母袋烏帽子山からの展望とトレースマップを見る
母袋烏帽子岳 (1341m 郡上市) 2006.1.29 晴れ 2人

母袋スキー場センターハウス(8:48)→登山口(9:15)→林道横断(9:28)→林道横断・山頂まで1660m表示(9:51-9:53)→稜線・小ピーク(10:23-10:32)→ピーク(10:45)→笹の道表示板(10:52)→母袋烏帽子岳山頂(11:11-13:31)→ピーク(13:49)→小ピーク(13:58)→林道横断・山頂まで1660m表示(14:10)→林道横断(14:22)→(道を誤る)→登山口(14:33)→スキー場センターハウス(14:49)

 雪山を歩きた〜い。この日曜日は1月には珍しく、日本列島が移動性高気圧に覆われて快晴の天気予報。3月頃の陽気になりそうだ。それなら、展望のいい山に登ろう。伊吹山や揖斐方面の山を考えていたが、白山や御岳がよく見える山にしようと、思いついたのが旧大和町にある母袋烏帽子山。

 この山は2001年の11月に登っている。クーの山小屋の常連さんであるカッペさんと葵のMさんに出会った思い出の山でもある。あれから4年。その当時、こんなすばらしい交流の始まりになるなど思いもしなかった。2人との出会いとともに、ササの稜線を左に白山、右に御嶽を見ながら歩いた記憶は今でも鮮明に覚えている。

 母袋烏帽子岳は母袋スキー場を起点に尾根を真っ直ぐ登っていくイメージであり、途中に急登があるが、雪のない時期なら1時間半ほどで山頂に達するファミリー向きの山である。雪の時期にも大いに賑わっているだろうと予想し、基本としてスノーシュー、踏み固められた登山道用にアイゼンを持った。

 東海北陸自動車道を北上。美並IC手前から渋滞。ここから先が対面通行になることからスキーの時期には慢性的に渋滞するようだ。渋滞を避け、美並ICを下りて大和町へ向かう。大和ICの入口を過ぎ、「徳永」の信号交差点を右折。数分走ったところで母袋スキー場の案内看板に従って左折し2車線道路を登る。雪が多くなってきた。スキー場までは案内板が誘導してくれるので間違えることはない。

 スキーヤーの車を追って、2つ目のスキー場駐車場に駐車。駐車料金は土日のみ1000円。このスキー場は小さく、ファミリーが主体。スキーの身支度をする親子に混じって靴を履き替え、スノーシューを抱えてセンターハウスまで凍った道を歩いた。ちょっと場違いな格好。

 センターハウスのトイレに寄って、ゲレンデ左から除雪されたキャンプ場への道をスキー場の音楽を聞きながら歩く。オートキャンプ場の取り付きから先は除雪はされておらず、ここでスノーシューを履く。雪は今朝の寒さで凍り付いておりツボ足でも全く問題はないのだが・・・。

 かすかなスノーシューのトレースがある。昨日の足跡のようだが、昨日の強風で消えかかっている。オートキャンプサイトを跡に、トレースを踏みながら林道を大きく左方向に回り込む。林道脇の木の根からいくつもの太いつららが固まって垂れ下がっていた。回り込んで右に向きを変え、倒木を除けながら歩くと三叉路。この分岐点に黄色い大きな木製の矢印と小さな登山口と書かれたプレートが雪の上に頭を出していた。

 人工林に入る。暗いヒノキ林の中、トレースを追って15分ほど登ると林の切れ間に出た。林の切れ間はなだらかに真っ直ぐ上がっている。倒れ込んだ潅木を除けながら10分ほど登ると林道に出た。トレースは50mほど左から再び人工林に入っている。取り付きから人工林に入りトレースに合流。急な登りを経てなだらかな尾根となる。いくつものウサギの足跡が行き交っている。

 急緩繰り返しながら人工林の尾根がゆるやかに蛇行して続く。朝日が林に差し込み、木漏れ日のモザイクが雪面を温かく覆う。木々から落ちてきた水滴で無数の穴ができているのがおもしろい。そんなことを思っているのもつかの間。この山最大の急登にさしかかる。スノーシューのヒールリフターを上げて、ジグザグに登る。凍り付いた垂直に近い盛り上がりもあり、スノーシューが苦手とするところ。

