トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)

三方岩岳の展望と植物を見る
三方岩岳 (1736m 白川村) 2007.10.21 晴れ 2人

白山スーパー林道料金所(8:15)→登山口(8:25)→白川郷展望台(9:13-9:18)→ザレ場・ヒメコマツの大木(9:38-9:43)→四等三角点(10:17)→三方岩神(10:58-12:56)→四等三角点(13:40)→ザレ場・ヒメコマツの大木(14:10)→白川郷展望台(14:25)→登山口(14:59)→料金所(15:07)

 三方岩岳は5年前の秋に、白山スーパー林道の三方岩駐車場から野谷荘司山に登ったときに通過した山である。三方岩駐車場からは40分ほどで三方岩岳手前の展望地に立つことができ、大勢の登山者で賑わう。一昨年、白川村馬狩にオープンしたトヨタ白川郷自然学校を利用したとき、白山スーパー林道の料金所から三方岩岳に登るコースがあることを知った。昨年の秋、ごっちゃんやARIさんがこのコースで三方岩岳に登ったHPを見て、その紅葉の美しさに、登るなら紅葉の時期と決めた。野谷荘司山に登ったとき、山頂付近はこの山特有の広葉樹の矮小化が見られ、紅葉がすばらしかったことが記憶に残っている。

 この週末、大陸から張り出した高気圧が通過した直後で天気が良いことを前日に確認して、6時に自宅を出発。秋の行楽に出かける車で混雑する東海北陸自動車道を北上し、荘川ICから白川村に向かって御母衣ダム湖畔を走る。平瀬を過ぎ、野谷橋を渡ったところで、トイレマークの標識を目印に左の山に鋭角に折れて白山スーパー林道への近道を走る。野谷荘司山へのルートとなる鶴平新道の入口に登山者の車を見ながらトヨタ白川郷自然学校の前でスーパー林道への道と合流。左折してすぐに渋滞する車の列にぶつかった。

 8時直前で、ちょうどスーパー林道料金所のゲートが開き渋滞が動き始めたところだった。料金所手前北側に駐車場があり、この駐車場でゲートオープンを待つ車も一斉に動き始めた。出る車と入れ違いに駐車場に車を停め、身支度。南側には、山頂を雲に隠した紅葉の山が望める。馬狩荘司山のようだ。車道を南に渡って料金所管理棟のトイレを借り、南側の駐車場の南東にある電話ボックス横の未舗装林道に入る。林道入口には車止めのトラ柵が置いてあった。

 歩き始めてすぐに、林道はススキなど背の高い草に覆われ、道を間違えたのではないかと思った。立ち止まって周囲を見回すが登山道らしき道はない。草ぼうぼうの林道には踏み跡が見られたので、それをたどる。左にゴウゴウと音をたてる白谷、その先には紅葉の峰が朝日に輝く。雲が切れて青空が見え始めた。

 右手に登山口が現れるのを注意しながらまっすぐ林道を登っていくと、歩き始めて10分で右手に「三方岩登山道」と書かれた木柱があった。ここから倒木をくぐって天然林の斜面に取り付く。雪が多い地帯であり、野谷荘司山への鶴平新道や三方崩山への登山道の取り付きに似て、木々が横向きに倒れ込んでいる。ゴマナの白い花や様々なきのこを見ながら、急斜面をジグザグに登っていく。新しい足跡があり、今日、先行者があるようだ。美しい実をつけたムラサキシキブがいくつか見られた。この辺りの紅葉はこれからで、ウリハダカエデの葉もまだ緑色。紅葉すれば、美しい森になるだろう。シカの臭いであろうか、獣特有の臭気が漂う。秋の山にはつきものの臭いだ。

 登山口から20分ほど登ると尾根に出た。道は尾根に沿って左に続く。ブナが多くなってきた。木漏れ日の中、しばらく尾根を歩いて、再び斜面に取り付く。ムシカリやヤマウルシの赤い葉が目立ち始め、頭上を埋める黄緑色のブナの葉の隙間から、秋晴れの青空が美しい。ブナ林は癒しの世界。心が安まる。高度を上げるにつれて、ブナは黄色に色づきはじめ、周りの空間が暖か味を帯びてくる。地面に電気コードが引かれている。

