槍ヶ岳の写真
槍ヶ岳 (3180m 上宝村) 2002.8.2〜4 2名

8月2日(金) 晴れ・曇り・雨
新穂高バスターミナル(5:28)→穂高平避難小屋(6:34-6:56)→白出小屋(7:38-7:49)→滝谷避難小屋(9:25)→槍平小屋(10:30) 泊

8月3日(土)晴れ・曇り
槍平小屋(4:55)→朝食(15分)→飛騨乗越(8:54-9:05)→槍岳山荘(9:20)→槍ヶ岳山頂往復 昼食 大喰岳往復 槍岳山荘 泊

8月4日(日)曇り・晴れ・小雨
槍岳山荘(5:50)→千丈乗越コース分岐(6:50)→槍平小屋(8:11-8:25)→滝谷避難小屋(9:10-9:20)→白出小屋(10:15-10:30)→穂高平避難小屋(11:03)→新穂高バスターミナル(11:54)

 昨年、奥穂高に登った帰りに、来年の夏山は「槍ヶ岳」と決めた。槍ヶ岳へは20年ほど前に、燕起点の表銀座と槍沢からのコースで2度登ったことはあるが、今回は飛騨沢コースからの登りを選んだ。

●8月1日(木)
 いつものように、岐阜市を午後8時半ころ出発し、新穂高に11時半頃到着。木曜日の夜ではあるが、シーズンで無料駐車場の9割近くが埋まっている。一番上の段まで車を上げ、車内泊。(帰宅後、この駐車場でパンク魔が現れ、多くの車が被害を受けたことが新聞に載っていた。)

●8月2日(金)
 朝、4時過ぎに起床。天気はよさそうだ。登山者で賑わう新穂高のバスターミナルに登山届けを提出して、出発。右俣谷に沿った道に入る。15分ほど歩いて、気がつく。登山者が全くいない。駐車場はいっぱいだし、バスターミナルにも登山者があふれていたのに、なぜ、だれも登ってこないのだろう。道を誤ったと思い、地図を確認。道は1本道。まちがいようがない。不安な気持ちで少し歩くと、ゲートがあり、そこに「槍ヶ岳」の標識があった。ほっとする、と同時に、あの登山者はどこへ行ってしまったのであろうか。西穂か双六・笠方面か。とにかく、ここから槍を目指す人は少ないようだ。

 未舗装の林道を1時間ほど歩いて、牧場のある穂高平避難小屋に着く。(林道途中から牧場までは近道があるが、標識を見落としたため林道を歩いた。) ここでようやく登山者に出会った。おにぎりの朝食を手早く済ませて先を急ぐ。緩やかな登りの林道歩きが続き、うんざりした頃、白出小屋に着く。ここは、奥穂高岳への分岐点となっている。

 広い水のない白出沢を渡れば、ようやく登山道となる。岩や木の根の道を進む。大きな登りはない。タマガワホトトギスの花が道の両脇に咲き乱れ、きれいだ。滝谷出合に出ると、右手に滝と北穂の異様なドームがガスの合間から見える。ここから槍平小屋までは後わずか。歩きにくい岩の道を歩き、小川の木橋を渡れば、槍平小屋が現れる。小屋前で十数人が休息をしている。

 計画では、昼食後、小屋から奥丸山を往復して、ここに泊まることにしていたが、奥丸山はガスの中。悪いことに雨がぱらつき始めた。昼食をとりながら、今日のうちに槍岳山荘までとも考えたが、雨とガスの4時間はつらい。まあ、明日があると、午後は槍平小屋で体を休め、ここで宿泊と決め込んだ。

 何もすることがないというのも、普段、体験できるものではない。夕食まで、部屋で寝ころんだり、薄暗い小屋のポーチで雨の音を聞きながらコーヒーやホットウイスキーを楽しんだ。奥丸山に登った岐阜市の男性2名とポーチで山談義。1名の男性の方は、毎週、山歩きをしている大ベテランで、近所の方と5人で槍に来たそうだ。奥丸山のニッコウキスゲがきれいだったことや、遭難騒ぎの話などを聞かせてもらった。

 隣のテーブルの群馬県のご夫婦は、十年前から日本100名山をめざしており、今回の槍が99山目。秋には奥穂で100山になるという。小屋のオーナーからは、槍への登り方を教えていただいた。ザックを下ろして休まず、立ち休み程度でゆっくり登るのがコツだそうだ。夕食は、土間の隅にある自炊用の台で、自炊をした。小屋は思ったより空いていて、6畳ほどの和室1部屋を2人で使わせていただいた。こんなことは初めて。

●8月3日(土)
 4時20分起床。曇った窓ガラスをこすると半月と穂高連峰の山並みが美しい。天気はいい。昨日の岐阜市のパーティー5名と小屋前で写真を撮って出発。皆さんは南岳経由で槍を目指すという。

 小屋を後に、テント場の横を通り、樹林帯の中を歩く。まだ登りはきつくない。1時間ほど歩いて最終水場手前でパンと缶詰、キュウリの朝食。雲がわく前に、少しでも登りたいと気だけはあせるが、ここから本格的な登りとなる。雪渓が無くなったばかりと思われる場所には、ニリンソウが満開でサクラが咲いていたのには驚いた。キヌガサソウも美しい。

