三方崩山 (2059m 白川村) 2003.9.7 晴れ 2人
林道終点登山口(6:32)→朽木のある支尾根(6:57)→標高1244m地点・主尾根(7:32)→標高1373m地点・4等三角点(7:57)→標高1624m地点・白ザレ(8:33)→三方崩山山頂(10:37-11:38)→標高1624m地点・白ザレ(12:49)→4等三角点(13:13)→標高1244m地点(13:31)→林道終点登山口(14:07)
昨年の秋に野谷荘司山でクロス登山をした同じ町内のHARUさんの家を、野谷荘司山下山後に訪ねたところ、倉庫から1枚の板を取り出し、見せてくれた。そこには、「三方崩山」と書かれた立派な表示板があった。次はこの山に一緒に登ろうということになった。
HARUさんは、以前この山に挑戦し、時間切れで途中撤退をしたという思い出の山。ロングコースであり、今年、日の長い時期に登ろうと計画したが、日程が合わず、HARUさんは8月に登頂。表示板も設置してきたとのこと。この山のすばらしさを聞かされ、9月までには登ろうと決意した。
この日曜日の天気は良さそうだ。朝、早い時間から登り始めることとし、御母衣湖畔のドライブインの駐車場で前夜泊することとした。ここにはキャンプ場が併設されており、何年か前に家族でキャンプをした懐かしい場所である。22時過ぎに駐車場に着いてびっくり。標高1000mトライアルと題してラリーのスタート地点となっていた。ラリー仕様の車で駐車場が埋め尽くされ、整備や車検などの真っ最中。駐車場の片隅に駐車して車中泊したが、深夜にスタートしたようで、なかなか寝付けなっかた。
朝、5時。目がさめると、広い駐車場には我々の車1台だけが止まっていた。身支度をして、ダム沿いの道を北上し、登山口のある白川村平瀬を目指す。トイレは御母衣ダム辺りで済ましておく。一般には、平瀬の中心にある平瀬温泉共同浴場の広場に車を止めて20分ほど林道を歩き登山口に向かうが、先日登ったHARUさんの話では、後輪駆動ワンボックスで登山口まで入ったとのこと。ウチの車は同じ車種のワンボックスで4WD。行けると確信して車を進めた。
共同浴場の裏手(北側)を山に向かって進むと、林の中に入る手前に登山者への注意事項が書かれた看板がある。未舗装のでこぼこ道に入ってすぐに現在建設中の平瀬バイパスに突き当たる。登山口への道はバイパスで分断されているが、少し北から山側に続いている(標識は無い)。
高圧線の下をジグザクに登る。途中、2箇所ほど分岐があるが、表示があり間違えることはない。やがて、道はかなり荒れ、事前情報が無ければとても進む気にはなれない。鋭角のカーブは切り戻ししながらゆっくり曲がった。路面が舗装道路に変わると、林道終点。突き当たりの小さなトンネルからは勢いよく水が流れ出て林道に川を作っている。草地に数台駐車可能。
登山口は、西側のコンクリート法面に作られた階段であるが、入り口を示す案内はない。金属製の登山届ボックスと思われる箱が土砂につぶされていた。この辺りでは、クマが頻繁に出没すると聞いていたので、クマよけの鈴を付けた。
ここから山頂まで標高差1200mはある。気合を入れて靴の紐を締め、流れを渡って登山道に入る。路面が見えないほどアカソが生い茂り、昨日降ったと思われる雨でズボンが濡れる。スパッツをつければよかったと思ったが、草道はすぐに終わる。いきなりの急登である。草道を直線に登り、やがてジグザグの道になる。アキチョウジの花が咲き乱れている。フシグロセンノウのオレンジ色が鮮やかだ。この辺りの潅木は雪に押し倒されて大きく曲がっている。
