横山岳の花と地図を見る
横山岳 (1132m 滋賀県) 2005.5.29 薄曇り 2人

駐車場(8:55)→登山道口(9:01)→林道合流(9:25)→太閤橋(9:44)→五銚子の滝(10:22-10:26)→あと300m地点(11:20)→あと200m地点(11:32)→あと100m地点(11:40)→横山岳山頂(11:43-12:40)→東峰(13:10-13:19)→横山岳山頂(13:41)→三高尾根展望台(13:47)→望横ベンチ(14:23)→鳥越峠(14:47)→林道合流(15:04)→車道(15:16)→駐車場(15:19)

 この休みは曇り一時雨の天気予報。西方面ほど天気が良さそうなので、夜叉ヶ池から三国岳に登ることにした。今回も前日の行き先決定。このため十分な下調べができなかった。夜叉ヶ池の山開きは5月下旬〜6月初旬。ひょっとするとまだ道路が閉鎖されているのではないかと思った。通行止めなら、近くには金糞岳や横山岳がある。GPSに周辺の地図を取り込んで出発。

 通行止めの予想は的中。坂内村に近づくと、道路脇に「夜叉ヶ池へは6月4日まで通行止め」の標識。坂内村の道の駅で通行止めを確認して、スペアーの山としてまだ登っていない滋賀県の横山岳に行くこととした。最近では、せきすいさんやごっちゃんなどのHPで紹介されており、以前から一度登ってみたいと思っていた山でもある。

 夜叉ヶ池への道をやり過ごし、国道303号線を西進。長い八草トンネルを抜けて滋賀県にはいる。このトンネルの前後は道路が整備中であるが、現在は従来の曲がりくねった狭い道を通る。対向車が多く、待避所が少ない部分もあり、やっとのことですれ違ったところもあった。カーブミラーをよく見て慎重な運転が必要な区間である。

 さて、滋賀県に入ってすぐの集落に登山口があることは分かっていたが、参考資料を持ち合わせていないため、集落の名前も分からない。GPSにも登山口をポイントしてこなかった。最初の集落である金居原、次の杉野をゆっくり通過したが「横山岳」の表示はない。

 杉野の集落を通過してしまったので、誰かに尋ねようとUターン。向きを変えて驚いた。横山岳の表示が次々に現れた。そう、この山に来る登山者は関西方面が主体。看板もそちら向きに立っている。看板は確実に我々を登山口まで案内してくれた。

 八草トンネルを抜けて登山口までの行き方を記しておこう。金居原の集落を右に見ながら通過し、杉野の集落が近づくと、左手に杉野小学校が現れる。小学校前に押しボタン式信号機があるので、この三叉路を右に曲がり杉野の集落に入る。200mほど走って小さな橋を渡ったところの三叉路を折り返すように右折する。この三叉路には横山岳登山口の表示がある。ここからは道なりに進めば登山口に着く。

 案内板を確認し、正面に横山岳を見ながら車を走らせる。コエチ谷コースの看板を見てすぐに、たくさんの車と身支度をする大勢の登山者が目に入った。無事登山口到着。すでに北側の駐車場はいっぱい。南側の広い駐車場入口に停めた。次々に車がやって来る。さすが、花の山。花のシーズンは終わりに近いが、人気の山だ。

 北側の駐車場には大きな案内看板とトイレ、登山届け箱がある。ノートに記帳。今日の日付は我々が最初。書き込む人は少ないようだ。車のナンバーは関西方面が多い。駐車場は関西弁で実に賑やか。看板によると主なコースは3つ。東回りの東尾根コース、中央の白谷本流コース、西回りのコエチ谷コースである。白谷本流コースは工事中の×印が記してある。どのコースを登ってよいのかよく分からなかったが、確かせきすいさんは谷を遡るコースだったと記憶していたので、白谷本流コースを選んだ。

 コースタイム2時間50分の白谷本流コースは駐車場のすぐ東の林道から始まる。林道に入らず東へ直進すれば2km先に東尾根コースの登山口があるようだ。まずはたくさんのオドリコソウの歓迎を受ける。花の山にふさわしいスタート。今回は全く下調べ無しの白紙の状態での山歩き。この先、実に変化に富んだ山歩きができるとはこの時全く想像できなかった。

