トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)  点線は推定トレース

夏焼山・兀岳の展望と植物の写真を見る

夏焼山・兀岳 (1503m・1636m 長野県) 2008.5.17 晴れ 2人

木曽見茶屋駐車場(9:04)→パノラマコース登山口(9:05)→展望台(9:08)→<パノラマコース>→夏焼山山頂(9:44-9:54)→<展望コース>→コケの沢コース分岐(10:16)→樹木園コー分岐(10:21)→コケの沢コース合流(10:27)→ミズバショウの川(10:30)→管理棟・カエデの森コース分岐(10:38)→<カエデの森・奥石コース>→奥石コース途中ピーク(10:58-11:04)→県民の森広場案内板(11:15)→<馬の背コース>→峠の森コース分岐(11:52)→夏焼山山頂(11:55-12:41)→峠の森コース分岐(12:44)→<峠の森コース>→大平峠・兀岳登山口(12:55)→清内路表示地点(13:23)→兀岳山頂(13:50-13:57)→清内路表示地点(14:20)→大平峠(14:35)→<旧大平街道>→県道合流・トイレ(15:03)→木曽見茶屋駐車場(15:20)

 夏焼山は長野県の南木曽岳の南に位置する標高1500mほどの山である。大平県民の森のエリア内にあり、大平峠が標高1350mほどあることから、登る高低差はわずかで、超低山の部類に入る。しかし、県民の森にはいくつかのコースが整備されており、また大平峠の南には兀岳がある。夏焼山と組み合わせれば、1日山歩きが楽しめる。展望もあり、花もありそう。この週末は夏焼山と兀岳に登ることにした。

 アプローチは南木曽岳と同じである。中央自動車道を中津川ICで下りて、国道19号線を東進。長野県に入り、南木曽大橋を渡った次の信号交差点を妻籠の案内に従って右折して256号線へ。妻籠宿を通過し、ホテル木曽路や南木曽岳への道を左に見ながらしばらく走り、左に富貴畑への道を分けるとすぐに左に大平峠の案内が現れる。案内方向へ256号線から左折して狭くなった舗装道路を大平峠へ向かう。カーブを繰り返しながらどんどん登っていく。登るのがいやになった頃、大平峠県民の森案内板が現れる。ここに車を停めて旧大平街道を登れば大平峠に至るが、今回はこの先にある木曽見茶屋から登ることにして、さらに車を進める。なお、ここの県道は今日の山歩きの終盤に通過することになる。

 案内板から3分ほど走ると小さな一軒屋の木曽見茶屋が現れる。道路の山側には10台ほど停められる駐車場があった。ここに駐車して周囲を散策。木曽見茶屋の営業時間は短く、この日は午後3時半までであった。トイレは茶屋の隣にある。夏焼山周辺の案内図や近代短歌の最高峰と言われる斉藤茂吉の解説板などがある。最も興味を引いたのは木曽五木が並べて植えてあること。ヒノキ、サワラ、ネズコ、アスナロ、コウヤマキの実物を一度に見ることができ、その違いがよく分かる。駐車場の横には展望台へ上がる階段があった。展望台へは下山してから寄ることにして、夏焼山を目指す。
 
 夏焼山の登山口は、県道を大平峠方向へ1分ほど歩いた左側にある。「夏焼山入り口(パノラマコース1.6km 60分)」と「展望台0.1km」の表示がある。右山で下り気味に歩くと、茶色いアンテナの立つベンチがある広場に出た。正面には緑色の南木曽岳が大きい。展望を楽しんだら広場手前から急な丸木階段に取り付く。針葉樹や広葉樹が入り混じる尾根を登って行く。大きなトチやヒノキ、ホオノキ、ブナなどが並ぶ。木漏れ日の中、小鳥の声を聞きながら10分ほど歩くと夏焼山まで840mの表示。表示からササの斜面の階段を登っていくとヒノキであろうか、幹が3つ又になった大木があった。どのようにしてできたのであろうかと、木を見上げる。

 急緩繰り返しながら尾根を登っていくと、地面に緑色の動物の糞がいくつか見られ、食い散らかしたササの筍が落ちている。前方の茂みがざわめき、木立が揺れている。サルの群れが我々に驚いて、尾根の両脇に散っていった。これから花を咲かせるユキザサを見ながら急登をこなすと、ベンチのあるピークに出た。夏焼山山頂まで330mの表示。行く手に見える丸い山容が夏焼山のようだ。
 
 鞍部から山頂に向かって急な丸木階段を登って行く。5分ほど登り、岩のある場所を通過。岩の上からは南木曽岳が目の前に見える。眼下の新緑が美しい。シジュウカラが葉を広げ始めたミズナラの枝でさえずり、さわやかな風が稜線を越えていく。パノラマコースという名はこの辺りの状況から付けられたのであろう。
 
