トレースマップ カシミール3Dで作成
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)

展望と花を見る


三沢岳
 (2846m 長野県駒ヶ根市) 2006.7.15 晴れ後曇り 2人

菅の台駐車場バス発(6:03)→しらび平ロープウェイ発(6:38)→千畳敷駅(6:46-7:03)→極楽平(7:32-7:40)→三沢岳分岐点(7:50)→遭難碑(9:15)→三沢岳山頂(9:34-10:34)→三沢岳分岐点(12:18-12:28)→宝剣岳山頂(13:08-13:21)→宝剣山荘(13:35)→千畳敷駅(14:22-15:50)→しらび平バス発(16:10)→菅の台駐車場(16:49)

 カールから湧き上がったガスが、宝剣の黒い岩肌を駆け上がっていく。後方の甲斐駒ヶ岳や仙丈ヶ岳が美しいシルエットで雲海の上に浮かぶ。目の前には、大きな雪渓と青い空。雪渓を越えれば極楽平だ。薄い空気にあえぎながら、一歩一歩、花崗岩を踏んだ。正面から涼しいさわやかな風。そして、目の前に美しい緑色のピラミダルな山が姿を現す。青空を背景に、白い雲を肩にまとい、駒ヶ岳から空木岳に至る主稜を外して、ひっそりとひとり優雅に、そして堂々と佇む山、三沢岳。24年前の夏、2人で初めて歩いたアルプスの山。あの稜線を歩いた記憶は薄れたものの、この山の姿を忘れることはできない。四半世紀の歳月を経ても、全く変わらない山の姿を前に、思いを巡らす。足下に、朝露をのせたヒメウスユキソウが輝いていた。

 7月の連休を前に、夏山の行き先をあれこれ考えた。クーの山小屋の住人さんから穂高方面や白山方面のお誘いが届いた。梅雨明け前の荒れる時期、休日3日間の天気予報は傘マーク。この状況から、遠方の山行はあきらめた。

 金曜日になって予報はやや良い方向へ。金曜日の夜、南ほど降水確率が低いことから、中央アルプスの三沢岳を選んだ。展望は期待できそうもないので、花を目的とした。また、この山は24年前に2人で初めて歩いたアルプスの山であり、らくえぬのアルプスデビューの山でもある。

 いつもなら、麓で前夜泊するところであるが、山行を決めたのが遅く、早起きして出発することとした。ETC深夜割引となる4時前に高速に入り、明るくなり始めた中央道を東進。朝焼けの恵那山や雲海に浮かぶ南アルプスを楽しみながら、駒ヶ根ICを出て北上。ICから3分で菅の台バスセンターのある駐車場に到着。自宅からちょうど2時間。駐車料金400円。駐車場は8割ほど埋まっていた。

 靴を履き替えて、駐車場入口でバスとロープウェイがセットになった往復チケットを購入。1人3900円。インターネットの画面印刷やJAFの会員証で10%引きになるとは知らなかった。次回からは利用しよう。ちょうど前のバスが出たところで、30人くらいが並んでいた。登山者よりも千畳敷カール散策の観光客が多い。

 列に並んで数分でバスに乗ることができた。6時発。ロープウェイ乗り場のしらび平まで約30分、バスはカーブの続く山道を登っていく。録音テープで駒ヶ岳の解説などを聞きながら、ウトウトしているとしらび平に到着。待つこともなく、ロープウェイに乗り込む。標高差約1000mを7分ほどで運んでくれる。眼下に美しい滝や緑のオオシラビソ、満開のサンカヨウなどを見ながら、千畳敷駅に到着。一気に2600mまで登ってしまうのうは、ちょっとインチキ登山。

 登山届けを提出して、南側の展望地へ。ロープウェイで登ってきた谷の向こうに広がる南アルプスの山々。昨年、歩いた甲斐駒ヶ岳や仙丈ヶ岳から南へ、南アルプスの主峰が肩を並べる。この稜線上に頭を出す台形の山は富士山である。これだけの展望が得られるとは思わなかった。

