トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部誤動作あり
白木峰の展望と植物を見る
白木峰 (1596m 飛騨市) 2008.10.13 晴れ・曇り 2人
万波高原・小谷への林道分岐点(7:31)→車止め鎖(7:44)→登山口(7:57)→稜線の万波高原分岐点(8:33)→小白木峰山頂(8:38-8:41)→鞍部・泥の湿地(9:08)→丸木階段取り付き(9:49)→展望のいい尾根(9:58)→石仏のあるピーク(10:15)→白木峰山頂(10:20-10:33)→浮島(10:52-10:56)→白木峰山頂(11:20-12:26)→小白木峰(13:41)→稜線の万波高原分岐点(13:46)→登山口・林道(14:09)→小谷への林道分岐点(14:42)
舗装された狭い道を、車は大きなエンジン音を響かせて登って行く。車に驚いた路上のヤマバトたちが四方に飛び去る。カーブの連続する道には、花の終わりかけたゴマナが路肩に倒れかかる。時折、路面の流れに水しぶきを上げる。新しい濡れた轍が、先行車のあることを教えてくれる。アクセルを踏むのがいやになるころ、道はなだらかになりアンテナの立つ峠に出た。周囲の山々の展望が広がった。山肌は、赤土の裸地と見間違えるほど赤い。いい時に来たと思った。万波高原は、今、確実に、目に見えぬ秋という空間の中に埋もれようとしている。
白木峰は岐阜県の北端、富山との県境に位置する。富山県側から車道が山頂近くまで上ってきており、富山県から登るのが一般的であるが、岐阜県側からも登山ルートがある。その登山口は農地開発が行われた万波高原の奥にある。万波高原を起点とする登山道は、白木峰から南へ延びた長い尾根を歩く。尾根の南端にある小白木峰を経由して白木峰山頂に至る。岐阜から万波までのアプローチが長く、白木峰登山はなかなか実現しなかった。
この連休は市民運動会などがあったことから、連休最終日に山行の計画を立てた。天気ももちそうだ。1000m付近まで紅葉前線が下がっているので、1500mクラスの天然林の山を探し、白木峰を選んだ。
国道41号線で飛騨市を北上。朝霧の中、旧古川町の市街地を抜けたところで国道471号線から360号線へと乗り継いで走る。国道はJR高山本線と宮川に沿って北上していく。JR高山本線の踏切を渡るとすぐに打保の集落に入る。JR打保駅への入り口の反対側にJAの建物があり、その脇に狭い舗装道路が山に上がっている。これが万波高原に至る道である。
30分ほど上ったであろうか。アンテナの立つ峠を通過して、下って行くと農地開発が行われた万波高原に着く。農業施設もあり、トラックも止まっている。ダイコンやソバが栽培されている広い農場を真っ直ぐに走ると、未舗装の道となる。時折、路面が盛り上がっているが普通車でも通行できる。野菜の選果場を過ぎてしばらく走ると林道は2手に分かれ、左は鎖で止められている。右が小谷に沿う林道で、白木峰の登山口に続く。車で進入できそうであったが、Uターンを考慮して、この三叉路の脇に車を止めた。3台くらいは駐車できそうだ。
靴を履き替えて、右の林道に入る。左の山はまだ緑の木が残るものの、赤や黄色がモザイクになって美しい。15分ほど歩くと一般車両禁止の標識があるクサリのゲートが現れた。赤テープが賑やかにぶら下がっており、山火事用心ののぼりもある。林道は折り返すように向きを変え、谷を離れる。再び折り返して左回りに向きを変える辺りに「白木峰登山道入口」の標識が現れた。ブナ林下草植生保護を呼びかけるプレートもある。ツルリンドウの赤い実を足元に山道に入る。よく踏まれた登山道は草が刈り取られて広く、周囲のクロモジ、ムシカリ、ウリハダカエデ、コハウチワカエデなどの紅葉がすばらしい。赤土がむき出しになったところもあり、滑らないように登っていく。道が分岐しているがすぐ先で合流している。