 左後方の奥丸山が朝日に輝く。そこから続く中崎尾根が左に近づき、道はジグザグで飛騨沢を登っていく。立ち止まって、振り返れば、中崎尾根の向こうに朝日に輝く笠ヶ岳が美しい。前方には飛騨沢上部の岩壁や西鎌尾根の稜線が迫る。

 やがて森林限界。飛騨沢一面、広大なお花畑が広がる。無い花は無いと言っていいほど、花がある。ハクサンイチゲ、ハクサンフウロ、コイワカガミ、ミヤマリンドウ、チングルマ、ミヤマダイモンジソウ、ツマトリソウ、クロユリ、クルマユリ・・・書いたらきりがない。
 歩き始めて2時間ほどで救急箱のある千丈乗越コース分岐点。槍岳小屋から下山してくる登山者に励まされながら、槍平小屋オーナーの言うとおり、ザックを下ろさず歩き続ける。後方に、双六・鷲羽・水晶が見え、この光景に疲れが吹き飛ぶ。カメラのシャッターを切りながら歩く。

 飛騨沢のジグザグの道は長い。オンタデからチングルマ、イワツメクサと高度を上げるにつれて、植層が変わっていく。左前方にニセ槍が近づき、西鎌尾根を歩く人が見える。飛騨乗越左の岩塊あたりから朝日が差し込む。長い影を落として、ゆっくりゆっくり登る。歩きにくい石屑のジグザグ道を、ブドウ糖をほうばりながら登る。気のせいかもしれないが、ブドウ糖で疲れがとれるような気がする。

 飛騨乗越の標識が目の前に見える。最後の踏ん張りどころ。歩き始めて、ちょうど4時間。飛騨乗越到着。目の前の常念岳の三角形に声が出る。眼下には殺生ヒュッテ。槍沢を登ってくるパティーが蟻のように見える。そして、左には巨大な槍穂が真っ青な空をバックにそびえる。感動の一瞬。登って良かった。

 飛騨乗越を北に登り、テント場を過ぎれば赤い屋根の大きな槍岳山荘に着く。ザックを山荘前に置いて、雲がわく前に、槍山頂を目指す。山頂から降りてきた人から、朝は混んでいたが今、山頂は人も少ないとのこと。登りと下りは途中一方通行になっている。登りは左側のコースで、一度、小槍の見える裏側に回り込む。小槍を前に、鷲羽岳方面の展望がすばらしい。ここから、山頂めざしハシゴと岩壁を登る。ちょっとしたスリルを楽しむ。最後のハシゴを登り20分ちょっとで山頂に着く。

 狭い山頂には、数人が大展望を楽しんでいる。笠ヶ岳は雲に隠れていたが、その他の山は大展望。なんと言っても穂高方面がすばらしい。20年前に見た光景と同じシーンを見ることができて感動。しだいに雲がわき、遠くの西穂から見えなくなりはじめた。山頂社前で写真を撮ってもらう。30分以上、山頂からの展望を楽しみ、クサリの多い下山コースを下った。

 目的を達成した充実感に浸り、山荘前のテーブルで昼食。槍穂を前に、最高においしいインスタントラーメンである。山荘前にコマクサが1株可憐な花を咲かせていた。移植されたものかもしれないが、久しぶりに出会った。昼食の後、小屋を予約。素泊まりなので、一番奥の旧館に案内された。ここでも、時間はありすぎるほどあるので、3000m散歩としゃれこむ。

 一旦、飛騨乗越まで下り、大喰岳まで登る。山荘から30分程度。南岳へのルートは大喰岳山頂のすぐ下を巻いている。大喰岳山頂からの槍ヶ岳は見事であるが、あいにくガスの中。カメラを構えてガスが消えるのを待ったが、思うような写真は撮れなかった。

 大喰岳山頂で、今朝別れた岐阜市の5人パーティーの方と出会った。女性の方1人が高山病らしく、ゆっくり歩いてみえたようだ。山荘の診療所でみてもらい、たいしたことがなくて一安心。

 その後、ビールを飲み、小槍を前に西鎌尾根を見下ろす位置でのんびりした。山荘は思ったより空いており、特に素泊まり客は少なく、100人以上が泊まれるスペースに数人だけという恵まれた環境で、ぐっすり眠れた。

●8月4日(日)
 朝、4時。風の音が聞こえる。外は濃いガスと強い風。今日の行程は、新穂高まで一気に下る予定。飛騨沢を下る途中で朝食を予定していたが、この天候ではむづかしいので、朝食予定を変更し、素泊まりのスペースに設置された自炊場所(冬季に解放される部屋のようだ)で、暖かいスープとパンの朝食をとる。

 フリースを着込んで、強風の小屋を後に飛騨乗越から昨日のルートを下った。飛騨沢に入るとガスも切れ、風もやんだ。昨日とは逆に、槍平小屋から登ってくる登山者を励ましながら、槍平小屋へ。10分ほどのトイレ休憩の後、かなりのピッチで、休憩も取らず新穂高を目指した。

 槍平小屋から白出沢までは、風も無く、下りでも暑かった。穂高平避難小屋手前から小雨が降り始めた。穂高平避難小屋での昼食を見送り、傘をさして一気に新穂高まで。さすがに足が棒になった。槍岳山荘を出てから、ほとんど休息無しに歩き続け、ちょうど6時間で新穂高に着いた。バスターミナルでの缶ジュースと温泉卵と完熟トマトが最高においしかった。

 山頂では、天候にも恵まれ、最高の山歩きができた。大満足の槍ヶ岳であった。
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