 北に回り込むと、圧倒的な迫力で迫る千畳敷カールと宝剣岳の鋭利な山容。いつ見ても、美しいカールだ。子どもが小学生の時に、家族でこのカールの八丁坂を登ったことを思い出した。宝剣山荘まで登ると、猛烈な風と霧で、すぐに引き返したことも今では懐かしい思い出である。

 カールの写真を撮って、ホテルの左側から極楽平を目指す。ホテル前にはたくさんのクロユリが群生していた。雪が消えたばかりの斜面をジグザグと登る。ショウジョウバカマがいくつか咲いている。一旦、左に回りこんでカールの縁から尾根を目指す。千畳敷ホテルがどんどん小さくなっていく。後方の南アルプスが美しい。八ヶ岳も見える。コイワカガミ、シナノキンバイなどの高山植物が咲き乱れる。前をゆっくり登る単独男性から、ここで急ぐとバテることを教えてもらった。2600mまで一気に登ってきたことから、身体がこの標高になれていないためだ。

 前方に大きな雪渓が2つ見えた。流れ落ちる雪解けの水を踏んで稜線へ。極楽平である。大勢の登山者が休憩中。真っ先に、三沢岳が目に入った。青い空を背景に緑のピラミッドが美しい。三沢岳山頂へ続く登山道の尾根がよく分かる。三沢岳がもっとよく見える場所はすぐ南の小ピーク。そこまで上がってみた。何と美しい山であろうか。中判カメラで写真を撮った。

 この辺りにはたくさんの花がある。イワツメクサ、チングルマは定番であるが、ハハコヨモギ、ヒメウスユキソウはなかなか見ることのできない花。濃い赤紫は、ヨツバシオガマだと思ったが、葉を見るとミヤマシオガマである。さあ、これから花の山旅が始まる。

 極楽平から宝剣岳方面にひと登り。チョウノスケソウの花はやや遅め。この花はここだけで見られた。なだらかに10分ほど登って三沢岳と宝剣岳への分岐。遭難碑の石積みがある。前方には宝剣岳がガスに見え隠れする。宝剣は後回し。展望の良いうちに花の山へ。

 分岐点から主稜を離れてなだらかに下っていく。三沢岳ばかりに気をとられていたが、その左に緑の美しい山群。深い谷を隔てて、空木岳、南駒ケ岳が立ち上がる。檜尾岳、熊沢岳へと続く稜線は、大小のピークを繰り返しながら長々と続く。この連休、2日連続して晴れれば空木岳を目指したのだが・・・。いつか歩こう。

 砂礫の道をなだらかに下っていく。岩のピークの左を迂回してハイマツ帯を歩く。下方に町が見下ろせる。その向こうには山頂を雲に隠した御嶽山が望めた。三沢岳は左にガスがかかり始めていた。岩のピークを巻くとかなり急斜面の下り。正面に三沢岳や空木岳を見ながら下っていく。帰りの登りを考えると気が重い。

 10分ほどで下り終えて小ピークを登り返す。アオノツガザクラやコイワカガミ、ミツバオウレンの花が続く。空木岳に雲がかかり始めていた。岩の多いピークから尾根を左右に分けて道は続き、上り下りを繰り返すが、全体的には下っていく。三沢岳から戻ってくる人に出会った。ハイマツが道をふさぎ、うるさい。ヤニが手につく。ストックは役立たず、引きずるように歩く。

 極楽平から50分ほど歩いて、岩尾根で休憩。いつしか三沢岳は2つのピークを持つ形に姿を変えていた。木曽駒ヶ岳から木曽前岳に続く稜線の途中に山小屋が見えた。玉ノ窪小屋であろうか。荷物を下ろすヘリの音が響いている。

 ハイマツの尾根歩きは続く。大きな四角い岩のある左を抜ける。ハクサンイチゲやミツバオウレン、チングルマなど分岐から続く花に混じって、ツマトリソウやヒメイチゲ、ゴゼンタチバナがちらほらと見られる。ツマトリソウは、まるで流れ星が落ちてきたような花だ。ゴゼンタチバナは緑色の花びらをしているものがいくつかあった。キバナシャクナゲはほぼ終わり。これからはハクサンシャクナゲの花の時期になる。アオノツガザクラはたくさんあるが、よく似た花のツガザクラやイワヒゲ、コケモモなども見られる。とにかく花の種類は豊富。退屈しない。