 車の音が聞こえ、前方にコンクリート壁が見えた。白山スーパー林道に接するように道が通過している。コンクリ−ト壁の下は法面緑化のための網が急斜面に残っており滑りやすい。おまけにススキやカラムシが背丈以上に繁茂してヤブ状態。滑り落ちないようにトラバースして林道脇に立った。後方には猿ヶ馬場山、その左の尖った山は籾糠山であろうか。

 紅葉したヤマブドウの葉を見ながら再びブナ林の中に入る。かなり紅葉が進み、ウリハダカエデもピンク色に染まっている。スーパー林道脇から数分でベンチのある広場に出た。白川郷展望台のようだ。広場は右へ延びており、景色を眺める観光客の姿が見えた。展望台まで行ってみると、山間に白川郷が小さく見下ろせた。

 展望を楽しんだら、広場の東端まで引き返して、樹林帯に入る。展望台近くから山側に階段の道があるが、この階段を登っても三方岩登山道に合流することが帰路確認できた。黄色に紅葉し始めたブナ林を登って、右に展望台への道を見る。この辺りは平坦な地形で、今回のルートの中で、最もすばらしいブナ林が広がっている。ムシカリやヤマウルシなどが黄色からオレンジ色に染まり、頭上のブナも黄色くなり始めている。

 ヒメコマツの大木を見ながら南から回り込んで、ザレた展望のよい尾根に出て、休息。ここでも猿ヶ馬場山が目の前に見える。下方から話し声が聞こえ、数名のパーティーが登ってみえた。大きな鍋を持っている人もいる。春日井からみえたとのことで、5つの班に分かれ、30人ほどで料金所から登ってきたそうだ。1班のパーティーの後を追ってザレ場を登る。すぐ上に2本のヒメコマツの大木があり、その先には黄色に紅葉したミネカエデのトンネルがあった。ここで休息するパーティーに道を譲ってもらう。

 周囲の木々の背丈は低くなり、紅葉はいよいよ本格的になってきた。ミズナラやミネカエデなどの黄色にリョウブ、ムシカリ、ヤマウルシ、ドウダン、ヤマモミジなどの赤色が混じり合った美しいモザイクの中、適度な登りが続く。地面の上の白いものが目に入った。雪だ。昨夜、雪が降ったようだ。日影には雪が見られるようになってきた。傾斜がなだらかになり、前方に赤い丸い山が姿を見せる。全山紅葉の四等三角点のあるピークだ。中腹を登る2名の登山者が見えた。

 ピークまでの標高差100mほどの登りにかかる。左手には白谷を隔てて野谷荘司山へ続く紅葉の峰が、朝日に照らされて美しい尾根筋を見せる。この辺りの紅葉が今日のルートで最も美しい。全ての落葉樹が赤や黄色に色づき、白い雲が浮かぶ青い空を背景に山肌一面錦の衣をまとっている。この美しさは言葉で表現できるものではない。デジタルカメラの写真も、まるで色補正を行ったかのよう。これだけすばらしい紅葉の中を歩いたのは久しぶりで、いい時期にこの山に登ったと思った。

 ピーク斜面の南側を登る。1カ所、赤土が露出したザレ場を通過。南に見える尾根の向こうにある鶴平新道の上部にはザレ場がいくつかあったのを思い出した。南側から北側に回り込んで左山でトラバースする。頭上に枝を広げたドウダンツツジがあり、真っ赤な天井の下をくぐる。すぐに折り返すように、雪の斜面を登って尾根に出て矮小化した木々の間を歩く。後方には東の山並みが広がり、白川村の集落が山間の平地を埋める。左手前方の稜線の向こうに少しだけ頭を見せる山は野谷荘司山であろうか。山頂が雪で霜降り状態になっている。

