トレースマップ
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
★燕岳の展望と花を見る
燕岳 (2763m 長野県) 2006.7.30 晴れ 2人
中房温泉駐車場(5:36)→登山口(5:44-5:50)→第1ベンチ(6:22)→第2ベンチ(6:44-6:50)→第3ベンチ(7:16)→富士見ベンチ(7:48-7:54)→合戦小屋(8:21-8:38)→合戦ノ頭(8:55)→燕山荘(9:43-10:01)→燕岳(10:36-11:43)→北燕岳(11:50-12:02)→燕岳(12:12)→燕山荘(12:39-12:49)→合戦ノ頭(13:18)→合戦小屋(13:32-13:41)→富士見ベンチ(13:57)→第3ベンチ(14:20)→第2ベンチ(14:39-14:42)→第1ベンチ(14:57)→登山口(15:15-15:31)→駐車場(15:39)
今から何年前になるだろうか。気の合う仲間たちと初めて歩いた北アルプスが燕岳〜蝶ヶ岳。裏銀座と呼ばれる常念山脈の長い尾根を2泊3日で歩いた。穂高や槍の大パノラマと同時に、白い砂礫と緑のハイマツの中に、異様な形で並ぶ花崗岩のオブジェ。独特の山容を持つ燕岳の姿を忘れることはできない。登山客で賑わう中房温泉や樹林帯の中のベンチ、合戦小屋、合戦尾根の苦しい登り・・・当時のかすかなセピア色の記憶をつなぎ合わせるために、もう一度登らなければならない山であった。
夏山第2弾は、北ア1泊2日の計画を立てた。ところが、梅雨明けが遅れ、この休みは日曜日だけがまずまずの天気予報。今回も、急遽予定を変更して、日帰りができる北アルプスを探した。燕岳なら前夜現地泊であれば、日帰り登山ができそうだ。らくえぬに登山計画書作成などの段取りを一切任せ、土曜日の夜に安曇野を目指す。
通勤割引と深夜割引を有効活用し、梓川SAで車中泊。明るくなり始めた頃、豊明ICを下りて147号線を北上。赤い鉄橋の穂高橋を渡った次の信号交差点を左折。有明の駅を右に、JRの踏切を渡って、後は道なりに中房温泉を目指す。山に近づき、センターラインが消える辺りから、道は狭くなり、「12km」の中房温泉までの表示。温泉までの距離が定期的に表示されており、曲がりくねった山道を登っていく。カーブが連続し、道幅が狭く、対向車には注意。早朝で対向車は少ないが、登山客を降ろした帰りのタクシー数台と出会った。ライトを点灯して走ったほうが安全である。
豊明ICから1時間弱で有明荘を右に見てすぐに登山者専用駐車場の表示。駐車場に続く道の脇に駐車して身支度をする登山者があり、どうやら駐車場は満車のようだ。駐車場奥でUターンして、駐車場入口の路肩に停める。靴を履き替え、赤い欄干の橋を渡り、舗装道路を歩く。橋を渡った左手にも駐車場があったが、ここも満車。登山口まで500mの表示を見ながら、10分弱で大勢の登山者が集まっている中房温泉旅館に着いた。昔はキャンプ場があったように記憶しているが、その面影は全くない。
トイレに寄って、クマザサの中、斜面に取り付く。すぐ後ろから団体さんが登ってみえたので、先に行ってもらい、その後に続いた。いきなりの急登で始まる。団体さんのピッチにあわせてよく踏まれた道を登る。クマザサの中、コメツガの大木が美しい。針葉樹の香りは夏山の香り。
前を歩く団体さんは静岡県からみえた17人のパーティー。月に2回ほど山歩きをされており、今日も燕岳日帰り。皆さんの驚くべき健脚はこの先で明らかになる。後ろに、山歩きに似合わない短パンの若者。聞けば、マラソンをしており、今日が山歩き初挑戦。ここまで走ってきたとのこと。「初心者向きの山と聞いていたのですが・・・疲れました」 ノンキ君を思い出す。聞けば、彼も多治見市在住であったのにはびっくり。
登山口から30分ほどで水場の標識がある第1ベンチを通過。ギンリョウソウが見られる。中にちょっと変わった形のギンリョウソウがあり、どうやらシャクジョウソウのようだ。ダケカンバが増えてきた。急斜面をジグザグと登る。汗が落ちる。時折、木の階段を通過。荷揚げ用ケーブルを見て、すぐに第2ベンチ到着。歩き始めて約一時間である。燕山荘まで3.8km、中房温泉まで1.7kmの表示。登山口から山荘までは5.5kmの距離。ベンチは昔と全く変わっていない。団体さんと一緒に休憩。「後1分で出発します」とパーティーのリーダーの声に我々もザックを背負う。5分ほどの短い休憩で出発。
