トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平21業使、第478号)
太郎坊山・箕作山 (350m 374m) 2010.6.27 曇り 2人
十三仏登山口(10:15)→小屋(10:30)→十三仏(10:44)→岩戸山手前・撤退(10:52-11:02)→十三仏登山口(11:27)
太郎坊宮駐車場(11:56)→太郎坊宮本殿(12:17)→稜線・太郎坊山分岐点(12:34)→太郎坊山山頂(12:40-13:29)→太郎坊山分岐点(13:35)→瓦屋寺分岐点(13:41)→箕作山山頂(13:49-13:56)→瓦屋寺分岐点(14:04)→瓦屋寺(14:16-14:22)→瓦屋寺分岐点(14:31)→太郎坊山分岐点(14:37)→太郎坊宮本殿(14:50)→太郎坊宮駐車場(15:02)
6月後半、梅雨真っ只中の休日。東海地方の降水確率は50%以上。梅雨前線が西から弱まっており、滋賀県は午前中に雨が上がり、曇りの予報。このため、滋賀県の山に行くこととし、低山で歩行時間が3時間程度の太郎坊山と箕作山を選んだ。古くから信仰の山でもあり、太郎坊山(別名「赤神山」)の山腹には太郎坊宮や成願寺などの神社仏閣があり、観光地となっている。
ネットやガイドブックで下調べをすると、扇状に広がる稜線を歩けばこの2山を周回できることがわかった。西側の十三仏登山口をスタートし、岩戸山、小脇山、箕作山、太郎坊山を歩くコースを計画。雨が降る岐阜市を出発し、名神高速道路を西進。滋賀県に入る頃に雨が止み天気予報は当たったようだ。八日市ICを下りて八風街道と呼ばれる国道421号線を西に向う。大岩を身につけた太郎坊山がすばらしい山容を見せる。登頂意欲の湧く形の山である。
小脇町交差点を直進して、岩戸山の裾野が近づいたところで農道に入る。複雑に入り組む農道でやや行き過ぎたが「十三仏」の表示を見つけて山裾に車を進めると茅葺の古民家風休息所と大きな駐車場があった。トイレも併設されている。広い駐車場は樹木に囲まれ、車は一台も停まっていない。竹やぶが休息所の裏まで迫っており、昼間でも薄暗く、ヤブカが多そうな場所である。靴を履き替えていると、地元の方がやって来た。登山口には花が添えられた石碑があり、ここに参拝にみえたようだった。
「岩戸山 十三仏」の解説があり、これによると、飛鳥時代に聖徳太子が瓦屋寺を建てたときに岩戸山に金色の光を見つけ、この岩までたどり着いて仏像を彫ろうとしたが道具を持ってこなかったので爪で十三体の仏を刻んだとのこと。信仰の山であり、この先、無数の石仏に出会うことになる。
雨に備えてストックの代わりに傘を持って出発。竹やぶと人工林の境を右に歩き、石仏を見ながら直角に左に向きを変える。石仏にはアジサイの花が供えられており、射し始めた陽の光がスポットライトのようにアジサイを照らす。薄暗い林は朝方まで降った雨に濡れて美しい空間をつくっている。石仏に手を合わせ、広い階段状の参道を登ると、大岩の回りに石仏が並ぶところに突き当たる。大岩には紅白の布が巻かれており、岩の下にはサカキと大量の塩が供えられている。
ここから右に向きを変え、濡れた石段を登る。参道に沿っていくつかの小さな石仏が並び、赤いよど掛けがかわいい。石の階段登りはきつい。また、雨上がりで湿度が高く、うっそうとした樹林帯で風は全くない。蒸し風呂の中を登っているようで、一気に汗が噴出し、Tシャツはベトベト。目に汗が入る。石段は容赦なく続き、暑さでピッチがつかめない。
