美濃平家岳の花と展望を見る

美濃平家岳 (1450m 関市) 2007.6.23 晴れ 2人

新深山トンネル出口登山口(6:41)→49番鉄塔(7:22)→48番鉄塔(7:32)→47番鉄塔(7:45)→46番鉄塔(7:53-7:58)→45番鉄塔(8:08)→44番鉄塔(8:25)→43番鉄塔(8:44)→42番鉄塔(8:59-9:06)→41番鉄塔・1373m三角点(9:20)→40番鉄塔(9:42-9:49)→39番鉄塔(9:59)→38番鉄塔(10:11)→美濃平家岳山頂への分岐(10:17)→美濃平家岳山頂(10:30-10:37)→鉄塔巡視路合流(10:49)→37番鉄塔・1413mピーク(11:05-12:04)→38番鉄塔(12:20)→39番鉄塔(12:30)→40番鉄塔(12:41)→41番鉄塔・1373m三角点(12:57-13:01)→42番鉄塔(13:10)→43番鉄塔(13:18)→44番鉄塔(13:33)→45番鉄塔(13:45)→46番鉄塔(13:54-14:02)→47番鉄塔(14:07)→49番鉄塔(14:22)→登山口(14:52)

 梅雨本番。この週末は仕事や町内行事などで山行は計画していなかったが、土曜日の天気予報が前日に雨から晴れに変わった。梅雨期の貴重な晴天の日は山に行きたい。2人の予定をやり繰りして、午後5時までに自宅に戻れば山行は可能。近場で登ってない山を探したが決まらない。日の一番長い時期、ロングコースでも美濃の山なら5時までには戻れるのではないかと考え、以前から登りたかった美濃平家岳を選んだ。最近、「クーの山小屋」で話題になった山でもある。

 美濃平家岳は旧板取村の北部にある川浦渓谷の奥の登山口から、南北に連なる長大な尾根に設けられた鉄塔巡視路を福井県境近くまで歩く。その距離は約6kmあり、11本の鉄塔を経由する。山頂へは巡視路を外れてヤブをこぐ。福井県にある平家岳はそのすぐ北に位置する。

 早朝5時過ぎに自宅を出て、山県市から旧洞戸村を抜け、旧板取村のアジサイロードを北上する。ちょうどアジサイの花が満開で、パステルカラーの花がどこまでも続く。思わぬ拾い物。板取川温泉を通過したらすぐに川浦渓谷の表示に従って左折。300mほど走ってここでも標識に従って左に入れば後は1本道。キャンプ場の案内を見ながら川浦渓谷へ。渓谷の橋を渡ってすぐに右側にあるきれいなバイオトイレに寄る。ここから登山口まではわずかの距離。

 新深山トンネルを抜けると右側に草地の広場があり車を止めた。数台駐車できる。満車の時は少し先の広い路肩やトンネル出口を左折したところの空き地に駐車可能。登山者の車は無かった。身支度をして出発。登山口の表示はないが、鉄塔巡視路の割れた黄色いプレートにマジックインキで49番と書かれ、赤テープが結んである。

 空き地の隅の谷川のところから丸木の階段が急斜面に続いている。渓流の音を聞きながら、天然林の急斜面に取り付く。昨日の雨で濡れた地面を踏んで、先が長いことを思いながらゆっくりゆっくり足を上げ、ピッチをつかむ。15分ほど登り、左に谷を見る尾根を通過。右手は人工林。コアジサイが薄紫の花を咲かせており、林の間をちらちらとシャクガが舞う。ギンリョウソウやアカチシオタケと思われる赤いキノコを見ながらスギ林を右山でトラバースして天然林の中、ジグザグの急登。樹間に後方の山を見ると、かなり高度を稼いでいる。足下には花の終わったチゴユリやフイリシハイスミレが見られた。まだ渓流の音が聞こえる。

