トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号) ※今回、歩いたルートは黄色のトレース。黄色点線は帰路のトレース。青点線は林道を歩いたトレース。赤色は2007年のトレース。
山の谷780mピーク (780m 揖斐川町) 2008.1.17 曇り・雪 2人

揖斐高原スキー場駐車場(9:27)→日坂峠分岐点(9:41)→701mピーク東尾根(9:58)→<ワカン装着>→701mピーク(10:38)→日坂峠(10:45)→780mピーク(11:20-12:30)→日坂峠(12:44)→701mピーク(12:52)→701mピーク東尾根先端(13:16)→車道・林道散策(13:22-13:41)→駐車場(13:55)

 「山の谷」と呼ばれる山は貝月山の北に位置する。ちょうど揖斐高原スキー場の北側にある標高800m以下の山群である。この山群に際立ったピークが4つあり、一昨年の冬、そのうち3つのピークを踏んだが、最も南にある780mピークを取り残している。この冬、雪の状況を見ながらこのピーク登頂の時期を待った。

 1月半ば、ようやく揖斐高原に雪が降り、スキー場がオープンした。冬型の気圧配置が緩んだこの週末に、780mピークを踏みに出かけた。旧久瀬村役場の南にある農産物直売所のトイレに寄って、揖斐高原スキー場日坂ゲレンデを目指す。雪で閉鎖された大規模林道入口付近の広場に車を停めた。広場は除雪されておらず、積雪は20cmほど。一昨年の経験から、ここでこれだけの雪があると、山頂付近はかなりの積雪にちがいない。ヤブ山であることから、小回りの効くワカンをザックに付け、6本アイゼンとピッケルを持った。

 次々とスキー場に上ってくる車に注意しながら車道を歩くと、大粒の雪が降り始めた。正面には雪に霞む780mピークの単独峰が丸い穏やかな姿をみせる。スキー場の駐車場入口に昨年山菜取りの入山者が行方不明になっている標示があった。この付近の山は低山とはいえ、急峻な尾根が入り組んでいるので、自分のいる位置を常に把握して登らなければならない。

 日坂集落と坂本集落を結ぶ雪の積もった広い車道をS字に歩き、冬季全面通行止めの看板を見ながら進む。雪は小降りになったが、貝月山は雪に消されて見えない。左へのカーブを回ると、701mピーク東尾根の先端の下に出た。一昨年は、この崖の先端に下山し、あせった場所である。しかし、今回も再びここに下山してくるとは、この時点で思いもしなかった。右へ林道が分岐しており、1台の四輪駆動車が停まっていた。後に、この車は森林作業の車であることが分かる。

 今回は、山に取り付く位置を、崖のない日坂峠への山道がある辺りを予定した。車道を歩いていると、前方から1台の車がこちらに向ってくる。通行止めの道で車が来るとは思わなかった。我々の横で停車して、「山に登るのですか?」と助手席の女性から聞かれた。運転席の男性から、除雪はこの先の自宅までで、その先は膝上までの積雪があるとのこと。雪に対する装備をしてきたことを伝え、2人と別れた。この先に民家があるようだ。

 車道を左山で歩く。正面に780mピークが近づいてくる。谷を渡る橋が現れ、ここが日坂峠に続く谷である。左側の尾根に取り付けば780mピークへ直登できるが、ヤブの状況が分からないので、とりあえず橋の手前から谷に下りてみた。雪はガードレールの高さまであり、ツボ足ではかなり沈む。谷底ではなく、人工林帯の最下部を谷に沿って進んだが、潅木に遮られて谷歩きは難しそうだ。このため、一昨年歩いた右側の701mピーク東尾根に登るコースに変更。しかし、右手の人工林の斜面はかなり急である。少しでも傾斜が緩やかな場所を探し、斜面に取り付く。

 人工林の中の雪はさほど深くなく、また、雪が滑り止めになって、思ったよりも滑らない。ピッケルで身体を確保しながら、人工林の中を直登する。左側のすぐ先は天然林となっており、そこへ陽が差し込んでいる。頭上の木にはまだ雪が残っており、陽に照らされて雪が落ち始めた。ゆっくりゆっくり急斜面を登る。しだいに稜線が近づいてくるのが分かる。人工林を抜けて潅木帯に出ると尾根は目の前。潅木を避けたり跨いだりして尾根に出た。
 
 尾根の北は人工林となっている。雪は止み、下方からチェーンソーの音が聞こえてくる。ここから701mピークまでの東尾根は前に歩いており、様子が分かる。人工林を右に見ながら歩く。雪の落下が激しくなり、直撃することもしばしば。スキー場のリフトのブザー音が聞こえてくる。頬が黄色い鳥が二羽、目の前を横切っていった。左には貝月山やこれから登る780mピークが見える。ここから見るこのピークは車道から見るよりも巨大で、登ることができるだろうかと思うほど大きく見えた。
 
 急緩繰り返す尾根を歩く。小ピークを越え、さらに小ピークへ。雪が深くなりツボ足で歩きづらくなってきた。そこで、ワカンを付けることにした。久しぶりのワカンであり、付けるのに手間取った。さすがにワカンを付けると歩きやすい。小ピークからやや下って痩せ尾根を歩く。右には一昨年に歩いた794mピークが見える。正面には701mピークが近づいてくる。目指す780mピークはますます大きくなり二つのコブが見える。
 
