丁子山〜湧谷山 (1011m、1080m 坂内村) 2004.3.21 晴れ 2人
遊らんど坂内スキー場駐車場(8:27)→ゲレンデ終点(8:40)→尾根出合い・右方向へ(10:11)→丁子山(10:40)→湧谷山(11:16-12:37)→丁子山(12:52)→駐車地点(14:00)
早春、花のある山も歩きたいが、残雪の山も歩きたい。今年の冬は揖斐の雪山に集中して登ったことから、そのシリーズで坂内村の丁子山を選んだ。条件が良ければ湧谷山まで歩きたい。よっせーさんと山歩記さんのレポートを参考に、国道303号線を遡った。
農家の庭先の梅の花がきれいだ。横山ダムから坂内村方面に曲がり、遊らんど坂内スキー場を目指す。揖斐高原スキー場坂内ゲレンデへの入り口を通りすぎると正面に格好のいい山が目に飛び込んでくる。これが丁子山。上部ほど白く、雪はたくさん有りそうだ。以前からこの山を見るたびに、登頂意欲をかき立てる格好をした山だと思っていた。
トイレはスキー場手前の坂内村役場前のバス停横にある。役場東にはまもなく道の駅がオープンするので、オープン後はここのトイレを利用するといい。遊らんど坂内スキー場は雪が無く、開業していない。駐車場には1台の車もない。ゲレンデへはクサリで止められ、車両進入禁止。この手前の左に入る道脇に1台の乗用車がある。見上げれば、ゲレンデを登る4名の登山者。この車の横に駐車し、身支度をした。
雪の上を歩くことが予想されたため、ワカンとアイゼンを携行。霜で白くなったゲレンデの草の上を歩く。登山口はゲレンデ左上部最奥の照明灯ポールの後ろのスギ木立にあった。表示はないが、明瞭な山道が続いている。雪は所々にあるが、道にはほとんど無い。ゲレンデ歩きで、とにかく暑い。長袖Tシャツ1枚で手袋も帽子も脱ぐ。
登山者に踏まれたフキノトウを見ながら、スギ木立の中を登って行く。スギは縦に細長く植えられており、右には崩壊しそうな谷がある。急斜面は丸太で階段が作ってあった。やがて天然林の道になる。急斜面につけられたジグザグの道は、尾根を左にはずしながら登っている。雪が溶けた直後で、押しつぶされた落ち葉の中にこれから花を咲かせようとするキランソウがいくつか見られた。
左には雪の多い尾根が見え、樹間からは坂内村中心部の集落が望める。役場前からもこの尾根筋が見えるに違いない。やがて道は尾根を右に外して登っていく。雪も増えてきた。ジグザグの道も雪に埋もれてはっきりしない。早朝ではあるが、ザラメ状態の雪は柔らかく、足を取られやすいのでなるべく土の上を歩いた。
先発の4名の登山者が休息中。あいさつをして、追い抜く。かなりの急斜面で息が切れる。雪で曲がった木に腰を掛けて小休止。先ほど追い抜いたパーティーが追いついて同じ場所で1本。男女2名づつのパーティーで、大垣市から来たとのこと。「かなり山に行ってますね」と、1人の男性。そう聞かれた理由は、この山を選んだからだそうだ。確かにマイナーな山だ。標高700mを超えたあたりと教えていただいた。山頂まではまだ300mある。後方には樹間越しに雪に彩られた迫力ある三角形の山が立ち上がっている。蕎麦粒山、小蕎麦粒山のようだ。
チョコレートを食べて、一足先に出発。斜面全体が雪になった。尾根歩きとは言えないような広い斜面を登る所もあり、古い赤や白のテープが適度に付けられているが、天候の急変も考えられるため、本来なら赤布を付けながら登るべきだと思った。赤テープを用意してきたが、今回は天気も良さそうなので既存の赤布を確認しながら歩いた。
雪の上には古いトレースが残っている。雪が無ければジグザグの道が付けられているだろうが、トレースは斜面を真っ直ぐ登っている。ツボ足であり、トレースを踏んだ方が足を取られることはない。時々、膝上まで沈み込む。きわめて新しい登りの足跡に気が付いた。昨日の足跡にしては、下りの跡がない。今日、誰かが登っているのだろうか。なぜ、この辺りから足跡が出てきたのだろうか。疑問はその後解明されることになる。
急斜面の雪にツボ足でピッチが一気に落ちる。4人パーティーに先に行ってもらう。つけるならアイゼンよりもワカンだと思ったが、ツボ足でもそれほど苦にはならないため、そのまま歩く。雪の斜面にはカモシカの足跡や糞がある。木の根元の雪が溶けて、大きな穴が空いている。とにかく急な斜面。一歩一歩、足を踏み出す。後方の山々も立ち上がってきた。天然林がすばらしい。北風が吹き始め、少し冷えてきたのでシャツを着る。
左からの尾根に出会う。いくつかのテープが付けられていた。ここからやや右へ向きを変える。ここからも尾根歩き。ゲレンデ上部の谷の奥にある尾根を登り詰めれば丁子山である。南側が樹間ごしに望めるようになった。なだらかな尾根は再び急斜面になる。ブナが多い。風も止み、明るい尾根は気持ちがよく、急坂の疲れを癒してくれる。再び休息中の4名パーティーを追い抜き、急斜面を登っていく。
立ち上がった蕎麦粒山の向こうに真っ白な山が見えるようになった。後に能郷白山と分かる。左には真っ白なスキー場を抱えた貝月山とブンゲン、その右には金糞岳の稜線が駆け上がっている。急登に息を切らして立ち止まり、振り向くと小津権現山と花房山半分ほどがすばらしい姿を見せる。木々の葉がない時期にだけに見ることのできる景色に、今日、ここに来たことに満足。