団体の間に入って歩く。元気な皆さんばかりで賑やか。木の根が張り巡らされた水平の尾根を歩き、再び斜面に取り付く。コメツガに混じってヒメコマツも見られる。美しい天然林に癒されるが、続く急登に息が切れる。時折、大きな段差を登る。第2ベンチから30分弱で第3ベンチ通過。30分ごとに休憩場所が設置してあるのがうれしい。山荘まではまだ3kmある。雲は多いが青空も見え、天気はよさそうだ。樹間から安曇野の町が見下ろせた。
ザレた花崗岩の道を登る。時折現れる花はゴゼンタチバナ。キソチドリと思われるランも見つけた。苦しい登りの中で、花が疲れを癒してくれる。「北アルプス3大急登だけど、南アルプスとは比較にならない。このメンバーも最初は素人でしたがここまで歩けるようになりました」と団体の男性。17人、遅れることもなくいいペースで登っていく。こちらは結構バテてきた。団体の後につくが、この急登についていけない。立ち止まって一息ついている間に、団体さんは見えなくなった。後にコースタイムを検証してみると、我々もコースタイム以内で歩いていた。誰もが遅れることなく早いペースで登る皆さんには驚きである。
下山者も増えてきた。皆、爽快に下って来る。汗だくで登る我々に「頑張って」と、声がかかる。山頂の状況を聞くと、昨日の天気は悪かったが、今日はすばらしい天気らしい。何とか雲が湧き上がる前に山荘に着きたいと気はあせるが、身体がついてこない。
第3ベンチから30分で、富士見ベンチに到着。2回目の休息。ベンチで親子のパーティーが休んでいた。お父さんが4歳の男の子を背負っての日帰り登山。ほほえましい光景。この山はアルプス入門の山であり、小学生を連れたファミリー登山も多い。山荘まで2.4km。半分以上歩いた。チョコレートレーズンでエネルギーを補給して、合戦小屋のスイカをめざす。
花崗岩の堀割を歩き、この先通行禁止の表示を通過。向きを右方向に変えて、ゴゼンタチバナやマイヅルソウを楽しみながら、天然林を歩く。下山者に道を譲ってもらいながら、ゆっくりペースの登りが続く。左手には雲海に浮かぶ美しい稜線が見えてきた。常念岳へ続く稜線であり、右のピラミッドは大天井だ。昔、雨の中、大天井ヒュッテ目指して、バテバテで登った道が見える。
道はなだらかになり、展望も良くなってきた。合戦小屋まで3分の小さな表示を発見して、俄然、元気になる。開花直前のカニコウモリを見ながら一登りすると、小屋が見えてきた。「ご苦労様」と小屋のスタッフから声がかかる。山頂に着いた訳ではないが、ゴールしたような気になった。小屋のベンチは大勢の登山客でいっぱい。静岡の団体さんの出発を見送って、テント下のベンチを確保し、この小屋名物のスイカを購入。大きな長野県産のスイカを8等分して、1つ800円。これを半分に切ってもらい、2人で食べる。最高に美味しかった。半分でも大きすぎるくらいだ。「1日に50個くらい売れるの?」と聞いてみると、「日によって違うけれど、50個も売れたらうれしい!」とスイカ売りのお姉さん。今日はかなり売れそうだ。
スイカで元気になって、合戦小屋を後に、クマザサの中、丸木階段のあるザレた堀割を歩く。周りの木々の背丈も低くなってきた。足下にはコイワカガミやツマトリソウ、ゴゼンタチバナなどがきれいだ。潅木の切れたところから、大天井へ続く稜線の向こうに槍の頭が突然姿を現す。小槍もはっきり見える。雲が湧き始めていたので、槍もこれが見納めかもしれないと思い、写真を撮った。
合戦小屋から15分ほどで見晴らしのいい展望地に飛び出した。何人かが休息中。合戦ノ頭である、山頂まで1.3kmの表示。休息無しで先を急ぐ。餓鬼岳方面から燕岳への稜線が右手に望めた。遠くの美しい三角形の山は針ノ木岳である。以前、この尾根でかなりバテたことを思い出した。さほど急でもない広い斜面を、大展望を楽しみながら歩く。ワンゲルの部員だろうか、3・4人が道端で座り込んで、ラジオを聞きながら天気図を作成していた。
燕岳から北燕に続く花崗岩の荒々しい稜線がぐんぐん迫ってくる。左手には常念山脈。槍もその全容を現し始めている。白い道、緑の尾根、青い空、赤い屋根の山小屋・・・山の雑誌のグラビアの中に飛び込んでしまったかのように・・・夏山は美しい。花崗岩の岩場をクサリに沿ってトラバース。チングルマやシナノキンバイが増えてきた。コバイケイソウが咲くと、この辺りは花の斜面になるだろう。展望地の連続。槍の写真を撮っていると、上から「こっちのほうがよく見えるよ」との声。