 工事中の表示が気になったが、後方から登ってくる人があるので安心して林道を歩く。左手の谷川のせせらぎを聞きながら足下にミヤマハコベやスミレ、山側には満開のタニウツギなどを見て歩く。今シーズン初の花を見ながらの山歩きである。歩き始めて数分で谷にあるスリット堰堤を左に見て、「横山岳白谷本流コース」と書かれた大きな看板の前に着く。ここから折り返すように山道に入る。

 大木のスギの林の中、マムシグサを見ながら小さな谷を渡り、横山岳の表示に従ってスギの人工林に入る。整然と並ぶスギにはいくつかのタフロープが巻かれている。蕾を垂れ下げたウリノキがたくさん見られた。6月にはユニークな花をたくさん咲かせるであろう。

 よく整備されたスギ林は気持ちがいい。スギ林の中で地元の方が何かを採集している。サンショの葉を収穫して料理の飾りとして出荷するそうだ。天然のサンショはさぞかし香りがいいにちがいない。ホウチャクソウやキランソウを見ながらジグザグに登っていくと前方が明るくなった。どうやら林道があるようだ。

 予想通り、林道に飛び出た。朝日がまぶしい。案内板に従って左へ。林道は右へ曲がっている。曲がり角で休憩中の団体さんにあいさつ。林道は蛇行しながら遙か先へ先へと下っている。すぐに山側への道があるだろうと思ったが、切りったった崖で道があるような雰囲気はない。300mほど歩いて心配になった。後方からの登山者もこちらに下りてくるので間違いないだろうと先に進む。正面には墓谷山がきれいな三角形を作る。

 次のカーブで林道の先が見えた。遙か下にコンクリートの橋が見え、そこで林道は行き止まり。橋の手前から山に道が続いているようだ。それにしても林道はかなり下っており、せっっかく登ったのにもったいない。よく見ると谷沿いに草の斜面を橋のところまで山道が登ってきている。後で調べてみると、先ほど歩いてきた駐車場横の林道を登り詰めればこの橋に出るようだ。この大回りは工事中のためであろうか。

 橋の手前の崖にはマンネングサが一面に黄色い花を咲かせてきれいだ。橋には横山岳線・太閤橋とあり、手前から右へ赤土の道に入る。谷川まで下りて緑に覆われた谷歩きが始まる。谷を何度か渡り返す。石灰岩と思われる白い石が多く、白谷の由来もこのためだろうか? 川の岩は丸くなっており、濡れたところはよく滑るので乾いたところを選んで渡河した。

 セリ科のシャクの白い花が一面に谷を埋め尽くす。(ヤブジラミと書かれたガイドブックもあるが・・・) シャクの海に身を沈めて歩く。ときどきサワアザミのトゲが肌を刺す。ヒラヒラと舞うたくさんの蝶はウスバシロチョウ。実に優雅な気品のある飛び方で、見ていると疲れを忘れさせてくれる。この時期に伊吹北尾根への笹又からの登りでもセリ科の花に舞うウスバシロチョウがたくさん見られたことを思い出した。この花が好きなのだろうか?

 谷に入って数分歩くと、3段の美しい滝が現れた。滝手前から左の斜面に取り付き、ネコノメソウやヤマルリソウを見ながら急登をこなし、崖のフィックスロープをたどる。出発してから1時間以上歩いているので小休止。谷川の音が涼しい。花茎を長く伸ばしたニリンソウが最後の花を咲かせていた。

 この先で谷は広くなり2手に別れている。雪解け直後であろうか、まだ緑は少なく、登山道からはずれた左の谷にはニリンソウの大きな群落が斜面を覆っていた。ここから右手に登っていくとすぐに五銚子の滝に出る。水量も多く、大きな音を立てて豪快に白水が落ちる。休息にはいい場所であり、何人かの登山者が休んでいた。中には背中まで泥だらけの人もおり、谷川での苦戦が伺われた。