 ピークに着くと右に伐採されたところがあり、中央に新しい四等三角点が埋められていた。頭上の木の雪が解けて落ちてくる道を歩くと、突然、三方岩岳が前方に現れた。「オー」 声が出る。紅葉の山の上に要塞のような黒い岩の固まりが聳え、北への稜線の先にも岩壁が突き出して、個性ある男性的な山容を見せる。いよいよ本丸を攻める。背丈以上のササを分けながら、やや南方向に緩やかに下っていく。踏み跡はしっかりしているが、倒れ込んだササがうるさい。おまけに、雪で濡れたササや頭上から落ちてくる雪解け水がいやらしい。足下にはツバメオモトやアクシバ、マイズルソウ、ユキザサの実。新緑の時期にも歩いてみたいと思った。高い位置にはナナカマドやムシカリの実が真っ赤に色づいている。

 10分ほどササヤブを下り、倒木をまたぎながら右へ歩き、数本のコメツガの大木があるところから左へ向きを変えて登りにかかる。雪も切れ間無く続くようになった。谷状の道であり、雪解け水の中を登っていく。階段状の道に小川のようになって水が流れ落ちている。靴もスパッツもどろどろ。雪の上に手の平ほどある大きなハウチワカエデの赤い葉が散っている。あまりにも美しい大きな葉なので、拾い上げてみる。自然は何と美しいものを作り出すのだろう。

 イワカガミやオウレン、イワナシ、ショウジョウバカマなどの葉を見ながら、ヤブと谷を抜けると、再び金色の紅葉の尾根に出る。三方岩岳の黒い要塞が目の前に立ちはだかり、登るにつれてぐんぐん迫ってくる。このコースのクライマックスにふさわしい演出である。映画「未知との遭遇」に出てくるデビルズタワーへ登るシーンと重なった。岩の向こうからヘリが旋回して現れるのではないかとさえ思った。

 10分ほど紅葉の尾根を登り、一旦北に回り込んで、再び展望地に立つ。大岩は見上げるほどの位置にある。ここから北へ斜面をトラバース。北斜面には雪が残っており、道は細く、急斜面で滑りそうなところだ。滑落すれば、すり鉢のような斜面を谷底まで落ちていくだろう。雪が深ければアイゼンが必要な場所だ。滑り落ちないように慎重に歩いて、草紅葉の広場に出た。三方岩岳への稜線が目の前に見える。3名の下山者とすれ違った。紅葉したイワイチョウの葉がわずかに残っており、また花の終わったイワショウブも見られた。

 この先で稜線に合流して右へ。国土地理院の地図によると三方岩岳の山頂は稜線を左へ行ったところにあるが、稜線の標識には「三方岩岳 右へ0.1km」の表示。稜線の左側は断崖絶壁で、遥か下には葉を落としたダケカンバと紅葉の海、そして白山スーパー林道が見下ろせた。すぐに大勢の登山者がいっぱいの山頂に着いた。ほとんどが三方岩駐車場からの登山者だ。ここの標識は三方岩神と書いてある。

 まずは展望。白山は雲に隠れているが、雲が動いており、隙間からは冠雪した峰が望めた。雲はしだいに消え始めていた。山頂の南西斜面の紅葉が美しく、南に野谷荘司山の頭が、その向こうには三方崩山が山頂を覗かせている。東から北へは大展望。東には猿ヶ馬場山と籾糠山、北に目をやると三角形の三ヶ辻山とその左になだらかな人形山。北には大門山、大笠山、笈ヶ岳が望めた。

 山頂の隅の白山が見える位置にシートを敷いてランチにする。メニューはおでんにキノコと野菜を入れた鍋、最後にご飯を入れて雑炊にした。途中で出会った春日井からの1班が登ってみえた。到着するなり、手際よく食事の準備が始まった。聞けば大鍋2つでトン汁を作るとのこと。なるほど、5班に分かれていると聞いたが、先頭の1班は料理班である。次々とパーティーが到着し、山頂は大勢の登山者でいっぱいになった。料理を作る人、食べる人、記念写真を撮る人など実に賑やか。

