★爺ヶ岳・鹿島槍の花を見る
カシミール3Dで作成 →
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)
爺ヶ岳 (2670m 長野県) 2006.8.18-19 晴れ・曇り 2人
<8月18日>
柏原新道登山口駐車場(6:00)→ケルン(6:57)→丸木ベンチ(7:18-7:22)→石畳(8:05)→水平道(8:12)→石ベンチ(8:29)→雪渓(8:46)→種池山荘(9:15-8:38)→爺ヶ岳南峰山頂(10:28-10:45)→爺ヶ岳中峰山頂(11:04-11:52)→大谷原・赤岩尾根分岐点(12:42)→冷池山荘(12:54)
<8月19日>
冷池山荘(5:13)→テント場(5:20-5:24)→慰霊碑(5:41)→布引山山頂(6:05-6:11)→鹿島槍ヶ岳南峰山頂(6:50-7:09)→北峰山頂(7:45-7:56)→南峰山頂(8:31-8:56)→布引山(9:29)→テント場(10:06)→冷池山荘(10:11-10:32)→赤岩尾根分岐点・冷乗越(10:44)→爺ヶ岳中峰山頂への分岐点(11:38-11:46)→南峰山頂への分岐点(11:56)→種池山荘(12:24-13:00)→丸木ベンチ(14:16-14:25)→ケルン(14:37)→柏原新道登山口駐車場(15:22)
【8月18日】
「なだらかな真砂岳に到着。山頂には赤ペンキの塗られた石柱が埋まっていた。東には大きな雪原ができている。その向こうに連なる峰。後立山連峰とはよく名付けたものである。まさに立山の後ろにすばらしい名峰が並ぶ。北から白馬、唐松、五竜、鹿島槍、爺、針ノ木・・・まだ訪れたことのない山ばかり。あの稜線から、この立山を眺めたいと思った。」 2005年5月、立山を縦走したときのレポートの一文である。
未踏の頂が連なる後立山連峰は、自宅から登山口までの距離が遠く、なかなか踏み切れなかった。今年こそは登ろうと、7月にらくえぬが登山計画書を作成した。しかし、好天が連続せず、三沢岳や燕岳の日帰りに切り替えた。登山計画書はお蔵入りに・・・。
町内の盆踊りも終了し、二人で金曜日に休みをとって、一泊二日の山行を計画したが、どうも天気は思わしくない。今回も日帰り登山かと宿泊をあきらめかけた前日になって、降水確率が低くなった。ラッキー。7月に作った登山計画書を引っ張り出して、ボールペンで日にちを書き換えた。爺ヶ岳・鹿島槍に向かう。
燕岳の時と同じように、前夜、中央道から長野道に入り、豊科IC手前の梓川ICで車中泊。4時半に豊科ICを下りて、417号線を北上。大町の市街地から黒部ダムに向かって左折し、大町アルペンラインを山に向かって走る。大町温泉郷を通過したところで、「爺ヶ岳・鹿島槍→」の表示があったので、信号交差点を右折したがこれはスキー場の表示。地元の方に道を確認して、引き返し、2車線の道を西進。スノーシェードを抜けたところの、緑色の鉄橋手前の道沿いに数台の車が駐車してある。ここが柏原新道の登山口である。
左側のこの空き地には10台ほど駐車可能で、まだ3台ほどのスペースが空いていたので、ここに車を停める。右側の登山口手前や橋の向こう側にも駐車可能。ここが満車の場合は、1km程先の扇沢の駐車場に停めることになり、歩行時間が15分ほどプラスになる。道を間違えなければ豊科ICから1時間ちょっとで到着できる。
西には朝日に赤く染まる美しい稜線が見えた。針ノ木岳に至る稜線であろうか。次々に出発する登山者の後を追って、車道を渡り、種池山荘3時間30分の案内板を確認して、6時出発。この地点の標高は1350mと書かれていた。左手に大きな堰堤のある扇沢の濁流を見ながら、すぐに山道に入る。