 最後の急な道を登って夏焼山山頂に到着。山頂には1組のご夫妻がみえた。西・北・東の展望がすばらしい。なんといっても南木曽岳の大展望地。残念ながら御嶽山は見えないが、西にはなだらかな山容の恵那山が望めた、また摺古木山方面にはいくつかの山が重なり合い、その山の名前が手製の模式図に描かれていた。手前の尖った山は奥石岳、その奥が床浪高原と書いてある。帰ってカシミールで見るとアザミ岳とある。その奥が摺古木山のようだ。
 
 写真を撮ったら下山開始。山頂から北へ延びる展望コースを下ることにした。県民の森広場まで45分の表示がある。前方に奥石山を見ながら急な階段を下っていく。シラカバやブナなどの天然林はちょうど葉を広げ始めた時期であり、美しい遊歩道を折り返すように下る。たくさんのシロバナエンレイソウが美しい花を咲かせている。下りきって登り返すと、大きなブナの木がある。その先には遊歩道の脇一面にマイヅルソウの絨毯が広がっている。残念ながら花はこれから。緩やかな起伏を縫う遊歩道はすばらしく美しい。
 
 丸木階段を一気に下って、蛇行しながら時計と反対周りで小ピークを越えていくと分岐に到着。右に行けば、コケの沢コース経由で広場に達する。この時点で、遊歩道の詳しい地図がなかったため、県民の森の全体像が分らない。時間もあるので、ここは直進して、奥石山経路に向かう。5分ほどで再び分岐。摺古木コースと樹木園コースに分かれている。直進して摺古木コースに行くと広場から離れていくように思われたので、右の樹木園コースに入る。左山で歩き、1405mピークを巻く。この辺りの新緑も見事である。
 
 表示の無い分岐が現れたので、右に下ると主道に出た。コケの沢コースであり、西に行けば100mで先ほどの分岐に出られるようだ。せっかくなので道をつなぐために西に歩く。木橋を渡り、再び橋を渡る。川にはミズバショウが咲いていた。ここがミズバショウの川であり、戻って正解。すぐ先には15分前に通過した分岐点があった。コブシの花が終わりかけていた。Uターンして、コケの沢コースを東進。沢の両岸を歩くコースが整備されており、ギンリョウソウやタチツボスミレの花を見ながら歩くと、すぐに建物や車が見えてきた。県民の森広場である。

 カエデの森コースの表示があったので、谷沿いに北に行ってみる。谷が狭くなったところで沢を渡って再び北に登る。スポーツコースの分岐を過ぎてさらに登る。後方に見える夏焼山と同じくらいの標高まで登ってきた。この先、道はどこまでも続きそうなので、小ピークで引き返すことに。後に、このコースは奥石コースであることが分かった。パンを食べて一息。南には兀岳も見える。腰に白い帯のあるカケスが目の前を横切った。
 
 Uターンして、カエデの森コース途中から南に下って行くと未舗装の車道に出た。右には県民の森広場と建物、木道などがあった。案内板を見て、広場の中央から馬の背コースを登ることにした。この広場はスキー場跡らしい。トイレもある。草原の木道を歩いていくと、建物のベランダから男性に声をかけられた。この建物は県民の森の管理棟で、男性は管理人さんだった。園内のコースマップをいただき、コースの状況や県民の森のことを教えてもらった。馬の背コースは一番楽なコースらしい。この後、兀岳に登ってから旧大平街道で木曽見茶屋まで戻ることを話すと、歩きがいのあるコースだと言われた。兀岳は、この付近では最も標高の高い山だそうだ。
 
 管理人さんと別れて、草原を横断して馬の背コースに入る。スキー場跡でしばらくは木の少ない斜面を登っていく。スキー場跡を過ぎると、丸木階段の道となり、急斜面をつづら折れに登って稜線に出てなだらかに歩く。この辺りが馬の背に似ていることから、このコースの名前が付いたようだ。左手にはカラマツ林を通して兀岳が、右手には南木曽岳が望める気持の良い稜線歩き。稜線に出て数分歩くと、分岐を通過。北に下ればツツジコースを経由して管理棟へ、南に下れば峠の森コースを経て大平峠に出る。ここから夏焼山山頂まではすぐなので、もう一度山頂を踏み、山頂でランチにすることにした。
 
 一旦下って登り返す。3分ほどで山頂に着いた。単独男性がみえたが、すぐに下っていかれた。朝よりもモヤが消え、かすかではあるが、雪をまとった御嶽山が望めた。ベンチでランチにする。小バエがまとわりつくので、蚊取り線香をたいて追い払う。ランチメニューは冷やしそばとおでん。締めくくりはいつものようにパーコレーターでコーヒー。水色がきれいな小さな蝶が飛んできて地面に止まった。羽の裏はとてもきれいとはいえないが、特徴ある模様でコツバメと分かる。スプリングエフェメラルである。

