↓蕎麦粒山からの展望

↓トレースマップ (カシミール3Dで作成)
蕎麦粒山 (1297m 揖斐川町) 2005.10.30 晴れ 2人

駐車地点・広場(7:21)→林道から谷への分岐(7:22)→<谷川へ下って道に迷う>→林道へ戻る(8:05)→林道崩壊地(8:17)→林道終点(9:02)→渡河・登山口(9:15)→ロープ場(9:22)→岩の痩せ尾根(9:55)→崩壊した岩尾根(10:41)→白岩のピーク・五蛇池山への分岐(10:52)→最低鞍部(11:15)→蕎麦粒山山頂(11:59-13:04)→白岩のピーク・五蛇池山への分岐(13:55)→登山口・渡河(14:58)→林道終点(15:11)→駐車地点(15:59)

 蕎麦粒山は美濃の山のラウンドマーク。特徴ある丸い頭はすぐに蕎麦粒山と分かり、この形が登頂意欲をかき立てる。しかし、この山は崩壊した林道歩き、急登、ヤブとその難易度は高く、我々で登れるような山ではないと思っていた。昨年、雪の湧谷山から眺めた蕎麦粒山は五蛇池山と並んで実に美しく、どうしても登りたい山の1つとなった。

 今年こそはこの山の頂上に立とうと春に山行計画を立てたが、達成できなかった。日が短くなると時間切れになるため、10月をタイムリミットと考えた。今年最後のチャンスと、月末の休日に一日だけ空いた日を確保し、好天になることを祈った。ちょうどこの日に「クーの山小屋」の清掃登山が夜叉ヶ池で行われ、久しぶりのオフ会に参加したいとも思ったが、これ以上日が短くなると、今年の蕎麦粒山登頂は断念せざる得ない。

 せきすいさんのレポートを参考に7時半のスタートを目標に自宅を出た。国道303号線を西進。横山ダムを渡って、旧坂内村役場手前の道の駅でトイレに寄って、さらに西に走り、正面に丁子山を見ながら、遊ランドスキー場の案内に従って右折。丁子山・湧谷山の登山口となる遊ランドスキー場の大きな駐車場を左に見ながら細い舗装道路を約3kmほど走ると、未舗装となり道は草付きの小広場で行き止まりとなる。ここが蕎麦粒山・五蛇池山の駐車場。普通車でも問題なくアプローチできる。

 7時過ぎ、数台が駐車可能な広場に車は1台もない。駐車場がいっぱいになるような山ではないようだ。昨日の雨に濡れた草むらに車を突っ込んだ。1羽の雄のキジが飛び立っていった。草が濡れているのでスパッツを付けて出発。蕎麦粒山の登山口までは崩壊により廃道となった大谷川林道を約1時間ほど歩くことになる。

 駐車場の先にある林道跡を100mほど歩いたところで、左に新しく切り開かれた林道から分岐する明瞭な道とピンク色のテープが続いている。さてどちらへ行くか。林道を歩くのが正しいルートであることは分かっていたが、「崩壊」という言葉が頭を過ぎった。さらにテープが拍車をかける。「林道が崩壊して脇道ができたのだろう」と勝手に思い込んで脇道に入った。これが40分ほどの時間のロスを招くことになる。

 刈り取られたススキを踏みながら歩くとすぐに土砂崩れでえぐり取られた場所を渡る。フィックスロープのある崖を登り、やがて道は怪しくなり大きな砂防堤にたどり着いた。堰堤からますます不明瞭になった斜面を下り、テープを探すが見つからない。大谷川の河原に下りると、砂の上には人の足跡があるものの、崖と川に囲まれ、先への道はない。GPSで確認すると、川を遡れば林道に合流するが、遡りは困難。道が間違っていたようだ。引き返すことに。途中、山側にテープがあったが道はない。谷の岩壁に花の終わったイワタバコの群落を見つけたことがせめてもの拾い物。