大きなトチの実を踏みながら、急登のピッチをつかむ。先は長いのでゆっくりペースで歩く。大きな朽ちた木に赤いテープが巻かれた尾根のようなところで道は直角に左に曲がる。道は比較的なだらかになり、南方向へ登っていく。林床を埋めるようにかわいい薄橙色の花をつけたアケボノシュスランが群生している。道に倒れた木の下を地面を這って通過するところもある。
いつしか周りにはブナの巨木が立ち並び、ガスに覆われた幻想的な世界が美しい。すばらしい森である。落ち葉が育てたいろいろなキノコが傘を広げ、キノコの森でもある。道はふたたび直角に右に曲がり、周りが明るくなる。ここが標高1244m地点。山頂まではまだ800mを登らなければならない。
ここから道は山頂を目指して尾根をまっすぐに進んでいく。なだらかな道は広く、ブナの巨木が美しい。ムシカリの赤い実が夏の終わりを知らせる。命を終えて道に倒れた木をいくつもまたいだ。登山口から1時間ほど歩いたので休憩。
この先、すぐに標高1373mの4等三角点を通過。急登の連続とは聞いていたがなだらかな道が続くものだ、と思ったのもつかの間、このなだらかな道を記憶から消し去るほどの急坂が待ち受けていた。広い登山道は次第に傾斜を増してくる。ササが茂る道の左側にゼブラロープが張られ、見上げれば急坂が遥か先まで続いている。滑りやすい土を踏んで一歩一歩登っていく。ダブルストックの効果発揮。ロープは右、左、両脇と位置を変え延々と続く。
この直線コースを1時間ほど歩いて周りの木が低くなり、いきなり明るい展望地に飛び出す。左側が大きく崩壊している。白ザレと呼ばれる標高1624m地点である。リンドウ、アキノキリンソウ、ミヤマママコナ、オオヤマボクチなどのたくさんの花があり美しい。周囲はガスに包まれ先が見えないが、左の谷の向こうには前穂を思わせる岩肌がすばらしい。晴れていればこの上に勇壮な三方崩山が望める。(帰路、晴れていて確認することができた。)
急登は終わり快適な尾根歩きだと思ったが、道は尾根から右にはずれロープの急登が容赦なく続く。谷から吹き上げる冷たい風に吹かれながら登る。真っ白な肌をしたダケカンバが美しい。白ガレから30分ほど歩いたヤセ尾根で、谷から湧き上がるガスが切れた。左前方に三方崩山が荒々しい山肌を見せる。この先展望は期待できそうだ。カライトソウやヤマハハコ、シャジンも現れる。あいかわらずリンドウはたくさん咲いている。
草つきの斜面を、前方のピークを目指して登る。いつしか雲が切れピークの上には真っ青な空が広がる。ひらひらとアサギマダラが上昇気流に乗って尾根を越えていく。後ろを振り返って息を呑む。真っ白な雲海の上に御嶽山が浮かんでいる。乗鞍、穂高、槍、笠なども確認できた。湧き上がる雲の間からは御母衣湖が空を映している。遮る物が何もない大展望に疲れも忘れて写真を撮りまくる。
いくつもの小ピークを越えぐんぐん高度を稼ぐ。ピーク超えにはクサリやロープが設置されており、補助的に利用した。一部、抜け落ちそうな石などもあり、落石には要注意。ピッチの速い単独の男性に追いつかれた。共同浴場に車を置いての登りと聞き、その速さにびっくり。
崩壊地手前でザックを発見。先ほどの人のザックでもない。チョコレートの箱を開けたままで、人が突然消えたような状況に、思わず谷底を覗き込むが人影はない。足跡から、我々よりも先に人が歩いていることが分かっていたので、ここにザックをデポして山頂を目指したと推定。案の定、少し先で下ってくるザックの持ち主の単独男性に出会った。「この先、危ないところが1箇所あります」とのこと。
