トレースマップ (カシミール3Dで作成)
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
★山の谷の展望を見る
山の谷 (794m 揖斐川町) 2007.2.4 晴れ 2人
駐車場(8:47)→<アイゼン装着>→尾根(9:10)→763mピーク(10:11-10:17)→山の谷山頂・794m三角点(11:07-11:36)→701mピーク・昼食(13:20-14:14)→道路突き当たり(14:52)→車道(15:05)→駐車場(15:14)
八代竜也氏の「ヤブ山探訪記」に、揖斐川町の「山の谷」が紹介されている。「山の谷」は貝月山のすぐ北側にある800mにも満たない登山道の無いヤブ山である。国土地理院の地図には、この山の北側にある谷に「山の谷」と書かれている。「谷」という名が付くことから、最も標高の高い794mの三角点のあるピークを「山の谷」と言うのではないと思われるが、ここではこの山々を「山の谷」と呼ぶことにする。
「山の谷」のルートは、貝月スキー場の手前から北側の尾根に取り付き、763mピークを経て西へ向かい、三角点のある793.7m(794m)ピーク、そして南へ向かって701mピークの3つのピークを踏んでスタート地点近くに下りて来るという「ロ」の字の周回コースである。
寒波の直後、揖斐方面の雪は豊富にあると考えたが、ネットのスキー場情報によると、揖斐高原スキー場はこの雪でオープンしたものの積雪量は少なく一部滑走可となっていた。雪が無いと「山の谷」は、ただのヤブ山。スペアーを貝月山ヒフミ新道とした。GPSに細かくウェイポイントを落とし、地図にもルートを書き込んだ。ピッケル、12本アイゼン、ワカン、スコップ・・・ヤブ山と雪対策を完璧にした。家を出る直前に思いついてロープを持った。装備は万全のつもりだったが、・・・。
揖斐川の堤防を遡り、貝月スキー場を目指す。小島山の上部が白くなっており、昨夜の雨は標高の高いところは雪が降ったようだ。旧久瀬村役場の南の交差点の農産物直売所のある公衆トイレに寄る。この辺りの雪はすっかり消え、昨年苦戦した目の前の大立の雪もほとんど無い。
この交差点から次のトンネルを抜けたところで、左折して揖斐高原スキー場に向かう。「白龍の湯」を通過して、冬期通行止めとなっている大規模林道辺りで「山の谷」への取り付き尾根を確認した。それにしても雪がほとんど無い。貝月ゲレンデセンターハウス前の駐車場で南の貝月山と北の「山の谷」を見比べながら、どちらにしようか迷ったが、朝から強い北西の風が吹いていたことから、標高が低く歩く距離も短い「山の谷」を選んだ。
センターハウスの駐車場を出て、スキー場入口のT字路の北側の未舗装の広い駐車場に車を停めた。スキー客は少なく、かなり下のこの駐車場が使用されることはなさそうだ。そのため除雪もされておらず、地面は浅い雪と氷で覆われていた。山裾に車を寄せて、地図で取り付く尾根を確認。駐車場の北の人工林がそれである。
駐車場の北西の橋を渡って、物置小屋の裏手から人工林に入る。急斜面の林床には数センチの凍り付いた雪。20mほど登って、滑りやすいことからアイゼンを付けた。ワンタッチアイゼンではあるが、急斜面での装着に難航。真っ直ぐに登っているカモシカの足跡に感心しながら、歩きやすい場所をジグザグと登った。昨年の大立を思わせる。
40mほどを慎重に登って明るい尾根に出た。朝日が眩しい。尾根を境に東側は天然林、西側はヒノキの人工林。天然林は二次林で、シロモジなどの潅木が多く、一部でミズナラの成木が見られた。境界を示す黄色いプラスチック杭があった。木々の間から南東に鍋倉山がシルエットになって望めた。ここから756mピークまでは北に一直線。標高差は約120mで、登山道があれば僅かな登りであるが、ここには道が無く、雪で曲げられた潅木の無数の幹や枝が尾根を覆う。特に東側の天然林上部は歩ける状態ではない。左に丈が数mのヒノキの人工林があるのがせめてもの救い。
人工林寄りに尾根に沿って、通れるスペースを見通しながら登っていく。人工林の隙間から、これから歩く稜線が朝日に染まっていた。雪の深さは5センチ程度。雪が深ければ、地際の細かい枝が消えて、歩きやすいに違いない。やや急な所もあるが、なだらかな尾根を青空目指して、スキー場の音楽を聞きながら、ゆっくりゆっくり登っていく。激ヤブやヒノキの倒木で、人工林へ迂回する所も多い。