 息を切らして登り切ると再び林道に出た。ブドウ糖を食べて一息。最近のブドウ糖は個包装で食べやすい。林道を横切って再びヒノキ林に入るが、そこに山頂まで1660mの表示。これからが本番である。人工林に入ったところで西の白山方面の山が見えた。真っ先に純白の野伏ヶ岳のダイレクト尾根が目に飛び込んできた。昨年、あの美しいダイレクト尾根を登った記憶が甦った。

 人工林の中をしばらく登ると、先ほどまでたどってきたトレースが無いことに気がついた。この山は2回目であるが、記憶は曖昧。赤布もほとんど見当たらない。郡上市大和町のHPに記されていた母袋烏帽子岳の登山ルートを参考に、GPSにウェイポイントを等間隔で入力してきたので、ここからはGPS頼り。GPSで確認すると、ルートから西へ外れている。林道からの取り付きで直進してしまったことがコースを外した原因のようだ。

 人工林の中を右へ寄りながら登ると、天然林の浅い谷が現れた。正式なルートは谷を隔てた尾根の向こう側を通っているようだ。見上げれば天然林の雪の斜面が真っ青な空を背景に稜線へと続いている。正式なルートに戻らなくてもこのまま登ればピークで合流することが分かった。

 動物の足跡しかない浅い谷を登っていく。この辺りの木々はあまり大きくなく、また疎林であり、どのうようにでも歩ける。新雪ではないので、沈み込みも少ない。表面の凍った雪を踏むたびにパリパリと音を立てる。倒れ込んだ潅木を迂回しながら障害物競走のように木々の間を抜けていく。

 いつしか浅い谷は消え、比較的急な斜面となった。朝日に木立が雪面に美しい曲線のストライプを描く。氷の結晶が宝石のように光り輝く。誰もいない。人工物は何もない。青い空、白い雪、澄んだ空気、冬の日差し、木立の光と影・・・無機質とも思える空間の中で、芽を膨らませて春を待つ無数の木々の生命力を感じながら、この美しい世界に溶け込んで歩く感覚がすばらしい。この斜面にたどり着いただけで達成感を感じた。

 所々、足が上がらないほどの段差ができており、木に肘をついてスノーシューを持ち上げた。標高を稼ぐにつれて面白いことに気がついた。雪面にモザイクの奇妙な模様ができている。無数の小鳥の足跡のようにも見える。よく観察してみると、どうやら木の枝に付着していた霧氷が陽に当たって落ちた模様のようだ。自然はすばらしい芸術家である。

 ぐんぐん青空が近づき、稜線の小さなピークに登り詰めた。ピークというよりは出っ張りのようなところである。稜線の向こう側の折り重なる雪の山々に開放感。林道から50分の登りの疲れがすっかり吹き飛んだ。少し先の尾根で一息。この先には山頂手前のピークが大きい。GPSのウエイポイントに合流したことを確認。10分ほど休んでピークを目指す。

 左右の大展望を眺めながら斜面に取り付き一登りでピークに出た。「オー」目の前に堂々の御嶽山、その北に乗鞍。南に目を向けると尖りの恵那山とは思えない山容の恵那山があった。左には白山から南へ続く真っ白な山々が並ぶ。今日、この山に来てよかった。もう、山頂に行かなくてもいいとさえ思った。

ピークから僅かではあるが一旦下る。ピークから鞍部までは風の通り道のようで、強風が作った雪の溝がいくつもできていた。雪庇もできかけている。ヒールリフターを下げ、雪を巻き上げながら美しい風紋を蹴散らして鞍部まで下りた。鞍部から尾根歩き。「笹の道」の表示板を通過。雪が無い時期には登山道の脇はササで覆われているようだ。

いろいろな動物の足跡や霧氷の散った残骸、木の根元のつららなどを見ながら雪庇の尾根を登って再びピークへ。ここも左右大展望。平に近い尾根をやや右へ振りながら歩く。右側に木々は無く、大きな御嶽や乗鞍、穂高を見ながらの天空ウォーキング。山頂は目の前。本日のクライマックス。

 木立の間を縫って、今つけられたばかりのウサギの足跡を追いながらひと登りで丸い真っ白な山頂に着いた。ゴールのテープを切るように足も心も軽快に、山頂の雪原にトレースを付けた。山頂に立つブナの大木がやさしい木肌で我々を迎えてくれた。大勢の登山者で賑わう山頂を想像していたが、ここには青い空と白い雪とブナの木と我々しかいない。いつもより遙かに大きな達成感。

