トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) 一部誤動作あり
倉見 (927m 本巣市) 2008.3.30 曇り一時雪 2人

道の駅うすずみ桜の里・ねお(8:21)→水道タンク(8:33)→水源かん養保安林鉄柱登山口への分岐(9:17)→山頂南ピーク(10:08)→倉見山頂(10:21-10:31)→山頂北ピーク(10:36)→倉見山頂(10:41-11:34)→水源かん養保安林鉄柱登山口への分岐(12:16)→道の駅うすずみ桜の里・ねお(12:55)

 4月に入ると手力火祭りで休日の山歩きができなくなることから、多忙ではあったが、日曜日に山行に出かけることにした。天気は下り坂。時間予報では午後2時に雨が降り出す。ならば、2時までに下山できる山に登ろう。「岐阜の山旅100コース」のページをめくっていると、「倉見」が目に止まった。取りこぼしている山であり、ヤブの山。雪の消えた直後、木の葉が茂る前がベストのようだ。そして、「岐阜の山旅100コース」の最後のフレーズが登る気にさせてくれた。「奥美濃の中でもこんなに気分の良い山頂が残されているのは、珍しいのではないだろうか。」という文面に・・・。

 ネットで倉見を検索すると、山歩きさんや田作さんのレポートがあり、参考にさせていただいた。一般には道の駅「うすずみ桜の里・ねお」から尾砂谷に入り、水源かん養保安林の鉄柱があるところから登るが、道の駅から北の尾根に取り付いても登れることが分かった。しっかりした登山道が無いことから、GPSには50m間隔でウェイポイントを落とした。

 サクラが咲く国道157号線を北上。道沿いには様々な種類のサクラが植えられており、花の色や開花状態が違っているのがおもしろい。うすずみ桜はまだ早いようだ。樽見に近づくとまず真っ白な能郷白山が目に飛び込んできた。その右に一直線の尾根を見せる山があった。倉見である。うすずみ桜のある高台を左に見ながらひと走りすると道の駅の標示が現れる。標示に従って右折し、道の駅の施設群に入り込んだ。直進していくと右手にふるさと体験工房の建物と広い駐車場が現れる。温泉施設近くにあるトイレに寄って、引き返しふるさと体験工房の広い駐車場の一番隅に停めさせてもらって、身支度をする。空を埋めた雲は薄く、薄日が差すことも。雨はまだ降りそうにない。
 
 尾砂谷林道の標示のある舗装道路を北に200mほど歩くと、左に細い舗装道路が分岐し上り坂となっており、この道に入る。分岐点にある梅の木は満開。ここはウメとサクラが同時に咲くようだ。左に田んぼの土手を見ながら登ると小屋があり、道は人工林の中の深い溝に突き当たって消えている。赤テープがある。左上に水道タンクが見えたので、田の畦を歩いて水道タンクまで行く。ススキが茂る耕作放棄地の田があり、ツクシがたくさん見られた。
 
 水道タンクに着くと、その裏に小さな側溝があったのでこれを伝って人工林に入る。薄い踏み跡がある。セントウソウやミヤマカタバミ、ショウジョウバカマなどの花を見ながら倒木を跨いで斜面を登っていくと、等高線に沿った側溝が現れた。この側溝に沿って左に歩くとコンクリート壁があり、ここから再び人工林に入る。左の尾根に取り付くように斜面を登り始めたところでGPSを確認すると、予定していた尾根ではなく、左の尾根に取り付いていることが分かった。ウェイポイントを落とした右の尾根に移動しようかと思ったが、地図を見ると左の尾根を登っても、主尾根に合流していることから、そのまま登った。
 
 人工林の下草は少なく、どのようにでも登れる。尾根を外さないように登っていく。右にウェイポイントを落とした尾根を見ながら、結構急な尾根を登る。GPSで右の尾根と合流したことを確認。掘り割りの道か谷か分からないような溝が2本ある。掘り割りの左側を登っていく。急登で暑い。長袖Tシャツ1枚になって溝を登る。赤テープがあり、ルートが正しいことを知る。天然林もあるが、人工林が主体。溝はヤブで歩けないところもあり、溝にこだわらず、尾根を外さないように登った。我々に驚いたウサギが溝から飛び出して逃げていった。ウサギに出会ったのは初めてである。
 
 人工林の中に、時折、アカマツがある。アカマツの大木の横を通過。適度な斜面を登っていく。後方には雪に覆われた雷倉が立ち上がってきている。雷倉山腹を横切る雪の林道が目立つ。左手には能郷白山が美しい。道は明瞭。溝が消えなだらかな土手状態の道を左に人工林を見ながら歩く。シカやクマの皮剥ぎを防止するため、ヒノキにタフロープが巻かれている。再び窪んだ道になりミズナラやシロモジの天然林を歩く。シカの糞がたくさん見られた。ため糞であり、カモシカと思われた。
 