 人工林を後ろに潅木を縫って一気に701mピークの山頂にたどりついた。前回はここでランチをとった懐かしい場所である。気温は氷点下で、風で木にへばりついた雪がそのまま残っている。ピークで日坂峠に下る方向を定める。南を覗き込んでみたが、鞍部である日坂峠は潅木に遮られて分からない。南西方向に人工林があったので、その方向へ少し下ってGPSを見ると、西へ寄り過ぎている。潅木の中を左へ左へと方向を変えて下る。ヤブではあるが歩ける空間は十分にあり、ヤブに苦戦することはない。
 
 尾根を下っていくと鞍部に出た。ここが日坂峠である。雪に覆われて峠の状況は分からないが、掘り割りになったかなり広い道があるようだ。鞍部に降り立つところで、雪の上に頭を出す小さなお地蔵様を見つけた。顔の目鼻はほとんど無く、無表情で佇んでいる。日坂集落と坂本集落をつなぐこの峠は古くから多くの人が通過したに違いない。この石仏に何人の人が手を合わせたであろうか。今日の安全を願って手を合わせ、一礼をした。峠の東側は、峠を抜ける風によって雪庇ができ始めていた。

 ここから、いよいよ780mピークの登りにかかる。深い雪に足を取られながら、ササ付きの尾根に取り付く。尾根には風でできた溝があり、雪庇もある。正面に太陽を見ながら、なだらかな尾根を歩く。尾根はしだいに広くなり、ウサギの足跡を追いかける。不思議なことに、ウサギの足跡は人が歩けるような場所を通っている。また、ウサギではない一直線の足跡がある。あまり見かけない足跡であり、足の沈む深さから、小動物のようだ。

 美しい木のスリットを抜けながら登る。傾斜が急になり、雪も深くなる。ワカンでも膝ほどまで沈み込むところもあるが、比較的雪はしまっており、十分に歩ける状態だ。先頭を交代しながら、ラッセルしていく。尾根の東側には風で雪が集まり沈み込むため、尾根の西側を登る。歩きやすい空間を拾いながら進み、尾根から外れすぎれば軌道修正。急斜面に立ち止まって、振り返ると樹間に749mピークが大きく見えた。ナラやブナに混じって、特徴ある樹皮のウリハダカエデが多い。
 
 峠から20分ほど登るとようやくなだらかになり、前方には小高いピークが見える。780mピークの山頂のようだ。GPSで確認すると、山頂まではここからやや左に向きを変え、さらに歩いた先にある。気持のいいナラやブナの林を歩く。この辺りもナラ枯れが多く、枯れた幹にはカワラタケやナメコが見られた。ナメコは干物状態。ゆるやかになって山頂らしくなったが、高いところはまだ先にある。
 
 一番高い所まで登ると、樹間に貝月山が大きく見えた。山頂である。東には貝月ゲレンデや山間に日坂の集落が見下ろせる。貝月山から東へなだらかに下るヒフミ新道のある尾根と、その向こうに鍋倉山の稜線が見えた。山名を示す標示は何も無く、小枝に色あせたビニールテープが結んであった。切り開きは無いが、この時期、木々の間から周囲を望むことができた。時折風が吹き、雲が流れる。雲の隙間から、日が差すと温かい。それでも、山頂は氷点下で、木々に乗った雪の下のツララは溶けることなくキラキラと輝いている。
 
 小さな空き地の一角に、持ってきたミニスコップでベンチを作って、ランチにする。メニューはおでんとカレーうどん。ゴーゴーと音を立てるガソリンストーブの上で、コッヘルが白い湯気を立てる。スキー場の音も聞こえず、静かな山頂で熱いランチを楽しんだ。ランチの後はコーヒーとお菓子。何でもない無名の山の頂は、当然、誰も登ってこない。周囲の景色はモノトーンの冬色の世界。張り詰めた冷たい透明な空気の中で、深呼吸をして、癒しの空間を全身で感じる。雪雲で西の山が消えていく。コーヒーを飲み終わる頃、粉雪が冷たい空間を舞い始めた。
 
 帰路は、ここから南尾根や東尾根を下っても車道に出られるようだが、様子が分からないことから、登ってきた道を戻ることにした。自分たちのトレースをたどって、山頂を後にした。急斜面を日坂峠まで下りて701mピークまで登り返し、東尾根を下った。尾根に取り付いたところから登ってきた人工林を谷まで下るのはあまりにも急なので、もう少し尾根を降りたところから下ることにした。
 
 人工林の境を下っていくと、枝打ちが行われた跡がある。ということは、作業の方がここまで登ってきた道があるのではないかと、話しながら歩いているうちに、一昨年と同じように東尾根の先端まで下ってしまった。今朝、四輪駆動車が停まっていたところであり、高い崖になっている。人工林側も崖である。全く一昨年と同じ状況。ここまで来たら車道への脱出も同じようにロープを使うことにした。南へ戻るように下って、最も低い崖の場所からロープで降りた。まさか同じような状況になるとは思いもしなかった。
 
 北側の林道からの登り口を確認するため、林道の足跡を進んでみると、少し歩いたところで山側に登る道があった。さらに進むと谷が現れ、ここからも山に入ることができる。今度登るときにはロープを使うことなく下山できそうだ。鍋倉山を見ながら林道を下り、車まで戻った。
 
 歩行距離はそれほど長くなかったが、雪のヤブ山をルートファインディングしながら久しぶりに厳冬期の揖斐の山を楽しむことができた。標高差200mほどの山であるが、安易に踏み込むのは危険であり、十分な装備が不可欠。雪の無い時期に下見をしておくのがベストであろう。
 山のリストへ