ブナの落ち葉の中で、カンアオイの緑の葉が引き立つ。秋山特有の獣の臭いが鼻をつく。右山から左山へと急な尾根を九十九折れに、イワカガミの葉を見ながら登っていく。後方には谷を挟んで紅葉の山が望め、朝日が差し始めた。青空にブナの黄色い紅葉が映える。急斜面ではあるが、ジグザグに道が付けられていることから、きつい登りではない。ガガンボの仲間であろうか、小さな虫が飛び立つ。
登山口から20分ほど登るとなだらかな道となり、ササが現れる。見事なブナの大木に圧倒される。金色の葉を付けたブナの大木は太い枝をくねらせ紅葉の潅木を足元に並ぶ。この山の主のごとく、我々を見下ろす姿に、思わず足を止めた。この美しいブナ林を10分ほど歩くと、潅木帯となり、振り向けば、朝霧が真っ白な雲海となって山間を埋める。足元にはゴゼンタチバナやオウレンが目に付く。露で靴やスパッツがずぶ濡れ状態。すぐに稜線の道に突き当たった。登ってきた方向には「万波高原」の標示。左は国道471号線方向からの登山コースとなる。
右に折れて、草付きの道を緩やかに登っていくと、周囲の木々は人の背丈ほどとなり、紅葉の丘陵地形となる。後方には朝日に照らされた金剛堂山がすばらしい。露に濡れたアカモノがまだ花を咲かせていた。丘陵を登り切ると、三角点と木の杭に3枚の白いボードがある小白木峰に着いた。通過点のような山頂である。タイマーで写真を撮って喉を潤し、すぐに出発。
ぬかるんだ道を緩やかに下り、さらに急斜面を下りていく。落ち葉の下は滑りやすい。紅葉の木立を潜ると、前方に燃える大地とその向こうに大きな山のシルエットが見える。台地に散らばる黄色い斑点模様は何が紅葉しているのだろうかと思ったが、後にタカノツメであることが分かる。色づいたブナ林を抜けると、いきなり潅木の台地に飛び出す。地平線が弧を描く。白い雲が湧き上がっている。赤く色づいたマルバマンサクが美しい。
紅葉に感動しながら歩くと、目の前に白木峰が美しい姿を現す。下半分は台地に隠されている。美しい山だと思うと同時に、とんでもなく遠いと思った。道は直角に右に向きを変える。太陽を正面に光の海を歩く。濡れた葉が銀色に反射して眩しい。水滴がきらめく。一旦、樹林帯に入るが、再び台地に出る。この辺りにはタカノツメが多く、表現できないほど黄色に染まり、それは見事。白木峰の山頂には雲がかかり始めていた。
右方向に下って、樹林帯をアップダウン。突き当たるように道は直角に左に曲がり、下っていく。赤く色づいたウリハダカエデはすでに散り始め、路面に散らばる葉を踏んで下ると広い鞍部に出る。鞍部は泥沼状態。泥に足を取られてどろどろ。登り返して緩やかに下り、また登る。ピークあたりでチラリと白木峰が見える。だいぶ近づいたが、まだまだ遠い。倒木が苔むす林を、落ち葉をかさかさ踏んで歩く。ここでも金色の美しいブナの林を通過。
小さなアップダウンを繰り返す。鞍部はぬかるみ状態。ステンレス水筒の忘れ物があった。ツバメオモトの青い実を見ながらピークで一休み。ナナカマドの赤い実が青空に実る。パンを食べて5分ほど休憩して歩き始めるとすぐに、白木峰の展望地があったので、再び休憩。中判カメラで白木峰を撮った。左下から白木峰の山腹を登る林道の法面が見えた。紅葉の樹間から白木峰を見ながら歩くと、次第に山頂は手前の尾根に隠されていく。急な斜面を登り、ササとブナの道を抜け、丸木階段のある急斜面の前に出た。紅葉のトンネルの中、階段を登りつめる。見事な紅葉の中、再び丸木階段を登る。
登り切ると360度の展望が待ち受けていた。遠くなった金剛堂山の手前には馬の背のような小白木峰、それから続く広い尾根は今歩いてきた尾根である。その向こうのピークに林道が見え、車が動いていた。正面にはS字に続く尾根が白木峰山頂に向っている。右のササ斜面に点在する紅葉が美しい。ナナカマドの実がたわわに実った尾根を歩く。紅葉したツツジはオオコメツツジのようだ。ネバリノギランの黄色くなった葉が地面にへばりついている。
山頂がどんどん近づいてくる。人工物が見える。別山や経ヶ岳を思わせる。GPSで確認すると山頂はまだ先のようだ。季節はずれのスミレが咲いている。蛇行する尾根を歩き、丸木階段を登るとピークに出た。人工物は石仏が納まった石灯篭だった。東から峰を越えていく風が心地よい。方位盤の建つ山頂が見える。山頂までの標高差はわずか。