深い樹林帯の中、石が敷き詰められ、よく整備された広い登山道を登る。昨日、雨が降ったようで、道は濡れている。シャクナゲの木やカニコウモリの花を見ながら登る。ペースを掴むまでの登り始めはいつもきつい。最初の1時間は、もみじ坂と呼ばれる比較的急な登りが続く。帽子を脱いで、吹き出す汗を止めるためバンダナを鉢巻にして歩く。既に下山してくる登山者に出会った。朝早く、種池山荘を出発した登山者のようだ。コメツガの樹間から針ノ木方面の稜線が望めた。また、尾根を右に出たところからは、安曇野の町や車で上がってきた道が見下ろせた。
樹林帯の登りは続く。汗が噴き出す苦しい登り。下界で取った体内の余分な水分が全て抜け、ようやく山モードの体調になってくるのが分かった。登山道には雨水を流すための雨樋がいくつも設置されており、最近の大雨で土石で埋まっているものも見られた。
スチールの階段を登って数分で明るい開けた斜面のトラバースへ。左に扇沢の大きな駐車場が見える。その先で大勢の登山者が休息中。ケルンと呼ばれる休憩場所だ。ちょうど1時間歩いたので休息と思ったが、前を歩くらくえぬはノンストップで歩き続ける。調子が出てきたところで休む訳にはいかないようだ。すぐ先にもベンチがあるとの情報を得ていたので、もう少し先まで行くことにした。
展望のよい場所からは左手に、青空に映える美しい稜線が見渡せた。ケルンから20分弱歩いて、ニッコウキスゲやカライトソウの咲く斜面を抜けたところに、丸木を束ねたベンチがあった。ここで最初の休憩。ケルンで追い抜いた3人の若者が大きな荷物を背負って登ってきた。テント泊の大きな荷物を背負って、どこまで行くのか尋ねると「親不知まで」という回答が返ってきたのにはびっくり。3人とはこの先、何度も出会うことになる。
水分を補給して、右山で時折木の階段を越えながら、比較的なだらかな丸木や石畳の道を登っていく。右手の草付きの斜面にはゴゼンタチバナが咲いているくらいだが、よく見て歩くとキソチドリやコイチヨウランなどの小さなランが目立たない花をひっそりと付けている。
下山者が増えてきた。道は次第に大きな石が敷き詰められた状態になる。小さな石窟のあるところに「石畳」の表示。石畳が消えると、道は平になり周囲も明るくなってきた。「水平道」の表示を通過。この辺りからガスの中を歩く。花も増え、クロトウヒレン、エゾシオガマ、ハナニガナ、アキノキリンソウ、シナノオトギリなどが道脇を飾る。
1時間ほど歩いて、道脇で休憩後、すぐに「石ベンチ」を通過。ここで休めばよかった。休息中の若者3人組を追い抜く。右山でなだらかな道が続く。涸れた谷を渡ったところで、「雪でダケカンバが倒木し、落石しやすいので注意」との標識。谷側に大きな木の根が落ちていた。早足で通り抜ける。
今度は、ガレた崖をトラバース。ここにも落石注意の看板がある。再び谷を渡る。この谷は雪渓で覆われており、雪の上を横断する。濃いガスの中、注意して雪渓を横断。崖にはノウゴウイチゴがかわいい花を咲かせていた。ピンクのシモツケソウも美しい。
霧雨が降ってきたが、すぐに止み、ガスも消え始めた。黄色いシャツの若い単独女性に追い抜かれる。軽快に歩く姿は山慣れした証拠。挨拶をすると、「シラネアオイがありましたね。」と、彼女。「えっ! 見落とした。」「登山道から少し離れてましたが・・・」「帰りに探そう。」
急になり始めた登山道で下山者から、「後、10分ほどで種池山荘ですよ。」と聞き元気が出る。サンカヨウやエンレイソウの実を見ながら、石段をジグザグ登ると明るい草原に出た。青空を背景に赤い屋根の種池山荘が見えた。草原には、ハクサンフウロ、エゾシオガマ、ウサギギク、ミヤマリンドウ、クルマユリ、チングルマなどたくさんの花に覆われたお花畑。写真は後にして、バテながら山荘にたどり着く。
やっと着いた。時計を見て驚いた。所要時間3時間15分は、思ったよりいいペースで登っている。小屋の前のベンチで、爺ヶ岳南峰方面を眺めながら、フルーツゼリーを食べる。山荘の横にある小さな池が種池。覗き込むとメダカが・・・よく見ると、エラが出ており、イモリの仲間の幼生ようだ。オタマジャクシも見られた。トイレの横からは、半分が雲に覆われた大きな山が望めた。鹿島槍である。