GPSで位置を確認して、ウェイポイントが表示されていないことに気が付いた。パソコンからマップを転送する時に、ポイントの転送を忘れたようだ。地図にルートを記入してきたのでGPSの地図と見比べればウェイポイントが無くても問題ない。岩の間を抜る。深くなった雪の上には昨日降った新雪が積もっている。右の尾根が迫り、空が近づいてきた。
冷たい風が吹き抜け、763mピークに到着。北側の人工林で視界は遮られるが、南側は樹間から鍋倉山、鎗ヶ先山、貝月山やゲレンデ、ブンゲン、真っ白な金糞岳が望めた。東へ歩けば隣の尾根に出て出発点まで下りられそうである。ピッケルのブレードにカメラを乗せて、セルフタイマーで写真を撮った。小枝に黄緑色をした「やまかます」といわれるウスタビガの繭が風に揺れていた。このスローペースでは、この先も時間がかかりそうである。喉を潤してすぐに出発。
ここからは、向きを直角に西に向けて、山の谷の最高点である794mピークを目指す。両脇が人工林の尾根は雪が深く、膝上まで雪に埋まってしまうこともしばしば。尾根はゆるやかに下っていく。右側の人工林が消え、潅木越しではあるが、北側の展望が広がった。青空を背景に雪を抱く灰色の山々が連なる。左から、湧谷山、蕎麦粒山、天狗山、能郷白山、屏風山、小津権現山など、美濃の名山がすばらしい。木々が葉を落としているこの時期限定の大パノラマだ。
ブッシュが埋め尽くす場所は、南側のヒノキの幼木の中を歩いた。風下で雪が深いのが難点。ヒノキの枝にも雪が残っており、枝の下を潜るたびに、雪が降り注ぎ、首筋に入って冷たい。時折吹き付ける強い北風が木々のスリットを抜けて、ヒューヒューと音を立てる。
鞍部から登りにかかる。山頂の794mピーク手前に、山頂と同じほどの標高のピークがある。標高差50mほどを一歩一歩登っていく。ピーク近くでヒノキが倒れて展望のいいところがあり、ここから南180度遮るものが無い。何と言っても今日の主役の貝月山が目の前に巨大な山塊を横たえ、堂々たる姿を見せる。美しい山だ。その右ににはブンゲンが肩を並べる。左の女性的な鍋倉山の稜線は鎗ヶ先まで続き、貝月山の後ろに消えていた。この展望も人工林のヒノキが大きくなれば見られなくなる。山頂手前のピークからは目の前に「山の谷」本峰の794mピークが丸く見えた。このピークで直角に曲がり南西に向きを変えるが、完全に南に向きを変えたと思い込んだのが、この後のミスに繋がる。
雪庇を見ながら軽く下って登り返すと、三畳ほどの雪で真っ白な空間に、三角点を示す木柱があった。山頂の794mピークである。三角点を示すポールも立っていた。木柱の回りの雪をピッケルで掘り返すと、土に埋まって少しだけ頭を出した三角点が現れた。記念写真を撮って、回りの景色を楽しむ。樹間からは北のパノラマが望めた。北側の主役は蕎麦粒山と天狗山である。屏風山もいつものようにいい格好をしている。
ここまで思ったより時間がかかったので、11時を回っているが、下山の目途が付く701mピークまで歩いてランチにすることにした。手前のピークですでに南を向いていると思い、登ってきた反対側の尾根を下った。今回、唯一の古いテープが風に揺れていた。雪面で潅木も少なく、歩きやすい。右側の展望もすばらしい。この展望を見て気が付いた。おかしい。右手に蕎麦粒山が見えるということは、西に向かっている。GPSで確認して、尾根を間違えたことに気が付き、再び山頂まで引き返す。
山頂で南の尾根を確認。ゲレンデ方向に延びる尾根が正しいルートであり、人工林との境を下ることになる。南斜面で雪は少なくなだらかな尾根には、西風によってできはじめた雪庇が30mほど続いていた。雪庇から下りにかかる。地図とGPSで方向を定め、左方向の尾根へ取り付くことを確認した。750mほどの地点である。ここで、ルートを確認したにもかかわらず、この後、人工林との境を歩けばいいと言う先入観から、知らないうちに右の尾根に入っていた。
左右に人工林のある雪の尾根を下る。尾根は広くなり、右に谷が現れ、谷はどんどん深くなっていく。緩んだ雪ですぐにアイゼンがダンゴを作る。ピッケルや立木でダンゴを落としながら、斜面を下るが先のピークが見えない。斜面は更に急になって谷へ落ち込んでいる。道を誤ったことに気付き、地図を確認しようとしたが、地図がない。他の地図と二枚重ねてあったことから、山頂直下で地図を見たときに一枚を落としたようだ。GPSにウェイポイントを入れ忘れた時に地図を失うとは・・・。
