トレースマップ(カシミール3Dで作成)
大立 (578m 揖斐川町) 2006.2.12 晴れ・曇り・一時雪
久瀬トンネル西口駐車地点(9:03)→天然林(9:59)→鉄塔(10:37)→山頂(11:22-12:58)→鉄塔(13:21)→駐車地点(14:25)
揖斐の山へ出かけるとき、いつも気になっていた山が大立。国道303号線を北西に走り、揖斐川町の中心地を抜けて長い新北山トンネルと久瀬トンネルを潜る。この久瀬トンネルのある山が大立である。
揖斐川町の平野部からも飯盛山と並んで対照的に釜を伏せたような山容が望める。新北山トンネルを抜けると、2本の鉄塔を従えて目の前に大きく立ちはだかる様は、まさにこの山の名前のとおりだ。トンネルを抜けるたびに、いつかはこの山へ登ろうと思っていた。
めまぐるしく変化するこの頃の天気。日曜日の空模様で登る山を決めることにした。二人そろってやや風邪気味であったことから、近場の山を3つほど選定して当日の朝を待った。雲1つない朝、西の空に雪雲は無い。目的地を大立とし、いつもより遅めに家を出た。マイナーな山で、トレースは期待できない。GPSに標高50mごとにウエィポイントを入力した。雪対策として、ワカンと4P軽アイゼンを持った。
揖斐川の堤防を遡る。小島山の中腹に白い帯ができている。昨夜、平野部では雨であったが、標高500m以上は雪のようだ。小さく見える大立も白い。山頂付近では新雪が踏めそうだ。
久瀬トンネルを抜けたところにある交差点を左折。角にゲートボール場、その南に自動車修理店がある。交差点の西側には3台ほど停められる駐車スペースがあり、ここに停めた。1台が停まっていたが、登山者の車ではないようだ。
近くの民家の犬に吼えられながら靴を履き替え、トンネル入り口南側の階段へ。階段は雪の斜面となっており、昨日の雨で表面が凍っている。滑らないようにフェンスにつかまって登り、更に左手の階段を登る。鉄塔巡視路の黄色い標識があった。人工林の中、巡視路は右へ登っているが、すぐに雪の下へ。ネット情報で、巡視路は一旦南へ登って折り返していることが分かっていたので、ここから人工林の斜面を直登する。
杉の枯葉を踏んで登るがすぐに雪が多くなる。斜面は土砂の流出を防ぐためであろうか、古い石垣が見られた。急斜面で雪面が多くなってきたことから、軽アイゼンを付ける。何年ぶりかの4本爪。かなり使っていなかったので、ゴムバンドが切れてしまい、予備のベルト交換に手間取った。
暗い人工林の中、GPSのポイントを確認しながら急斜面の登りが続く。カモシカの蹄の跡が雪の上に交差している。糞もたくさん見られた。昨年、隣の飯盛山でもカモシカを見たが、この辺りはカモシカが多いようだ。左には大小の岩が見られる。岩場に入り込まないように斜面を真っ直ぐに登る。ちょうどトンネルの真上を歩いていることがGPSで分かる。
杉林はしだいに幼木になり、雪の斜面はますます急になってきた。おまけに平らな雪面ではなく、樹間の間で大小のコブを作っている。歩きいやすい場所を探しながらジグザグと小刻みに歩く。この先に鉄塔があり、左から電線が近づいてくるはずであるが、まだ電線は見えない。時折、雪を踏み抜いて足全体がすっぽりと埋まってしまう。埋まるたびに大声を出しながらの登りが続く。ワカンをと思ったが、この急斜面では引っ掛けたりしてかえって危険だと思い、行けるところまでツボ足で歩くことに。
幼木の人工林は展望がいい。眼下に飯盛山の麓を走る谷川と道路が見える。まるで垂直に登っているような錯覚を覚える。開けた平らなところを見つけて一息。振り向いて、その展望に息を呑む。雪化粧をした飯盛山と釣り尾根を隔てて西津汲が目の前に迫る。飯盛山へは2回、西津汲へは1度登ったが、こんなに美しい山だったとは。この位置から見る2山は実に美しい。
前方が明るくなり、人口林を抜け出た。荒い潅木の斜面だ。ザラメの雪を蹴り込みながら一歩一歩登っていく。周囲が明るくなるとよけいに急斜面と感じる。後方の飯盛山を眺めると、かなり登ってきたことが分かる。眼下の景色がすばらしい。雪に覆われた久瀬村の集落を国道と揖斐川が貫いている。その向こうには小津権現の白い峰が美しい。左手に横たわる大きな山は塔之倉であると思ったが、帰って調べてみると手前のピークのようだ。
雪の上に座り込んでゆっくりと景色を眺めていたいところであるが、この急斜面を登りきらないと落ち着かない。この辺りもカモシカの足跡が多い。カモシカでも雪に足を取られるようで、深く沈みこんだところもある。潅木の枝につかまりながら、右に左にと取り付きやすいルートを探す。倒れこんだ木々を避け、木の周りの盛り上がった部分をシーソーのように、また潅木に巻きつくつる植物に引っかからないように歩く。つかまる木が無い斜面は膝をついて這い上がった。ソノドに登ったときのtaka先生の言葉が思い出された。「山と戦っていると思うような山が好です」 この山もまさにその気分である。
風が強くなってきた。振り向けば、小津権現が雪のレースで覆われ始めた。急斜面は続く。左手に電線が見えた。鉄塔は近い。再び、目の前に人工林が近づいてきた。傾斜も比較的緩やかになって、一安心。ふと、足元を見ると、「アッ、片足のアイゼンが無い。」 この声に「私も無い。2つとも!」とらくえぬ。思わず笑ってしまった。足元も見ずに必死に登っていたので気づかなかったようだ。雪に足を取られたときに外れたのだろう。気がつかないということは、4本爪では全く効果がなかったということか・・・。回収は下山時にして、先を急ぐ。GPSを見ると、既に鉄塔を通り越している。誤動作か?