 今度は右が人工林。掘り割りの道が続く。登っている尾根は倉見山頂から南に延びる尾根であるが、山頂から南西に延びる尾根もあり、左前方に見える。その尾根に能郷白山が隠されていく。ひたすら登る。帰路、気が付いたがこの付近の人工林から東へ薄い道が分岐しており、これを下ると水源かん養保安林の標示鉄柱がある登山口に出られるようだ。この分岐点にはテープがいくつかあり、ヒノキに巻かれた赤テープにはマジックで「登山口→」と小さく書いてあった。
 
 なだらかになった辺りでマンサクの木が枯れた倒木に押しつぶされて、倒れた状態で花をわずかに付けている。倒木を取り除いて、木を起こした。1時間ほど歩いたのでこのマンサクのところで小休止。パンを食べる。天然林の谷を見下ろすと、満開のマンサクがいくつか見られた。
 
 数分休んで出発。落ち葉を踏んで急緩繰り返す尾根を歩く。左の天然林にはミズナラの枯れ木が目立つ。ここもカシノナガキクイムシの被害が甚大のようだ。かなり急な尾根が現れ、ここは尾根を右に外して人工林の中に道が付けられている。急登をこなして、後方に樹間から雷倉を見る。皮が剥がれているヒノキが目に付く。
 
 人工林との境の尾根歩きは続く。かなり急な尾根をひたすら登ると、天然林の中を歩くようになる。ブナやミズナラの美しい二次林で、道は落ち葉でふかふかしている。尾根が広く、ゆるやかになりヤブ状態になってきた。道も怪しい。適当に歩きやすいところを拾って登っていく。木が雪で押しつぶされて水平に倒れており、歩きにくいが、苦戦するほどでもない。
 
 再び人工林の境に出て、正面のピークを目指し、急斜面を登る。約50m間隔でテープがあり、また小枝が鉈で切られ、人の入り込んだ痕跡が見受けられた。なだらかになると窪みに残雪が現れた。GPSで山頂南側のピークに到達したことを知る。平坦な地形でピークが分かりにくい。GPSでピークが右方向にあることを確認して、残雪を踏んでピークに立った。ピークから北へ大きな溝状の窪みが下っており、雪で埋まっている。この溝の右側の道を下る。テープが続く。
 
 この辺りから山頂にかけてが、この山のクライマックス。「岐阜の山旅100コース」の最後の記述、「奥美濃の中でもこんなに気分の良い山頂が残されているのは、珍しいのではないだろうか。」という文面どおり。この雰囲気のいい天然林はなかなか出会えない。癒しの世界に身を沈めて、山頂を目指す。無数の木々の中、薄い踏み跡をたどって、鞍部からゆるやかな左回りで登っていく。落ち葉の上に白い石屑が散らばっている。うるさいヤブも気にならないほど気分が良い。
 
 ピークから15分弱で三角点のある山頂に到着。ジャスト2時間。倉見の小さな表示板が2つ見られ、三角点の周りには4つの白い石が置いてあった。樹林帯の中で、葉を落とした木々を通して能郷白山や雷倉が望めた。東には岩岳に続く稜線が大きい。記念写真を撮って、まだ雨は降りそうにないので、北西にあるピークまで行ってみることにした。ヤブは薄い。北側の谷には残雪が豊富で、美しい景色を見せてくれる。下って登り返し、5分ほどでピークに立った。古いテープがゆれている。岩岳へは倉見山頂から北東の尾根を下るが、このピークは岩岳縦走の通り道とはならない。この先の尾根も歩けるのであろうか。このピーク付近にも残雪があり、カモシカの足跡が横切っている。ここに人が訪れたのはいつのことだろうか。手付かずの自然が残る美しいピークだ。
 
 この雰囲気を楽しんだら、倉見山頂まで戻ってランチにする。雨に降られないように、山頂スタートを11時半と決め、手早く昼食を準備した。メニューはラーメンとドライカレー。同時並行で、コーヒーを沸かした。無風で山シャツだけでも寒くない。静粛の山頂にガソリンストーブの音が響く。頭上に目をやるとクリタマバチの寄生した虫コブが見られた。クリの木のようだ。落ち葉の上にクリのイガがいくつか落ちていた。
 