クサリ場を登りきり、1956mピークに着く。前方には薄っすらとガスのかかる三方崩山の全容が望める。アカモノやシラタマノキの実がたくさんあり美しい。ピークからの下りにはクサリ場があり、足場がザレて滑りやすい。山頂はもうすぐと気はあせるがまだまだである。そしてこの山の名物、超ヤセ尾根が現れる。北側が崩壊しており、今では道の下までえぐれた状態で、道の上を歩ける状況ではない。そのため、左側のササの急斜面に回り道がつけられていた。道といっても草が刈ってあるだけで、ササの茎を踏むためよく滑る。落ちたら奈落の底。木の根をつかんでゆっくりと迂回した。
山頂は左に曲がり込んだところにあり、木々に覆われている。そこへの登山道が気持ちのいい弧を描いている。前方には奥三方岳が緑に輝き、その向こうに白山の2つの峰がひょっこりと頭を出している。その左には別山が美しい三角形を作っている。
かなりバテ気味に山頂に到着。4時間5分かかった。山頂は狭く西〜北側は樹木があり、木々の間から奥三方岳と白山の頭、別山が望めた。南は切り立った崖で、眼下には御母衣湖。東には御嶽、乗鞍、穂高、槍、笠が雲海の向こうに広がっている。手前の山は猿ヶ馬場山。北の尖がり三角形は籾糠山か。今、登ってきたノコギリ状の尾根全体が見渡せる。
狭い山頂には三角点脇に山名表示板があり、北側の木には8月にHARUさんが付けた赤いプレートがあった。山頂片隅で先ほどの男性が食事中。我々もその横で昼食にした。今回はシンプルにビール、缶詰、ラーメン。男性は美濃加茂市の方で、いつもグループで登ってみえるが、今回は暑い時期でもあり、同行者が無く単独とのこと。毎日、1時間ほどランニングしているそうで、速く登れる理由がここにあるようだ。
1時間ほど、山談義。食事の間に、ガスはすっかり消えた。山頂は日差しを遮るものがなく暑い。山頂中央で羽アリの群れが飛んでおり、食事に入ったりして大変だった。帰り際に単独男性が到着。いつまで眺めていても飽きない展望であるが、帰路も時間がかかるため山頂を後にした。
帰路、ガスもなく前後左右大展望の尾根歩きは最高。御岳や穂高など、遠方の山は見えなくなっていたが、行きにガスで見えなかった北の鳩ヶ谷ダムや野谷荘司山の崩壊地などが望めた。登り以上に慎重に下った。登山道はピークを越えながら下のほうまで続き、そのルートが見下ろせる。白ザレも見える。振り向けば三方崩山が美しい。登りに晴れていれば、山頂がぐんぐん近づいてくる迫力はすごいにちがいない。
途中、男女2人パーティーとすれ違った。後日、HP「Welcome to Itoh`s Page」の管理人さんであることが分かった。ご夫婦だと思っていたがご兄弟でした。白ザレで山頂を最後の見納めとして樹林帯に入り、急坂をロープにつかまりながら下った。ブナ林で登ってくる2名の男性に出会った。この時間から山頂までは無理だろうと、お尋ねしたところ、この辺りを散策しているとのこと。美しいブナ林やアケボノシュスランなど見所は多い。紅葉の時期にはよりすばらしい散策ができるであろう。
山頂から2時間半で登山口に到着。急坂でつま先が痛くなった。到着時間を記録し、トンネルから流れ出る冷たい水で顔を洗った。最も充実感に浸れるひと時。車で平瀬温泉共同浴場まで下り、温泉で汗を流し、ダム湖畔を下った。
三方崩山はロングコースでもあり、危険なヤセ尾根を歩くことから、入山者は比較的少ない。しかしながら、美しいブナ林や多くの花、山頂を前に大展望の尾根歩きなどは想像以上にすばらしかった。この魅力のためであろうか、三方崩山のファンは多いと聞く。ちょうどこの山の北にある野谷荘司山から大窪集落へのコースを男性的にしたイメージである。お気に入りの山がまた1つ増えた。
時間にゆとりをもって、早朝から登るのがいい。なお、共同浴場から登山口までの道は現在の荒れ具合なら4WDなど車高の高い車で侵入可能だが、歩いても20分程度のため無理しないほうがいい。
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