トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※一部誤動作あり

焼岳の展望と植物を見る
焼岳[中尾コース] (2399m 高山市) 2009.9.21 晴れ 2人

中尾温泉登山者用駐車場(6:44)→登山口(6:54)→林道終点(7:22)→白水ノ滝展望地(7:26)→鍋助横手(7:56-8:01)→ヒカリゴケ自生地(8:29)→秀綱神社(8:49)→焼岳小屋分岐点(9:00)→旧中尾峠(9:21)→北峰直下・中の湯コース分岐点(10:35-10:43)→北峰山頂(11:00-11:23)→北峰直下・中の湯コース分岐点(11:28-12:28)→旧中尾峠(13:14)→焼岳小屋(13:30-13:43)→旧中尾峠分岐点(13:59)→秀網神社(14:07)→鍋助横手(14:38)→白水ノ滝展望地(15:03)→林道終点(15:27)→駐車場(15:33)

 焼岳は山歩きを始めた今から9年前に中尾温泉から登った。強風の中、ガスの北峰山頂に立ったことと、帰路、長い下りで膝が痛くなったことを記憶している。翌年、中の湯から登って晴天の山頂から穂高を眺め、リベンジを果たした。しかし、中尾コースをたどるリベンジはまだ終わっていない。中尾コースのリベンジと当時の記憶を引き戻すために、シルバーウィークの山は焼岳を選んだ。

 いつものように前夜泊とし、8時に自宅を出た。東海北陸自動車道をかなり走ったところで、とんでもない忘れ物をしたことに気がついた。車中泊をするためのシュラフを忘れたのである。高鷲村付近の温度表示は9度。平湯の早朝の気温はおそらく5度くらいになるだろう。幸いにも、寒い夜を予想して、フリースやダウンジャケット、厚手のアウターなどたくさんの防寒着を持ってきた。また車内にも2枚の毛布やブルーシートがある。何とかなると考え、そのまま走る。

 安房トンネル手前の広い駐車場は8割ほど車で埋まっていた。ツーリングでテントを張っている人も多い。早速、寝る準備。上着を着て、足元は毛布とシートで覆う。シートの保温力はシュラフよりもあり、暑い。夜間の冷え込みにも十分に耐えることができ、朝を迎えた。

 車内で簡単な朝食をとって、中尾温泉に向かう。笠ヶ岳が美しい。栃尾温泉付近からは焼岳も望めた。中尾温泉の案内に従って右折し、道なりに温泉街を抜ける。家屋が途切れ、湯気を上げる源泉を通過してすぐに右手に駐車場が現れた。すでに十数台が停まっており、次々と車が入ってくる。身支度を終える頃にはほぼ満車になった。駐車場にトイレは無い。
 
 まずは舗装道路を歩く。前方の山間から朝陽を浴びた焼岳の頭が望める。駐車場隅の公衆電話ボックスで登山届けを提出。車止めのクサリの脇を抜けて5分ほど歩くと、右手に焼岳登山口の標示が現れたので、山道に入り水量の少ない谷を渡る。ジグザグと斜面を登って、尾根を巻くように左回りに歩くと、右側に白水谷の堰堤を見る。苔むした道を尾根に沿って左山で歩き、尾根に出る。美しいブナ林に朝の冷気が漂う。丸木階段を登ると、草付きの小広場に出た。電柱や焼岳国有林の看板がある。左へ未舗装の林道が下っており、ここが林道終点のようだ。1台のマウンテンバイクが置いてあった。ひっそりと咲くアキノキリンソウを見ながら、広場を横切る。
 
 5分ほど歩いて、「白水ノ滝」の表示がある展望地を通過。まさに名前のとおり、緑の中、朝陽に輝く落差45mの白い滝が見える。滝を眺めたら、ササに覆われた急斜面のブナ林をジグザグと登っていく。時折、樹間から焼岳が顔を覗かせる。右手は深い白水谷。道が折れるところで白水ノ滝の展望が得られる。

 ジグザグの登りが続く。時折、登山道沿いの樹木に中部森林管理局が設置した木の名称の書かれたがプレートがスプリングで取り付けられている。鳥の鳴き声や滝の音を聞きながら左山でトラバースしていくと、「鍋助横手」の表示がある場所に出た。振り向いて声が出る。青空を背景に笠ヶ岳がすばらし山容を見せる。1時間15分ほど歩いたので、ここで休憩。後方から登ってきた2名の登山者に追い越される。喉を潤したところで、次に登ってきた2名の登山者に休憩場所を譲って出発。
 
