トレースマップはカシミール3Dで作成
*この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用しています。(承認番号 平17総使、第654号)(点線は推定トレース)

立山・五色ヶ原 (浄土山:2831m 龍王岳:2872m 五色ヶ原:約2500m 富山県) 2007.9.22〜24 晴れ・曇り・一時雨 4人

<1日目>
立山駅(7:07)→美女平(7:17)→室堂バスターミナル(8:05-8:25)→浄土山・一ノ越分岐点(8:34)→浄土山登山口(9:17)→浄土山山頂(9:55-10:16)→富山大学立山施設(10:27)→龍王岳分岐点(10:40)→龍王岳山頂(10:48)→龍王岳分岐点(11:03)→龍王岳南鞍部(11:25-11:36)→鬼岳南鞍部・昼食(12:15-12:41)→獅子岳山頂(13:06)→ザラ峠(14:07)→五色ヶ原ヒュッテ・テント場分岐点(14:38)→五色ヶ原山荘(14:53-15:39)→テント場(15:49)
<2日目>
五色ヶ原テント場(7:31)→五色ヶ原ヒュッテ(7:45)→ザラ峠(8:04)→獅子岳(9:28-9:37)→龍王岳分岐点(11:23)→富山大学立山施設(11:27-12:16)→一ノ越(12:39)→室堂バスターミナル(13:25-14:00)→雷鳥平テント場(14:45)
<3日目>
雷鳥平テント場(7:31)→室堂バスターミナル(8:20-8:35)→美女平(9:20-9:40)→立山駅(9:50)


 「夏山へ一緒に行きませんか」 HP「山の会・フロムワン」の管理者であるmakotoさんからメールが8月初めに届いた。makotoさんとは、昨年の秋に大川入山を一緒に歩いた。また奥さんのsumireさんともオフ会で何度かご一緒している。我々も9月にアルプスに行きたいと思っていたことから、ご一緒することに。

 makotoさんの計画は五色ヶ原テント泊。五色ヶ原を最初に見たのは、何年も前に夏の立山の稜線からだった。薬師岳を背景に、切れ落ちた断崖の奥に広がるなめらかな緑の大地は、まさに天空の緑の楽園。その一角にぽつんと立つ赤い屋根の五色ヶ原山荘は天空の城に思えた。2年前の5月、雪の立山から見た五色ヶ原は純白の大地だった。いつか訪れよう。五色ヶ原はあこがれの地であった。

 当初予定した9月上旬の休みは悪天候で流れ、中旬の休みも天気が悪く延期。9月の下旬の連休が最後のチャンス。天気予報は前線南下で曇りの予報だが、大きな崩れもなさそうなので、決行することとした。せっかくの3連休なので、天気の様子を見ながら雷鳥平でもう一泊することで合意。登山計画書は今回もらくえぬ任せ。テントを担いでのアルプス縦走は初めての体験となる。いくつものピークを越え、石稜やクサリ場もあるらしい。できる限り軽量化を図り、最終日は雷鳥沢ヒュッテで夕食をとることにした。

 立山駅の始発のケーブルカーに乗るためには、駅前で前夜泊しなければならない。21日の夕食を済ませた後に自宅を出て、東海北陸自動車道から猪臥山トンネルを経由して国道41号線を北上。富山県に入り、下大久保辺りの立山の標識に従って東進し、立山駅に着いた。コンビニに寄ったり休憩しながら、約4時間の道のり。

 立山駅前の無料駐車場の上段は9割以上が埋まっていたが、下段はかなりのスペースがあった。makotoさんにメールすると、まだ1時間以上かかりそうなので、先に車中泊。次々に入ってくる車のエンジン音を聞きながら眠りについた。

<1日目>
 5時前に起床。駐車場は一杯で、駐車枠以外にも停めてある。立山を目指す多くの登山者が身支度中。makotoさんの車はすぐ近くに止まっており、無事合流。sumireさんとは久しぶりの対面。飲み水を補給し、靴を履きかえて、6時過ぎに立山駅に向かう。大勢の観光客で駅構内はごった返していたが、雪の大壁が見られるゴールデンウィークほどの混雑は無い。

 立山駅・室堂間往復切符を購入して、40分待ちで7時発のケーブルカーに乗る。以前はザックをケーブルカーの荷物車に置いたが、今回は特に指示が無くそのまま車内に持ち込んだ。ケーブルカーは急斜面を10分足らずで美女平に運んでくれる。ケーブルカーを降りたら、高原バスに乗る。10kg以上の荷物は300円が必要。今回も、ザックが前のバスに乗せられ、すぐ後のバスで荷物を追って出発。観光案内の放送とビデオを見ながら、立山杉やブナの林を抜け、森林限界に出る。天気がよく、美しい大日岳や鍬崎山、薬師岳が出迎えてくれた。立山の稜線が近づいてくる。2年半ぶりの対面である。