 再び、右にスギ林を見て数分登ると鉄塔下に出た。最初の49番鉄塔である。終点は38番鉄塔。先は長い。鉄塔下からは西に鉄塔を持つ2つの山が望めた。最初の鉄塔で稜線に出たと思ったが、稜線まではまだ標高差50m以上ある。ノンストップで登り、鉄塔から10分弱歩くと稜線に出た。展望はなく、すぐ左上を高圧線が通っている。高圧線を追うと鉄塔が現れた。地面に散らばったエゴノキの花が美しい。マルバノキやシロモジなどの灌木が多く、秋の紅葉もきれいにちがいない。

 48番鉄塔到着。西側が開けているので鉄塔下の斜面に登って周囲の山々を眺めてみた。ここの標高は897m。登山口の標高はほぼ500mであることから、一気に400mを登った。残りの標高差550mを約5km歩いて登ることになる。鉄塔を後に、右山でうっそうとしたブナ林に入る。稜線とは思えぬ広い樹林帯に、朝日が差し込み、落ち葉の林床に縞模様を作る。

 ブナ林を抜けた辺りで前方に鉄塔が見えた。右山で伐採地をトラバースしていく。巨木が切り倒され痛ましい。周囲の灌木が登山道にはみ出して、枝の水滴が衣服を濡らす。ストックで水滴を払いながら歩き、再びブナ林の平坦地を横切って47番鉄塔の横を通過。この鉄塔は登山道から10mほど東に入ったといころにあった。花茎を伸ばし始めたクルマバハグマを見ながら、引き続きブナ林をゆるやかに登っていくと、10分も歩かないうちに46番鉄塔に到着。

 ここから南側、180度の展望がすばらしい。高賀山の三角形が真っ先に目に飛び込んできた。その手前は高賀山とは対照的に丸い頭をした蕪山である。左には雲海の中からまるで富士山のような形で浮かぶ美しい山が見えた。恵那山のようだ。この時期には珍しく空気が澄んで、すばらしい眺望である。眺望を楽しみながら、パンを食べて一息。まだ4番目の鉄塔である。先は長い。鉄塔の番号は鉄塔の先端に大きく表示されているが、鉄塔下からは見えない。あまりにも鉄塔が多いので、歩いているうちに何番だったかを忘れてしまう。手前で標識を確認すればいいのだが、それも忘れてしまう。

 5分ほど休んで出発。ブナ林を抜け、稜線を右にまたいでなだらかな道を歩くと45番鉄塔に着いた。長い稜線を歩く山であり、日に照らされながら、いくつものピークを越えるイメージを持っていたが、ここまでは大部分が日陰の樹間歩きで、ピークも少なく、ほとんどが緩やかな登りの稜線である。暑いこの時期に、木陰を歩けるのはありがたい。

 45番鉄塔から左山で細い道を20mほど下る。山側から落石がみられ、急斜面の細い道であることから慎重に通過。鞍部から登り返す。オオウラジロノキの実であろうか、花の後、着果しなかった実がいくつか落ちていた。

 急なブナ林を登っていくと44番鉄塔に到着。樹林帯の向こうに次の鉄塔が見える。この鉄塔からいったん下って登り返す。大きなヒノキの株を左に見ながら歩く。この辺りにはヒノキの大木が多い。シャクナゲの群落を通過。残念ながら花期は終わっているが、実に変化に富んだ稜線で、退屈しない。ホウチャクソウやトンボソウと思われるランの葉を観察しながら樹林帯を急登し、稜線をさらに急登して43番鉄塔に出た。

 この鉄塔も一級の展望地。南には高賀山や蕪山が見え、遠くには多度山の峰が望めた。濃尾平野も見える。この時点で同程できた山はこの程度だったが、帰って写真を分析してみると日永岳や船伏山、そして驚いたことには天王山や誕生山が写っていた。濃尾平野の低山からも美濃平家への稜線を見ることができるようだ。休憩は次の鉄塔と決めて先を急ぐ。鉄塔から10分ほど登ると、展望のいい稜線に出た。むき出しになった斜面にロープが設置されており、落石しやすい状態。石を落とさないように、ロープ場を登り切る。