人工林の1本の木にピンクのテープが巻かれていた。道は正しいようだ。ヒノキ林を左方向に10分ほど登ると前方が開け、緩斜面になってきた。樹間に鉄塔が見えた。鉄塔付近は大きく切り開かれており、美しい新雪の丘を足を取られながら歩いた。右手に飯盛山と西津汲がすばらしい山容を見せる。こんな展望のいい場所があるとは思わなかった。
広い雪原を歩き回りたいところだが、帰りのお楽しみとして、先を急ぐ。すでにここでコースタイムの1時間半をオーバーしている。ここからは、楽勝コース。すばらしいスノートレッキングの始まりである。東にもう1本の鉄塔が見える。この鉄塔の左側が尾根になっており、尾根の左は人工林、右は天然林。鉄塔方向へは平らな雪原が広がっており、天然林の一本一本に番号のラベルが付けられている。おそらくこの辺りは更に伐採されるようだ。
登山道は人工林と天然林の間を一直線に登っている。やたら赤テープが目立つ。鉄塔巡視路から外れるため、道が薄いのかもしれない。新雪が深くなってきたので、2本目の鉄塔を右方向に見る辺りでワカンを付けた。これなら沈むことは無いと、2・3歩進んだら大きな穴にはまり込んで転倒。
道はなだらか。できるだけ気持ちのいい天然林の中を歩いた。時折吹く風がスギの木に積もった雪を降らせる。更に突風が尾根の雪を巻き上げる。尾根の雪が吹き飛ばされて、天然林にフカフカの雪だまりを作っている。ミズナラやシロモジが多い。木立を通して見える飯盛山が美しい。昨日降った雪が木々に付着して、より一層美しい林になっている。こんなきれいな風景が見られるとは予想もしなかった。
登りが急になると、山頂はすぐ先。人工林の中を一登りして、これ以上高いところが無い場所に着いた。ワカンを付けてから30分以上歩いたことになる。さて、この広い山頂で、次は三角点のある位置を探すことに。当然、三角点は雪に埋まっているので山名の書かれた標識を探すことにした。少し南に下がったところにあると、事前に情報を得ていた。
2人で手分けして山頂を歩き、プレートを探し回った。展望が無い天然林の山頂ではあるが、疎林であり、雪の時期にはどこでも歩ける。樹間から南に2本の鉄塔が見える。左側の鉄塔は紅白である。東には塔之倉が、また揖斐川町の集落も見下ろせた。歩き回ること数分。「あったよ!」とらくえぬの声。倒れたソヨゴの木の脇の枯れ木に赤い小さな「大立」と書かれたプレートが掛かっていた。ちょうど2本の鉄塔が左右に見える位置である。
プレートの前でセルフタイマーを切った。登ったという実感が湧いてきた。先ほどの急登に苦戦しただけに、今回の達成感も大きかった。持ってきたミニシャベルで溝を掘って簡単なベンチとテーブルをこしらえ、ランチにした。今日のメニューはカレーうどん。先ほどの強風は止み、暖かい陽だまりでのランチ。誰もいない静かな山頂にガソリンストーブの音だけが響いた。
雪の上に座り込んで木立を眺めていると、何か不思議な気持ちになる。穏やかな雰囲気を持つ山だ。いつもの山頂とは全く違う。平らな雑木林は山頂を感じさせない。美しい癒しの空間で、ゆっくりとコーヒーを楽しんだ。頭上をちぎれ雲が流れていた。
昼食後、パッキングして、思い残すことのないように、もう少し歩き回った。枯れたミズナラの幹の虫を探したのであろうか、キツツキが突付いた木の下に木屑がたくさん落ちていた。山頂からの急斜面でシリセードしてみるが、融け始めた重い雪であまり滑らない。天然林の中を自由自在に歩き回って鉄塔近くの雪原に出た。天気は雪模様。飯盛山と西津汲は雪に霞み始めていた。雄大なグレーの光景に向けてGS645Sのシャッターを切った。
人工林を下り天然林の斜面へ。登りで脱落したアイゼンを回収するため、自分たちのトレースを忠実にたどった。とんでもない急斜面をよく登ってきたと思った。ワカンでステップを作りながら慎重に下った。雪の中のアイゼンを拾って下る。雪が降り始め、飯盛山が幻想的な姿を見せているが、展望どころではない。つかんだ枯れ木が折れて転倒したりもしたが、なんとか人工林にたどり着き、ワカンを外した。3つのアイゼンも全て回収。
トレースを無視して下っていくと、鉄塔巡視路の黄色い標識と明瞭な道に飛び出した。GPSを見ると、登りの時に雪で行き止まりになった地点よりも南にいる。道を下り、雪の斜面を横切ると、行きのトレースに合流。トンネル横の階段を下ってゲートボール場脇を歩いて車に戻った。いつのまにか雪は止んでいた。
思った以上にハードで変化に富んだ山であった。山頂の雑木林はすばらしい。紅葉や新緑の時期にも登りたい山だ。雪のある時期、鉄塔までの道は消え、急な雪の斜面となるので、凍りついた時にはピッケルとアイゼンが必要。滑落に注意。鉄塔辺りまでの雪が消えた時期に巡視路を登るのがいい。真上の山頂を思い出しながら、久瀬トンネルを抜けた。
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