トレースマップ カシミール3Dで作成
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
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宝剣岳 (2931m 長野県駒ヶ根市) 2006.7.15 晴れ後曇り 2人
菅の台駐車場バス発(6:03)→しらび平ロープウェイ発(6:38)→千畳敷駅(6:46-7:03)→極楽平(7:32-7:40)→三沢岳分岐点(7:50)→遭難碑(9:15)→三沢岳山頂(9:34-10:34)→三沢岳分岐点(12:18-12:28)→宝剣岳山頂(13:08-13:21)→宝剣山荘(13:35)→千畳敷駅(14:22-15:50)→しらび平バス発(16:10)→菅の台駐車場(16:49)
かなり強い北風が吹く中、遭難碑から少し下って、宝剣の手前の岩場に取り付く。いきなり岩壁に斜めに付けられたクサリ場を伝う。そしてナイフリッジ、痩せた岩尾根を渡る。ガスで視界は30mほど。眼下が真っ白で見えないのがせめてもの救い。イワベンケイが黄色い花を咲かせている。
落石しやすい急斜面を下りかけたところで、登ってくる2名の女性に出会った。ちょうど道が分からなくなったとのことで、我々を見て「道が分かった」と感謝された。確かに、ガレた急斜面は道に見えなかったかもしれない。「怖いところですね。」「ガスがあるからまだいいですね」などと会話。「この先は?」と聞かれたので、後少しで三沢岳分岐に出ることを伝えた。ほっとされた表情。我々は、これからが本番である。
落石しないように慎重に下って右へ、岩に張り付いた細い道を歩く。一息できる道だ。再び正面にクサリの下がる岩場が現れる。三点支持で白ペンキの○印を追う。大勢の登山者が歩いているので、通路となる岩は角が取れて、赤茶けている。岩場をこなして、前方に深い谷と、谷に落ち込む雪渓が見えた。スッパリと切れ落ちた岩壁に出る。クサリが垂直の岩壁に垂れ下がっており、下に道が見える。このコースで最も長いクサリ場だ。覗き込むと、下まで7・8mはあろうか。岩壁にはホールドできる出っ張りがあり、下ってみると難しいクサリ場ではない。
宝剣から下ってみえた単独男性に、足を置く場所を教えてもらいながら下った。単独男性からこの先の状況を聞かれた。我々も、この先の状況を聞く。2つ程のクサリ場を通過すれば山頂だと教えていただいた。垂直の崖を登る男性を見送って、先へ進む。
再び岩場に出て、クサリを伝う。岩を掴む手が冷たい。よじ登る岩陰にツガザクラやイワヒゲの花がひっそりと咲いている。厳しい岩の隙間で咲く可憐な花を目の前に元気が出る。クサリの無い岩場は、○印を探す。岩の踏み跡を探す。三点支持は続く。ガスは切れることなく北から強い風に乗って岩尾根を越えていく。
尾根を北から南に渡るところで、倒れ込んだ大きな岩の隙間を潜る。隙間で一息。岩が落ちてくるようで、ゆっくり休んでもいられない。南に出て、岩場が続く。だいぶ上まで登ってきた。今度は右に大きくハングした、今にも落下しそうな大岩の根元をクサリにつかまって登る。岩には先がループになった鉄棒が打ち込まれており、三点支持でグイグイ登る。実にスリルのある場所だ。ガスが無ければかなり怖いに違いない。
再び北側へ向きを変える所で、前方の岩壁にかかるクサリが現れた。垂直の岩場のトラバースだ。落ちれば、遙か下まで真っ逆さま。足をホールドする岩があるので難しくはないが、下が無いだけに慎重になる。ゆっくりとトラバースして渡りきる。
次は垂直のクサリ場だ。クサリが垂れる先を見て、おかしいと思った。すでに下りにかかっているではないか。今、渡ったトラバースの上を見ると、小さな社が岩陰でガスに霞んでいる。このトラバースした岩の上が山頂のようだ。2人で顔を見合わせた。山頂まで行くには、今、やっとの思いで通過したクサリのトラバースを戻らなければならない。