 ここからも後方180度が大展望。今、歩いてきた緑色の稜線が眼下を埋める。鉄塔がコースを示す。かなり登ってきた。地図を見ると標高1300m手前である。展望のいい道を歩くと青空に映える42番鉄塔に到着。ここで2回目の休憩。この辺りにはたくさんのドウダンツツジの木があり、まだ花が残っていた。ピンクのストライプはサラサドウダンであるが、中にはきわめて薄いピンク色の花もあり、個体ごとに花色に変化があるようだ。

 展望とドウダンの花を楽しんで、先へ続くササの道へ入る。前方の一段高い稜線に次の鉄塔が見える。鉄塔歩きも終盤に近づいてきた。右山でブナ林の中、ゆるやかな登りが続く。地面にたくさんのドウダンの花が落ちている。見上げれば真っ白な花をいっぱいに付けたドウダンの枝が頭上を覆う。花のトンネルである。ドウダンの花の色は真っ白であるが、形はサラサドウダン。後日、調べてみるとサラサドウダンには白花もあるとのこと。先の鉄塔で見たピンクのサラサドウダンの葉柄は赤色をしているが、白花の葉柄は緑色をしていることに気がついた。樹間から左側に能郷白山が望める。手前の峰は左門岳のようだ。

 ブナの大木やサラサドウダンを見ながら、なだらかに登っていくと41番鉄塔に到着。41番鉄塔は1373.7mの小ピークに建っており、すばらしい展望地である。真っ先に御嶽山の姿が目に飛び込んできた。久しぶりの出会いである。帰路に気がついたが、41番鉄塔下を東に踏み込んだところに三等三角点があった。

 やや下って水平に歩き、登りにかかる。ササ付きの灌木地帯を通過。道脇のタニウツギが満開で美しい。正面に見える鉄塔がしだいに近づいてきた。ササ付きのブナ林に入る。エゾハルゼミの鳴き声であろうか。ジイジイという声が大きくなった。稜線に出てこの声を耳にしてきたが、この辺りの鳴き声が特に大きい。この声に負けないようにいろいろな小鳥がさえずる。ウグイスとカッコーの鳴き声だけが分かった。ウグイスに似た声で「テッペンカケタカ」と聞こえる鳴き声はホトトギスだろうか。地面に白い小さな花びらが所々に落ちている。見上げると、バラ科の花のようだ。木が高く、また逆光であることから花の名前を確認できなかったが、ウラジロノキかアズキナシではないかと思われた。

 ササの道をミドリユキザサやツクバネソウを見ながら40番鉄塔に到着。何と、鉄塔が2本あるではないか。そしてここでも御岳が・・・と思って、よく見るとなんと白山だった。ちょうど美濃平家岳の上にみえるのが面白い。白山の雪を残すなだらかな山容が美しい。その手前、左にきれいな三角形を見せる山が平家岳、その右に間近に迫った高台になったような山が今日の目的の美濃平家岳である。ここから山頂までの標高差はわずか。39番鉄塔がやや低い位置に見える。展望を楽しみながら、ゆるやかに下っていく。

 セミの声を聞きながらサラサドウダンのトンネルの下を10分ほど歩いて39番鉄塔。ここにも2本の鉄塔がある。平家岳の展望地でもある。美濃平家岳は目の前。下って登り返す。左方向へ向きが変わったのでGPSを見ると、美濃平家岳の直下を歩いている。登山口は38番鉄塔の先にある。右山でトラバースして38番鉄塔下に出た。ここからの展望も一級。平家岳はもちろん、西には能郷白山、屏風山などが美しい山並みを見る。屏風山の山容は意外な形を見せる。いつものピラミダルな姿を見ることはできない。それでも個性ある形をして美しい。後方には歩いてきた稜線上の4本の鉄塔が望めた。北には次の37番鉄塔が建つ1413mピークが単独峰として空中に浮かぶ。まるで天空の城を思わせる。

 最後の鉄塔を後に山頂を目指す。マイヅルソウが可憐な花を咲かせている。山側にある美濃平家岳への登り口を探しながらゆっくり歩いていくと、2つの赤布が下がっていた。しかし道らしき跡は無い。もう少し歩くとクランクに折れ曲がった場所があり、曲がり角からまっすぐに斜面を登っていく薄い踏み跡があった。赤テープもにぎやかだ。この先へ巡視路を歩いてみたが、登り口はない。クランクまで戻って、ヤブ突入に備え軍手を出す。
 
