★経ヶ岳の展望と植物を見る

経ヶ岳 (1625m 福井県大野市) 2007.11.4 曇り・晴れ 2人

駐車場(8:11)→登山口(8:13)→アダムとイブ(8:40)→保月山(9:00-9:06)→釈氏ヶ岳(9:42-9:47)→中岳(10:02)→切窓のコル(10:17)→経ヶ峰山頂(10:48-12:35)→切窓のコル(13:01)→中岳(13:16)→釈氏ヶ岳(13:27)→保月山(13:56)→林道(14:36)→駐車場(14:38)

 経ヶ岳は今年必ず登ると決めた山であったが、今になるまでそんなことをすっかり忘れていた。今年も後2ヶ月を切ったところで、そのことを思い出した。丸黒山、三方岩岳とロングコースの山が続いたところで、今回も3時間コースの山として経ヶ岳を選んだ。毎回、思いつきの無計画な山決めである。久しぶりの福井県の山歩きとなる。

 経ヶ岳は福井県大野市にあり、荒島岳と対峙するように並ぶ名峰。野伏ヶ岳に登ったときに経ヶ岳は実に美しい山容を見せてくれた。昨年、冬の大日ヶ岳からもはっきりと純白の経ヶ岳が確認できた。荒島岳に登ったときには、霞んでぼんやりと経ヶ岳の輪郭を確認した程度。どうしても登らなければならない山である。

 8時に歩き始めることを目標に、6時前に岐阜市を出発。東海北陸自動車道の白鳥ICから無料の中部縦貫自動車道に入って九頭竜ダムの美しい紅葉を見ながら西進。荒島岳の登山口となるカドハラスキー場の駐車場のトイレに寄る。さすが100名山の荒島岳。さまざまな県のナンバープレートの車でトイレのある駐車場はいっぱいだった。その中に山ねずみさんの車を発見してびっくり。ちょっとニアミス。

 国道158号に戻って、勝山方面に走り山道を抜けて集落のある田園に出る。六呂師高原の看板に従って右折し、道なりに走って突き当たりをここでも右折。スキー場に近づくと緑色の「広域基幹林道 法恩寺線」の標識が現れるのでこれに従って、再び右折。紅葉の舗装道路を対向車に注意しながら登って行く。10分ほど走ると道は下りにかかる。登山口を通り過ぎたのではと思いながら車を走らせると、歩いてくる男女2名の登山者とすれ違った。谷コースへ向かう登山者のようだ。再び登りにかかり、展望が良くなると数台の車が停まっている路肩左の駐車場に着いた。右には大きな石碑がある。この場所はスキー場上部であり、ススキの穂の向こうにはすばらしい展望が広がっている。西に長い尾根を持つ荒島岳が美しい。その右に見える山は銀杏峰、部子山のようだ。ここの駐車場は標高約800mであり、今、この辺りの紅葉が最盛期であり、周囲は全山紅葉。

 身支度をしてノブドウの青い実や花の終わったツルニンジンを見ながら林道を1分ほど西へ歩くと右手に「経ヶ岳登山口 保月山コース 山頂まで約4300m」の表示。左はスキー場へ下る道があった。丸木階段を登って山道に入る。黄色に紅葉したイタヤカエデを見上げながら歩くとすぐに谷状の岩の急な登りになる。岩の道はすぐに終わり、左に向きを変え、雪で曲がったミネカエデなどの幹をまたいでトラバースしていく。紅葉は最盛期からやや終盤。トラバースもすぐに終わり、再び北東に向きを変える。
 
 道は尾根状態でなだらかになり、左には谷を隔てて紅葉の山が望めた。カエデ類の紅葉が美しい。また、クロモジが多く、黄色に紅葉した葉は一際目立つ。足下には、カンアオイやフユイチゴの緑色の葉が見られた。道の両脇にはササも見られ、ブナの木が増えてきた。色づいた葉はまだ全て散っておらず、秋色の美しい林が続く。ブナの樹肌が一際白く光って見えた。夏の緑のブナ林からはとうてい想像ができない癒しの空間の中を歩く。
 
 歩きはじめて30分ほどしたところで「アダムとイブ」の標識が現れた。2本の木が地際で融合している。ブナとミズナラであり、ミズナラは枯れているかと思うほど葉が少なかった。それでも根元から出た細かい枝が見られた。なだらかな道が続く。時折、急な登りもあるが、それもわずか。単調な道であるが、散ったばかりのブナの枯葉をカサカサ踏んで、周囲の美しい林を見ながらの登りは退屈しない。イワウチワの葉がたくさん見られる。
 
