トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平21業使、第478号) 

天蓋山 (1527m 飛騨市) 2004.10.17 晴れ 16人

山之村キャンプ場入口駐車場(9:15)→キャンプ場上部大駐車場(9:19)→雀平展望台(10:44)→天蓋山山頂(11:20-12:32)→山之村キャンプ場入口駐車場(14:02)

 観音山での準備運動を終え、天蓋山を目指す。国道471号線を南下し、道路標識に従って山之村方向に左折。双六川に沿って大規模林道を上がる。山吹峠が近づくと路肩に雪が現れるようになった。昨年の連休には山吹峠付近の湿地にミズバショウの花が見られたが、今年はまだ雪が溶けたばかり。右に「天の夕顔」の建物が現れると、その反対側が山之村キャンプ場であり、天蓋山登山者用の駐車場はキャンプ場入口にある。3台の車が停まっていた。

 靴を履き替えてスタート。ゴールデンウィークでキャンプ場は家族連れで賑わっている。バンガローを見ながら未舗装の道をキャンプ場上部まで登ると、大きな駐車場があり、手前にはトイレがある。登山口は橋を渡って炊事場から右へ曲がりすぐに左折。この辺りは美しいシラカバの林で大好きな場所である。足元には咲いたばかりのショウジョウバカマが陽を浴びている。
 
 シラカバ林の落ち葉の道を歩く。右手に谷が現れ、雪の上を歩くところも。雪の上には先行者のトレースがいくつか残っている。谷が狭まり、チャルメラソウやエンレイソウの花が見られた。雪解け後、一番乗りの花たちが輝いている。周囲の木々はまだまったく芽吹いておらず、日が差す谷は明るい。20分ほど歩くと、谷を左に外れてササの尾根を跨ぐように歩き、今度は左に谷を見ながら歩く。落差3mほどの滝も見られる。谷川を渡ってぬかるんだ道を歩き、再び谷を右へ渡る。

 雪に覆われた浅い谷を歩く。雪の上にはカエデの種やヤマブドウのつるが落ちており、またカモシカの糞も散らばっている。キツネと思われる5つのくぼみのある足跡もある。谷を登りきると三たび谷を渡る。目の前に迫った急斜面のトラバース道に取り付き、ジグザグと歩いて標高を稼ぐ。ぬかるんだところや雪に覆われたところもある。これ以上雪があるとこの斜面は滑落の危険もある場所だ。美しい天然林に小鳥の鳴き声。シラカバの多い林は明るく、木の枝にはボール状のヤドリギも見られる。木々の間からは周囲の山々が美しい。
 
 ジグザグ道を終えると尾根の直線急登が始まる。尾根は木の根が浮き出ており、周囲はシラカバが多く美しい。ゆっくりゆっくり登る。木の根元は大きく曲がり雪の多いことがわかる。マンサクの花がきつい登りを慰めてくれる。ショウジョウバカマも蕾を覗かせたばかりで、岐阜の平地より季節は2ヶ月遅い。後方には山之村の集落が見え、また手前の山の向こうに真っ白な峰が見え始める。北ノ俣であろうか。

 これでもかと続く急傾斜の尾根の終点が見え始めた。ハアハア言いながら尾根を登り詰めると雪の平坦な道となる。下山してくる単独男性と出会った。ササに囲まれた広い道を時計回りに歩く。ササの中、シラカバとブナの混生した美しい林が広がる。道の陽だまりで羽を休めるヒオドシチョウは、まだ冬眠から覚めたばかりだろうか。なだらかな道を蛇行しながら歩くとピークに出た。展望のいいピークで東には黒部五郎や北ノ俣、薬師などの雪山が見える。西にはこれから向う雪の稜線が望めた。
 
 ここで一息ついで、ピークを下る。鞍部辺りから一面の雪となった。左方向に回りこむように谷に沿って歩くと、前方から下ってきた2名の登山者とすれ違う。トレースがなければ道は全く分からないような場所である。雪で押し倒された潅木を避けながら正面の尾根を目指す。一面の雪の斜面を歩くのは爽快である。雪の尾根に出ると山頂方向のピークが見える。
 