 気がつけばいつの間にか白山の雲が消え、冠雪した御前峰や大汝峰などが美しい姿を見せる。ランチの合間に中判カメラのシャッターを切った。三方岩駐車場から次々と登ってくる登山者の靴やズボンの裾は泥だらけ。ズック靴の子供やスニーカーの観光客もあり、靴の中に水が入った人もいるのではないかと思われた。いつものようにコーヒーを飲んで、山頂で2時間、のんびりとランチを楽しんだ。帰って知ることになるが、この日、白影さんやせきすいさんも三方岩駐車場からこの山に登っていたことが分かった。白影さんは、我々が山頂にいる間は野谷荘司山に登ってみえ、またせきすいさんは我々の登頂直前に下山されたため、どちらにも会えなかった。久々のニアミス。

 日が西に傾き始めた午後1時頃、下山開始。登ってきた道を戻る。春日井の団体さんは、三方岩駐車場に下ってバスで帰ることから、この時間に料金所へのコースを下るのは我々だけだった。下り始めると、前方遠くににアルプスの白い峰が見え始めていた。穂高から後立山連峰まで真横から見る位置にあり、遠くで山の同定は難しかったが、前穂・奥穂・涸沢岳・北穂のギザギザがよく目立った。

 秋の午後の黄色い日差しで、紅葉はますます赤味を帯びて美しい。山頂の賑やかさと対照的に誰もいないこのコースは、燃え尽きようとする秋色の木々に囲まれ、寂しさを感じるほど。紅葉や木の実などの写真を撮りながら下った。時折後方を振り返って小さくなっていく岩の要塞を仰ぎ見る。今度は新緑に時期に登ろう。

 登りで休息したヒメコマツのあるザレ場の下で、前方から親子と思われる2名の女性が登ってきた。スニーカーで持ち物はペットボトル1本のみ。ザックもない。既に2時を回っている。これにはびっくり。「どこまで行くの?」思わず声をかけた。「以前、登ったことがあるのですが・・・。」 どうやら三方岩駐車場から三方岩岳に行くのを間違えて、白川郷展望台から山道を登ってみえたようだった。出会った場所の10m先の我々が行きに休息した展望地で景色を眺めたら戻るように話した。ブナ林まで下って、2人がなかなか下りてこないので待っていると声が近づいてきたので一安心。白川郷展望台の上から、登りとは違う左へ分岐した道を下って、丸木階段を下り、白川郷展望台へ出た。彼女たちはこの道から登ってきたようだった。2人が展望台へ下りるのを見届けて下山開始。

 スーパー林道の脇を抜けて、ブナ林を下り尾根から林道への斜面にさしかかったところで2人の男性登山者に追いついた。2人の後についてゆっくりと下る。急斜面で滑って転倒しかける場面も。林道に下りて、ススキの綿毛が舞う中を駐車場へ。料金所は下りてくる車、上っていく車で混雑していた。一緒に下りてきた2名の登山者に別れを告げ、平瀬のしらみずの湯につかって、渋滞する東海北陸道を下りたり乗ったりして家路についた。

 この三方岩登山道は三方岩駐車場から短時間で登るコースとは全く違い、変化に富んだ本格的な登山が楽しめる感動のコースだった。何と言ってもこの時期の紅葉は天下一品。特に矮小化した木々が一面に紅葉している標高1500m以上では展望もすばらしく、他の山ではなかなか体験できない山歩きが楽しめる。中腹のブナ林もいい。道は比較的明瞭であるが、四等三角点先の鞍部を抜ける部分は、平坦な地形でヤブや湿地もあり道を誤りやすい。また、山頂直下のザレ場のトラバースは滑落の危険がある。雪やガスの時には要注意。すばらしいコースであるが、登山者は比較的少ない。地図などを必ず用意して十分な装備で登られたい。感動の山旅が待っている。
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