 高度を上げるにつれて、樹上の葉も少なくなり、明るい林になってきた頃、保月山山頂に着いた。三角点があり、1272.8mの表示。「白山山系緑の回廊」の大きな看板があり、南側の切り開きからは荒島岳や部子山が望める。北にはこれから登る釈氏ヶ岳と中岳のササの山が望めた。パンを食べてエネルギーを補給し、出発。展望のいい尾根をわずかな上り下りを繰り返しながら歩く。アカミイヌツゲの赤い果実がたくさん実っている。足下には枯れかけたノギランが見られた。左手のセピア色の山には所々に黄色い紅葉の木が散らばっているのが見下ろせる。
 
 保月山から10分ほど歩いて急降下。正面には釈氏ヶ岳が大きい。下り終えた鞍部付近はすっかり葉を落としたブナの林で、銀色に輝くブナの幹や枝が絡み合って異次元の世界のようだ。ここから釈氏ヶ岳への登りが始まる。傾斜が増し、丸木で作った梯子を2つ登る。登り切ると展望のいい尾根に出た。岩尾根で、岩は丸い礫が混ざってさざれ石のようになっている。岩尾根から前方に経ヶ岳の頭が望めた。その左は中岳、右は釈氏ヶ岳。釈氏ヶ岳山頂まではまだ登りが続きそうだ。
 
 馬の背の尾根から右に回り込んで大岩の直下を巻く。右手に荒島岳が見える。ロープに掴まって尾根に出て、今度は大岩の左を巻く。正面にはゴツゴツした大きな岩が迫る。岩の間を登って尾根に出ると経ヶ岳の頭がさらに見えるようになってきた。前方の斜面を登る2名の登山者が見えた。なだらかな尾根道を歩いて斜面に取り付く。潅木の間の浅く堀割れたような道を登る。ササも多くなってきた。この辺りも雪で大きく木が曲がっている。まだアキノキリンソウが元気に黄色い花を咲かせていた。急登が次々と現れ、ロープが設置してあるところもある。湿った岩は滑るので慎重に登った。

 前方が開けて釈氏ヶ岳山頂に到着。目の前に経ヶ岳が美しい姿を現す。これには感動。なんと美しい山であろうか。ここでいきなりこの美しい山容を見せてくれる演出がいい。三ノ峰から別山を見たときの姿に似ていると思った。1組の夫婦が休息を終えて出発するところだった。釈氏ヶ岳山頂はササに囲まれて360度の展望が得られる。登ってきた方向には先ほどの大岩の峰が突きだしており、その向こうには荒島岳や大野市の平野が望める。東には野伏ヶ岳や小白山の山並みも見える。雲が沸くこともなさそうなので、山の同定は山頂で行うことにして、先を急ぐ。まずは、目の前に見えるササの丸い山の中岳を目指す。

 ササは広く刈り取られており、経ヶ岳山頂からうねうねと右へ延びる尾根を遮るものは何も無い。すばらしい展望を楽しみながら歩く。所々に葉を落としたナナカマドが真っ赤な実を一杯付けて青空に映える。湿地のようなところもあり、地形が比較的平らであることが分かる。気持ちのいい遊歩道を蛇行しながら下って、目の前に近づいた中岳に取り付く。登りはわずか。釈氏ヶ岳から15分で中岳山頂に着いた。ノンストップで目の前の経ヶ岳に向かう。小さな池を見ながらササの道を緩やかに下っていく。刈り取られたササが道に散らばって滑りやすい。ぐんぐん経ヶ岳が近づいてくる。この辺りから見る経ヶ岳が最もすばらしい。山頂に向かってササの尾根を登る人が小さく見える。あまりの美しさに中判カメラを出して経ヶ岳を撮った。
 
 道は急傾斜になり、ロープのある滑りやすい斜面を下る。斜面の距離が長いため、結び目のある3本のロープが設置してある。下り終えて鞍部を歩くと、「切窓」の標識。切窓のコルと呼ばれる場所で、右へ谷コースが分岐している。先行していた夫婦に道を譲ってもらい、いよいよ経ヶ岳本丸の登りにかかる。切窓から経ヶ岳山頂までの標高差は約250m。これを一気に登る。

 気合いを入れて、ゆっくりペースでササの道に取り付く。先ほどまで美しい姿を見せてくれた経ヶ岳は、ここからは見上げれば巨大な斜面である。すぐにとんでもない急斜面が待ち受ける。地面はぬかるんだ黒土にステップがついている。周囲はササで掴まるものなど無い。一歩一歩の前進。きつい登りだが、振り向けば、中岳や釈氏ヶ岳のすばらしい展望に心がなごむ。