 室堂バスターミナルで降り、既に到着していたザックを持って構内へ。登山届けを提出して、水を補給。3階から外に出た。立山が輝いて眩しい。案内板の前で立山をバックに記念写真を撮って、コースを確認。まずは右手に見える桃のような形をした浄土山を目指す。makotoさんたちといろいろな話をしながらコンクリートの遊歩道を一ノ越方面に歩き、浄土山の案内にしたがって右折。チングルマやイワイチョウなどが紅葉しはじめている。シルエットの立山三山を背景に、朝日に輝く浄土山の金色の斜面が美しい。後方には剣岳が半分だけ姿を見せる。

 いきなり2500mを重い荷物で歩くのはさすがにきつい。浄土山登山口手前で休憩。花の終わったチングルマの綿毛が朝日にきらめく。一息ついですぐに浄土山登山口の表示。直進すれば展望台。左の谷を渡って浄土山山頂まで標高差約200mの急斜面に取り付く。正面に朝日を見ながら岩の道を登る。ベニバナイチゴが真っ赤な大きな実をつけている。10分ほど登ると南側が見渡せ、今日の目的地である五色ヶ原の大地が望めた。五色ヶ原山荘も見える。何と遠いことか。

 浄土山山頂直下は垂直に近い岩登り。テント装備の重い荷物をかついでの岩登りは初めての体験。軽快に登って行くmakotoさんたちに遅れながら、息を切らして稜線にたどりついた。北側には石垣に囲まれて、慰霊碑が建っていた。雄山方面はガスで見えない。sumireさんからいただいたおにぎりやリンゴが美味しい。記念写真を撮って出発。浄土山山頂はこの合流点のすぐ南にあるが、その先に見える龍王岳を浄土山と勘違いして先に進む。たくさんの小さなリンドウが咲いていたので、タテヤマリンドウではないかと話していたところ、他の登山者からミヤマリンドウだと教えていただいた。イワギキョウやトウヤクリンドウも見られ、この時期に見られるとは思っていなかっただけにうれしい。

 浄土山から登り返して、緑色の富山大学立山施設と書かれた建物の前を通過して展望広場へ。ここで地図を見て、正面の岩山が龍王岳であることが分かった。何人かの登山者から浄土山の位置や龍王岳の名前を聞かれた。一ノ越方面からの登山者と浄土山経由の登山者が混じり合っている場所である。集合写真を撮ってもらい、龍王岳登山口まで下ってザックをデポし、龍王岳をピストン。山頂までは10分もかからない。イワツメクサが最後の花を咲かせている。南にはガスの切れ間から五色ヶ原が顔を出す。龍王岳山頂は岩場であり、カメラを岩の上に置いて無理な体勢でシャッターを切った。何とかファインダーに収まった面白い写真が撮れた。

 鞍部まで戻って、龍王岳の西側を標高差150mほどの下りにかかる。ハイマツ帯のトラバースから石の道を急降下していく。正面にはこれから通過していく鬼岳や獅子岳のいくつものピークが連なる。その先はガスに覆われている。重い荷物のため足場の悪い下りはより慎重に歩いた。帰路、この登りはきつそうだ。鬼岳北側の鞍部が眼下に見え、振り向くと龍王岳の奇岩が空に聳える。20分ほどの下りで鞍部に到着。土砂流出を防ぐための土留めが行われた鞍部から鬼岳東尾根に向かってトラバースしていく。左には一ノ越から黒部湖へのルートが一直線に下っている。

 赤ペンキを追って東尾根のピークに出ると鶯色の黒部湖が見下ろせた。大きな獅子岳と次のピークである鬼岳の南尾根が望める。鬼岳直下を右山で巻く。オヤマリンドウが現れる。ここから石の多い崩れやすい道を下る。赤ペンキの矢印に従って落石しないように下った。梯子を下りて、白い石原をトラバースして岩が突き出た鬼岳の南尾根に出る。ウサギギクやミヤマリンドウがきれいだ。

 正面に鬼岳の荒々しい岩肌を見ながら下っていくと草の稜線に続く道が見えた。正面に獅子岳が迫ってきた。後立山連峰はガスに隠れているが、黒部湖は見下ろせる。ナナカマドやオオヒョウタンボクの赤い実が美しい。鬼岳と獅子岳の鞍部の稜線の道は木道となっており、さわやかな風が吹き気持ちがいい。東のガスが消え、針ノ木岳や蓮華岳が姿を現した。

 木道を通過したところで12時を回っていたのでランチにする。ラーメンを作って取り分けた。30分弱でランチを済ませて、獅子岳への登りにかかる。標高佐100mほどを登る。西からガスがわき始めた。後方には鬼岳と歩いてきたルートが見える。かなりバテ気味でゆっくり登っていく。先を行くmakotoさんたちは見えない。なだらかになり、獅子岳山頂へ到着。北東に飛び出した岩を見て、ライオンそっくりなことに気がついた。狛犬にも見える。獅子岳の由来はこの岩から付けられたのであろうか。