 「この先からが急登。まだ一時間半かかりますよ。」と教えていただいた。先は長い。ビスケットでエネルギーを補給して、急斜面に取り付く。滝の上部に向かってロープ場の急坂を登る。大きな岩の上に根を張る木やサワシバの垂れ下がった花穂を見ながらゆっくり登っていく。あいかわらずミヤマハコベが足下を飾る。真っ白なヒメウツギがきれいだ。ツヤツヤした葉のヒトリシズカは花を終えて実をつけている。ひときわ大きな白い花はイチリンソウ。新しい花を見つけるたびに、カメラを取り出し写真撮影。

 急登は続き、岩場を登る場所もある。ホウチャクソウやクルマバソウなど地味な花が続く。滝から20分ほどで、谷上部の急斜面をトラバース。ここから山間に入り組んだ田園が見下ろせた。ユキザサの花を見ながら、いつしか道は尾根を登っている。あいかわらず急登であり、フィックスロープが続く。花の終わったイワウチワの群落が現れ、地面には馬蹄形のカエデの実がたくさん落ちている。秋の紅葉の時期もすばらしいに違いない。

 斜面の木々は根元で大きく曲がり、雪の多いことが分かる。ゼブラロープにつかまりながらゆっくり登る。急登もこれだけ続くとしだいに慣れてくる。バテることもなくゆっくりではあるが結構いいピッチで登る。いろいろな花が現れるので、疲れも忘れてしまうのであろう。

 初めて下山してくる熟年単独男性に出会った。「よくこの道を下りてこられますね」と声をかけると、「よくこの道を登ってみえますね」との返事。聞けば東尾根コースで登ってきたとのこと。

 花の終わったツクバネソウや満開のツクバネウツギ、そして赤花のイカリソウを発見。イカリソウに出会うのは久しぶり。この先、何度か見ることができた。また、ショウジョウバカマに似た株から長い茎を伸ばした蕾はシライトソウのようだ。ミヤマハタザオの可憐な花を見ながら、「あと300m がんばれ!」の表示を通過。この急登の300mはかなりある。

 しだいに木々が小さくなり右手に東峰が見えるようになる。花の散ったヤマシャクヤクが何株か見られた。「残念!遅かったか」 代わりに満開のミツバツツジの咲く道をハルリンドウ、チゴユリ、イカリソウなどを見ながら登る。少し前を登っているご夫婦から「いらないお節介かもしれませんが、ここにヤマシャクヤクが咲いてますよ」と教えていただいた。駆け上がってみると、林道から少しはずれた所にひっそりと一輪の上品な花。会えると思っていなかっただけにうれしかった。教えていただかなければ足下のスミレの花に気をとられて気が付かなかったに違いない。

 「あと200m」標識を通過。急登はこれでもかと続く。GPSで確認すると山頂まではわずか。ふたたびヤマシャクヤクが現れる。登山道脇でありこれは誰でも気が付く場所にある。咲いたばかりでまたまた美しい。下山してくるパーティーからも歓声が上がる。

 「あと100m」地点を通過するとようやく道はなだらかになりブナ林となる。このあたりのユキザサはまだ蕾だった。「東峰往復40分 奥美濃の展望」の表示板のところで稜線の道に突き当たる。山頂は左へすぐである。

 コースタイムどおりの2時間48分で到着。久しぶりに登りがいのある山だった。予備知識なしで登ったのでこの感動はいつもより大きいような気がした。木々とササに囲まれた山頂は円形でやや広く、北側には物置小屋(アメダス施設らしい)があり梯子がかかっていた。登れば展望台だが、今日は霞んで展望は今一つ。

 10人ほどの登山者が食事中。薄曇りではあるが日差しが強く木陰がほしい。ランチメニューはおでん野菜うどん鍋。冷蔵庫の在庫処分のメニュー。この暑い時期に似合わない食事であるが、結構おいしかった。先ほどヤマシャクヤクを教えていただいたご夫婦と山談義。奈良県からみえたそうで、いくつかのHPの横山岳のページをプリントし持参してみえた。帰路、どこを下ったらいいのか分からなかったので、プリントを見せてもらった。リンクさせていただいている「山・海・酒幸彦つれづれ記」さんのページも含まれていた。

