トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部誤動作・未記録あり・黄色点線は自転車のトレース

呉枯ノ峰 (532m 滋賀県) 2009.9.27 晴れ 2人

水道タンク下の空き地(10:08)→稜線(10:32)→三ツ頭(10:51)→呉枯ノ峰山頂(11:11-12:06)→田上山公園分岐点(12:11)→菅山寺分岐点(12:28)→近江天満宮分岐点(12:35)→近江天満宮(12:41)→菅山寺本堂(12:51)→近江天満宮分岐点(13:06)→菅山寺分岐点(13:13)→車道(13:45)→大鳥居(13:50)

 呉枯ノ峰と書いて「くれかれのみね」と読む。美しい響きのこの名前に誘われて、この休みに登る山に選んだ。呉枯ノ峰は滋賀県木之本町の市街地の東側に位置する低山である。ネットで下調べをして、伊香高校裏の水道タンクを起点に山頂を経由した後、菅山寺に寄って、坂口集落に下る周遊ルートを計画した。スタート地点に戻るためには、木之本町内を一時間ほど歩かなければならないので、折りたたみ自転車を車に積んで、自宅を出発。

 国道21号線から国道365号線に乗り継いで木之本町に入る。登山口へは木ノ本町の市街地に入る手前の国道303号線「東横町」の信号三叉路を北東に曲がり、すぐに左折して狭い坂道を伊香高校方向に北上。左に伊香高校のグランド入口を見てすぐ右に墓地が現れる。さらに坂を登ると、右手に携帯電話アンテナ施設と左手前方に水道タンクがある。アンテナ施設に隣接して駐車スペースがある。ここに停める前に、自転車を下山口付近に置くため、木之本の狭い道を北上。北陸自動車道の高架を潜り国道365号線に合流した付近に大きな神社があったので、この辺りに下りてくるだろうと考え、自転車をデポ。後に下山した場所はもう少し北の坂口集落の中心部だった。
 
 水道タンクまで戻って空き地に車を停める。1台の車が停まっており、登山者があるようだ。駐車場を後に水道タンク方向に進み、車道の右の土手の上の道を歩くと、青いプラスチックのプレートに呉枯ノ峰の標示があった。ここから山道に入る。落ち葉の積もった掘れた道を、保安林の標示板を見ながらジグザグと登っていく。大きなアベマキの実がたくさん落ちている。常緑樹も多い。単調な道を登ると、次第に稜線が近づき、30分弱で明るい稜線に飛び出した。

 ここから左に向きを変えて、陽の当たる尾根を歩く。展望のいい場所があり、前方に見えるなだらかな稜線を持つ山は己高山、右後方の格好のいい三角形の単独峰は小谷山。ナラやアカマツなどの高木のある稜線の斜度はゆるやかで、アサギマダラやキマダラヒカゲが飛んでいる。ホツツジがまだ花を咲かせている。左側にヒノキの植林地が現れ、ヒノキの幹にはシカの食害を防ぐために、青いテープが巻いてある。この山もシカが多いようだ。

 ツルリンドウやコウヤボウキを見ながら歩くと、木に「始点」「終点」と書かれた白いプレートのある場所に着いた。ここが、三ツ頭と呼ばれる場所のようだ。なだらかな道が続き、稜線を右に外したり、左に外したりして歩く。木漏れ日の落ちる緑の稜線に癒されながら歩くといきなり三角点が現れた。一等三角点である。青いプレートにマジックで呉枯ノ峰とある。呉枯ノ峰山頂に到着。歩き始めてちょうど1時間。後半、標高をほとんど稼いでいないことから、あっけなく山頂に到着したような気がした。山頂の大きなホオノキの葉が枯れ始めていた。

 山頂には先着の単独男性が1名のみ。我々と同じ岐阜市からみえたとのこと。山談義をしながら三角点の前でランチ。メニューは冷やしソバと缶詰。男性から己高山の話を聞いた。登山口となる己高庵の温泉に行くということで、登ってきた道を下っていかれた。コーヒーの後、菅山寺に向かう。
 
 山頂を後に、なだらかな道を歩く。5分ほどで「田上山公園1.6km」の標示。ここを下れば、田上山を経て伊香高校付近に下ることができるようだ。いくつかの倒木を跨いだり潜ったりして山頂から20分弱歩き、標識の立つ分岐点を通過。ここは直進。ここから3分ほどで大きな看板のある小広場に出た。4つのルートが交差する場所であり、西側には木之本町の田園と霞む琵琶湖が見える。今回の山旅では展望地が少なく、ここは貴重なビューポイント。看板には菅山寺のルートが書かれており、周回できる。ここで看板をよく見ておけば、菅山寺の建物の配置などが分かったのだが・・・。
 
 琵琶湖を眺めたら菅山寺に向かうため右方向へ、一段と広くなった道を下る。地図を見ると100m以上下るようだ。登り返しを気にしながら、どんどん下っていく。この辺りはブナ林となっている。眼下の樹林帯の間に建物の屋根が見えた。そして、すぐに分岐点に。右は近江天満宮の標示。標示に従って天満宮方向へ下る。ツリフネソウやカシワバハグマを見ながら右山で下っていく。先ほど見えた建物の屋根からかなり離れていくので道を間違えたのではと、GPSと地図を確認。左下方に池が見えたのでそのまま下る。この時、菅山寺には多くの建物があるとは思いもしなかった。
 