 尾根のトレースを追うと、雪が消えたところで道がなく、ササのヤブが行く手をふさぐ。周囲の道を探すが見当たらない。どうやら歩いてきた雪渓は登山道を外れていたようだ。しかし先行者の引き返した足跡はないため、強引に尾根のヤブを20mほどこぐと見覚えのある広場に飛び出した。雀平展望台と呼ばれる場所で、倒木がベンチのようになっている。北アルプスが美しい。この展望台への正しい道を確認すると雪の急斜面となっており、ちょっと危険な気がした。
 
 展望台を後に、左回りで歩いて再び雪の斜面に取り付く。この辺りの雪は深く急斜面のところもあり、帰路はアイゼンを付けようと思った。つま先でキックしながら斜面を登りきって、雪のない尾根を歩く。ブナの尾根は急斜面で、一歩一歩登っていく。イワナシが小さなピンク色の花を咲かせている。急斜面をこなすとなだらかな道となる。この辺りのブナの林も銀色に輝いて実に美しい。
 
 小ピークを越えて次の雪のピークに立つ。ピーク手前で下ってきた単独男性から、山頂はこのピークの向こうにあると教えていただいた。前回登ったときも、山頂手前に山頂のようなピークがあったことを思い出した。ピークを下るとすぐに雪の鞍部。雪で倒れたブナの木を避けながら、鞍部から雪の斜面を登る。赤布が風に揺れる。山頂への最後の登りも急斜面。ツリガネタケの付着した枯れたブナの大木を見て残雪を横切ると、山頂のベンチや登山者の姿が見えた。
 
 ササの中の芝生広場のような山頂からは360度の大展望。3000mクラスの山が連なるアルプスを見るために、大勢の登山者が訪れる。特に春は真っ白なアルプスを見ることができる。山頂の中央には田部井淳子さんの書体で山名が書いてある木柱が立ち、周囲のベンチには眺望できる名峰の方向と形が描かれており、これを見ながら山の同定を楽しんだ。薬師岳から笠ヶ岳までの白い連山は見事である。中央に雪の少ない槍ヶ岳が小さく見える。北には立山や剣も見える。南には乗鞍が薄っすらと見え、西にはさらに薄っすらと白山が望めた。すばらしい天気に感謝。
 
 数名の登山者が昼食中。我々も広場の一角でランチにした。メニューはおでんと雑炊。正面の大パノラマを前に飲むコーヒーが美味しかった。正午を過ぎたところで、山頂にいるのは我々だけとなった。下山の準備をしていると単独男性が到着。金沢の方で天蓋山は初めてとのこと。すばらしい展望に驚いてみえた。
 
 1時間ちょっとの山頂滞在の後、登ってきた道を下る。帰路は雪の斜面も多いので、場合によっては持ってきたアイゼンを付けることも考えた。次々と登ってくる登山者と挨拶を交わしながら雪の斜面を下る。下りは何といってもアルプスがいつも目の前にあるのがすばらしい。木々の葉が出ていないので展望はいい。道は幾度となく方向を変えるので、目の前には笠ヶ岳、黒部五郎岳、薬師岳などが代わる代わる現れ、退屈しない。心配した雪の急斜面も融け始めているので、アイゼン無しでも踵から踏み込めば滑ることなく下ることができた。

 雀平展望台に着いて、登山道を下ろうとしたが雪の急斜面のため、登ってきたときと同じように右へ歩いてヤブをこぎ、緩やかな雪渓を下った。直線急斜面は下りのほうがシラカバはきれいに並んで見え美しい。山頂からちょうど1時間半でキャンプ場入口の駐車場に戻った。

 春の天蓋山は、秋とは全く異なる雰囲気で、同じ山に登ったような気がしない。今年の連休はいつもより雪が多く、雪山も体験することができた。登山道はシラカバやブナの美しい天然林にあり、尾根歩き、谷歩き、急緩の繰り返し、いくつかのピーク越え、そしてピークからはアルプス大展望。実に変化に富んだ山であり、大好きな名峰である。今度は夏の緑のトンネルを歩きたいと思った。

 帰路、登山口の近くにある奥飛騨山之村牧場に寄ってここの特産であるジャージー牛の乳製品や畜産加工品をお土産に調達。時間があれば、美しい牧場でのんびりするのもいい。山之村の遅い春を後に、大規模林道を下った。
★天蓋山からの展望
 山のリストへ