トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部トレースに失敗 

奥丸山の展望と植物の写真を見る
奥丸山 (2440m 高山市) 2008.7.20 晴れ 2人

新穂高温泉バスターミナル(5:00)→穂高平小屋(5:50-5:55)→白出沢(6:45)→ブドウ谷(7:13)→チビ谷(7:33-7:39)→滝谷(8:01)→南沢(8:43)→槍平小屋(9:06-9:36)→稜線(10:44)→奥丸山山頂(11:07-12:04)→左俣林道への分岐点・稜線離脱(12:52)→左俣林道・橋(14:39)→ワサビ小屋(14:55-15:13)→新穂高温泉バスターミナル(16:14)

 連休初日、新穂高の村営駐車場に到着したのは午後4時頃。県道から左折して深山荘への道に入ると路肩は車であふれていた。この状況では駐車スペースは無いかもしれないと思いながら奥へ車を進めた。奥から2つ目の段に1つの空きを見つけて車を停めた。ラッキー。隣では夫婦がワゴン車の後ろで夕食の準備をしてみえた。聞けば、明日から1泊2日で双六岳に登るとのこと。我々は明日、日帰りで奥丸山周回を予定。前夜車中泊は同じである。人気の無いバスターミナルで朝食のパンなどを調達。川原でトマトスープ鍋の夕食を作った。暮れなずむ蒲田川を見ながら、ここに来たのが久しぶりであることに気付いた。6年ぶり。槍ヶ岳に登ったときにも、ここで夕食をとった。ザックのパッキングをして、まだ明るいうちに、明日の山歩きを期待しながら、眠りについた。

 4時、携帯のアラームが鳴る前に周囲のざわめきで目が覚めた。隣の2人は4時半頃に出発。我々は5時半出発を予定していたが、5時前にスタート。バスターミナルでトイレに寄って、登山届けを提出。荷を軽くするため食事用の水は槍平で補給することとした。

 奥丸山は従来、槍平小屋から登るのが一般的であったが、近年、左俣谷の下丸山付近から奥丸山への新道が切り開かれた。今回は右俣谷を遡り、槍平小屋から奥丸山山頂を踏んで新道を下る計画を立てた。我々の足で、日帰りがギリギリのロングコースである。
 
 ロープウェイ駅を目指して車道を歩く。灰色の雲が空を覆っているが、前方には抜戸岳方面の稜線がきれいに望めた。ロープウェイ駅を通過し、有料駐車場を左に見ながら車止めのゲート脇を通過。カーブする舗装道路を歩く。いつものように、この道を歩く登山者は少ない。再びゲートを抜けて、川沿いのコンクリートの道を10分弱歩くと、右の草むらに「夏山近道」の標示が現れる。前に来たときには、この標識を見落として、林道を大回りした。ヤグルマソウの大きな葉を分けて近道に入る。うっそうとした樹林帯を登って、高い位置から林道を下に見ながら細道をトラバース。センジュガンピの白い花や咲き始めたタマガワホトトギスが目に付く。

 近道入口から20分ほどで穂高平小屋の前に飛び出した。小屋は営業しておらず、1人の登山者が休息中。5分ほど休んで出発。林道が続く。改修された新しい堰堤の手前で小雨が降り始めた。ザックカバーをかけて傘をさして歩く。雨はすぐに止んだ。天気が気になる。穂高平小屋やから50分ほど歩いて白出沢へ。ここは奥穂高岳への分岐点となる。白出沢を渡る。名前のごとく、真っ白な沢である。白出沢を渡ると、山道となる。ミゾホオズキやゴゼンタチバナを見ながらブドウ谷、チビ谷を通過。チビ谷の上部には雪渓があり、山はガスに覆われている。再び小雨が降り始めた。
 
 チビ谷から30分ほどで大きな滝谷を渡った。谷川には木の橋が架かっている。下山してくる登山者とすれ違うようになる。小雨が降り続く。この様子では、奥丸山からの展望は期待できそうにない。大きな岩が敷きつめられた道が続く。結構な登りもある。左の谷には雪渓も見られる。濡れた岩は滑りやすく、互いに相次いで転倒。指先の切り傷や打撲程度ですんだか、運が悪ければ骨折もありうる。これを教訓に、以後、慎重に行動した。
 
 振り向けば歩いてきた右俣谷にガスがかかる。小さな南沢を渡ると、ようやく槍平の標示が現れる。マイヅルソウやコイワカガミを見て樹林帯に入り、ミヤマキンポウゲの咲き乱れる道をつめると槍平の小屋が現れた。雨は止んだが、槍平はガスに包まれている。大勢の登山者が休息中。この小屋は槍ヶ岳、南岳、そして奥丸山への道の交差点となる。冬に雪崩が発生しテントが巻き込まれたニュースは記憶に新しい。クマさんのウエルカムボードに迎えられて、小屋に入り、ジュースを調達して、パンを食べ30分の大休止。1泊した6年前より、小屋はきれいになっており、外の建物も取り壊されて、板張りの大きなスペースができていた。
 