 ミカエリソウの花を見る頃、目の前に大きな神社の建物が現れた。近江天満宮である。神社の前には大きな朱雀池があった。天満宮でお賽銭を投げ、建物の裏に回ってみると、切り開きの空間があり、対面する山の鉄塔と、左に双耳峰の横山岳が望めた。タチツボスミレの花を見ながら神社の前から池を時計と反対周りに歩く。朱雀池の半分以上が水草に覆われ、我々に驚いた大きな錦鯉や真鯉が浅瀬から逃げていく。この池はモリアオガエルの生息地でもある。
 
 五所権現の建物を右に見ながら歩き、トチノキの大木の下を通過。苔むした幹が歴史を感じさせる。石段を登り、右方向に歩くと正面に石の階段と大きな建物が現れる。段差の高い石段を登ると、菅山寺の本殿の前に出た。しっかりした木造の建物で、1692年に建立されたとの標示がある。赤く塗られた柱は長い歳月に色あせ剥げ落ちているが、この山の中で朽ちることも無く今に至る寺の姿に圧倒される。
 
 菅山寺は、菅原道真公ゆかりの寺である。道真公が6歳から11歳まで勉学をした寺であり、寺の名前の由来も菅原の一字を取って名づけられたようだ。本堂の右には鐘楼があり、鎌倉時代の1277年に建てられたもので、屋根の下の彫刻は見事な造りである。本堂左の一段高いところには如法経堂があり、格子窓から中を覗いてみると、傾いた収納庫などが乱雑に置かれていた。
 
 鐘楼から小さな石仏が並ぶ道がさらに続いている。左へ山道が上がっているが、広い道を行く。山側の石仏は首が無いものも見られ、廃仏毀釈がその理由とも聞く。直進して左に向きを変えると宝蔵庫が現れ、正面に2つの巨木とそれに挟まれた山門が立ちはだかる。これが有名な菅山寺のケヤキの大木である。菅原道真が44歳の時に植えたといわれるケヤキで、樹齢1000年余、幹回りは6mもある。細い注連縄が巻かれた幹の根元には苔やユキノシタが張り付いて、その風格は堂々たるものだ。山門を潜って広場に出て、改めてケヤキを見上げる。我々は近江天満宮の標示にしたがって分岐を右に下ったが、真っ直ぐに下ればこの山門に至る。菅山寺へのルートはここから歩くのが正しい歩き方かも知れない。しかし、逆周りに歩いた締めくくりがこの巨木であることから、その感動は大きい。

 山門を抜けて、何か異次元の世界に迷い込んでいるような気持ちになった。「千と千尋の神隠し」の世界さながらである。これだけの歴史的建造物が建つにもかかわらず、ここは無住の地。今、この森は静粛に包まれているが、日が暮れると、この山の神々がこの山門を潜って寺院や神社に集まってくるのではないかとさえ思えた。そんな光景を想像しながら、山門を後に「菅山寺自然園」の看板を見て護摩堂、庫裏を回る。庫裏の前のイチョウの巨木の下に置いてある焼却炉がこの地には不釣合いに思えた。赤白のゲンノショウコが咲く道を山門まで戻って近江天満宮と菅山寺の見学を終え、西に歩く。右手の墓石群は歴代住職の墓のようだ。広い山道を登って木柱の立つ分岐点を通過。標高差100mほどを10分足らずで登った。

 下山は「坂口・里坊弘善館」の標示に従って下る。この道は、菅山寺の参道であり、道幅が広く、ところどころに石仏が佇む。いくつかのアケビの実が路面に落ちている。人か動物が落としていったものであろう。石仏に手を合わせながらどんどん下っていく。しだいに自動車道を走る車の音が聞こえてきた。クリのイガがたくさん落ちており、小さなクリが散らばっている。こんなに登ったかなと思うほど下り、稜線から30分ほどでようやく車道に出た。ここが坂口集落の登山口となる。

 北陸自動車道の高架を潜ると、右に弘善館と呼ばれる資料館があったが、閉館していた。玄関脇に菅山寺の絵図が置いてあり、今、見てきた建物を確認。本来なら、この資料館で事前に知識を得て歩くのがいいようだ。正面の赤い鳥居を目指して集落道を真っ直ぐに下る。赤い大鳥居には大箕山の名があり、石碑には天満宮の文字。呉枯ノ峰は別名「大箕山」とも呼ばれている。風になびくコスモスを見ながら、南に歩いて坂口集落を抜け自転車をデポした神社に向かった。
 
 滋賀県の山は歴史的な見所が多く、呉枯ノ峰は菅山寺・近江天満宮というすばらしい建造物を見ることができる。新緑や紅葉の時期には、さらに楽しめるだろう。迷うような道はなく、今回のように周遊する場合、自転車が無くても坂口集落からは木之本の町並みを散策しながら伊香高校付近まで1時間ほどで歩くことができる。町の中の見所も多い。1日かけてゆっくりと歩きたい名山である。

 帰路、山頂で男性から聞いた己高山の登山口となる己高庵を下見。ここのお湯に浸かって汗を流した。今度は、己高山に登ろう。
★呉枯ノ峰の植物
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