20分ほど休んで、ガスで見え隠れする爺ヶ岳を目指す。山荘の前から草原上部を横切る。一面チングルマの花畑が美しい。その中を4羽の雷鳥が歩いていた。3羽は子ども。人に驚くこともなく草をついばんでいた。この後、爺ヶ岳山頂でも雷鳥を見ることができた。
なだらかなハイマツ帯を抜ける。正面に爺が岳南峰が美しい鋭角三角形を描く。稜線上を登る何人もの登山者が見えた。展望のよい稜線に出ると、深い谷と鹿島槍へ続く稜線、そして右半分を雲に隠した鹿島槍南峰が大きい。稜線上に小さく見える小屋は、今日の目的地の冷池山荘だ。ここの標高と同じくらいに思えた。西には山頂を雲に隠した立山・剣が見える。
なだらかに歩いて、爺ヶ岳南峰の登りに取り付く。石屑を踏みながらゆっくり登る。下から見るとかなりきつそうに見えた登りは、それほどでもないが、ややシャリバテ気味で足が上がらない。南峰までは一旦なだらかになって、再び登りになる。涼しい風が吹き抜ける。浮き石に注意して、山頂直下の巻き道との分岐点から山頂方向へ。ザレた道を登って南峰山頂へ。
ケルンがあり、単独男性1人が昼食中。山頂からは爺ヶ岳本峰にあたる中峰が堂々とした姿で目の前に見える。昼食は中峰でとることにて、写真撮影後、中峰に向かう。ガスが湧き始めて、時折、中峰がガスに覆われる。ザレ場を下って巻き道に合流し、緑色のロープで囲まれた道をジグザグに下って鞍部へ。咲き始めたトウヤクリンドウが美しい。
少し歩いて、中峰への分岐点。標識に従って山頂を目指す。一登りで山頂だ。鹿島槍もすっかり雲に覆われ、眼下の棒小屋沢だけが、ガスもなく白い沢筋を見せていた。沢の向こうの牛首山が美しい稜線を見せる。ここでランチ。コンロ2つで、インスタントラーメンを作った。山頂で食べるラーメンは美味しい。何人もの登山者が次々に登ってくる。冷池山荘方面から縦走してきた団体さんで、山頂は賑やかになった。1時間弱、山頂でゆっくりした。まだ正午前、時間は十分にあるが、雲の状態から、午後の雷雨が予想されたので、先を急ぐ。
南峰同様に、山頂から巻き道まで落石しそうな斜面を下る。目の前に見える北峰は、南峰・中峰と異なり、いくつかのピークが並び、山頂を経由することができない。トウヤクリンドウの群落が美しい。イワツメクサやミヤマダイコンソウの花は終期を迎えている。右山で左に深い谷を見ながら、ハイマツ帯をゆるやかに登り、北峰直下辺りから下りにかかる。ハイマツ帯の中、遙か先まで登山道が下っている。ガスが行く手を遮る。ハイマツの緑の海に身体を沈めて、気持ちよい風の中、ゆっくりと下っていく。
冷池山荘までは、時計と反対に稜線を回り込む。下りは続く。15分ほど下ったであろうか。急な木の階段を下りて樹林帯の尾根を歩く。ミヤマコゴメグサの群落やオヤマリンドウが見られた。それにしても長い下りである。明日はここを登り返さなければならないと思うと憂鬱だ。右側が崩壊した尾根を通過。崩壊地にはたくさんのタテヤマウツボグサがディープパープルの美しい花を咲かせていた。
ここから登山道は赤茶けたザレ場のジグザグ道を下っていく。周囲はガスで真っ白。前方に黄色い標識と、座り込んでいる登山者が見えた。赤岩尾根への分岐点で、冷乗越と呼ばれる場所である。登山者は、朝出会ったテント泊3人組であった。分岐から少しザレ場を歩いて樹林帯へ。まだ下っている。
水たまりの登山道を歩いてようやく登りにかかると冷池山荘の前に飛び出した。今日のゴール。時計を見ると、まだ1時前。頑張れば鹿島槍往復も可能であるが、このガスでは登っても意味がない。後に、聞くところによると、午後に登ろうとした登山者は、雷雨の危険があるということで山荘から登るのを止められたそうだ。