 林道まで戻り時計を見ると8時5分。この時間ならなんとか16時までには戻れる。駐車場に1台のワゴンが到着したのが見えた。他の登山者がいることに一安心。先を急ぐ。林道はすぐに崩壊地に突き当たる。崩壊地にはかすかな踏み跡が残されていたが、ここから右へ急斜面をしっかりした道が上がっている。斜面に取り付く。急斜面であり、ロープ場もある。

 息を切らして登り切ると、林道跡に出た。林道を戻るように右に進み、折り返して先ほどの崩壊地の上部に出る。林道は崩れ落ち、細い道が崩壊地を横切って付けられていた。木やフィックスロープにつかまりながら慎重に渡りきる。この細道も下部が浸食され、崩れ落ちそうである。

 崩壊地を渡りきって、長い林道歩きが始まる。林道にはススキや潅木が茂っていたが、人が歩けるように刈り取られて間もない。こうして草刈りが行われていることに感謝。陽の当たらない谷沿いの道は暗く、他の登山者もいないため心細い。右手の山側から落ちてきた石がいくつか道に転がっていた。気持ちのいいものではない。人の手で作られた林道も利用されず改修も加えられなければこのようにすぐに荒廃し、元の山に返っていく。

 寂しい林道跡を黙々と歩きながら、何か別の世界へ入っていくような気がした。人間の踏み入ってはならない深い深い山の中へ入っていく。荒廃した林道だからこそ、こんな思いになったのかもしれない。昨夜の雨でぬかるんだ場所を何度か通過。まだ、薄紫色をしたトリカブトの花が咲いていたのに感動。

 谷川の音を聞きながら約1時間歩くと、ガムテープに「ソムギ山」と書かれた目印。枯れ木が3本、ピラミッド状に組まれていた。谷を左に見ながら、ここから山道となる。トチの落ち葉を踏みながら美しい天然林を歩く。すぐに再びガムテープにマジックで「ソムギ山15分」の表示に、道が間違っていないことを確認。うれしい表示である。川を渡って登山口と聞いていたので、そろそろ川を渡る頃かと思ったところで、対岸に赤いテープと黄色い小さな標識が見えた。

 石を跳んで対岸に渡る。黄色いプレートには蕎麦粒山と岳友タンネの会の文字。この地点から川沿いにさらに奥に道が続いており、その方向には同じようなプレートに五蛇池山の表示。五蛇池山へはまたいつか登ることにして、蕎麦粒山を目指す。

 シダに覆われた緑の美しい林を抜けて山に取り付く。イワウチワの光沢のある葉や赤いツルリンドウの実を見ながら5分ほど歩くと、眼前にシャクナゲのある大きな岩の壁。長いロープが垂れている。蕎麦粒山名物のロープ場。いきなりの難所登場はこの山のプロローグにふさわしい。落石に注意しながら、ロープは補助程度に使って三点支持で岩を登る。

 この演出にこちらも戦闘態勢。登り切ったところで、小休止してパンでエネルギー補給。軍手でよじ登りに備える。木の根の張り付いた岩尾根を、まるでフィールドアスレチックのように両手両足で登る。ストックは不要と聞いていたが、確かに登りでは邪魔になる。ザックに付けようと思ったが、シャクナゲなどの枝が垂れ下がった場所が多く、かえって危険なので、右手に持った状態で登る。シャクナゲがたくさんある。花の時期にはすばらしいに違いない。また、ヒノキに混じってヒメコマツの多いのには驚いた。黄色くなった五葉の松葉が地面にたくさん落ちている。

 急登の尾根は容赦なく続く。木の根につかまりながらひたすら登る。後方の五蛇池山方向から出てきた朝日が背中に当たる。陽の当たらない林道を歩いてきたため、太陽の光が気持ちいい。シャクナゲやヒメコマツは雪で根元から地面に這うように大きく湾曲している。途中、ループ状になったヒメコマツの幹にはびっくり。