 左山のササの道が続く。微かに甘い香りが漂っていることに気がついた。足元に、ハート型の黄色い葉が落ちている。カツラの葉だ。見上げると、大きなカツラの木が頭上で枝を広げ、これから紅葉が始まる。カツラが紅葉する一時、マルトールというメープルシロップのような甘い香りを発散すると聞いたことがあるが、初めてこの香を体験できた。この香りに元気をもらって斜面を登っていく。
 
 道は、いつしか急になり、周囲はシラビソやコメツガの針葉樹林帯となった。苔むした石が多く、マイヅルソウの黄葉が苔の中に点在して美しい。左手に小さな石窟が現れ、ヒカリゴケの表示がある。覗いてみると黄緑色に輝くヒカリゴケが見られた。また、この辺りにはヤグルマソウの群落が多く、ちょうど葉が枯れる前で、黄色くなった大きな葉が美しい。大岩の横を抜け、丸木階段を登ると開けたところで先行の3名のパーティーが展望を楽しんでいる。ここからも笠ヶ岳が目の前に見える。かなり登ってきた。
 
 3名に道を譲ってもらい、石の多い道を登る。ゴゼンタチバナの赤い実を見ながらなだらかに歩くと、沢伝いの道となり陽が当たり始めた。焼岳雨量観測所の建物を右に見てすぐに秀綱神社に到着。数人が休息中。峠まで約20分の標示。鳥居の前で手を合わせて、ノンストップで歩く。
 
 10分ほど歩いて、焼岳小屋への分岐点に差し掛かる。ここは旧中尾峠方向へ。ササのなだらかな道は涸れた谷のようになっている。オヤマリンドウが見られる。前方に焼岳。近くなってきた。明るい尾根道となり、左には新旧中尾峠の間にあるピークが見え、噴煙が上がっている。後方には紅葉し始めたナナカマドの向こうに笠ヶ岳。そして右へ連なる山々が見えてきた。抜戸岳、双六岳、樅沢岳そして西鎌尾根の途中からは手前の尾根に隠されている。穂高も見える。

 太陽に向かって登っていくとヤマハハコの咲く旧中尾峠に出た。大展望に疲れが吹き飛ぶ。ここでの主役は何と言っても笠ヶ岳である。巨大な白い穴毛谷から幾本にも伸びる細かい谷を持つ笠ヶ岳は、中腹に千切れ雲を浮かべて堂々たる姿で横たわっている。しばし、無言で山を見つめた。そして、右手には真っ青な空を背景に要塞のごとく立ちはだかる焼岳の黒いドーム。隆起した刺々しい岩塊は、まるで角を立てた悪魔のように我々を見下ろす。北峰の山頂付近から立ち上る白い噴煙が異様さを引き立たせる。樹木の無い山肌は高度を上げるにつれて緑色からセピア色にグラデーションをつける。秋の焼岳は美しい。
 
 威嚇する要塞に向う登山者を追って歩き始める。草の道を登ってすぐ上の大岩で休憩。眼下には大正池。蛇行する梓川、上高地の奥には明神から前穂、奥穂、西穂が姿を現し始めた。霞沢岳の向こうにはなだらかな稜線を持つ蝶ヶ岳。絶景を前に5分ほど休憩。焼岳の上に真っ直ぐに引かれた飛行機雲を見上げながら、すぐ上の尾根に登って左へ。大きな標識が倒れていた。ここから頂上まで、浮石・落石で危険であることが書いてある。

 道は山頂方向に向きを変え、左に噴煙を上げる谷を見ながら、○印を追って岩の間を歩き、谷を渡る。硫黄の臭いが鼻を突く。谷の反対側に移り、北峰のドームを目指す。黄色くなり始めたオンタデが岩場を埋める。後方にはいつしか槍ヶ岳も姿を現している。ザレた斜面をゆっくりと登る。黒い岩壁が覆いかぶさるようにのしかかり、ムカデの牙のようにドームの両脇から岩が飛び出している。白い噴煙が勢いよく流れる。道は左に向きを変え、ドームの直下をトラバースしていく。周囲に遮るものは何も無い。上高地からも焼岳の展望がすばらしいに違いない。
 
 ロープ場を抜けると右上には巨大な岩壁。いつ崩壊してもおかしくないような岩肌が気持ち悪い。その下を下山者に道を譲ってもらいながら慎重に登っていく。ストックが邪魔になるような岩場の急登をこなして、逆光で金色に輝くオンタデの道に出る。稜線は目の前だ。らくえぬのピッチが落ちてきた。気分が悪いと言う。軽い高山病と硫黄の臭いが原因のようだ。落石の心配が無い稜線付近の岩の上で休憩。北峰山頂直下の噴煙口を見ながら水を飲む。
 