 この後、兀岳が待っているので、手短にランチを済ませ、来た道を戻り、分岐から峠の森コースを下る。急斜面を一直線に下っていく。かなりの急斜面で、ここの登りはきつそうだ。かなり下ったところで左に分岐が現れる。左へ行けば峠のトンネルの東へ出るコースのようだ。直進してすぐに東屋と駐車場のある大平峠に出た。
 
 県道を渡ったところにトイレがあり、その横に兀岳への登山口があった。標識には山頂まで60分と書いてある。ヤマネコノメソウやアオマムシグサを見ながら山に取り付く。いきなり水の流れるぬかるんだ谷を登る。夏焼山の遊歩道とは違い、登山道は薄い。ぬかるみから左の尾根に取り付くと、ササヤブの道となる。道は明瞭で、テープも見られる。前方から単独男性が下りてきた。この山で登山者に出会ったのはこの方のみ。ガサガサとササを分けながら登っていく。足元にギンリョウソウが見られた。急な道の右手には樹間に南木曽岳が見える。ササの道にはユキザサが見られる。なだらかになって小ピークから左に向きを変えて少し下る。鞍部のササは背丈ほどあり、ササに埋もれて歩く。鞍部からブナの大木が並ぶササ尾根を登る。左にはカラマツ林、さらにシラカバも増えてくる。
 
 峠から30分弱、ササを分けると、いきなり開けた場所に出た。「清内路」と書かれた表示があり、また「兀岳まで0.9km」の標示もあった。清内路は東西に続き、道の草はよく刈られている。兀岳は左。ここより一旦下る。正面に兀岳が見える。カラマツ林を抜けなだらかな道を歩く。枯れているササが見られた。ここから急降下して、ムシカリの花を見ながら鞍部から登り返す。兀岳山頂が近づいてきた。それにしても草刈がよくされている。ササの筍がたくさん出ているが、食べごろを過ぎているものが多い。ユキザサは葉を広げたところである。気持の良い尾根を歩く。開けたところがあり、恵那山方面が望めた。兀岳まで0.3kmの標示を通過。兀岳はなだらかな丸い山となって近づいてくる。炎天下の中、ひたすら登る。そろそろ山頂と思いながら、なかなか到着しない。
 
 なだらかになって、空が広がると山頂に着いた。ササが刈り取られて、三角点とベンチがあった。ここからも南木曽岳がきれいに見える。ちょうど南木曽岳の手前に、先ほどランチをした夏焼山が100m以上低い位置に見えた。摺古木山や安平路山もさらに近くに見える。反対側にはツガの木の間から恵那山が望めた。たくさんの虫がまとわり付くので、写真を撮って早々と撤退。登ってきた道を引き返した。
 
 大平峠から旧大平街道に入る。ハシリドコロの花は終わり、ツクバネソウの花が咲き始めていた。旧大平街道は、昔の峠越えの道で、江戸時代にタイムスリップしたような錯覚に陥る。この森は時間が止まったように当時の状態を維持しているに違いない。緑のトンネルが美しい。道は沢沿いに下っていく。足元に、まるで星が落ちているような白い小さな花がたくさん咲いている。初めて見る花で、帰って調べてみるとワチガイソウという名前の花だった。橋を渡ったところで道が崩壊して迂回路ができている。道には大平街道にまつわるいろいろなコメントが標示されており、読みながら歩く。この道は、昔、「出女入鉄砲」の監視が厳しかったため木曽街道の関所を避けて旅人が通行した道でもある。
 
 東屋を通過して大木の森の中を5分ほど歩くと県道に出た。ここは、朝、車で通過した場所であり、案内板の横にはトイレもある。タニギキョウが可憐な花を咲かせている。大好きな花だ。ムラサキケマンやカキドオシの花を見ながら、車道を登った。県道を通行する車はほとんどなく、安心して歩くことができた。ガードレールの下でオオトガリアミガサタケという面白いキノコを見つけた。見た目は不気味だが美味しいキノコらしい。
 
 時計回りに県道を歩いて木曽見茶屋に戻ると、ちょうど店が閉まる時間であった。木曽見茶屋のお客さんからどこの山に登ったのかを聞かれた。ザックを車に置いて、駐車場の裏にある展望台まで登ってみた。入道雲を背景に午後の光を浴びる南木曽岳を見ながら食べた、冷えたセミノールが美味しかった。朝、9時から上り下りの変化に富んだルートを歩き、予想以上にすばらしい標高1500mの新緑トレッキングを楽しむことができた。秋の紅葉の時期もすばらしいに違いないと思いながら、木曽見茶屋を後にした。 
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