはある。今度、夏に登ったら、あの階段を前に今日の体験を懐かしく思うに違いない。また登らなければならない山となった。
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