木道を左回りに歩く。すぐに分岐があり、左にはヘリポートが見える。前方から大きな犬をつれた家族が下ってきた。富山県側から登ってきたそうで、車道が途中で通行止めとなっており、通常の倍ほどの時間を要したとのこと。ヘリポート方向に富山県側への登山道があるようだ。
木道を歩いて山頂へ。大きな方位盤とあまりにも立派な山名標示板がある。まぎれもなく観光地だ。富山県側には、すぐ下に青い屋根の避難小屋が見えた。北にはササと紅葉の丘陵地形が広がり、白い道が北のピークへと続いている。池塘も見える。山頂で写真を撮ったら、この丘陵地の先にある浮島まで行ってみることにした。
丸木階段を下ると、分岐があり、左へ行けば避難小屋へ下る。池塘があり三段の池と読める消えかけた文字が書かれていた。枯れた草原の木道を北に向う。小さな池塘があり、ハリネズミのように一面に枯れた単子葉植物が水面に突き出ている。そよ風が流れる中、新しい木道を進む。ふと、北ノ俣を思い出した。ササの緑に紅葉の潅木、青い空に白い雲。天国のような世界を歩く。ササが木道を隠すようなところもある。
15分ほど歩いてピークへ。さらに木道はゆるやかな起伏を縫って次のピークに続く。後方には避難小屋と白木峰が美しい。登山者と挨拶をかわし、次のピークに着くと、先に池塘が見えた。ここが浮島である。池に2つの島が浮いているように見える。島にはイワイチョウやツゲなどが生えている。池の周りの木道を回った。この先、道は無く、紅葉の尾根が広がっている。
写真を撮ったら木道を引き返した。白木峰を見ながら、青空の下を歩き、山頂に戻ってランチにした。ベンチを背に、おでん鍋とカレーうどんを作った。日が差したり曇ったりの天気。風も無く温かい。登山者が次々と登ってきて、下っていく。スニーカーで登ってくる人もいる。コーヒータイムの頃、避難小屋方向からご夫妻が登って見えた。聞けば、大垣市から見えたそうで、しばらく山談義。10年以上前から頻繁に山歩きをしてみえ、金華山もよく登ってみえるとのこと。この山は初めてで、浮島があることを伝えると、下っていかれた。山頂で出会った登山者にルートを聞いてみたが、我々以外に万波高原から登ってきた方はいなかった。
1時間ほどのランチを楽しんで、登ってきた道を下る。いつの間にか青空は消え、ガスが紅葉の稜線を越えていく。一気に展望の尾根を下り、丸木階段を下って樹林帯のアップダウンを繰り返し、小白木峰北の台地を通過。小白木峰はガスの中。振り向けば、白木峰もすっかり見えなくなっていた。小白木峰を通過して、万波高原分岐点まで下ると、10人ほどの団体さんに出会った。金剛堂山側から小白木峰まで登って下山するところだった。
団体さんと分かれて、美しい紅葉の中、九十九折れを下って林道に出た。林道には山ブドウが多いが、手の届くところに実がついていないのが残念。それでも数粒味見することができた。甘酸っぱいブドウの味がした。林道分岐点には我々の車1台のみ。今日、ここから歩いたのは我々だけだった。まさに、白木峰の裏道である。再び青空が見え始めた万波高原を後にした。
なお、今回の山歩きで、初めてシラヒゲソウに出会った。多くの山を歩いてきたが、この花に出会うのは初めて。花の形を見てすぐに名前が分かった。花びらの髭に露が降りて一段と美しいく、黄色い仮雄しべはまるでミルククラウン。ウメバチソウの仲間の美しい花で、この時期に見られるとは思わなかった。
念願の白木峰はすばらしい山だった。美しいブナ林や紅葉の台地、ササの尾根、湿原の木道など、この辺りの山では体験できない。アプローチは遠いが、それだけの価値を持つ山だと思った。岐阜県にはこんなにいい山があることを発見した山旅でもあった。春も花が多いに違いない。残雪の残る頃にも登ってみたい山である。
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