左方向に向かい、階段が切れ、ベンチが現れるとすぐに小屋にも東屋にも見える屋根の下を通過。ここにも岩戸山十三仏の解説板がある。この先、石段は続く。汗を拭きながら、黙々と我慢の登りが続く。小屋から10分ほど歩くと左に石垣が現れ右には大岩。建物があり、建物の前を右に歩くと行き止まりとなる。大岩に沿って直進し、階段を登るとお社の建つ広場があり、ここが十三仏。突き当たりの大岩に十三仏が彫られたのだろうか。大岩を見上げると、折り重なった岩が高く聳え、小さな祠も見える。岩の隙間からマツやコナラが生えている。
手すりのある広場から南の展望がすばらしい。雲が垂れ込める空の下、八日市の市街地や田園が広がる。正面の田んぼの中に見える小さな森は万葉の碑がある船岡山。右端に僅かに琵琶湖が見えた。お茶を飲んで一息ついで、すぐ先にある岩戸山に向う。ノギランを見ながら建物の間を歩いて岩に挟まれた道を登って折り返すように大岩の上に出る。今までの参道とは異なり山道となった。右側はロープが張られており「危険」の標示があるところを通過。
小さな崖のようなところを、先頭のらくえぬが岩を掴んで登りにかかる。それを数メートル後方から見て思わず声を上げた。「ストップ! カモシカがいる。」 崖の上の登山道で大きなカモシカが我々を見下ろしている。びっくりして後ずさりするらくえぬ。先頭を代わって崖の上と下でにらみ合った。カモシカに出会った過去の体験からすると、出くわした直後、カモシカは動かないことが多い。しかしすぐに走り去る。とっさにカメラを出してシャッターを切った。予想通り、カモシカは見下ろすのをやめて向きを変え、姿を消した。
やれやれ。そう思って崖を登ると、何とすぐ先の道の上でまだこちらを見ている。今度は崖の上でにらみ合った。カモシカまでの距離は5mも離れていない。こんな近くで野生のカモシカをじっくり観察したことがない。一向に動こうとしないカモシカの写真を撮ってよく観察すると、左の角がない。さらに右の角はバファローのように大きく湾曲している。腹には大きな腫瘍のようなものが見え、動作や表情からかなり老齢のカモシカと推定できる。クマ鈴を鳴らしても写真を撮っても逃げない。逃げるどころか、周囲の木の若芽を食べ始めた。
一旦崖下に戻ってみたが状態は変わらない。さらにカモシカに近づこうと一歩、二歩踏み出した、とたんに息が止まった。右手の窪みに白く溶けた大型の動物の死体があった。肋骨が現れ、死後かなり経過している。カモシカが動かない理由はこの亡骸と関係があるのか・・・。穏やかなカモシカの目を見て、これ以上踏み込む場所ではないことを知り、撤退を決めた。この騒動で立ち止まっている間にヤブカに刺された。
登ってきた道を下る。小屋のところで登ってくる3名のパーティに出会った。カモシカの情報を伝え、駐車場まで戻った。カーナビを太郎坊宮の入口にセットして十三仏駐車場を後にした。
太郎坊宮の入口は東へ5分ほど走った山裾にある。田園からは太郎坊山中腹の岩の上にある神社の建物が見え、かなりの参拝客がある観光地をイメージしたが、鳥居の近くにある駐車場は道路脇の数台ほどの未舗装の空き地だった。神社への参拝客はさらに舗装道路の山道を上がったところにある大きな駐車場に停める。ここまで車を上げれば本殿までの階段を登る距離は1/3ほどになる。どこから登ろうか迷ったが、742段を制覇するために麓の駐車場に停車。選挙カーの連呼が聞こえる。この神社は勝運授福の神が祀られている。
正午に近い時間となっていたのでSAで購入したパンを食べて出発。上り口には懐かしい郵便ポストがあり、「是より本社まで326m」の石柱を見ながら階段に取り付く。モミジのトンネルで、階段の横の地面にはモミジの芽がたくさん見られた。成願寺の左にある太郎坊宮の鳥居を潜って、一直線の階段が始まる。
広い階段を登るとすぐに成願寺に着いた。ここから鳥居の続く一直線の階段をひたすら登る。下りてくる人も登ってくる人もいない。ほとんどの参拝者は上部の駐車上を利用するため、ここを通る人は少ない。汗びっしょりで、駐車場の分岐点へ。左は裏参道となる。このすぐ上にはコンクリートの大きな建物があり、この先にトイレがある。さらに階段を登ると右に龍の口から水がでている手洗い場があり、ここが箕作山ハイキングコースの入口となっている。箕作山へ向かう前に本殿に寄ることとし、さらに階段を登る。