 北斜面であり、昨日の雨が乾ききっておらず、ササの滴が降りかかる。斜面は泥道で滑りやすく、両手でササやら灌木を掴んで登る。ナナカマドやバラ科の白い花が頭上を覆う。薄い道を一登りして、さらになだらかなヤブをこぐと、小さな空き地に出た。美濃平家岳の表示板がある。山頂到着。木立とササヤブの中で、展望はない。小さなハエがまとわりつく。記念写真を撮って、早速撤退。滑る斜面をゆっくり下って巡視路に出た。
 
 まだ11時前だったので欲張って37番鉄塔まで歩くことにした。美濃平家岳の山腹を離れて下り、やせ尾根を通過して小ピークを越える。咲き遅れたイワカガミが見られた。ノギランの花はこれからだ。いつの間にか、白山は右に移動し、前方に裾野を広げる。東に見える長い山容は鷲ヶ岳や白尾山。その向こうには乗鞍や北アルプスが連なる。
 
 大展望を楽しみながら1413mピークへ。北には遮る物が何もなく、巨大な平家岳が居座る。ここから平家岳への縦走路は大きく下って登り返す。帰宅時間の制限がなければ平家まで行けそうであるが、今日はここまで。次は、福井県側からここまでをつなごう。眼下に見える鞍部には小さな小屋が見下ろせた。平家岳への登山道がはっきり見える。白山や能郷白山の展望を楽しんだら、鉄塔下の日影で昼食にする。メニューは五目チャーハン。料理に水を使わないチャーハンは夏の定番料理。目の前に先ほど登頂した美濃平家岳を眺めながらコーヒーを沸かした。ラピュタに登場する天空の城の草原を思い起こさせる場所である。
 
 食事の後、単眼鏡を覗くと平家岳を目指す登山者が見えた。平家岳の美しい姿を脳裏に焼き付け、今度は向こうからこのピークを眺めることを約束して、37番鉄塔を後にした。帰りは、花やキノコの写真を撮りながら長い稜線を下った。思ったよりも登り返す場所が少なかった。
 
 暑い中、37番鉄塔から2時間50分ほどかかって登山口に出た。冷たい谷水で顔を洗い、靴を履き替えた。緑の稜線が強烈に印象に残る山だ。秋もすばらしいにちがいない。今日は誰にも出会わなかった。ロングコースのため、登る人は少ないのだろう。今度は福井県側から平家岳を目指したい。

 いつもなら、ここでレポートは終わるが、今回はおまけ付き。

 その夜、風呂でふくらはぎに5ミリほどの赤い反転ができているのに気がついた。よく見ると、斑点の中心に針を刺したような傷がある。ダニの刺した跡ではないかと思った。するとらくえぬが、背中に虫が付いていたのでつぶしてしまったという。

 背中を見ると、3ミリほどの黒い物が付いている。2つの小さな触角のようなものが皮膚に食い込んでいる。間違いなくマダニのアゴが残っている。毛抜きで引っ張ってみるが全く抜けそうにない。このままにして病院で取ってもらうのがいいと思ったが、どうしても抜いてくれと言うので、ゆっくり引っ張り続けた。黒い触角の部分は抜けたが、思ったとおり針のような細い口の部分はちぎれて皮膚に残ってしまった。こうなるとどこにあるのか分からない。

 後日、病院に行き、皮膚を切開して針を抜いてもらった。一針縫う手術だったらしい。マダニが怖いのはツツガムシ病などの感染症であり、感染症と気づかず処置を誤って死に至るケースもある。発病まで1〜2週間の潜伏期間があり、発熱などがあった場合には、山に入ったことを医師に告げて、感染症の処置をすれば大事には至らないらしいが、万一のこともあるそうだ。病院では大事をとってこういった処置をしたとのこと。

 マダニに食われたのは初めての経験。取らないでそのまま皮膚科に行くのがベスト。おそらく美濃平家岳へのヤブの中で食われたと思われるので、夏場の登山は要注意。
トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
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