 トイレに寄って出発。奥丸山へ行く者は我々のみ。小屋の裏のキャンプ指定地の表示板に「←奥丸山」の案内がある。1つだけテントが残る広場を横断して沢にかかった木橋を渡る。山道に入ったところの御社で手を合わせて今日の山旅の安全を祈願。いよいよ奥丸山本峰に取り付く。

 カニコウモリやタニギキョウがひっそりと咲く道を登るとすぐに茶色い石の沢が現れる。沢というよりは崩壊地の下部である。赤テープを拾って沢の右を歩きコメツガの道に入る。アカモノ、ゴゼンタチバナ、オオバノヨツバムグラなどを見ながら急な道を登り標高を稼ぐ。対峙する穂高の峰は上部が厚い雲に覆われているが、山腹には雪が残る沢がいくつか見られ、緑の山肌に美しい模様を描く。次第に空が明るくなり始め、時折こぼれ落ちる陽の光が、スポットライトのように山肌を這う。
 
 丸木梯子を登り、急登が続く。息を切らして立ち止まり、後ろを見下ろせば、樹間に槍平小屋の赤い屋根が望めた。更に登ると明るい尾根に出た。雪渓の飛騨沢が緩やかに右へカーブを描いて上っている。前に歩いた槍への道である。その左には奥丸山から延びる尾根が千丈乗越に続く。西鎌尾根が荒々しい岩肌を見せる。西鎌尾根は歩いてみたいルートだ。ヨツバシオガマを見ながらササ付きの道を登っていく。振り返ればかなり高度を稼いだことが分かる。右俣谷がガスで埋まり始めていた。10時を過ぎ、ガスの湧き上がる時刻だ。穂高の峰はこの辺りで見納めになるかもしれない。
 
 立ち止まって水を飲む。ここで気が付いた。「しまった。槍平で食事用の水を補給することを忘れた。」 水の量を調べると2人で2リッターある。ジュース類もある。食事のラーメンに1リッター使用しても水不足になることはなさそうだ。

 崩壊地の上部を通過し、草付きの道を左山でトラバース。雲が上がり、大キレット辺りの岩山の稜線が見え始めた。それを追うように谷からガスが湧き上がってくる。トラバースを終えると稜線に出た。右は千丈乗越、左が奥丸山である。GPSで確認すると、奥丸山までは稜線沿いにひと登りしなければならない。草の斜面にニッコウキスゲの黄色い花が散らばっている。ここから奥丸山山頂までの稜線は花の道。エゾシオガマやベニバナイチゴ、ツマトリソウ、ヒメイチゲ、ミツバオウレンなどが咲く道を右山でトラバースして稜線に出る。葉の枯れているササが多い。前方のふくらみが奥丸山山頂のようだ。垂直に崩れ落ちた崩壊地の縁を通過。いずれここの登山道は崩れ落ちるに違いない。覗き込むと、50m下までガスが上がってきている。シナノキンバイやニッコウキスゲが咲く尾根を通過。ガスに包まれた尾根は、幻想的な異次元の世界。チングルマ、ミネズオウ、アオノツガザクラ・・・花の道は続く。
 
 なだらかに歩くと木柱の立つ小さな裸地に出た。奥丸山2440mの標示。山頂の三角点が一段上にあった。山頂到着。ガスの中ではあるが、時折、頭上のガスが切れて日が差す。ガスの切れ間から僅かに周囲の山が望めたが、展望はほとんどない。三角点の前で写真を撮って、一段下でランチにした、卵入りチキンラーメン。ミニトマトとスモモが美味しかった。ランチが終わる頃、ガスが切れて東〜南側の展望が得られたが、穂高の稜線を見ることはできなかった。
 
 1時間ほど誰も登ってこない山頂に滞在し下山開始。下りは、新道に向けて中崎尾根を下る。しばらくは尾根歩き。展望の良い尾根を下って樹林帯に入る。コメツガの尾根は、時折、急なところが現れる。道は明瞭。花も多い。山頂から15分ほど歩いてロープ付きの斜面を下り鞍部から登り返す。久しぶりにクルマユリに出会う。ピークを越えて、再びコメツガとササの尾根を下っていく。道の脇でギンリョウソウを見つけた。この先、この花はたくさん見ることができた。大きなカエルが驚いて茂みに飛び込む。この道を歩く人はどれくらいいるのだろうか。「新穂高・8km」の黄色い看板を通過。GPSで確認してそろそろ稜線離脱の分岐点が現れると思った頃、標柱が現れた。直進は「中崎山」。右は「わさび平・左俣林道」。稜線を外れて、ここから新道の下りが始まる。
 