「もう登らない」とらくえぬ。社をバックに写真を撮ったが、これで下ってしまっては後悔しそうだ。垂直のクサリを下りて、ザックを置いて、山頂を偵察に戻ることにした。岩場をトラバースして折り返すと、天を指す大岩。宝剣山頂の名物岩である。空荷であれば、トラバースも難しくはない。再び下って、ザックはクサリ場の下にデポし、らくえぬと2人で山頂に上がった。
岩の上にカメラを置いて、大岩の前でセルフタイマーを切った。展望は全くないが、ひたすら岩にしがみついて登ってきたことから、大きな充実感。24年前にもこの山頂に立ったが、その記憶は全くない。岩場に張り付いて無我夢中で登ったことだけが記憶に残っている。
山頂を後にして、三度目のクサリのトラバースをしようとしたところ、前方から登山者が現れた。「エッ、ここを行くのですか」 このカニの横ばいにびっくりした様子。4名の登山者が渡りきるのを待っていると、後方からも数名の方が到着。山頂は賑やかになった。
カニの横ばいを渡って、デポしておいたザックを背負って下る。岩の溝に付けられた垂直のクサリを伝って岩場から離れた。ここが最後のクサリ場となった。濃いガスの中を下ってすぐに宝剣山荘に到着。山荘の前の広場は真っ白で視界がきかない。山荘前の登山者に千畳敷への道を教えてもらった。その方向に歩くと表示があり、天狗荘を右に見ながら、ロープに沿って八丁坂に入る。
急斜面のジグザグの下り。大勢の登山者が下方に見える。小さな女の子を連れた男性とすれ違った。女の子が「まだ登るの?」との声に、「もう少しだよ」と答える。10年以上も前に、小学生だった子どもを連れて登ったことを思い出す。今日とよく似たガスの稜線で、強風と寒さに震えた。子どもたちには、大展望を見せてやることができなかったが、山の厳しさを肌で感じ、山で遭難することを知るよい体験をしたに違いない。映画にもなったいたましい学童の遭難事故はこの山で起きている。
そんなことを思いながら八丁坂を下るとガスが消え始め、周囲の奇岩や眼下に広がる千畳敷と、点在する雪渓が見えてきた。きれいだ。ホテルの赤い屋根も見下ろせる。シナノキンバイなどの花の写真を撮っているカメラマンも多い。
剣ヶ池への分岐点辺りは観光客でいっぱい。雪渓の上を歩くところもある。観光客の中にはサンダルで歩いている人も見られ、びっくり。ホテルからは、ロープウェイの整理券番号を告げるアナウンスが聞こえてきた。整理券を早めに確保するため、剣ヶ池には寄らずに、ホテルを目指す。雪が解けたばかりで、ショウジョウバカマの花がたくさん見られた。また、コバイケイソウやタケシマランと思われる葉が伸び始めていた。すぐに、この辺りも美しいお花畑になるであろう。
ホテル前で雪渓の雪ならしをする方に、今年は雪が多いのではないかと聞いてみたが、平年並みとのこと。ホテル前で整理券が配布されていたので確保。1時間待ちであった。クロユリを見ながら、ベンチに座って、この山旅の締めくくりのコーヒータイム。寒いのでヤッケを着た。カールは次第にガスに覆われていく。熱いコーヒーとクッキーを楽しむ。飲み終わるころ、突然、南から強風が襲った。慌てふためく観光客。ガスがカールを駆け上がっていく。遠雷が聞こえた。雨になりそうだ。急いで片付け、屋内へ駆け込んだ。
雨が降り始め、売店は大勢の人で身動きがとれないほど。売店を見ていると、整理券番号の呼び出しがあり、ロープウェイに乗ることができた。千畳敷駅を後に、少し下りると、ガスは消えた。帰りも待つことなくバスに乗り継いで、駐車場に到着。駐車場近くにあるこまくさの湯の露天風呂で、雲に包まれた駒ケ岳を眺めながら、汗を流した。
梅雨の合間、思わぬよい天気に恵まれ、三沢岳ではすばらしい展望とたくさんの花を、宝剣岳ではハードな岩稜歩きを楽しむことができ、今年の夏山スタートは充実の山歩きとなった。なにしろ、日帰りでアルプスを歩けるのがいい。
宝剣岳はクサリ場や岩登りの連続で、多くの滑落事故も発生している。雨や強風のときは登らないほうがよい。また、日帰りができるとはいえ、3000mクラスの山である。雨や防寒対策、非常食などの装備は完璧に。今日、取り残した木曽駒ヶ岳周辺は24年前に歩いているが、またいつか来よう。
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