 登山口から40分、急登をこなすと、いきなり開けた展望のいい岩の痩せ尾根に出た。金華山の東坂コースの岩場を思い起こさせるような場所である。右手には深い谷。谷を隔てて五蛇池へ続く稜線の紅葉が美しい。見上げれば正面にピラミダルな山が見える。この時、この山が何であるのか分からなかったが、登るに従って、この山が小蕎麦粒であることが分かった。下から見上げると、実にデジタルな形をしている。

 ここからやや下り気味に歩いて、すぐにヤブっぽい痩せ尾根の登りにかかる。タカノツメやシロモジの黄色い葉がすばらしい。シャクナゲのある尾根のテラスで一息。まだ、先は長い。潅木の枝が登山道を覆い、道は明瞭であるが枝がうるさい。ヤブを分けるためにストックも水平状態。ストックの冬用リングにシャクナゲなどの枝が引っかかって、ストックを持ってきたことを後悔。この時点で、更にこの先、とんでもないヤブこぎが待っているとも知らず、早くヤブを抜けないかと思っていた・・・。

 ヤブの急登が続き、ササが現れた。登山口から1時間。次第に木々が低くなり、ブナやカエデ、ナナカマドの紅葉が美しい。ナナカマドのたわわに実った赤い実が紅葉を引き立たせる。山に入ってずーっと気になっていたが、獣の臭いが終始鼻をつく。この山は、やはり人の入る山ではないのかもしれない。他の登山者も無く、ヤブとこの臭いに、そんなことを思いながら登る。

 ヤブにうんざりして振り向けば、後方に尖った山が見える。これが五蛇池山と思っていたが、五蛇池山は右手に見える山であった。知らぬ間に後方の峰の向こうに遠くの山が見え始めていた。山の同定は後にして、とにかくヤブを分け、ヤブのトンネルを潜る。イワウチワの多いなだらかな道となり、ヤブが切れて前方が開けた。小蕎麦粒がかなり近くに見えるようになった。大きな倒木を跨ぐ辺りで急登も一休み。この先で一旦大きく下って登り返す。左手に大きな特徴ある丸い山。錦の着物を身にまとった蕎麦粒山である。美しい。念願の蕎麦粒山が、今、手の届くところにある。しかし、山頂に立つには、この先のピークから左へ大きく下って北から回り込まなければならない。

 やがて岩が崩れて右の谷へ崩壊しかかった展望の良い岩場に出た。この辺りからの展望はすばらしい。西の蕎麦粒山から南、そして東までぐるりと見渡せる。五蛇池の向こうには見覚えのある山容。小津権現山から花房山への稜線が長く線を引く。湧谷山、金糞岳、・・・分かる山を指さす。同定は山頂で行うことにして、この展望地から急な斜面を下り、登り返す。この辺りもシャクナゲが多く、小津権現の前山からの下りを思い出す。

 紅葉したドウダンと対照的な緑色のアカミイヌツゲのブッシュをこぐ。ピークはまだかとGPSで確認。白い大岩のあるピークに登山口から1時間40分弱でようやく到着。岩に登ると堂々たる蕎麦粒山と山頂へのルートがよく見える。時計と反対回りにぐるりと歩くルートだ。

 岩から2mほど先に分岐点があった。ここにもタンネの会の表示プレート。右へ行けば小蕎麦粒を経て五蛇池山に至る。今日は左。ピークでの休憩も無しに、ノンストップで下りにかかる。

 ヤブは潅木からササに変わる。背丈以上もある急斜面のササのトンネルを下っていく。帰路、この登りは辛そうだ。10分ほど下って道はなだらかになり鞍部に近いと思ったが、まだまだ下っていく。美しいブナの林へ。この辺りの紅葉は終わり、ブナは葉を落とし始めていた。登りにかかるので、鞍部かと思ったが小さなピークのようでまた下りになる。北の山々が見え隠れする。前方には蕎麦粒山が次第に近づいてきた。地面に散った赤いカエデの葉が美しい。