木の根本の穴を覗き込むと、雪の深さは1m〜1.5mはある。片足全部が雪の中にはまり込んで、1人では脱出できないというハプニングも。やがて尾根はなだらかになりピークへ。丁子山山頂に到着。茶色に黄文字の「丁子山」のプレートが木のかなり高いところに付けられていた。雪のある時期に付けられたのだろう。
記念写真を撮っていると、先ほどの4名の方々が到着。三脚の前の我々に「よぅ、ご両人!」と声がかかる。山頂は広いが疎林であり、木々の間から周囲の山々が眺められる。スノーシューの単独男性が到着。山頂は賑やかになった。西には湧谷山が盛り上がっている。トレースもある。一息ついて湧谷山へ向かう。
なだらか稜線を歩き始めてすぐに北側は開けた場所に出る。邪魔になっていた木々がなくなり、蕎麦粒山、小蕎麦粒山、能郷白山、五蛇池山が折り重なって並ぶ光景は圧巻。思いっきり写真を撮ったが、この後、湧谷山山頂のクライマックスに向かって、すばらしいビューポイントが連続するとは思いもしなかった。
丁子山から湧谷山までは1つのピークを越える。雪はしまっており、ツボ足でも大丈夫。4人パーティーと一緒なって歩く。スノーシューの男性はトレースを外して軽快に追い越していく。ここで湧谷山から降りてくる単独男性に出会った。途中で見つけた新しい足跡はこの男性のものであった。聞けば、スキー場から更に林道を進んだ所に車を置いて登ってきたそうで、途中で我々の歩いたルートに合流したことが分かった。
今度は左側が開け、金糞岳のビューポイント。美しい山容に思わず声が出る。金糞岳の登山口に向かう林道の走る谷と堂々と横たわる雪山が見事だ。この角度からの金糞岳もいい形をしている。ピークを越えて、湧谷山山頂への最後の登り。そして山頂へ。
「すばらしい!」全員が歓声を上げる。雪の山頂からは僅かな立木はあるものの、360度の大展望。地図を広げて山の同定。何と言っても北の蕎麦粒山、小蕎麦粒山、能郷白山、五蛇池山がすばらしい。この左には烏帽子岳や三国岳の白い山が連なる。西にはなだらかな横山岳。琵琶湖らしき輝きが少し見える。南には大きな金糞岳、その東にはブンゲン、貝月山、鍋倉山。東には飯盛山と西津汲が小さく並ぶ。その向こうには濃尾平野の低山も浮かんでいる。先ほど歩いてきた丁子山は低く見える。東には小津権現山が陣取り、花房山は手前の山に隠されている。その横には何と真っ白な御嶽山。感動である。この山はまさに揖斐の山々のど真ん中に位置している。この位置でしか見られない周囲の名山の大パノラマに息を呑む。何度、周りを見渡したであろうか。この絶景を脳裏に記録した。
山頂南は大きな谷が国道303号線まで切れ落ちている。4名パーティーの中の男性はかなりベテランの方で、かつてこの谷を湧谷山まで登ったことがあり、すごい藪を分けたそうだ。夏には背丈ほどもある藪に覆われるこの山ではあるが、今、藪は雪の下。山頂からは北と南に雪の尾根が続いている。この尾根を歩いて行けそうな気がした。
ひととおり写真を撮ってランチにする。唐辛子たっぷりの二個玉味噌煮込みうどんがおいしい。こんな展望の中なら何を食べても最高に美味しいこと間違いなし。隣でランチの4人の方といろいろと山談義。大垣山岳会の方々で、話しをしているうちに、昨年12月のHP管理者大集合で鳩吹山に登ったときに一休さん手前ですれ違った方々であることが分かった。大垣山岳会のことをいろいろ教えていただいた。今日は、個別の山行とのこと。気のあったメンバーで、山仲間はいい。
帰路、雪が緩んできたのでワカンを付けた。スノーシューの男性が北の雪の尾根を散策してみえたので、大垣山岳会の方々と山頂で別れた後、100mほど北尾根を歩いてみた。尾根からは何にも遮られることなく北から東へ続く山並みや御嶽山を展望できた。湧谷山の山頂が春の日差しに輝いて美しい。
下りはワカンで沈み込むこともなく、トレースのない林間を快適に降りる。丁子山からの下りは、こんなにも急坂であったことを改めて知る。シリセードで下った跡があった。今日は、オーバーズボンなしのためシリセードはできないが、滑ってシリセード状態になった。ゲレンデへの下り斜面も急傾斜。よく登ってきたものだ。
しだいに地肌が見えるようになり、雪を選んで歩いていたら、トレースを外してしまい、藪をこいでトレースに戻った。やはり赤布は必要。雪が消えたところでワカンをはずし、一気にゲレンデ上部まで下る。ゲレンデに出るところから、さらに下に山道が続いていたので、その道を下った。ショウジョウバカマの花芽が大きくふくらんでおり、3月末には美しい花が見られるであろう。道はゲレンデに沿って下り、途中から反対方向に折り返して下っていた。方向が反対のため、ここからゲレンデに出たが、そのまま進めば林道に出られたかもしれない。駐車地点まで下り泥だらけになった靴とスパッツを脱いだ。一足先に到着していた4名の方々と、「またどこかでお会いしましょう」と、分かれた。
この山はかつては藪山であったと思われるが、近年、登山道も整備され、夏道でも登れるようである。全山、天然林であり、新緑や紅葉の時期もすばらしいに違いない。しかし、周囲の展望を楽しむなら今の残雪期が何と言ってもベスト。今日、この山に入った人は我々を含めて8人。思わぬ拾い物をしたような気分で、またお気に入りの山が1つ増えた。
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