一登りして、左方向へ行くと大岩の狭い隙間を通過。ここが夫婦岩。抜けると目の前に本殿があった。本殿でお賽銭を投げて南側の展望を楽しむ。夫婦岩を見上げると1本のクサリが設置してある。大岩に登るためのものだろうか。参拝後、先ほどの箕作山ハイキングコース入口まで下りて、参道を離れる。
落ち葉のなだらかな山道となり、左山で歩く。石段の登りとなり、岩のある展望地を通過。ハイキングコースというだけあって道はしっかりしており、木の名前が書かれたプレートが付けてある。緑の中、さらに石段を登っていくと稜線に出た。左は太郎坊山、右は箕作山。ここから山頂まで0.2kmの標示。まずは太郎坊山を目指す。
なだらかな道から急傾斜となり、岩だらけの太郎坊山山頂に着いた。南側の展望はもちろん、北側の岩場に移れば箕作山から小脇山への稜線や東の愛知川方向も望める。曇り空で伊吹山などの高い山が見えないのが残念だ。南には立ち入り禁止の太郎坊山南峰が目の前にある。今まで風がなかったがここは時折風が吹く。ここでランチにする。こんな天気のためか、登ってくる人は誰もいない。時間もないし、雨の心配もあるので、太郎坊山を後に箕作山を目指す。
太郎坊宮の分岐点まで戻って稜線を直進。平坦と石段の坂道を繰り返しながら歩くと手作りの休憩所の前を通過。すぐに瓦屋寺の道を右に見て、時計と反対周りで稜線を歩く。針葉樹林を通過。樹木が茂ってかなり暗いようなところもある。箕作山山頂まで0.2kmの標示で左に向きを変え、一旦下ってツブラジイの大木がある鞍部から登り返すと箕作山山頂に到着。山頂付近は天然林が間伐してあり、北も南も見通しが利く。南には太郎坊山がみえる。北には鉄塔の立つ清水山とその左には繖山が見える。
写真を撮って登ってきた道を引き返し、瓦屋寺0.4kmの標識から左へ下る。雨水で洗われて滑りやすい道を下る。小枝がうるさい。路面を覆うササの道を下って左に方向を変え人工林を抜けると金色の仏像がある広場に出た。この上に閉められたゲートがあり、ここが瓦屋寺かと思ったがよく見ると墓地のようだ。仏像の前からは東の景色がすばらしい。
石のベンチに座って展望を楽しんだ後、モミジの下の階段を下る。テイカカズラの花が満開。階段を下りきると寺の入口があり、奥へ歩くと左に茅葺の大きな本堂があった。ここでもお賽銭を投げて手を合わせる。下ってきた道を引き返し、太郎坊宮まで戻った。再度、本殿に寄って、帰路は裏参道を経由し、階段を数えながら駐車場に着いた。駐車場から見上げると太郎坊山の山頂が望めた。
帰路、展望地から見えた船岡山にある万葉の森に寄ってみた。近江鉄道市辺駅のすぐ北にある船岡山は山というより丘といった超低山で、巨岩には、額田王の「茜さす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖ふる」などの万葉集の歌が刻まれている。船岡山の裾野には、約100種類の万葉植物を植えた万葉植物園があり、植物を見ながら園内を一周した。キキョウの花が満開で美しい。万葉集に出てくる「あさがお」はキキョウだと言われている。なお、市辺駅から十三仏へはこの船岡山を経由して行くことから、十三仏の標示も見られる。船岡山の切り開きからは岩戸山から箕作山、太郎坊山の稜線が望めた。
雨が降ることもなく、目的の2山を踏むことができた。しかし、周回ができなかったことから、次はすばらしいと言われる紅葉の時期に登りたい。
★太郎坊山・箕作山からの展望
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