 コースマップを見て西を選ぶか東を選ぶか。ワラビ餅をデザートにコーヒーを飲みながら考えた。見ていると皆さん西のコエチ谷コースのほうに下りていかれる。隣のパーティーの方から、西回りのほうが花が多いと聞いた。東峰への展望コースも歩きたい。

 コースは決まった。東峰をピストンしてコエチ谷コースを下るという欲張りな選択。コッヘルとストーブを手早く片づけて東に向かう。ミヤマカタバミの群落やタムシバの最後の1輪を見ながら、なだらかなアップダウンを繰り返す。やがて周囲の高木は消え、大展望の稜線歩きとなる。霞んではいるが、左手の山並が美しい。右手前方には、金糞岳が羽を広げたように大きい。さわやかな風が新緑の木々を揺らす。先ほどの登りからは想像できないような、全く別の山に来てしまった気分。こちらへ来てよかった。

 岩場にはたくさんのイワナシが張り付いているが、花はすっかり茶色になってしぼんでいた。岩場で濃いピンクのコイワカガミをいくつか見つけた。前方には南北にピークが見え、GPSで確認すると東峰は南のピークのようだ。再び樹林帯に入る。明るい林床には二葉の植物群落が広がっている。クモキリソウ属などランの仲間のようだ。花の時期に来てみたい。

 西峰からちょうど30分で東峰山頂に到着。1131mと標高は同じくらい。こちらのほうが山頂らしく表示板もあり展望もいい。東回りで登ってくる2パーティーほどに出会ったが、西峰に比べてこちらは実に静かだ。記念写真を撮って戻る。

 西峰に戻ると、2名の登山者がいるだけですっかり静かになっていた。ノンストップで南へ下りコエチ谷コースに入る。三高尾根と呼ばれる尾根を下る。急坂を数分下って前方が開け、三高尾根展望台に出る。気持ちのいい場所だ。美しいブナ林の中、イカリソウ、ツクバネソウ、ミヤマシキミなどを見ながら下る。イワウチワの群落が延々と続く。花茎だけが残っているが、花の時期には見事であろう。

 展望地から10分ほど下ると尾根はなだらかになる。潅木が茂ってヤブっぽいところもあるが、道は明瞭。所々の木に黄色いテープが巻いてある。ヤマボウシが道を飾る。緑色をしているものはこれから白くなるようだ。なだらかな尾根はかなり続く。一向に高度を下げないので、この先、急降下することは間違いないと思った。

 なだらかな尾根を20分ほど歩くと、東側が開け、「望横ベンチ」と書かれた展望地を通過。ここから山頂方向を見上げることができた。この先から予想どおりの急降下が始まる。ミズナラやブナの林の中を一直線に急坂が続く。地面は乾いて滑りやすく、フィックスロープを握りながら下る。ここの登りもきついに違いない。

 ベンチから20分ほど急降下すると、前方に杉の林と表示板が見えた。鳥越峠である。「コエチ谷50m先を左」の標識に従って、この先から左へ。直進すれば墓谷山である。墓谷山へはいつか登ろう。ここからもロープ付きの急降下は続く。途中、谷を見下ろす展望のいい場所を通過。手前のピークで横山岳山頂は見えない。

 峠から15分ほどで谷川にかかった橋を渡って林道に出た。ここには墓谷山80分、横山岳150分の表示板がある。カキドオシの花を見ながらオオバコで覆われた陽当たりのいい林道を下る。シャクの回りを舞うウスバシロチョウが見送ってくれた。林道に動物の白骨がほぼ完全な形でころがっていた。頭と足はなかったが、首の長さや体毛からカモシカと分かる。この林道には車が入ってこないのであろうか? シャベルがあれば路肩に埋めてやりたいと思った。

 10分ほど林道を歩いて行きに車で通った舗装道路に出た。駐車場は左折して2・3分先である。下山届けを記入。すっかり車は減っていた。実に登りがいのある変化に富んだ山であった。予備知識無しで登ったのでよけいにそう思ったのかもしれない。秋の紅葉の時期やイワウチワの時期にも登ってみたい。今日、歩いてきた稜線が北に美しいラインを描いていた。いい山だった。
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