 鞍部から登りにかかる。結構な急登である。おまけに登山道の所々に大きな岩があり、その段差が大きい。足を上げるのに一苦労。朝食が早かったので、腹も減り、バテぎみ。上に見える岩まで登って休もうとがんばる。崖のような岩を登る。イワウメが並んで岩に張り付いている。展望のいいところで、パンを食べて休憩。東にもくもくと入道雲がわきあがっているのが見えた。いつしか空木岳は雲に隠れている。午後は雷雨になりそうだ。先を急ぐ。

 ハイマツの道をなだらかに歩くと、いよいよ最後の登りが待ち受ける。青い空に白い雲が流れる。大岩がいくつもころがる緑のハイマツの斜面に登山道が続く。近くで見ても美しい山だ。遭難碑のケルンを通過して、一歩一歩登る。ややシャリバテ気味。

 遭難碑から10分ちょっとで登りつめて、左に迂回する。この辺りは、この山一番のお花畑。ハクサンイチゲやシナノキンバイ、キバナコマノツメなどがたくさん咲いている。その中にハクサンチドリをいくつか見つけた。ここでハクサンチドリが見られるとは思わなかった。

 小さな雪渓を越えると、山名の書かれた柱。三沢岳山頂である。10人ほどが展望を楽しんでいた。山頂から北に岩がせり出しており、その上に乗ってみる。眼下に国道19号線近辺の町が見下ろせ、ちぎれ雲がゆっくりと流れる。西には、恵那山や1ヶ月前に登った南木曽岳の青いシルエットを作る。空中を飛んでいるような錯覚に陥る。展望を期待していなかっただけに、この感動は大きい。

 展望を十分に楽しんだので、かなり早いがランチにすることにした。すぐ隣にこちらのほうが山頂ではないかと思われるような岩場があり、そこでランチにする。この岩場も大勢の登山者で賑わっていた。静かな三沢岳にしては人が多いと思っていたら、大人数の団体さんと一緒であった。団体さんが下山すると、山頂は10人ほどの静かな山となった。大岩の上でラーメンと缶詰のランチ。冷えたビールがうまい。岩の周りはコイワカガミやアオノツガザクラが満開。気になるほどではないが、やや虫が多い。小さなハエやハネカクシ、金色のハムシなどが寄ってくる。午後の天候が心配されたので、コーヒータイムは千畳敷のロープウェイ待ち時間を利用することとし、山頂を後にした。

 三沢岳にもガスがかかり始めていた。三沢岳からの下りは、美しい緑の尾根と深い谷を見下ろしながら、軽快に下った。宝剣岳方向はガスの中。ハイマツ帯では雨水の流れ道を登山道と間違えるような場所もあった。鞍部から岩尾根への登りにかかる。帰路の登りはきつい。

 登り詰めて岩場で休んでいると、大きなザックに銀マットを付けたテント泊のパーティーと一緒になった。テント泊をしながら近辺の山の縦走を楽しんでみえる、東京の方だった。主稜の分岐点まで最後の登りはかなりきついと思ったが、ペースを掴んで花を見ながらゆっくり登ればそれほどでもない。前を歩く女性も「足が上がらない」とスローペース。「この山は楽勝と聞いていたけど、きついです」と一言。

 岩の小ピークからガスの中を歩いて、分岐点に戻った。朝のさわやかな天候とは違い、冷たいガスが吹き抜ける尾根となっていた。何人かが休息中。遭難碑の前で、冷たいフルーツゼリーを食べて一息。岩陰から小さな動物が出入りしている。胸の白いかわいい動物はオコジョ。初めて見た。ザックに付いているシェラカップの臭いを嗅いで、登山者の間をあっという間に走り去った。

 さあ、次は宝剣岳だ。目指す宝剣の岩山は濃いガスの中に、その恐ろしい様相を隠し、ゴーゴーと風の音だけが渦巻いている。岩登りに備えてストックをザックに縛り、腰を上げた。

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