 いきなり出来上がったばかりのような、踏まれていない土の道が斜面を下っている。設置してあるゼブラロープにつかまって足場の悪い道を下る。木の根がむき出しになって、雨後で、根が滑る。ゆっくりと慎重に下ることにした。根の障害物を通過すると、今度はササが刈り取られた急斜面。ササの茎が散乱しており、これも滑りやすい。樹間には左俣林道や抜戸岳から落ちる白い谷が見える。これだけの標高を一気に下るのかと思うと先が思いやられる。
 
 木の根とササの斜面の障害物競走は繰り返し続く。この春に登った屏風山を思い出す。この登りはキツイだろう。花は少ないが、ササにまぎれて咲くトンボソウをいくつか見つけた。稜線から20分ほど下ると展望の良いササの斜面を通過。雲の層を抜けて、正面のパノラマを見ることができるようになったが、笠ヶ岳は雲の中。樹林帯に入り、荒削りな道は続く。2.3度足を滑らせてバランスを崩した。木の根に足を挟まれて転倒すると怪我をするような場所が多い。
 
 やがて針葉樹の大木が並ぶヤセ尾根を通過。タケシマランが真っ赤な実をつけている。樹林帯を下り、花の終わったマイヅルソウやツバメオモトなどが群落をつくる斜面をジグザグと下っていく。道は落ち葉に敷き詰められ、かなり安定した状態になってきた。眼下には、治山工事をする重機がかなり近くに見えるようになった。右山でトラバースして、前方に形のいい下丸山が見える。チゴユリがたくさん自生しており、花の時期にはすばらしいに違いない。小さな涸れた沢を1つ2つと渡る。道の脇で水が噴出している沢があった。伏流水が湧き出しているようだ。ザックに付けたシェラカップを外して水を飲む。稜線から1時間以上ひたすら下ってきて、かなりくたびれたところであり、冷たい水が最高に美味しかった。ペットボトルにもつめた。
 
 荒れた沢を渡り、少し登り返して、下丸山を右に、巻くようにトラバース。斜面の草むらにいくつかのササユリを見つけた。ここでササユリが見られるとは思いもしなかた。前方に治山工事の現場を見ながら下っていくと、コンクリートの道に下りた。白ペンキで矢印が書いてある。石垣沿いに歩くとすぐに林道終点。ここが新道の登山口となる。稜線まで1960mとある。この区間の下りでちょうど1時間半かかった。とりあえず無事、林道に降り立ったが、まだここから新穂高までの林道歩きは長い。
 
 舗装道路を歩いて左俣谷にかかる橋を渡って小池新道入口に出た。橋の入口の路面にはペンキで「奥丸山→」と書いてある。左手に下丸山とその奥に奥丸山が望めた。山を見上げ、今、下ってきた尾根をGPSで確認しようとしたが良く分からない。谷にはまだ大量の雪が残っていた。双六方面から下ってくる登山者もなく、2人だけで林道を15分くらい歩いて、ワサビ平小屋に着いた。到着する直前に、再び小雨。閑散とした小屋で飲んだジュースが美味しかった。
 
 ここから新穂高の駐車場までは1時間以上の林道歩きがある。雨が止んだので、小屋を後に林道を歩く。下る登山者が何人かあり、また、登ってくるパーティーにも出会った。錫杖岳の異様な岩が垂れ込めた雲間から姿を現す。後方の奥丸山も、雲に隠されている。笠新道の登山口で休息する若者たちと挨拶を交わす。笠ヶ岳は取りこぼしている山。いつかはここを登りたいと思った。林道のヨモギの葉を飛び回るヒメシジミを見ながら、ひたすら林道を歩いた。今回は横尾から上高地に向う林道歩きのような疲れはなかった。「お助け風」と言われる風穴の前で、涼しい風を浴びて、工事が続く穴毛谷を見ながら新穂高温泉のバスターミナルに着いた。ワサビ平小屋からちょうど1時間。下山届けを提出して駐車場へ。帰った車が多く、いくつかの空きスペースがあった。
 
 北アルプスの名峰が軒を連ねる中で、奥丸山は槍・穂の展望地としてPRされているが、登る人は少ない。それゆえ、切り開かれて間もない新道は、現在、安定した状態とはいえない。その新道を今回はかなり慎重に時間をかけて下ったが、結構楽しかった。多くの登山者で踏み固められて安定した道になれば、安全度も高まるに違いない。奥丸山は、前夜泊、日帰りでアルプスを楽しめる山の1つでもある。今回は、展望が今1つであったので、次回は展望の良い日に登りたい。
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