いよいよ頼りはGPSの地図のみ。液晶画面の地図を拡大・移動しながら現在地点を調べると、100mほど上で右の尾根に入っていたことが分かった。間違えた地点まで戻ることにして、雪の斜面を登った。登りは雪で倒れ込んだ潅木の広がった枝が邪魔になって登りにくい。50mほど登り返して、東側に正しい尾根が近づいてきたので、等高線に沿って谷をトラバースすることにし、人工林に入った。
谷は急斜面であり、ピッケルで確保しながら一歩一歩アイゼンのダンゴを落として進む。谷を渡りきる手前はとんでもない急斜面。最後はトラバースを止めて、斜面を直角に登って尾根に出た。雪の谷のトラバースは危険であることを実感。急がば回れ。分岐まで登り返すのが鉄則である。
なだらかな人工林の中の尾根に出てやれやれ。GPSを見るとこの辺りでも左右へ尾根が派生している。違う尾根に迷い込まないようにGPSを見ながらヤブを抜ける。ササが覆う鞍部に下りて、正面に701mピークが望めた。ここからは、標高差50mほどの登りである。既に1時。
雪の尾根を登り始める。北斜面で急に雪が深くなった。ヤブも密生して、尾根を歩くことができず、尾根から右に寄って潅木の間を縫う。雪は深く、急斜面で、おまけにシャリバテで足がついてこない。後少しと言い聞かせながら超スローペースで斜面を登りきった。「着いた。腹減った!」 気を抜いたとたんに転倒。湿った雪は、落ち葉の上からきれいにはがれて、アイゼンが高下駄になっていた。
振り向けば、先ほどの794mピークが美しい三角形をしている。あそこからここまで、これほど難儀をするとは思いもしなかった。アクシデントが重なったが、なんとかここまで来た。後は下るだけ。風のこない東斜面で、スキー場の音楽を聞きながら、ランチにした。激辛の卵入り鮭雑炊と肉まんにコーヒー。時折、頭上の枝から雪の固まりが落ちてくる。木立を抜けて降り注ぐ太陽のぬくもりで、ジャケット一枚でも寒くない。この雪も明日には融けて消えてしまうに違いない。このピークに年間何人の人が立つのだろうか。雪の下の厚い落ち葉の層を見ながら思った。
帰路はこのピークから少し北側で東へ延びる尾根を下る。先ほど登ってきた尾根に入り込まないようにするには、尾根を左に見ながら東側の斜面を尾根に沿って歩けばよいことに気が付いた。これなら、自然に尾根に取り付くことになる。ダンゴを払いながら融け始めた雪の斜面を下る。ここも左側に人工林、右側に天然林の境を歩く。雪は少なく、今までに比べればヤブは軽微。
100m程歩いて小ピークを越える。左手の木々の間から歩いてきた稜線が望めた。右手には貝月のゲレンデが見える。適度な斜面を順調に下って、前方に堰堤が見えてきた。この先で道路に出るはずであった・・・が。尾根の末端は坂内ゲレンデへ続く車道に突き当たり、10mもあろうかと思われる崖になっていた。覗き込むのも恐ろしいほど。北側に下りてみると、こちらも下の林道まで5m程の垂直のザレた崖である。やむを得ず、尾根を50mほど登り返して、雪のない南斜面を下って道路を見たが、やはり道路までは5mほどの崖。こんな崖が道沿いに続いているようだ。
絶対絶命、下り口が無い。そういえば、ロープを持ってきていた。下り口を探して歩き回るより、ここからロープでの脱出を決めた。立木にループにしたロープを通して、ぶら下がって道路に下り立った。まるでアドベンチャームービーのラストシーンを思わせる今日の山歩きの最後となった。ほとんど人のいないゲレンデを見ながら舗装道路を下って駐車場に戻った。
今回の登山道のない雪のヤブ山を登り終えていくつかの反省点や学ぶものがあった。@GPSへの地形図の転送結果を事前に確認しておくこと。A地図は2枚持つこと。B下る尾根を確認する場合は、地図、磁石、周囲の景色などをよく見て判断すること。C等高線に沿って雪の谷のトラバースはしないこと。D尾根が分岐する手前では、尾根の真上を歩くのではなく、進むべき尾根側に少し下りて歩くこと。E下山口を事前に確認しておくこと。
この山は雪の積もり加減で登る時期を判断することになるが、今回は雪がやや少なく、ヤブに苦戦した。積もりすぎてもラッセルが大変と思われる。いずれにしろ、一般向きの山ではない。特に山頂から南への尾根はルートを外しやすく、道を誤ると滑落の危険もある。アイスバーンとなる時期や悪天候時にはさらに危険度が増す。雪山やヤブ山を十分に経験した者に許される山であろう。
701mピークの南には、日坂峠を挟んで780mピークがある。次回はこれを狙いたいと思った。
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