 先行するmakotoさんたちを追って獅子岳を後に稜線沿いの岩の多い道を下る。眼下には黒部湖。ミヤマアキノキリンソウがまだまだ元気に花を咲かせている。獅子岳山頂から20分ほど歩いて、黒部側へ下っていく尾根を見送った辺りでザラ峠への急降下が始まる。その標高差は約300m。先を下っていく2人の先にはガスの切れ端が渦巻き、鞍部が遙か下に見える。崩壊した赤い崖がアリ地獄のように口を開ける。ガスが切れると五色ヶ原の斜めの大地が姿を現す。かなり近づいた。

 急斜面のジグザグ道はザレており、重い荷物でバランスを崩さないようにゆっくり下った。ロープと丸木の柵が現れ、クサリ、梯子と難所が続く。斜面途中で休憩中のmakotoさんたちに合流。sumireさんからバナナを丸ごと乾燥させた乾燥バナナをいただく。草付きの斜面からハイマツの斜面をジグザグと下ってザラ峠に下りた。ガスが濃くなり始めていた。帰路、この登り返しが最大の難関である。

 五色ヶ原はザラ峠から標高差100mほどを登る。わずかではあるが、さすがに疲れてきた。相変わらずいいペースで登っていくmakotoさんたちはガスの中に消えた。ザラ峠から石ころの道を登って稜線へ。左方向へ向きを変えて、右に深く切れ落ちる赤い崩壊地を見ながらガスの中を歩く。ちょうど五色ヶ原北側の断崖を巻いている。なだらかになって木道となる。途中から2本の角材に横木が打ち付けられた木道となり、つまづきそうで歩きにくい。後方からも前からも誰も歩いてこない。ガスの中、目の前に三途の川が現れるのではないかと思うような寂しさを感じた。

 青い屋根の五色ヶ原ヒュッテと遠くにテントが見えた。テント場への分岐点でmakotoさんに待ってもらっていた。分岐点を直進して五色ヶ原山荘へ行き、幕営の手続きをしてからテント場へ向かうこととした。ガスが流れる草紅葉の平原に続く木道を歩く。チングルマの綿毛の群落が大地を埋め、セピア色に染まる五色ヶ原はもの悲しくも美しい。ガスに煙る鷲岳が静かに佇み、時折、ホシガラスが地上間近を一直線に横切った。

 木道の先に山荘が見え始めた。五色ヶ原山荘到着。ザックを下ろしてテン泊の手続き。1人500円。ここで問題が発生。テント場に水が無いことが分かった。水は山荘で無料でいただけるので、空いた容器にできる限り詰め込んだ。山荘への到着時間が登山計画と全く同じだったことに驚いた。山荘でビールを調達し、ベンチで到着を祝って4人で乾杯。この一杯が最高に美味しい。近くのベンチでは、宿泊客のパーティーがハーモニカを吹き、懐かしいいろいろな曲を歌ってみえた。ガスが切れ、大地の向こうに雄山や浄土山が姿を現す。すばらしい演出に感動のひととき。

 寒くなる前に山荘を後にし、東への木道を下って10分ほどでテント場に着いた。広い原っぱのテント場にはトイレの大きな建物とコンクリートの水場があり、到着したときにはテントが2張りのみ。たくさんのスペースの中から、2つ並べて張れ、食事用にベンチがある場所を選んだ。平らな土の地面で、枯れ木や石ころを利用してテントを張った。時折、ガスが切れて立山が姿を現すが、後立山連邦や南のアルプスは姿を現すことがなかった。

 その後、テントは増え、我々を含めて8張となったが、広いテント場だけに寂しい。夕食は味噌鍋を作る予定を変更して、コンソメ味のパスタ鍋と餅鍋。makotoさんが持ってきた食材ばかりをご馳走になった。煮豚やチーズを肴にバーボンや焼酎を楽しみ、山談義に花が咲いた。makotoさんには水を山荘まで補給に行っていただき感謝。山荘の水は一旦タンクに貯めるため、衛生上、煮沸して飲むように指導されているが、実際に煮沸して飲む人は少ないらしい。明日の飲み水用にコッヘルで煮沸しておくことにした。

 刻々と闇が迫り、アウターを着ていても底冷えする。夕食が終わる頃、小雨の気配。後片付けをしてテントに入ったところで本格的に雨が降り始めた。テントをたたく雨の音を聞きながらなかなか眠れなかった。前線が南下し、明日の天気も曇りの予報。山は雨かもしれない。雨対策を考えていると、雨の音が止み、「ツッ、ツッ・・・」と、か細い虫の鳴き声があちらこちらで聞こえ始めた。五色ヶ原の短い秋を楽しむ虫たちと一緒になって、広大な大地に身を沈めていることがうれしかった。

(続きを見る。植物と展望の写真も掲載しました。)
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