 一直線の道で、一気に標高を稼ぐ。あっという間に中岳を眼下に見る。ここで転げ落ちたら、ササの中を切窓のコルまで真っ逆さまに落ちていくに違いない。滑らないようにゆっくり登っていく。右手下方は火口原と言われる平坦地があり、日に輝くササの海の中に赤や黄色の紅葉した木々がまるで珊瑚礁のようにきらめいている。なんと美しい光景であろう。

 背丈以上あるササの道の登りは続く。かなり登ってきた。ササの丈が低くなり、左に向きを変える。石の多い道を通って、丸木階段が崩壊した場所を通過。明瞭な尾根に出て、右に崩壊地を見ながら登っていく。山頂は間近。下ってくるご夫婦に出会った。三重県の方だった。左に見える建物のある山の名前を尋ねると、法恩寺山だと分かった。

 ひと登りで山頂に到着。念願の経ヶ岳の山頂を踏んだ。まずは展望。北〜西はササが盛り上がって展望はないが、白山がぎりぎり望めた。その右は別山。そして、三ノ峰、二ノ峰、一ノ峰、銚子ヶ岳へと峰が続く。昨年、上小池から三ノ峰に登ったときに歩いた尾根がよく見える。別山の手前には赤兎山が横たわる。避難小屋も見える。東には薙刀山、野伏ヶ岳。大日ヶ岳も小さく見える。そして、御嶽山がはっきりと確認できた。さすが大きな山だ。乗鞍岳や恵那山も確認できた。

 山頂は広く、三角点や表示柱があり、福井大学のワンダーフォーゲル部が昭和40年に経ヶ岳登山道を開いた記念石碑もあった。さらに山ねずみさんの小さなプレートが木柱の地際に付けられていたのには驚いた。今日は山ねずみさんに縁があるようだ。山頂では数名が展望を楽しんでみえた。

 ササの中で三角点を探している人があり、聞けば三角点はこの広場から1分ほど歩いたササの中にあるそうだ。ザックを下ろして、ササの道に踏み込む。背丈以上のササの中には踏み跡があり、ざわざわとササを掻き分けて踏み跡をたどる。途中、湿地もあり、靴はベトベト。1分ほど歩いて、三角点を見つけた。プレートが三角点に立てかけてあった。狭い場所なので、交代で三角点の写真を撮った。

 展望を求めてさらに北へ歩いてみた。下りかけたところで、白山方面のすばらしい展望が広がった。赤兎山から大長山への稜線も見える。単眼鏡を覗くと、三ノ峰の避難小屋や白山の南竜の小屋が確認できた。このまま歩けば赤兎山にたどりつく。法恩寺山コースもこの道だ。それにしてもササが濃い。ここで谷コースを登ってきたご夫婦と出会った。林道を車で登っているときに出会った方であった。

 十分に展望を楽しんだら山頂に引き返してランチにする。メニューはおでんナベと稲荷寿司、焼きそばに缶詰。白山を眺めながら今回も最高のランチ。三角点方面から数人のパーティーが泥だらけで登って見えた。聞けば法恩寺山コースを登ってきたとのこと。かなり悪路のようだ。次々と訪れる登山者で山頂は30名以上になった。さすが人気の経ヶ岳。晩秋とは思えぬ温かい陽だまりの中で、熱いコーヒーを楽しんだ。間もなくこの山も深い雪に覆われるだろう。

 2時間近く山頂でのんびりして下山にかかる。山頂から切窓までの急降下は慎重に下った。中岳から釈氏ヶ岳への峰は動物の背中のように見えるのがおもしろい。この大展望の写真を撮るのに夢中で、斜面の泥に足を取られて転倒する場面も。帰路は中岳、釈氏ヶ岳、保月山へと登り返しがあるが、思ったよりも難なく登り返した。山の恵み、アクシバの赤い実を少しだけいただく。甘酸っぱくて美味しい。今回も紅葉や木の実の写真を撮りながら下った。保月山からの下りは、秋の柔らかな午後の日ざしを受けてブナの紅葉が一段と美しい。枯葉がヒラヒラと舞う道を軽快に歩いた。

 山頂から2時間ほどで駐車場に戻ると、紅葉を楽しむ家族連れの方々で賑わっていた。西に傾いた太陽の光を受けて、周囲の山々が一段と赤く見えた。今回もいい山旅ができた。実に変化のある美しい山だ。谷コースや法恩寺山コースも歩いてみたいと思いながら、谷コースの登山口を確認して帰途についた。
 山のリストへ