とりあえず、受付を済まそう。玄関らしくない入口の戸を開けて驚いた。広い土間ときれいなロビー、高い天井。土産物がいっぱいつり下げられた受付。若い女性にてきぱきと対応してもらったのが気持ちよかった。朝食は弁当を頼んだ。1人1リットルの飲み水のサービス券と絵はがきをいただき、2階の部屋まで案内してもらった。この小屋は建て替えられて日も浅く、部屋もきれいで、汗で発熱するブレスサーモの布団と毛布がきれいに並べられていた。混み具合を聞くと、今日は平日なので空いているとのこと。十数枚の布団が敷いてあるこの部屋も、半分ほどの宿泊者で、1人1つの布団で十分なスペースがあった。
昼食時にビールとコーヒーを飲んでなかったので、ビール・コーヒータイムにする。外はガスで寒そうだったので、自炊室に下りて、まずは受付で購入したビールで乾杯。隣で昼食中の千葉県のご夫婦と山談義。パーコレーターで沸かしたコーヒーとクッキーが美味しかった。
ガスが消えてきたので、山荘の周辺を散策することにした。明日、鹿島槍へ行くコースを少し登ってみる。山荘から尾根伝いに登り、崩壊地を通過。後方には、山荘とその向こうに先ほど下ってきた稜線が爺ヶ岳へと続いている。ハイマツの道を歩くとテント場に出た。若者3人組はテントを張り終えていた。
テント場の先はなだらかな道とお花畑が続く。ハクサンフウロ、ウサギギク、エゾシオガマ、ミヤマキンポウゲ、チングルマなどが咲き誇っている。ヒロハノキソチドリなどのランも見られた。そして、目の前には鹿島槍が裾野を大きく広げているが、中腹以上を雲が覆っている。道ばたの岩に座って10分ほど雲が取れるのを待ったが、布引山以上の雲はなかなか消えないので、山荘に戻った。
山荘の前にはベンチのある展望地があり、ここからも鹿島槍が目の前に見える。ベンチに座ってに雲に覆われた鹿島槍を眺めた。大きな山だ。東風が少しづつ雲を吹き飛ばしていく。山を見ながら、隣の男性と話しをした。50歳半ばの単独男性は、一昨日から白馬、五竜、鹿島槍と100名山を3つ踏んできたとのこと。富士登山をきっかけに2年前から山歩きを初め、100名山の40以上を制覇したそうだ。羨ましい限りである。
面白い話しをいろいろと聞かせてもらっているうちに、周囲からざわめきが起きた。雲が切れて鹿島槍北峰が顔を出す。鹿島槍は双耳峰であり、ここから見ると同じような形をした南峰と北峰が見えるはずである。山頂付近で渦巻く雲。東から流れる雲が消え始めていた。「間もなく見えますよ。」「北からも雲が流れてくるから、雲は消えないかも。」 誰もが山頂を見つめている。南峰のガスが消えかかると、北峰に雲が・・・。スローモーションのように流れる雲。テラスの誰もが「雲よ消えろ!」と願ったに違いない。
思いは天に通じた。北峰が、そして南峰がゆっくりとその全貌を現す。歓声が上がった。カメラを構える人、山をバックにシャッターを切ってもらう人・・・。ここから山頂まで2時間のコースタイム。高く遠いあの山の頂に、明日の朝、立とう。時間があれば北峰まで足を伸ばそう。
部屋に戻って、明日の鹿島槍登山の準備をした。持ってきたサブザックに必要なものを入れて、朝起きてすぐに出発できるようにした。隣の富山県のご夫妻も我々と同じコースでのマイカー登山だった。部屋の窓からは先ほどの展望地と鹿島槍が望めた。5つ★の部屋だ。
話しをしていると、5時になり夕食の放送が流れた。まるでファミレスのように入口でスタッフに人数を聞かれて案内された食堂は、きれいで広い。ビールは受付で購入して持ち込む。おかずの品数も多く、おいしい食事だった。ご飯のおかわりをスタッフが手早くやってくれるのにも驚いた。
夕食後、夕日を2階の窓から眺める。窓際の廊下が爺ヶ岳・立山方面の展望場所となっている。オレンジ色の夕日がゆっくりと積乱雲を従えた剣岳の北に沈んでいった。明日の朝は早い。部屋の窓からは再び山頂を雲に隠した鹿島槍が望めた。明日は晴れるだろうか・・・。
7時過ぎに布団に潜り込んだ。鹿島槍目指して雲一つ無い稜線を歩く姿を夢見ながら、眠りに落ちた。
*鹿島槍のレポートを見る
山のリストへ