 静粛に包まれた中で、我に返って、360度の大展望に気がついた。東には恵那山、御嶽山、乗鞍岳、穂高岳、笠ヶ岳、北には白尾山が目の前だ。西に移動すれば双コブの白山、別山、大日ヶ岳、薙刀山、野伏ヶ岳。どれも真っ白である。美しい三角形は毘沙門岳、荒島岳は昨年、毘沙門岳から見た時と同じ姿を見せる。その南には未踏の県境の山々。さらに南に伊吹山が浮かんでいた。4年前には、ここから見える山をほとんど登っていなかったが、今では山頂に立った山がいくつもある。

 山頂を動き回って何枚もシャッターを切った。中盤カメラを持ってこればよかったと今回も後悔。山頂には大きな鉄製のボックスがあり、また東西南北を示す矢印もあった。30分ほど展望を楽しんで、ブナの大木を背に、御嶽山の見える場所で昼食。4年前にカッペさん達と話しをしたのもこの辺りだった。

 風もなく小春日和。1月とは思えない陽気の中、岐阜県の名峰をつまみに最高のビールを楽しんだ。うどんを入れた辛いキムチ鍋が旨い。デザートはぜんざいとコーヒー。パーコレーターから湧き上がる湯気の向こうに広がる山々をいつまで見ていても飽きない。ふと、上を見上げて驚いた。青空に広がったブナの枝が銀色に輝いて頭上を覆っている。美しい・・・。

 昼食後、空荷で1つ北のピークまで歩いてみることにした。北のピークはこの山頂よりも高いように見えた。距離は僅か。少し下って登り返す。夏道はないが、木々の間を抜ければ難なく歩ける。昼の日差しに雪はすっかり緩んでおり、スノーシューにダンゴができる。踏まれていないため、ピーク手前で片足がスッポリと雪の中に埋まってしまうハプニングも。ピークはミズナラなど木々が多く、夏には展望はないが、この時期はすばらしい。白尾山がより大きく見えた。東西に雪の尾根が下っており、どちらへも下りて行けそうだ。

 記念写真を撮って山頂へ引き返す。丸い山頂が逆光に映えて美しい。ついに誰も登ってこなかった。こんなすばらしい山を2人じめしてしまった。こんなことも珍しい。ザックを背負って、名残惜しいが山頂を後にした。正面に春めいた陽を見ながら、逆光の尾根を下った。高賀山群のシルエットが美しい。ピークへの登り返しは、雪の段々模様が美しい影を作っている。

 小ピークから斜面を、自分たちのトレースを追って下った。急な斜面ではシリセードを試みるが、重い雪であまり滑らない。林道を横断し、人工林の急斜面ではシリセードでよく滑る。必ず登山口へ続く林道に出ることが分かっていたので、人工林ではトレースを追わずに下へ下へと適当に下った。思った通り林道が現れたので滑るように林道に飛び出した。登山口よりも東に出たと思い込み、西に少し歩くと正面の山の様子がおかしい。GPSで確認すると、登山口よりも200mほど西に下りていた。人間の感覚はいい加減のものである。ここでもGPSが役に立った。

 Uターンしてカモシカの足跡を追い、すぐに黄色い矢印のある登山口に着いた。スキー場までの林道でもシリセードでショートカット。雪まみれでセンターハウスに着いた。センターハウスには温泉があり、ゆっくりしていきたいと思ったが、帰路の渋滞を避けるため、早めに帰ることに。

 駐車場から今歩いてきた烏帽子岳方面が見えた。冬の母袋烏帽子もすばらしい山だ。雪があっても比較的短時間で山頂に立つことができる山であるが、登山ルートに赤布は少なく、トレースが無いと人工林では迷いやすい。GPSは強い味方。万全の体制で登っていただきたい雪山である。夏道を一度歩いておくのがベスト。感動の空中散歩を体験するために、また登りたい山である。

 帰路、ここの名物である「母袋燻豆腐」「生湯葉」を買うために、ゲレンデ下の豆腐屋さんに寄った。店の奥さんが「寄っていただけるスキー客はほとんどいませんよ。」と言いながら、加工場の奥から商品を持ってきていただいた。ワサビ醤油で食べる生湯葉は絶品である。
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