 ササの背丈は一段と高くなり、ひたすらストックの柄でヤブを分ける。手やストックにササがひっかかり、悪戦苦闘。間隔を開けて歩かないと跳ね返った枝が顔をたたく。イネ科の繁る草付きの痩せ尾根を通過して、登りにかかる。このあたりのヤブが一番手強い。倒れ込んだササとは反対方向に登るため、ヤブの抵抗は最大限。おまけに登山道へ倒れ込んだササを踏んで転倒することも。掘り割り状の谷のようなササを押し分けてぐんぐん登る。

 かなりのヤブをこいで、ようやくヤブも少なくなった。いつの間にか、小蕎麦粒が左真横に見えている。回り込んだ、最後のところ。見上げると、後50mほどの高さを登れば山頂のようだ。GPSで確かめて、最後の頑張りどころと自分に言い聞かせる。蕎麦粒山の真上に雲間から顔を出した太陽が燦然と輝いている。我々を拒み続けた蕎麦粒山がようやく手を差し伸べてくれたような気がした。

 滑りやすい濡れた泥道の急斜面をロープにつかまって登り、赤いカエデの落ち葉を踏んで山頂に立った。念願の蕎麦粒山、ついに制覇。この達成感はいつもより大きかった。うれしかった。

 山頂の裸地は四畳もないほど。中央に三角点。潅木につけられた蕎麦粒山の標識。展望を遮るものは何もない、360度大展望の山頂である。今日、常に我々を見守ってくれた蕎麦粒山の兄弟分の五蛇池山が小蕎麦粒の右に見える。ブンゲンと貝月山が並びその間に伊吹山が雲をまとってかすかに見える。貝月山の左は鍋倉山、更に小津権現・花房山・雷倉の稜線が美しい。今歩いてきた谷や稜線、そして小蕎麦粒が低く見える。北には三周ヶ岳、西には横山岳などが望めた。山頂から西へ10mほどヤブの中の道をたどり岩の上に立つと、丁子山と湧谷山が大きく見えた。その向こうには金糞岳の美しい稜線。苦労して登った甲斐があった。

 道に迷ったため、ゆっくりもしていられないので、早速、ランチ。時間が無くても、おでんにカレーライス、コーヒーとフルコースを一時間楽しんだ。ランチの用意をしていると単独男性が到着。聞いてみると駐車場で見たワゴン車の方ではなかった。男性は、弁当を食べて早々と下山された。誰もいなくなった山頂で紅葉の山々を眺めながら、最高の秋山に満足。

 昼食の後、記念写真を撮って下山。下りは、ヤブの倒れ込んだ方向に歩くことから、比較的楽に下った。ストックを前につきながら、腰を低くして下った。紅葉の山肌を見下ろしながらの下りはすばらしい。16時の到着を目標に、ノンストップで下りた。夜叉ヶ池清掃登山の別働隊であることから、ゴミを探しながら下山。ピーク近くで登山者のザックにつけてあったゴミがヤブに引っかかって落ちたと見られるビニール袋を拾ったほかに、ゴミはなかった。

 駐車場に着くと、行きに見かけたワゴン車は工事用の車らしく、ちょうど駐車場を出るところであった。振り向けば、蕎麦粒山が我々を見下ろしている。朝、見上げた山よりも穏やかな表情をしているように思えた。今日、一日、まるでタイムスリップをしたかのような山歩き。蕎麦粒山はワイルドでいい山だ。イワウチワやシャクナゲの時期は秋とは違ってまたすばらしい山歩きができるに違いない。次は五蛇池山が待っている。

 帰路、携帯にメールが入った。「夜叉ヶ池清掃登山隊、下山して喫茶店で反省会中」 白影さんからのメールだった。何と、メールを受け取ったのは、まさに偶然、その喫茶店前。喫茶店に飛び込んで皆さんにお会いできた。道に迷ったおかげでいいこともあった。我々は用事があって6時までに帰宅しなければならなかったため、反省会には参加できなかったが、久しぶりにkuさんをはじめ元気な皆さんにお会いできて充実の山歩きの締めくくりになった。次回のオフ会が楽しみ。(^^)
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