 熱いコーヒーを飲みながら、改めてぐるりと周囲を見回す。灰色の空に溶け込むようにブナやミズナラの木々が取り囲む。このモノクロの空間は、すぐに緑にあふれるだろう。そして夏が終わり、錦の季節が過ぎると、深い雪に覆われる。この山の四季のイメージが、早送りのように脳裏を巡った。身近な山で、こんなにすばらしい自然が残されていることに感動を覚えた。コーヒーを飲み終える頃、塵のような白いものがスローモーションのように舞い降りてきた。雪だ。いつの間にか、能郷白山が見えなくなっていた。雷倉の山頂付近も白く霞み始めている。おそらく今シーズン最後に出会う雪だろう。このなごり雪が、この山の印象をさらに深いものにしてくれた。雪はすぐに止んだ。後片付けをして、山頂を後にする。
 
 山頂から少し下ったところでわずかに木が邪魔しているが、岩岳方面がきれいに見えた。また、ヤドリギをいくつかぶら下げたブナの大木があった。この山の主のような気がして、立ち止まり頭を下げた。いつまでもこの美しい自然が残されることを願って。ピーク付近にイワウチワの群落が見られた。新緑の始まる頃、イワウチワが美しい花を見せてくれるにちがいない。ピークを通過して天然林の下りにかかると、再び雪が舞い始めた。雷倉が雪で霞んでいる。
 
 天然林の歩きやすい場所を拾っていくと、いつの間にか踏み跡が消えて急斜面となり、登ってきたルートで無いことに気が付いた。GPSを見ると、登りのトレース上を下っているが、画面を拡大すると30mほど西の位置にいる。ピーク付近は明瞭な尾根が無く、西へ寄りすぎたようだ。木々の間から、人工林が左下方に見えたので、それに向かうが、ヤブ状態のため、等高線に沿って左に歩いた。水平に伸びた潅木を跨いだり潜ったりして、登ってきた踏み跡にたどりついた。
 
 消えていく雷倉の稜線を正面に見ながらぐんぐん下っていく。尾砂谷登山口への分岐を通過して登ってきた道を、掘り割り溝を目印に下っていく。かなり下ったところで、溝が交錯し、踏み跡が不明瞭になった。人工林でGPSも電波を捕捉していない。尾根を拾いながら適当に下っていくと、踏み跡が現れ、それをたどると水道タンクの上にあったコンクリート側溝に出た。赤テープがある。帰路は、登りに予定していた尾根を着実に下ってきたようだ。側溝を横切って、薄い踏み跡を下ると、涸れた谷に出た。深くて横切れないため、右に歩いて浅くなった辺りで谷を渡ってヤブをこぐと、小屋のすぐ上の田のあぜ道に飛び出した。あぜ道を歩くと、たくさんのツクシがあった。ザックを背負ったままツクシ採りに夢中になる1名。その間に、あぜ道に咲くタチツボスミレなど花の写真を撮った。小雨が降り始めた。午後1時であり、ほぼ天気予報の雨の降り出す時刻が当たっていた。雪雲でかき消された雷倉の稜線を見ながら、駐車場まで戻った。
 
 靴を履き替えたら、尾砂谷林道途中からの登山口を確認するため、林道を車で上がった。5分ほど走ると、山側に水源かん養保安林と書かれた鉄柱があり、倉見登山口と書いてある。鉄橋や滝があり、キケマン、ボタンネコノメソウ、ユリワサビ、ヤマルリソウなどが咲いていた。夏にはいかにもヤマビルが出そうな場所である。なお、この山旅で、スミレサイシンの群落に出会った。気品のある大きなスミレに大感動。
 
 倉見はカイドブックどおり、山頂付近は手付かずのすばらしい自然が残されていた。展望地はほとんど無いが、山頂付近の天然林はすばらしい。まだ、近場にこんなすばらしい山がある。予想したよりもヤブは薄く、忠実に南尾根をたどれば山頂に到達する。しかし、道は踏み跡程度。登り始めは尾根が拾いにくい。掘り割りの溝も交錯している。人工林でGPSが機能しないところもある。ピーク手前やピークから山頂までの天然林も、尾根が不明瞭で、踏み跡も怪しい。赤テープが目印になるが、拾いにくいところもある。踏み跡が消えておかしいと思ったら、深入りする前に、引き返すことが鉄則。潅木に葉が付く季節は、ヤブが手ごわいかもしれない。また、ヤマビルも多いと聞く。山頂付近にもう少し残雪がある時期に登ってみたいと思った。
 
 道の駅で買い物をして駐車場を出る頃、雨が本格的に降り始めた。倉見山頂付近は雪かもしれない。白くフェードアウトしていく倉見の稜線を後方に、雨の国道157号線を下った。


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