 この稜線は中の湯コースへの分岐点となっており、ちょうど中の湯コースから大人数の団体さんが到着したところで、賑やかになった。ここからは、中の湯コースの美しい斜面とその向こうの乗鞍岳がすばらしくきれいだ。ザックを分岐点にデポして山頂に向かう。団体の後についた。と、その時、大きな音がして「落石!」の大声。山頂直下の登山道から50cmもあろうかと思われる石が勢いよく転がり落ちた。石が落ちる方向には今歩いてきた登山道があり、登山者の姿が見えた。思わず「ラク!」と叫んだ。石は登山道を横切って、大きな音をたててはるか下方へ落ちていった。近くを登っていた登山者は無事だったが、我々も後10分遅かったら落石に巻き込まれていたかもしれないと思うと恐ろしい。山頂直下の登りの渋滞を避けようと下山者が谷側に寄ったことが原因だったようだ。
 
 渋滞の列はなかなか前に進まない。山頂手前で三点支持が必要な岩場があり、ここがボトルネックになっている。黄色い硫黄が付着した噴煙口直下で動き始めるのを待った。山側を見上げるといつ落石がおきてもおかしくないような場所であり、気持ちがいいものではない。団体の方に話を聞くと、41名の旅行社の企画ツアーとのこと。動き始めた列に交じって、岩場を抜け山頂に着いた。
 
 山頂の登山者の数にびっくり。四方へ異動できないほど大勢の登山者でいっぱい。とりあえず、山頂からの展望を写真に収めた。噴火口にはエメラルドグリーンの水が溜まり、山頂直下から吹き上げる噴煙で見え隠れしている。雲が湧き始め、乗鞍が次第にかき消されていく。順番を待って、山名表示板を手に記念写真を撮った。

 ランチはザックをデポした稜線でとることにし、山頂を後にした。登ってくる登山者に道を譲りながら、分岐点まで下りてランチの場所を探した。岩場で休息していた3名の女性の方に場所を譲ってもらった。聞けば、団体のメンバーの方で、山頂直下の岩場が怖くて登れないので、ここで待っているとのこと。旅行者の人が最後尾を確認している稜線で、岩を背に雑炊と缶詰のランチ。隣で昼食をとってみえた新潟県のご夫妻と山談義。話をしているうちにガスが湧き、次第に穂高が隠れていく。

 1時間のランチの後、下りにかかる。すっかりガスに包まれたザレた登山道を滑らないようにゆっくりと下っていく。登ってくる登山者も多く、石を落とさないように注意して下る。シラタマノキも紅葉が始まり、白い実がピンク色になっているものがたくさん見られた。45分ほどで旧中尾峠まで下り、焼岳小屋に寄るため、旧中尾峠から直進してピークに取り付く。
 
 ひと登りでピークへ。そして、オヤマリンドウの咲くササの道を下る。前方に、緑色の屋根の焼岳小屋が見下ろせる。針葉樹の立ち枯れの木がいくつか見られる。登山道のイワヒバリを見ながら下って小屋の手前に出た。トイレを借りて、ミカンを食べた。西穂山荘から歩いてきた単独男性から、この小屋まで3時間かかったと聞いた。道はあまり整備されていないらしい。
 
 15分ほど休憩して、下山開始。小屋から西穂山荘方向に歩いてすぐに分岐点が現れるので、「中尾へ」の標示に従って左へ下る。左山で湿った道を下る。大きな段差があるところもあり、滑らないように下った。15分ほどで、旧中尾峠への分岐点に。ここからは往路と同じ道を下る。鍋助横手で休憩してどんどん下る。今回も膝が痛くなってきたが、9年前のようなことはない。普通の下りのように思えるが、結構足にこたえる道のようだ。小屋から1時間45分ほどで林道に出て駐車場に戻った。車は半分ほどに減っていた。

 大展望に恵まれ、中尾コースのリベンジを9年ぶりに果たすことができた。草紅葉の美しい焼岳も経験できた。旧中尾峠から焼岳山頂まではザレた道で落石の危険もあり十分な注意が必要。今回のように天気がよければ、笠ヶ岳や槍・穂高、上高地、乗鞍などのすばらしいパノラマを楽しめる。雲が湧き上がる前に山頂に立つために、早朝からの行動がいい。帰路、「ジョイフル朴の木」の湯で汗を流し、渋滞する自動車道を避け、国道41号線で岐阜市に向かった。
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