目の前に燕山荘が近づいてきた。さすが、3時間以上歩いて、シャリバテ状態。久しぶりのロングコースにらくえぬのペースも落ちてきて、立ち止まり気味。次々と新しい花が現れ、景色も変わっていく。写真を撮りながら、のんびりと歩いた。下りる人、登る人、道は賑やか。まさに表銀座。北穂、奥穂も見えるようになってきた。手前の稜線の目立った岩は蛙岩だ。白い雪渓の向こうの稜線まで一息。ミヤマキンポウゲやハクサンチドリ、ムカゴトラノなどを見ながら稜線へ。・・・・。
稜線手前で「これ何?」とミヤマクワガタの花の前で立ち止まっているらくえぬ。そんなことしている場合ではない。前を指さす。そこには、穂高連峰から後立山連峰まで、大パノラマが広がっている。水晶岳辺りに僅かに綿雲がかかる程度で、文句なしの大展望である。そして北には白い山肌をあらわにした、美しい山が迎えてくれた。燕岳である。東側からガスが湧き、稜線から右半分は雲が覆う。幻想的で美しい。
燕山荘の庭でザックを下ろして、山荘裏のピークまで登ってみた。槍ヶ岳方面への縦走路の出発点である。斜面にたくさんのコマクサが咲いている。大天井を経て槍への稜線が遥か先まで続く。もう一度歩いてみたい表銀座コースだ。さあ、燕岳の山頂を踏みに行こう。山荘のオーナーが玄関先で掃除をしてみえたので、東沢乗越経由で周遊できるか聞いてみると、「よほど健脚で、ザイルがないと難しい」とのこと。周遊はやめて、燕岳ピストンとし、山荘でビールを買い込んで、山頂を目指す。
山荘からザレた稜線を下り、ハイマツ帯を横切る。左手前方にゴリラ岩、そしてイルカ岩が現れる。イルカの目も自然にできたのであろうか? 稜線を右に抜けて、再び左側へ。正面に槍ヶ岳。北穂のドームや奥穂、吊り尾根と前穂もよく見える。この辺りの砂礫の斜面、一面にコマクサが咲いているのには驚きである。見事としか言いようが無い。目の前には砂礫にそびえる岩山の燕岳。砂漠の中の楼閣のようだ。
最後の登りにかかるが、さすがにバテてきた。立ち止まりながら登り、ようやく山頂へ。山頂は花崗岩の岩の上。三角点と山名の刻まれた石が岩に埋め込まれていた。数人の登山者が交代に写真を撮っていたので、我々も仲間に入れてもらって、鷲羽岳を後ろに記念撮影。北には北燕岳が立山・剣を後方に美しい姿を見せる。山頂を北に一段下りた岩の上でランチにする。冷奴をつまみに、ビールで乾杯。カレーうどんと味噌煮込みうどんを作った。コーヒー付きで、大展望の中、約1時間の昼食を楽しんだ。今回もこれだけの展望を期待していなかっただけに、うれしい。頭上を、1羽のアサギマダラが羽ばたくこともなく、風に乗ってグライダーのように舞っていた。南国からこうして飛んできたのだろう。
ランチの後、時間に余裕があることを確認して、北燕岳を目指す。山頂を下ったところにザックをデポして、空荷で山頂に向かう。北燕岳までの西斜面には、コマクサの大群落が続く。コマクサが見られるように遊歩道が下にも付けられており、緑色のロープで保護されている。燕山荘のオーナーが保護してみえると聞いたが、100年分のコマクサを見た気分になった。コマクサに混じってクモマスミレも黄色い花を咲かせている。砂礫の高山植物の楽園である。
東沢乗越への分岐を通過し、チシマギキョウやエゾシオガマを見ながら、右から回り込んで花崗岩の急な岩場をよじ登ると、北燕岳の山頂である。砂礫と花崗岩の山頂からは北へ続く稜線や大岩が望めた。立山、剣、針ノ木なども雲の間から見え隠れする。今、歩いてきた燕岳は、ガスの中に美しい姿を見せる。
今日は、ここまで。今来た道を引き返す。ザックを回収して、燕山荘まで戻り、テント場のトイレを借りて、大パノラマの光景を脳裏に焼き付けて、合戦尾根を下る。燕山荘宿泊の大勢の登山者が苦しそうに登ってくる。今日の朝の我々のように。行きに見落とした花を発見しながら、合戦ノ頭まで下り、合戦小屋で休憩。急な道を軽快に下って、第2ベンチ小休止して、一気に中房温泉まで下りた。
登山口に着いてハプニング発生。カメラがなくなっていることに気がついた。第1ベンチ近くでイチヤクソウの写真を撮ったのが最後。僅かな距離なので戻ろうと思ったところ、我々の後を下ってきた富山県の団体さんが拾って持ってきていただいた。心より感謝。駐車場まで下って、無事、下山。
いい山だ。初心者向きとはいえ、北ア三大急登の合戦尾根の登りはきつい。できれば、山小屋1泊の行程を組むのがいい。コマクサの咲く梅雨明け直後がベスト。花も展望も文句なしの名山である。帰路、道を歩く野生ザルの大群を見ながら、対向車に注意して安曇野へ下った。
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